よう実 √松下   作:レイトントン

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多分今回は過去一分かりづらい話だと思います。


生存と脱落の特別試験③

 特別試験当日。

 

 攻防の組み合わせは、堀北→龍園→一之瀬→坂柳クラス。オレたちと一之瀬のクラスは離れてしまった。

 一之瀬と組むことが周知され、また自らの策が採用される運びとなった池は余程嬉しかったらしく「よっしゃ!」とガッツポーズを取る。

 

 残る生徒は、リーダーとあとは誰でも良いわけだが、万一に備えプロテクトポイントを持つ千秋は脱落者に指定した。一之瀬のクラスがウチより上に来る可能性は皆無だが、脱落者となる生徒たちを安心させるための措置だ。

 堀北は残す生徒を、オレやみーちゃん、幸村など学力の高い生徒たちと、本人の強い希望と戦略を考えついた功績を考慮し池を教室に残した。

 

「……私の戦略は間違っていたかしら、綾小路くん」

「不安なのは分かるが、オレの答え合わせがないと戦略を決められないようでは困る。採った戦略が正しかろうが間違っていようが、決めたからには不安を顔に出すな」

「尤もな言葉ね……あなたの表情筋がまともに働いているところは見たことがないし。それもリーダーの資質というわけ?」

「オレの表情筋が怠け者なんて、そんなことはないだろ。なあ洋介」

「清隆くんはポーカーフェイスだからね。堀北さんが見習いたいと思うのもよく分かるよ」

 

 洋介はオブラートに包んでくれたが、結局オレの表情が一定であることを否定してはくれなかった。そんなに無表情だろうか、オレは。

 ともかく、特別試験が始まる。

 まずは堀北から龍園のクラスへの攻撃。堀北は5名の生徒を指名する。龍園のクラスには学力に不安のある生徒が多い。故に選ぶ相手には困らない。

 しかし、堀北は意外にも葛城や金田といった学力の高い生徒を選んだ。

 

「勉強に関係ないジャンルであれば、彼らにも隙はできるかと思って。それに、もしこれで彼らが不正解になるようなら、龍園くんのクラスの貴重な学力枠を削れる可能性もある。まだ初回だし、試してみる価値はあるわ」

 

 また、椎名は指名から外しているようだ。読書家の彼女は、学力以外の知識量も多いと推測したからだろう。逆に芸能には疎そうなところはあるが、本人は除外ジャンルとして指定しているだろう。

 一方、龍園のプロテクト枠は正解なし。堀北の方針は龍園の裏をかいたものとなったようだ。

 芸能やサブカルチャーは除外されていたらしく、選んだのはスポーツ。相手クラスに表示された問題が、こちらにも同様に表示される。

 

『サッカーにおいて、試合映像を見て主審の判定をサポートする審判員、システムの総称をなんと言う?』

 

 答えはVAR、ビデオアシスタントレフェリー。難易度的にはどの程度なのか、微妙なところだ。サッカーに興味がなく、簡単なルールを把握している程度では答えられないだろう。

 と思ったが、龍園クラスの生徒は1名を除き全員正解。金田、葛城も正答している。オレが想像しているより一般的な知識だったのだろうか。

 

「思ったより簡単だな」

「よくニュースで報道されていたよね」

 

 池と洋介のそんな話が聞こえてくる。なるほど、印象に残るニュースがあったのか。そう考えると、堀北の想像より難易度1の問題は易しいのかもしれないな。ただ、幸村は分からなかったのか微妙な顔をしている。

 続いて、龍園から一之瀬のクラスへの攻撃。しかし、指定できるのは5名。ここで一之瀬のクラスがプロテクト枠以外のリタイアをしていることが龍園にも露呈する。

 

 一之瀬のクラスは全プロテクトの成功が確定、5ポイントを獲得している予定となる。次は一之瀬→坂柳クラスの攻撃。それが終了したら、次は坂柳からウチへの攻撃となる。

 

「一之瀬さんの攻撃はどうなったのかしら……」

 

 自クラスが関係する結果しかモニターには表示されないため、一之瀬から坂柳への攻撃の結果は、彼女のクラスの生徒からの連絡を待つ他ない。

 しかして、それはすぐに訪れる。

 

「……!」

 

 堀北は一瞬瞠目し、すぐに息を吐いて落ち着きを取り戻す。

 

「どうした?」

「……坂柳さんのクラスも、同じ戦略を使ってきた」

「お、俺の天才的な作戦を!? Aクラスのヤツら、パクりやがったな!」

 

 池がショックのあまり嘆く中、堀北は苦虫を噛み潰したような表情を見せる。

 この戦略のもう一つの弱点を思い返しているのだろう。

 池が提案した時点で堀北は、この作戦には柔軟性がなく、学生証端末の通信により発生する状況変化に弱いところを指摘した。

 加えて、もう一つの弱点。それは脱落者の人数分、得点がマイナスになるため、人数の少ないクラスに同じ手を打たれたら負けてしまうことだ。

 

 現在、ウチは櫛田が退学し39名。リーダーとプロテクト対象の5名を残した場合、脱落者は33名となり、67点の獲得が確定する。

 一方、坂柳のクラスは戸塚、橋本が退学し、葛城が移籍したことにより37名。同じくリーダーとプロテクト対象を残した場合は31名が脱落者となり、獲得できる点は69点。2点差で坂柳のクラスが勝つ。

 

「けど……想定通りだよね、堀北さん?」

 

 みーちゃんの問いかけに、幸村も頷く。

 

「この作戦を相手も実施する可能性については、事前の検討にもあった。だからこそ、リスクを取ることも視野に入れていたはずだろう」

 

 幸村は残ったクラスメイトの面子を見ながら、堀北にそう呼びかけた。

 残ったメンツは、堀北、オレ、みーちゃん、幸村、池、そして洋介の6人……()()()()()()、森、須藤、東、石倉の4人を残した。

 これにより、脱落者は29人となる。が、プロテクトによる確定は行えない。プロテクト枠の外となる4人は、自力で問題を解き点を取る必要が出てくる。

 本来の策なら確実に得点を得られるのがメリットである作戦だが、坂柳のクラスに勝つため、その強みを半ば放棄した結果だ。

 

「ええ。プロテクト枠5人。そして私、綾小路くん、幸村くん、王さんの4人で確実に点を取る。池くんの考えた策を、坂柳さんのクラスに対抗するため私なりにアレンジした……そういう作戦だもの」

「ノーミスっていうのはかなりプレッシャーだな。だが、俺の希望通りにジャンルも絞られた。特別試験開始までの期間、事前勉強も十分にこなしてきた、抜かりはない」

 

 幸村は学力こそ高いが、スポーツやサブカルチャーなどには疎い。オレも人のことを言えるようなものじゃないが。

 しかし、本来なら一人3つまでとなる除外ジャンルも、条件次第で実質的に増やすことができる。

 例えば、9人の生徒の内4名がグルメを除外していた場合、指名できる生徒は5名しかいなくなる。プロテクトを確定で行えてしまうのだ。実質的にそのジャンルは除外されると言えるだろう。

 ただしジャンル、難易度、生徒の指名には3分の時間制限がある。相手側が下手を打てば、プロテクト確定のジャンルを選択する、ということもあり得る。

 もしかすれば、こちらがプロテクト確定の5人しか残していない、と勘違いしてくれる可能性も僅かだが存在する。坂柳や龍園に限って、それはないだろうが。

 

 

 ともかく、それにより幸村、オレ、堀北が苦手そうな6ジャンル、芸能、音楽、サブカルチャーに加えて生活、グルメ、スポーツを別の4名が除外し、プロテクトが確定するジャンルとした。みーちゃんはスポーツ以外はどのジャンルも比較的得意だというのだから流石だ。

 そのみーちゃん自身の除外ジャンルは、他と比べて自信がないとするニュース、文学、経済を対象としてもらった。

 

 そして、残るジャンル、英語や計算、科学などが選出された場合は他5名をプロテクトし、オレ、幸村、堀北、みーちゃんで対応するというわけだ。堀北を選出する都合上、リーダーは洋介に任せてある。この試験はリーダーと通常の生徒の相談OKだからな。ラジコンになってくれるなら、池や須藤がリーダーでもなんら問題はない。

 仮に最下位になったとしても千秋を選べばプロテクトポイントが消失するだけ、というのも洋介に優しいポイントだ。

 

 

 ただ、この策には大きな穴があった。

 今日つい先ほど、一之瀬が龍園に攻撃されるまで、問題を出された側が『ジャンルだけ先に知ることができるのか、プロテクト対象を選んでからジャンル、攻撃対象者が通知されるのか』が不明だったからだ。

 普通に考えれば、プロテクト対象の生徒を選ぶのにあたってジャンルは大きく寄与する情報となるし、先に通知されるものだとは推測できた。たとえば、サブカルチャーのジャンルが指定されたなら博士や池、山内をプロテクトする必要はない、逆にオレや堀北、幸村などは(除外ジャンルに指定していなかった場合)プロテクトして守った方が良い、など選択の根拠になる。

 

 が、あくまで推測であり確定情報ではなかった。初回からオレたちのクラスは攻撃側だったこともあり、つい先ほど一之瀬から情報を貰うまでは。

 もしジャンルが先に知らされなかった場合は森、須藤、東、石倉は仮病でリタイアしてもらうことになっていた。

 

 ちなみにプロテクト対象の5名とリーダーの6名を残せば良い、という話をしておいてややこしい話になるが、似たような手法として、除外ジャンルを各生徒でズラしていけばリーダー含む7名ならプロテクト確定とすることができる。

 例えば攻撃側が経済のジャンルで攻撃しようとした際、誰か1人でも経済を除外していれば残りの5名は全員プロテクトできる。

 堀北がリスクを取って9名を残したのはそのためだ。

 

 坂柳も同じ手を使ってリーダー含む7名を残していた場合、こちらは4名を追加しなければ勝ち目がない。延長戦になれば、確定プロテクト枠がないウチに勝ち目はないからだ。

 ただし、当然一問たりともミスは許されない。ギリギリの綱渡りである以上、オレはともかく幸村やみーちゃん、堀北にかかるプレッシャーは相当なものだろう。

 

「普通に正攻法で勝負しても良かったんじゃないか?」

「ウチのクラスの勉強が得意でない生徒数、ジャンルの除外を考慮すると今の策の方が勝ち目があると思ったの。本当は10人残したかったけれど、学力A以上の生徒は私とあなた、幸村くんと王さん、あとは松下さんだけ。松下さんのプロテクトポイントのために彼女を脱落者にした以上、9名が限界だと思う」

 

 単純な読み合い、加えてクイズ形式の勝負となれば坂柳が有利。ならばリスクを取る選択をした。

 これがどう転ぶか。

 

 坂柳からの攻撃は、ジャンルは計算、難易度は1。

 予定通り、洋介は5名をプロテクトし、坂柳の指名は須藤、オレ、幸村、みーちゃん、石倉。

 堀北がリーダーでないのは誘いのミスリードと読んで、一手目は外してきたか。須藤と石倉のプロテクトが成功し、オレ、幸村、みーちゃんが解答する。

 

『制限時間1分・15×24×16=?』

 

 単純な計算問題。制限時間も十分に余裕のあるものだ。が、一問も落とせないというプレッシャーが、幸村とみーちゃんにどこまで影響するか。

 解答を終え、結果が発表される。

 正解は3名。つまりは全員が正答した。

 

「やった!」

「ふう」

 

 まだ1問目だというのに一息吐く幸村と、対照的に余裕がありそうにはしゃぐみーちゃん。体力系の試験では役に立てないから、と役目を受けてくれた二人だ。特にみーちゃんは、選抜種目試験で中国語テストを落とした悔しさからか、こうした場での緊張を跳ね返すだけの精神力まで身に付けてきたようだ。隙のない、極めて優秀な生徒だと言える。

 

 次からは堀北も指名されるだろう。また、得点を使用して問題の難易度を上げてくる可能性も十分にある。2点を使用し難易度3の問題を出して、オレ以外の生徒が全員間違えればアドバンテージが取れる。

 とはいえ、難易度1があれなら難易度3であろうと学力Aの生徒は解ける可能性が高い。

 坂柳の出方も見つつ、どう判断していくか。堀北の腕の見せ所だな。

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