ガンダムSEED映画本編ちょっと前に、イモータルジャスティスを託されたシン・アスカの黙考。

(映画ネタバレ有りです。まだ未見の方は注意)

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『正義』を託された話

 激しく火が燃え盛る戦乱の世を諫めるため、コズミック・イラの世に打ち立てられた機構。世界平和監視機構コンパス。

 そのコンパスが保有する新型戦艦ミレニアムがオーブに寄港し、新たにロールアウトされた機体を受け取るところだった。

 

 新型のロールアウトっていうと、前みたいに3体の機体を奪われるような事件がもしかしたら起きるんじゃないかと、オレは――シン・アスカは――内心ヒヤヒヤとしていた。

 

 でも全然そんなことは無くて、オレの故郷であるオーブの人達が傷つかなくてよかったと、誰もこちらを見ていない時にオレは胸を撫で下ろしていた。

 格納庫のハンガーにはフェイズシフト装甲がダウンした状態の灰色の機体が2体じっとしていて、まるで石像みたいに前だけを見ていた。

 

 石の化け物だっけ、ガーゴイルってヤツは。誰かが戦火を広げようとしたときにコイツらは目覚めて、その戦火を止めに行く。

 改めて、このような化け物の手綱をしっかりと握れているキラさんやアスランはかけ離れた技量を持っているなと恐ろしくも感じた。

 

 新たなライジングフリーダムの足元では、キラさんがエンジニアやスタッフ達から各機能の説明を端末で提示されている。

 だからイモータルジャスティスの方ではアスランが説明を受けると思ってたんだけど、どうしてかオレまで呼ばれることになって、時間ぴったり目にこの格納庫へ来ていたんだった。

 

「アスラン? どうしてオレまで呼んだんです?」

 

「シン。イモータルジャスティスにはお前が乗るんだ」

 

「は?」

 

 相変わらず言葉足らずなヤツだ! そんな悪態を示す前に、それはいったいどういうことなんだというマヌケな疑問符をオレは喋っていた。

 

 いきなりでわからないよな、とアスランは軽く肩をすくめる。そして、自分はこれまで通りコンパスと別行動になることと、あの爪が生えたヘンテコな機体の調整が終わったからを受け取りに来たんだとだけ話した。

 アスランははっきり言えば、オレ達コンパスの一員じゃない。ターミナルという諜報組織にいて、偶然機体の整備完了とこちらのロールアウトが被っただけなんだという。だから、どうせならオレやキラさん達の顔を見ておきたかったって。

 

「不満なのか?」

 

「え、いや。オレが新型のジャスティスに乗るって、なんか違和感あるなって……」

 

「弐式の方を持っていくから、こっちが余るのは当然なんだ。ジャスティスはやっぱり俺の方が使いこなせるから、不安か?」

 

 しょうがない奴だなとアスランはオレに苦笑する。いつもこうだ。組織を違えても昔に敵対したことがあっても、アスランにとってはオレは可愛い部下という立場から変わらない。

 

「言ったな!? いつまでもヒヨッコみたいに見るな!」

 

 相変わらず上手い具合に口に乗せられてしまう。気に入らないけど、アスランに口勝負だとかなり分が悪い。いや、モビルスーツ戦でもだ、認めたくないけど……本当に力でも口でも気に入らないヤツに勝てないんだから面白くない。

 

 でもそんな憤るオレを見て、アスランは「その元気があれば大丈夫だ、安心した」とだけ言って肩を叩き、スタッフに会釈してこの場を去っていった。

 話は終わりましたね待ってましたと言わんばかりにスタッフ達が俺の周りに集まって、イモータルジャスティスのスペックや機能を次々と説明してくる。

 ああもうアスランめ! 大変な時を見計らうかのようにいなくなるんだからもう!

 

 次々とこの機体の運用方法を飲み込んでいって、じゃあこの武装を試すためにこのスケジュールで試運転だ、じゃあこのタイミングでシミュレーターを使わせてもらわなきゃと、てんてこまいでオレは色々考えていく。

 

 考えていって、ふと。ほんの、ちょっとだけ。

 

 オレは、この『正義』に乗る資格があるのだろうかと思った。

 

 

 

「つっかれたぁ……。そうだよな、オーブの技術者って元気なんだよ……」

 

 自室に戻って、オレはぼふりとベッドに倒れ込む。色んなことを整理するのと、『正義』という重さがじわじわと増してきたみたいでオレは疲れてしまっていた。

 

 

 

 正義、か。

 

 

 

 アスラン。アンタはあの『正義』に、どんな思いを託していたんだろう。プラントからすれば、アンタは2度も裏切った諸刃の剣だ。父親の罪を背負いきれず、逃げ出した臆病者とも昔のオレは思ったんだ。

 

 でも、アンタは『正義』の名を冠した機体に乗って、二度の大戦を最後まで戦い抜いた。裏切ってそのまま逃げるという選択もできたけど、アンタは逃げずに己の正義を突き通そうとしたんだ。

 

 オレには、この『正義』を託される資格なんてあるんだろうか。その正しさという言葉にふさわしく、相当の重圧が心身に伸し掛かってくるのを感じる。

 

 ……オレは時折、自分の激情に感情を支配されてしまう。だからアンタに口喧嘩で勝てないんだろ? そんな激情家が、この重い言葉を使えって? 石像から変わって暴れ出すような激情のガーゴイルを、きちんと抑えつけてみせろって?

 

 激情も重圧も、恐怖も迷いも制御して、オレはこの正義に相応しくなれるんだろうか。

 自機の懐をビームの刃がすり抜けた時、一撃でこちらを殺しに来る衝撃が足元をものすごい速度で過ぎ去った時、オレは戦いを戦いを止めることより、自分が生き残ることにただ必死になってしまう。

 

 大戦を生き残ってうコンパスに来た今でも、相手との力量が拮抗してしまい、どうしようもなく命を奪って撃墜する時の方が多いかもしれない。

 そこでオレは思ってしまうんだ。「お前がこうやって戦うからだ」「ざまぁみろ」「敵を落とせてよかった」なんて。高揚感に酔いしれた後、オレは物凄く自己嫌悪してしまう。

 

 何にもよくないんだ、よくないんだよ。もっと俺がキラさんのように冷静で強ければ、相手は生き残れて、自分の大事な人や家族と再会できたかもしれない。帰るべき場所に帰れて、会いたい人に会うことができたかもしれない。

 そんな人の命を奪って高揚しているようじゃ、オレには正義という言葉は不相応すぎる。

 

 まだオレは……選ばれた『運命』が似合うヒヨッコなんだろう。

 

 そう。運命のような強力な力があれば、オレは戦いを止めることができるかもしれない。

 でも、アスラン。アンタがオレに託して望むのは、そんな理不尽な運命の力によるものじゃないんだろ? この拳に、他者の血を無暗に流させてはいけないんだ。

 

 迷って、もがいて、オレが信じる道……それを見つけて、この戦いを正しい方向で止められる。

 アンタは、今のオレにそうして道を見つけてほしいから、この『正義』を託してくれたんだ。

 

 だからアスラン。オレ、このイモータルジャスティスを使わせてもらいます。

 敵に選ばれた死の運命をもたらすんじゃない。オレが突き通す正義で本当に戦いを終わらせて、みんなが望む自由の運命を手に入れるために。


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