もう一本の勇気のバトン   作:グリまりも

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※この話は、種島創一の章 ⅩⅢ:交差する物語【1】 の二喜視点です。


二十三話:交差する物語【2】

「二喜、入ってもいいか」

 

「若葉? どうぞ」

 

 千景が帰ってからしばらく経ち、夕暮れになったころ、今度は若葉が部屋に来た。

 

「失礼する」

 

「どうしたんだ、確か、今日は諏訪の人と話していたんじゃ……?」

 

 そんなような話を、千景がしていた。

 

「ああ、朝会って来たよ。そして、今日の夜、もう一度会う予定だ。そこでなんだが……」

 

 若葉は二喜にある提案を口にした。

 

「今日、種島創一君をここに連れてきてもいいか? ぜひ、二喜を紹介したいと思っているんだ。夜になってしまうんだが……」

 

「もちろんいいよ、むしろ、願ってもない話だよ!」

 

 こちらも会いたいと思っていた。

 こんなに早くその機会が得られるとは、嬉しい話だ。

 

「そうか、じゃあ、話をしてみる。向こうも二喜に会いたがっていたから、きっと来ると言ってくれるだろう」

 

「わかった、夜だね、待ってる。もし話が流れたらそのときは伝えて」

 

「ああ、それはそうだな」

 

 

 

 

 

 そして、夜が来た。

 

 期待と緊張を胸に膨らませつつ待っていると、ノックと共にひなたの声がした。

 

「二喜さん、入ってもいいですか?」

 

「どうぞ」

 

 返事をすると、ひなたが扉を開け、若葉と、少年が一人入って来た。

 

「失礼します、種島創一です」

 

「こんばんは、橋渡二喜です」

 

 この少年が、諏訪唯一の生存者。

 身長は若葉より低く、顔だちにもどこか幼さが残っている。

 

 最近自分の実年齢と精神年齢にようやく折り合いがついてきた二喜から見て、年下であるということがはっきりとわかる少年だった。

 

「会えてうれしいです、種島さん」

 

 ひとまず、二喜は会いたかった人に会えたことを喜んだ。

 すると、向こうも同じだったようで、返事をくれる。 

 

「いや、それは自分もです。正直興味がありましたから、一般人でありながら、勇者たちにああも信頼を寄せられているあなたに」

 

「信頼……確か、僕のことを説明してくれたのは若葉だったよね、嬉しいな、若葉はそう思ってくれていたのか」

 

 若葉がそんな風に自分を紹介してくれていたことが嬉しくて、若葉をからかってやると、若葉は恥ずかしがる。

 

「う、うむ、まあその通りなのだが……当人の前で話されると、なんだかこう……少々恥ずかしいな」

 

「きゃ、恥ずかしがり若葉ちゃんです! これはいい一枚が撮れました」

 

 それにすかさずひなたが反応する。いつもの流れだ。

 彼女たちが帰って来たというのを実感する。

 

 恥ずかしがる若葉と、その写真を何枚も撮るひなたを眺めながら感慨にふけっていると、創一が遠慮気味に声をかけてくる。

 

「あの、すいません」

 

「あ、ごめんなさい、せっかく来てくれたのに、こっちで勝手にはしゃいじゃって……」

 

 危うくゲストを置いてきぼりにしそうになった。

 反省し、意識を戻す。

 

「いえ、それはいいんですが……俺と橋渡さんの、二人っきりで話すことって可能ですか? 直接お会いしたことで、なんだか二人だけでいろいろお話したくなりまして」

 

 すると、思わぬ提案が出される。

 

「僕はいいけど……」

 

 二人は大丈夫だろうか、とアイコンタクトをとると、二人とも了承してくれた。

 

「ありがとうございます、案内してもらったのに勝手を言ってすいません」

 

「いや、構わないさ」

 

「私たちは席を外していますね」

 

 若葉とひなたが出て行き、二喜は創一という少年と二人きりになった。

 

「申し訳ない、初対面の人間といきなり二人きりにしてしまって」

 

 思わぬ展開だったが、正直、彼が何を話してくれるのか興味があるので、それはいい。

 しかし、二人きりを求めるということは何か秘密の話があるのかもしれない。

 だとしたら言っておかねばならないことがある。

 

「それは別にいいんだけど……わざわざ二人きりにするのは、何か他の人に聞かれたくない秘密の話があるから? だったら、それは無理なんだ、ごめん」

 

「おや、それはどうして」

 

「いやあ、僕はちょっと立場が特殊でね、いろいろと監視されてて……この病室の会話も録音されてるんだ」

 

「それは、大変ですね。でも、別に秘密の話というわけではないので大丈夫ですよ」

 

 なんでも、彼は四国の勇者と巫女の話を、二喜の口から聞きたいらしかった。

 それで、本人たちがいるところでは話しにくいだろうと思ったそうだ。

 

「僕から見た彼女たち?」

 

「ええ、どうもこの四国は勇者や巫女のことを過剰に特別視しているように感じるんですが、二喜さんのしている特別視は、他の四国の人たちとは違うように思えて……なんていうか、俺が歌野さんや水都さんに思っていたことと似ている気がしたんです」

 

 どうやら、四国と諏訪では、勇者たちへの態度が大きく異なっているようだ。

 しかし、先ほどの若葉をからかったりひなたと笑い合ったりしている様子から、二喜からは他の四国民とは違う何かを感じたらしい。

 諏訪での創一自身と勇者たちを思い出すということか。

 

 それは、何とも光栄なことだ。

 

「二喜さん、あなたにとって彼女たちは、どういう存在ですか?」

 

 自分にとって、若葉たちはどういう存在か……、そんなの、決まっている。

 

「とても、大事な友達」

 

 二喜の答えは、これ一つしかない。

 

「あいつらには恩もある。とても大きな恩だ。だから、彼女たちは恩人といっても間違いではない。でも、どちらか一つを選べと言われたら、やっぱり友達かな」

 

「それは、どうして?」

 

「恩を貰ってばかりのままでいたくないからだよ。僕は、彼女たちを助けられるような人間になりたいんだ」

 

 かつて彼女たち自身に言った言葉。

 ただ恩人というだけだと、きっと自分は甘えてしまう。

 彼女たちに一方的に助けてもらうだけなんて、嫌だ。

 

 二喜の答えを聞いた創一は、嬉しそうにしていた。

 その笑みを見て確信する。この少年は、いいやつだ。信頼できる。

 

「……でも、もしかしたらもう、二喜さんは彼女たちを助けているかもしれませんよ。若葉さんたちがあなたの話をしているとき、あなたの存在に助けられているんだな、という感じが伝わってきましたから」

 

「そう、なの? それは……すごく嬉しいな」

 

 そうか、まだ何にもなれていないと思っていた二喜だったが、彼女たちの力になれているのか。

 それは心の奥が沸き立つほどに嬉しい。

 

「でも、まだまだ足りないよ。だって、僕はまだ、彼女たちと一緒に戦えるようにはなれていない。僕は、無力なんだ」

 

「無力……」

 

 無力、という言葉に創一が反応した。

 

「うん、僕はね、正直言うと、彼女たちだけに戦わせるのが嫌なんだ。僕も一緒に戦いたい。どんな形であってもね。だから、それができるようになるまでは、少なくとも満足はできないかな……いつか必ず、勇者や巫女たちと共に戦える存在になってみせる。無力なままじゃ、いたくないんだ」

 

 偽らざる二喜の思いだ。

 そして、いつか必ず、彼女と並び立てるような人間になる。

 そういう意味では、二喜は創一が羨ましかった。

 

 自分とは違い、力を持っているから。

 無力じゃないから。

 

「……あなたと俺は、同じなんですね」

 

「え?」

 

 今まさに自分とは違うと思ったところだったので、真逆のことを言われて面食らう。

 

「俺も、ずっと自分の無力さが嫌だった。あの二人と、一緒の場所にいたかった」

 

 でも、今、まさに勇者と同じ力を手にしているじゃないか、そう思ったところで、気付く。

 自分が、あまりに失礼な思い違いをしていたと。

 

「運命は理不尽だ。二人と、もう会えなくなったあとで、こんな力をくれるんだから」

 

「創一君……」

 

 そうだ、彼は、間に合わなかったのだ。

 大切なものを失った後で、力を手にしてしまったのだ。

 

 その時感じた無力感は、いっそのこと、何の力も持たないよりもなお、大きかったのではないのか。 

 

「それでも、力を受け取った以上はできる限りのことをしたい。この力を、無駄にしないのが俺の役目なんだ」

 

 ああ、この少年は、凄い。

 力を手にしたことが、ではない。

 この少年の、種島創一の凄さはそんなことじゃない。

 

 彼は、勇者や巫女と共にありたいと願い続け、そのために生きてきたのだろう。

 しかし、彼は失ってしまった。なんなら、自分の命よりも大切だっただろうその人たちを。

 

 そんなことがあった後で力を手に入れた。

 普通なら、絶望してもおかしくないのではないか、過去を懐かしむだけの亡霊のようになってしまっても、仕方ないんじゃないだろうか。

 

 でも、彼はそうならなかった。

 未来を見続けた。自分にはまだ役目があると、それが果たされるまでは諦めないと、折れなかったのだ。

 

 彼が最初からそういう人間だったのか、あるいは諏訪の勇者や巫女の影響なのかは知らない。

 だが、二喜から見て確かなことは、この種島創一という少年は、すでに同じ場所に立っているということだ。

 二喜が尊敬している自慢の友人たち、勇者たちと同じ場所に。

 

 戦う力の話ではなく、その精神性において、彼はまさしく勇者に見えた。

 

「と、すいませんね、こっちから一方的にいろいろ尋ねたり、一人で喋ったり、二喜さんも俺に何か聞きたいことがあれば、遠慮なく」

 

 聞きたいことは、ある。

 たくさんある。今、できた。

 

 彼は、目標だ。

 二喜が、四国の勇者たちの力になるためには、彼のようになればいいと、そう思った。

 

「聞きたいこと……じゃあ、僕の方も君に、諏訪の勇者や巫女の話を聞きたいな」

 

 知りたい、種島創一のことを、この人が諏訪で、勇者や巫女たちとどのように関わってきたのか、とても知りたくなった。

 

 しかし、質問した後で、はっとした。

 すでに失ってしまった彼に、諏訪でのことを聞くのは酷ではないか。

 

「あっ、辛かったら答えなくていいから……」

 

 軽率だった。

 しかし、創一は嫌な顔一つせず、言ってくれた。

 

「いいですよ、彼女たちの話なら、俺はいくらだって語れますから」

 

 彼は、ゆっくりと語りだす。

 

「まず、勇者の歌野さんですが――」

 

 それから、創一は諏訪の勇者、白鳥歌野と、巫女の藤森水都との思い出を話し出した。

 

 彼女たちとどう出会い、どのような日々を過ごしていたのかを。

 

 ときに懐かしそうに表情を和ませながら、とても大切な思い出を、少しずつ紐解くように、丁寧に語ってくれた。

 

 

 

「――と、もうこんな時間か。明日は大社本部に行く用事もあるし、すいませんがこの辺で」

 

 いつの間にか、創一が話始めてから一時間以上が経過していた。

 彼の言う通り、もうそろそろ切り上げてもらった方がいい時間だろう。

 

「うん……あー……」

 

 しかし、創一の話を聞いて、どうしても気になるというか、聞いてみたいことがあった。

 

「えっと、何か……?」

 

 二喜の挙動不審な様子を見て、怪訝な顔をしながら聞いてくる創一。

 

 二喜が気になったこととは、別に諏訪での生活の詳細や、創一が手にした力に関することではない。

 もっと、平凡で、純粋な、二喜の中の年相応の興味によるものだ。

 

「いや、なんというか、創一君は、本当に二人を大切に思っていたんだなっていうのが伝わって……」

 

 創一が白鳥歌野と藤森水都の二人を語っているとき、その二人に対する創一の様々な思いが伝わって来た。

 

 二人に対する尊敬、信頼、そして、最も伝わって来たのは────愛情だ。

 

「……その、好き、だったの?」

 

「好き……それは、男女の、的な意味で……?」

 

 間髪入れずに創一は質問を返してきた。

 

「ああいや、ごめん、変なことを聞いたよね、忘れてくれ、ほんと、失礼しました」

 

 野暮な質問だったかもしれない。 

 

 恋愛の話は全然したことがないので、つい、聞いてしまった。

 

「好きでしたよ、二人とも」

 

「え」

 

 まさか、答えてくれるとは思わなかった。

 

「俺は彼女たちのことを大切な友人とも思っていたけど、それと同じくらい、女の人としても好きでしたよ。まあ、当時はあんまり意識はしてませんでしたけど……後から、ああ、好きだったんだなって思いました」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 堂々と答える創一に、やや驚きながら、そうか、そういうものなのか、と二喜が思っていると、逆に、創一が二喜に質問してきた。

 

「二喜さんにはいるんですか、そういう人、勇者の方々とか」

 

「え、僕……?」

 

 まさか、自分に帰ってくるとは思わなかったため、一瞬、思考に空白が生まれる。

 

「……いや、僕は……はは、どうだろう? みんな魅力的だけど……」

 

 予想外の質問だったのもあって、答えられなかった。

 だから、二喜は、慌てて誤魔化すようにした。

 

「まあ、それはいいや、それじゃ、また」

 

「え、うん、じゃあね」

 

 何かを察してくれたのか、創一は早々にこの話題を終わらせ、病室を後にした。

 

 

 

 

 

====================

 

 

 

 

 

 創一が去って行った病室で、二喜は一人、ベッドで黙り込んでいた。

 

 頭にあるのは、先ほどの創一からの逆質問。

 

「好きな、人」

 

 恋愛、自分には、少なくともここ最近は全く意識したことの無い事柄だった。

 

「わからない、わからない……けど……」

 

 さきほど、創一が質問してきて、二喜の思考が少し空白になったとき、一瞬、一瞬だけ……ある人物の顔が、二喜の脳裏をよぎった。

 

 それは、昨日、一人で二喜の部屋を訪れた少女──郡千景の、表情だった。

 

「なんで、あのとき千景の顔が思い浮かんだ……」

 

 好きな人はいるのかと問われ、千景の顔が自然と思い浮かんだ。

 

「あれ?」

 

 それは、つまり────、

 

「あれ、あれ……?」

 

 心の鼓動が、大きく素早く音をたてる。

 天恐の症状以来の出来事だ。

 

 けれど、天恐での動悸に比べて、嫌な痛みは感じない。

 

「ぼ、僕、もしかして、千景が……」

 

 落ち着いてきた頭が、答えを導き出す。

 

「好き、なのか……?」

 

 呟いたところで、せっかく落ち着いたはずの頭、というより顔が、紅く燃えた。




読んで頂きありがとうございました!

次回もよろしくお願いします!
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