転生チートトレーナーはモブウマ娘を三冠にできるのか。   作:サイリウム(夕宙リウム)

25 / 25
25:大阪杯の前に

 

 

 

 

「どうですか、ティムサさん。」

 

「はい! 万事OKです!」

 

 

これまでの勝負服から少し変わり、彼女の経歴である“無敗三冠”にふさわしい黒い上着を羽織る彼女。外見だけ見ればかのシンボリルドルフさんのように王者故の近寄り難さがありますが……、彼女の本質はもっと柔らかいもの。いつも通り元気よく返事を返してくださります。

 

 

「URAの写真撮影の時もお伝えしましたが……、やはりお似合いですね。」

 

「えへへ。でしょう? それにチームのみんなとお揃いなので。みんなで走ってる気もして好きなんです。」

 

 

年度代表ウマ娘となった彼女は、やろうと思えば一から勝負服を作り直すことも可能でした。彼女の実績を考えれば全くおかしいことではありません。しかしながら彼女が望んだのは、今の勝負服の改造。上着一枚を追加するという物でした。

 

 

(まぁ全身を作り直さなかったせいか、デザイン担当の方が死力を尽くし素晴らしいものを作ってくださったわけですが。)

 

 

チーム:アンドロメダの全員が着用し、なおかつ元の勝負服から離れないデザイン。ティムサさんたちが出したオーダーに応え出来上がったのが、今彼女が羽織っている上着になります。シンボリルドルフさんやナリタブライアンさんのような軍の礼服、フルドレスを基本とした黒の上着。

 

 

(スぺさんの勝負服はご実家からゲームやアニメと同じ勝負服のデータが送られてきたのでそちらで申請しましたが……、彼女もいつか、これを羽織ることになるのでしょうか。)

 

 

っと、今はティムサさんの大舞台。彼女のために時間を使わなければ。

 

 

「戦術としましてはいつも通り、適宜状況を判断し、シナリオの選択を行ってください。こちらから逃げや先行のオーダーはありません。ティムサさんなら、大丈夫ですから。」

 

「っ! はいっ!」

 

 

今回彼女が出走する大阪杯は、比較的新しいGⅠです。芝2000の右回り、阪神レース場で行われるそれはシニア春期における中距離最強決定戦であり、シニア王道の初めの一戦と言えるでしょう。そして本日の天気は晴れ、馬場状態も良好。真に実力差で勝負する展開が見込められます。そして単純な実力差で見れば……

 

 

(ティムサさんは、負けません。)

 

 

確かに今回の出走は、先にシニアを走っていたエアグルーヴさんを始めとした強豪たちも参加しています。そしてティアラ路線でメロンさんやクマさんと鎬を削ったメジロドーベルさん。複数の重賞に出走し、そのすべてにおいて掲示板から外れていないキンイロリョテイさんも出走してきます。

 

彼女たちも皆、今年から発売され普及したアンクル、メガホンなどといったクライマックス環境に合わせステータスを上げてきていますが……。

 

ティムサさんには劣ります。

 

 

 

いえ、こう言ってもいいでしょう。

 

 

 

自身の知る限り、今のトレセンにはティムサさんよりも強いウマ娘はいません。

 

 

 

〇ステータス

 

『タヴァティムサ』 ☆1

 

芝S ダートE

短G マB 中S 長S

逃S 先S 差C 追F

 

スピード UC

スタミナ SS+ 

パワー  UE-

根性   UG

賢さ   SS+

 

スキル

【弧線のプロフェッサー】

【円弧のマエストロ】

【ハヤテ一文字】

【好転一息】

【全身全霊】

【鋼の意志・改】

【神速】

【限界の先へ】

 

【食いしん坊】

【鍔迫り合い】

【脱出術】

【先手必勝】

【キミと勝ちたい】

 

 

主な戦績:ホープフルS、無敗三冠、ジャパンC

 

 

全体的にステータスを向上し、スピードに関しては凱旋門を中心に繰り広げられたラークシナリオにおける限界点まで成長してくださりました。そのほかも大幅に成長することに成功し、最低でもSS+。もう少し時間があれば全ステータスをUのランクにまで到達させることができたでしょう。

 

複数のトレーニングを同時に並行して行うUAFシナリオの育成環境を自身が整えることができれば、よりステータスを上げることができたのでしょうが……、少々準備が滞ってしまっているのが現状です。

 

ティムサさんから受けた“新たなオーダー”のためにも、精進せねばなりませんね。

 

 

(そしてスキルも、金スキル。レアスキルを五つ手に入れてくださりました。)

 

 

新しく入手した上記四つ、【食いしん坊】~【先手必勝】は桐生院さんからの指導を受け、ティムサさんが習得してくださったスキルになります。先行策と逃げ策で発動できるスキルを二つずつ。桐生院さんによれば、状況さえ整えば逃げをしている最中でも先行策のスキルが使用できるとのことですので、大幅な強化と言えるでしょう。

 

 

(そして、【キミと勝ちたい】。)

 

 

こちらは本来、クライマックスシナリオの次に公開された、グランドライブシナリオにて入手できるスキルなのですが……。素晴らしいことに、ティムサさんが“独力”で取得成されたスキルになります。タイミングとしましては彼女が無敗三冠を達成した後の頃でしたでしょうか。

 

 

(……正直に言って、ここまで鍛え上げられた彼女であれば負けることはないでしょう。)

 

 

慢心とも呼べるかもしれませんが、周囲の出走者の方々と比べてもその差は歴然。確かにアンクルやRBJなどを使用し以前と比べ大幅に成長してきた方も見受けられますが……。それでも高くて、一つの項目がUGに何とか達しているレベル。

 

絶対的な速度差、絶対的なスタミナ差、パワー、根性、賢さ。そして金スキルの量。

 

すべてにおいてティムサさんは上回っています。それを彼女自身、自覚しながらも。一切トレーニングの手を緩めずにここまで進んできたのです。これで敗北するということは、それこそ三女神の介入を疑うレベルと言ってもいいレベル。

 

 

(だからこそ。)

 

 

以前から危惧していたことですが、彼女はいずれ史実におけるテイエムオペラオーさんのような状況に陥ってしまう可能性があります。つまり勝ち過ぎたせいで、レースをつまらないものにしてしまう、ということです。もちろんそうならない可能性も多分にあるでしょう。

 

しかしほんの少しでも可能性があるのならば、ティムサさんたちが悲しむ可能性があるのならば、前もって潰しておくのがトレーナーの務め。そのために自身はアンクルやメガホンを一般公開し、誰にでも手に入れられるようにしましたし、まだ準備中ではありますがマッサージや笹針の技術も発表する予定です。

 

多くのウマ娘に可能性をつかんでほしい、多くのウマ娘が怪我によってレースを諦めることがないように、そんな気持ちがないわけではありません。しかしそれよりも私は、彼女たちを“悪役”にしないためにこれを行いました。

 

 

(ブライトさんや、フクキタルさんがもし菊花賞で壊れてしまっていれば、少なからずティムサさんは叩かれていたことでしょう。)

 

 

行き過ぎた業績、光を人が批判してしまうのは仕方のないこと。光が大きければ大きいほどに、影はより暗く大きくなるのですから。ただの人間である自身には、これを止めるすべはありません。しかしながらその深まる闇の中で、足掻くことはできます。

 

そしてこれは、決してティムサさんたちに悟られてはいけません。

 

彼女たちに心配をかける、苦労を掛けるなどトレーナー失格。中央の人間として、指導者として、そして何より彼女たちのトレーナーとして、全くふさわしくありません。彼女たちの、ティムサさんたちの輝きを曇らせないためならば、この身などいくらでも差し出しましょう。

 

 

……そろそろ、時間ですね。

 

 

「ティムサさん、今日も待っていますね。……いってらっしゃい。」

 

「! はい! 行ってきます!」

 

 

貴女に、永遠の栄光を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひやぁ~~~、やっぱすごい人ですねぇ。」

 

「そりゃ大阪杯は中距離だからな、私の高松宮記念とは違うさ。」

 

「どうしても短距離マイルは人気が薄くなっちゃうからねぇ。」

 

 

私の驚く声に、スタッフ先輩とメロン先輩が補足を入れてくれる。先輩方が言うには、レースで人気になりやすいのは中距離で、大記録が懸かっているともっととんでもない人数になるみたい。スタッフ先輩が勝った高松宮記念の時の応援でもびっくりしたけど、やっぱ都会って人が多いんだなぁ。

 

 

「レース自体へのファン、みたいな方もいますから~。」

 

「な、なるほど。」

 

「スぺちゃんが出走予定の皐月賞も、たぶんこれくらい来ると思いますよ~? だってウチの新星なんですから。」

 

「ちょっとまだ早いけど頑張れよ?」

 

「は、はい!」

 

 

クマ先輩の言う通り、私の次走は皐月賞だ。先輩たちの後ろをひぃひぃ言いながら走って、なんか新幹線とかに乗せられたと思えばレース場で、出たらなんか勝てちゃって……。を繰り返してたら次はなんとGⅠ。三冠へと続く一つ目のレースだ。

 

やっぱり“アンドロメダ”ってチームの知名度はすごいみたいで、私もとんでもないほどに注目されている。私がこのチームにスカウトされたことを言うと、クラスメイトの子たちからもちょっと私のことを見る目が変わった気がするし、同じ部屋なのが飛び上がるぐらい嬉しかったスズカさんにはとんでもなく驚かれながら祝福してもらったし……。

 

もうこれだけでこのチームがどれだけすごいのか実感しちゃう。私なんて先輩に比べたら全然なのに、いつも一番人気だし……。たぶんクマ先輩が言ったのも、そういった“チームの人気”からくるものなんだろう。

 

 

(お姉ちゃんから電話で『色々覚悟しとけよ』って言われたけど、正直ちょっとプレッシャーだべ……。)

 

 

そういえばお姉ちゃんにトレーナーさんの電話番号教えてくれって言われたけど何だったんだろ? その後数時間ぐらいトレーナーさんとお話ししてたみたいだし……。何かあったのかな?

 

今日のレースとは関係のない方向に飛んでいく思考、けれど先輩たちの話し声でかき消され、そちらの方へと首を向ける。

 

 

「そういえばさ、ミークちゃんドバイ行ってたじゃん。」

 

「あぁ、いつも通りトロフィー片手に『ぶい』って写真送ってきてたよな。んでそれがどうしたんだメロン? お前も行くの? ドバイ。」

 

「正直行きたい。というか海外旅行したくね?」

 

「「わかる。」」

 

 

メロン先輩の言葉に、即座に反応を返すスタッフ先輩とクマ先輩。

 

海外旅行かぁ。私からすれば北海道から東京に出てきて、もうそれだけで違う国に来たみたいなんだけど、そういうのじゃないのかな? もしアレだったら私が北海道案内するんだけど。お姉ちゃんに先輩たち紹介したいし。あとミーク先輩とお姉ちゃんのどっちが強いか見たい。二人ともダート走ってるし。お姉ちゃんすごく強いし。

 

 

「普通にスタッフちゃんとかレース滅茶苦茶少ないじゃん、あっGⅠね? だから外に行った方がいいんじゃないかなぁ、って。ほら桐生院さんとミークちゃんが海外で経験積んだわけじゃん? それのフィードバック受けてさ。」

 

「そういえば今からでもグローバル・スプリント・チャレンジとかは参加できるのか……。」

 

「一戦目と二戦目はもう終わっちゃってますが~。残り8つを取れば優勝できちゃいますからね~。」

 

 

わ、すごい話してる。こわい。

 

 

「よし。これ終わったらトレーナーに言ってみるか。次確か香港だろ? 2日あれば行って走って帰って来れるだろ。」

 

「いやさすがにあっちの芝に慣れる作業とかしようよスタッフちゃん……。」

 

「……確かに、メロンみたいに負けたくないもんな。」

 

「とんでもない反撃してくるようになったよね、スタッフちゃん。嫌いになるぞ♡」

 

 

いやまぁこれまでスプリント最強って言われてたサクラバクシンオー先輩と模擬レースして8割以上勝ってるスタッフ先輩ならそれぐらい言ってもいいんじゃないですかね……? というかスタッフ先輩に負けた時のバクシンオーさんの顔。滅茶苦茶すごい顔してて怖かったべ。ウマ娘ってあんな闘気あふれる顔ってできたんだなぁ……。

 

 

「ごめんって。……そういえばティムサの奴どうするんだろな。あいつらなら凱旋門からの秋天とかもいけるだろ?」

 

「許す! 確かにどうするんだろうねぇ。……というか、シニア王道もだけど。」

 

 

メロン先輩と、スタッフ先輩の目が、クマ先輩の方に向かう。

 

 

「確かに、世間一般的に求められているのはティムサさんの6冠ですからねぇ~。有馬の時も色々言われましたし~。」

 

「まぁクマはレコード叩き出した上に大差付けて黙らせたんだがな。……スぺも絡まれたら同じようにしろよ?」

 

「ふぇ!? わ、私ですか!?」

 

 

きゅ、急ですよスタッフ先輩! というかそんなの多分無理ですぅ! レコードなんて全然、ティムサさんのが早すぎて無理ですよぉ……。ほんとにどうやったらあんなに早く走れるようになるんですか? え、トレーナーさんについていけば何とかなる? た、確かに……。

 

 

「……とにかく、スぺちゃんはティムサちゃんのレースをよく見ておくといいですよ~。」

 

 

ほんの少しだけ何もかもを切り裂くような鋭い顔で考え込んでいたクマ先輩。けれどすぐにその顔をいつものぽわぽわしたお日様のようなものに戻し、私の肩に手を置きながらやさしく語り掛けてくれる。

 

 

「“今”のあの子は学園最強、チーム含めて多分一番強いと思います~。だから、スぺちゃんが目指すべき日本一はあの子。ちょっと逃げは差し先行の貴女にとって参考にならないかもですが……。その姿勢は、見習った方がいいですよ?」

 

 

淡々と、言葉を紡いでいく先輩。

 

 

「ティムサちゃんはもう、どうすれば勝てるかじゃなくて、何をすれば負けないか、どうやって勝つかって次元に入ってる。彼女からしたら頼れる後輩、スぺちゃんが入ってきて~、ついでにどうしようもなく高い人間の壁がありますからねぇ。余計なことを考えずに、とにかく前に進もうとしてる。」

 

 

確かに少し、トレーナーさんへの接し方は色ボケって言われても仕方ないものはありますが、それでもあの子のレースへの向き合い方は、参考にすべきです。そう、自分に言い聞かせるように言う先輩。

 

 

「スぺちゃんの目指す日本一ってのがどうなのかは知らないけど。負けないって形で彼女は体現してます。同じチームですし、一番目指しやすい形じゃないですか? ……まだもうちょっと時間はありますが、皐月賞に向かう前に、もう一度見つめ直してみるのもいいかもしれませんよ~?」

 

「……はいっ!」

 

「いいお返事。……私も、天皇賞の前に、ですが。」

 

「ん? 何か言いましたか、先輩。」

 

「いえ~。じゃあみんなで全力応援、しましょうね~。」

 

 

 

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