もう一本の勇気のバトン   作:グリまりも

43 / 46
今回は種島創一の章も同時に更新しております。
あとがきにはそちらへのリンクがありますのでお使いください。



二十一話:勇者のいない四国

 目が覚めて、まだ薄暗い部屋の中、時計を探す。針は朝の6時を示していた。

 今日はどんな予定があったかと頭の中で確認する。

 

 まず看護師が来て、簡単な体調確認をする。

 その後朝食をとり、少ししたら大社職員が来て朝の検査などが始まる。

 それが終わったら、午後の検査までは自由な時間だ。

 普段は、次に会った時、勇者たちとどんな話をするかなどを考えている。

 

 と、そこまで頭に中で考えたところで、思い出した。

 勇者たち、あの二喜の大切な友人である彼女たちは、現在四国にいないという事を。

 

 

 

 

 

====================

 

 

 

 

 

「はあ……」

 

 正午近く、二喜は本日何度目かのため息をついた。

 

「まったく、いい加減慣れたらどうなんですか。今までだって何日も会わない日が続くことはいくらでもあったでしょう」

 

「そりゃあ、そうですが……」

 

 呆れる大社職員の言うことはもっともなのだが、二喜にしてみれば、ただ勇者と会えないだけの日々とはわけが違う。

 

「単純に、心配なんですよ。壁の外にはバーテックスがいるんでしょう? それに、ひなただっているし……」

 

「それはわかりますが、大社の見立てでは以前の総攻撃によってバーテックス側も相当戦力を消耗させているはずです。したがって普段の襲撃時と比べたら、遭遇するバーテックスの数はだいぶ少ないはずですよ」

 

 確かに、バーテックスの数だけならば壁の外に出たからといって増えるわけじゃないのかもしれない。

 

「上里ひなた様を守りながらであっても、勇者様たちの危険は普段の戦いよりも低いと考えていいでしょう」

 

「そうなのかもしれませんけど……そもそも普段の襲撃では僕たち一般人が気付かないうちに戦闘が終わっているじゃないですか。だから心配する暇もないけど……今回はそうじゃない」

 

 そう、今回の四国外探索において普段のバーテックス襲撃と最も違うと言える点は、樹海化の有無だ。

 樹海化中は勇者たち以外の時間が止まっているため、二喜達からすれば戦いが始まったことに気付く前に終わっている。

 

 しかし、今回は勇者たちが今危険な場所にいると分かっているわけだから、友人としてはやはりいつも以上に心配してしまうのだ。

 

「それでも、勇者様たち自身が、通信でバーテックスはたいしていないと言っているのだから、信じましょう」

 

 勇者と四国は、神樹の力を利用した通信機のようなもので連絡を取り合っている。

 といっても、常に使えるわけではなく、朝、昼、夕と一日三回の定時連絡ができるだけだけらしいが。

 

「あと、敵が大量にいる場所があれば、上里ひなた様の神託でそこを回避しながら進めるはずなので、おそらく危険なことにはならないかと」

 

「わかってはいるんですけど……どうしても……」

 

「これは、思ったよりも重症ですね……仕方ない」

 

 大社職員は、やれやれと肩をすくめながらどこかへ連絡をとった。

 

 

 

 

 

====================

 

 

 

 

 

「やっほー橋渡クン、元気してた?」

 

「真鈴さん?」

 

 数時間後、二喜が病室に一人でいると、巫女の安芸真鈴がやって来た。

 

「え、どうしたの」

 

「どうしたも何も、橋渡クンの元気がないからどうか話し相手になってやってくれないか、って君の担当職員さんに頼まれて来たんだよ? ま、こっちの大社神官経由だけどね」

 

「え、あの人そんなことを真鈴さんに? ごめん、なんか僕のせいで……」

 

 どこかへ連絡しているようなそぶりはあったが、まさか真鈴を呼んでいるとは。

 わざわざ大社本部から足を運ばせてしまって申し訳ない。

 

「いいのいいの、橋渡クンは私にとっては恩人なんだから、話し相手くらいこっちからお願いしたいくらいよ」

 

 聞いた話によると真鈴は大社本部の巫女たちの中では中心的な巫女の一人らしい。

 自分だって暇ではないだろうに、二喜が気にしなくていいように気を遣ってくれている。

 

「それで、なんで元気ないの? やっぱり勇者のみんなが心配?」

 

「まあ、そんな感じかな……心配だよ、すごく」

 

 二喜は、真鈴に嘘偽りない自分の気持ちを話した。

 

「僕もバーテックスに対する恐怖は身に染みてわかっているからね、勇者たちが強いっていうのを知っていても、やっぱり……ね。ひなたもいるし、何より外がどうなっているかがわからないから……」

 

「うん、わかるよ。それにしても、橋渡クンはちゃんと素直に言えるんだね、そういう事」

 

「どういうこと……?」

 

「私は同じようなこと聞かれたとき、つい強がっちゃて、別に大丈夫でしょとか言っちゃったから。その後やっぱり心配だったって言ったら、後輩に最初からそう言えって怒られちゃった」

 

 後輩というのは巫女の後輩だろう。

 大社本部では、勇者が丸亀城でそうであるように、巫女が集まって暮らしているらしい。

 真鈴は二喜や千景と同い年。来月には高校生になっている年齢だ。

 後輩も多いことだろう。

 

「じゃあ、やっぱり、真鈴さんも心配なんだ」

 

「そりゃね」

 

 当たり前か、真鈴にとっては球子と杏は三年以上も付き合いのある友達だし、ひなたのことだって同じ巫女であるからこそ、壁の外へ同行する危険性は二喜よりも理解しているはずだ。

 

「あいつら、今どのあたりにいるんだろ……」

 

「今朝時点で神戸を出発して、正午に大阪だから……今は名古屋くらいかな、次の定時連絡が来る夕方になんないと確かなことは言えないけど」

 

「もうそんな場所にいるのか……やっぱり勇者の移動速度って速いんだね」

 

 勇者たちは北海道に辿り着くことを目標としつつも、道中、生存者を探すなどしている。

 といっても、さすがに隅々までくまなく探すのは無理なので、主要都市に限って探索をしていると聞いた。

 

 だが、都市を探索しているとなると、バーテックスとの戦闘以外の面で心配事が出てくる。

 

 探索をすれば、嫌でも見てしまうことになるだろうからだ。

 その都市が、バーテックスによってどのように蹂躙されていったかを。

 

 もし、死体の山でも見てしまったら、彼女たちにどれだけの心理的負担になるのだろうか。

 

「確かに、心配は尽きないよね、でも……」

 

 二喜の内心を知ってか知らずか、真鈴は語る。

 

「彼女たちがそうやって、心配になるくらい頑張って四国に持ち帰ってくれるんだから、私たちはあの子たちが帰って来てからのことを考えてあげるべきだと思うの」

 

「というと……?」

 

「心配なのはそうだし、もしかしたら、上里ちゃんと勇者たちは外で酷いものを見てくるかもしれない。生存者はいないかもしれないし、いいニュースと呼べるものはないのかも」

 

 だけど──、と真鈴は続ける。

 

「それでも、あの子たちが帰ってきて、命がけで情報を持ち帰ったときに、受け取る側みんなががっかりしたような顔してたら、あの子たちも頑張ったかいが無くなっちゃうでしょ?」

 

「あ……」

 

「だから、心配は当然するとしても、それ以上にあの子たちが帰った後のことを考えてあげようよ」

 

「な、なるほど……」

 

 確かにそうだ。

 二喜は、勇者たちの今を心配するばかりで、帰って来てからどうするかを考えていなかった。

 帰りを待つと決めたというのに、なんという体たらくか。

 

「持ち帰ってきた情報がどんなものであっても希望につなげる……っていうのは大社の仕事だけど、私たちも、もっと未来を見よう。勇者たちは、未来を掴むために戦ってるんだから」

 

「そうだね……うん、その通りだ」

 

「まあ、生存者がいるとか、そういうハッピーな情報があると、それが一番いいんだけどね」

 

「はは、そりゃそうだ」

 

 そうなれば、こちらも帰って来た勇者たちに声をかけやすい。

 だが、もしそうでなかった場合も、あとで考えておくべきか。

 

「あ、未来の話って言ったらさ、弟さんはその後どうなの?」

 

 ふと、真鈴の弟について気になった。

 確か、天恐患者で、二喜の治療研究のかいあって、巫女である真鈴が傍にいられるようになり、良くなっているという話だが。

 

「おかげさまでよくなっているよ。最近は、窓を開けられるようになってさー……」

 

 弟の話をする真鈴の様子は、前向きで、希望の光を見ているかのようだった。

 きっと、良くなる未来の話をしているからだ。

 

 二喜も前を、未来を向こう。

 例え厳しい未来であっても、勇者たちが切り開いてくれる未来だ。

 信じて、見て行こう。

 

 

 

 

 

====================

 

 

 

 

 

 

 次の日。

 二喜はまた朝の6時頃に目が覚めた。

 真鈴のおかげで心配しすぎて眠れない、ということはなく、ぐっすりと寝られたので寝覚めはいい。

 

 朝食を食べているとき、二喜は勇者たちが戻って来たときにどう声をかけようか考えていた。

 しかし、やはり四国外調査の結果がはっきりするまでは完全に決めることは難しい。

 

 結果によっていろいろと変えなければならないからだ。

 吉報があれば一緒に喜んであげればいいが、外の様子が悲惨なだけで救いがないようだったら、それを目の当たりにした彼女たちを慰める必要も出てくるかもしれない。

 

 かといって、勝手な気休めを言っても逆効果になりかねないため、いろいろ考えなければ。

 

 朝食を食べ終わり、朝の検査を待つ。

 しかし、この日はいつもの大社職員が来なかった。

 

 いつもは朝来るのに、珍しいこともあるものだ。

 といっても、今までもこういうことがなかったわけではない。

 大社の別の仕事があったり、私用であったり、当然、大社職員にもいろいろある。

 

 今日の朝の検査は病院の看護師によって行われた。それも終わり、そろそろ昼食を食べようかというとき、大社職員が病室に来た。

 

「こんにちは、橋渡さん」

 

「こんにちは。午前は大社の別のお仕事があったんですか? どこか疲れているように見えますけど」

 

 二喜の病室に来た大社職員には、疲労している様子が見受けられた。

 

「はい、早朝から緊急会議がありまして」

 

「……そりゃあ疲れてるでしょう、そんな日くらい僕なんかのとこに来てないで、休んでください、体壊しますよ?」

 

「ええ、この後そうさせてもらいます……ただ、場合によっては橋渡さんのところに来るかもしれませんし、事前に伝えておいた方がいいかと思いまして……」

 

「何の話です……?」

 

 いまいち話が見えないが、とにかく、二喜に伝えることがあってわざわざ会議明けに来てくれたらしい。

 

 それにしても、緊急会議をしなければならないほどの事態とは、一体何が起こったというのか。

 そして、それをわざわざ二喜に伝える……まさか、

 

「まさか、勇者たちに関係すること……四国外遠征で、何かあったんですか?」

 

「はい、まず、その勇者様たちですが、本日帰ってきます」

 

「え? 今日? まだ北海道には着いていないはずですよね?」

 

「それでは順を追って話します」

 

 まだ、彼女たちが出発した日から数えても三日しか経っていない。

 いくら勇者が速く動けるといっても、その短時間で北海道まで着いて探索を済ませたとは考えにくい。

 

「昨日の夕方の定時連絡で勇者様たちから、そろそろ諏訪へ着くと連絡がありました」

 

「夕方に諏訪? やっぱり勇者って速いですね」

 

 確か昨日真鈴と話していたときには名古屋くらいだろうと予想していたが、それから数時間で諏訪まで着いたらしい。

 

「そして今日の早朝、新たな定時連絡がありました」

 

 大社が緊急会議を開かなければならなくなるような事態だ。

 いったい、勇者からはどんな連絡があったのか。

 

 大社職員は一呼吸置いて、話し始める。

 二喜は、固唾を飲んでその言葉に耳を傾けた。

 

「四国へ危機が迫っているとの神託あり、これより帰還する。また────」

 

 四国の危機、その神託にも驚かされた。

 勇者たちが予定を変更して今日帰ってくる理由もわかった。

 

 しかし、続けて大社職員の口から告げられた言葉は、それらを吹き飛ばすほどの情報だった。

 

「諏訪にて生存者を一名発見、その者も四国へ同行する、と」

 

「え──」

 

 生存者。たったの一名。同行。

 衝撃的すぎる情報が波のように一気に押し寄せる。

 

 頭の中で必死に情報を整理し、ようやく二喜は理解した。

 

 

 

 

 

 来る、諏訪唯一の生き残りが。

 

 危機を察知した勇者たちと共に、この四国へやって来る。

 




読んでいただきありがとうございます。

この話の裏で起こっている諏訪での出来事については
種島創一の章の「Ⅸ:孤独の六ヶ月」からご覧いただけます。



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。