ガンダムSEED 天禀の才   作:雪の師走

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カガリ再び

アークエンジェルは、戦闘地域から少し離れた地点に着底した。すでに夜は明け、透き通る青空と黄金色とも黄色ともいえる砂漠がキラキラと輝いている。

意図も勢力も不明なバギーの集団は、艦から少し距離をおいて停止した。ストライクが相手の出方を窺うように、両者の間に立つ。ベーシスはエネルギー残量と一佐の力量を借りたいということで艦に収容して補給を受けている。

バギーの傍に立つのは、アラブ系と見える男たちだ。いずれも歴戦の風貌で、一癖ありそうな、不敵な顔立ちをしている。

民族風の衣装や迷彩服など、衣装も年齢もまちまちで、明らかに正規の軍隊に所属する者たちではなさそうだ。だが、面白半分でバクゥと、そして砂漠の虎と戦う者ではないだろう。

「味方――と、判断されますか?」

シートに座るマリューに近づき、ナダルが尋ねてきた。しばし迷ってから。

「少なくとも、銃口は向けられてないわね。」

ナタルが私の判断を待っている。

「ともかく、話してみる。向こうにもその気はあるようだから。うまく転べば色々と助かるわ。後をお願い。」

席を立ち、ナタルに艦橋を任せた。

今一番頼りになる男の元に向かう。敵将を知り、この地域を転戦したこともある当代の名将で名パイロット。

着替えると連絡をしていたから更衣室にいるだろう。そう思い、更衣室内に知らせるブザーを鳴らした。すると直ぐに繋がった。

『ラミアス艦長か。どうした?』

「いえ、何かあの人達の情報を知っていないかと………。」

言い淀んだ時、パシュと扉が開いた。入ってこいと言うことなのか。入るとシャツにフライトジャケットを羽織った格好に着替えていた。机の上に銃が幾つかと弾倉も置いてあった。

腰と懐のホルスターに装着し、弾倉をお尻のポケットと懐のポケットに入れた。

「悪いが情報はないな。なにせ俺は独立機動部隊として戦場を転戦した。補給や修理で留まるとこはあれど、支配地域の統治や治安維持を仕事としなかった。だから反政府運動組織やレジスタンスとの繋がりはない。」

そう………やっぱり情報はないか………。

「とりあえず情報交換と協力体制を築けるかどうかの確認だな。それが無理なら不可侵か不戦協定くらいは結べたらいい。それとあの場でドンパチは止めたほうがいい。行くのは私と君、フラガ少佐くらいだろう?交渉決裂になったら先ず俺達は死ぬからな。」

やはり頼りになる。まだ20歳の筈なのに私よりしっかりしている。経験値の差といえばそれまでだけど。

サングラスをかけて目元を隠し、帽子を被った。

「これでも有名人でね?地球軍にいるのを知られたくないのよ。」

そう言って肩を竦めた。確かにザフトのエース部隊の隊長が今は地球軍など笑い話になるかどうか。それに向こうもザフトの人間がいるのは面白くないか………。

「よう、お二人さん。てかキリュウ一佐、持ち過ぎでない?」

フラガ少佐が手に持った銃を確認し、私の隣にいる彼の武装を見て感想を漏らした。

「あくまで護衛として行く。それに必要な装備だよ。銃も3丁しか持ってない。」

「オレ、こっちは自信ないから頼むよ。」

フラガ少佐がカナデさんに頼んでいた。これではどっちが年上が分からないな。

「それは此処にいる艦長の手腕に期待するしかないな。」

隔壁扉が開き、タラップが下りる。3人で砂漠に降り、彼らの元に向かう。銃を向けてくる者はいないが警戒しているのが伝わってくる。

「助けていただいてありがとう―――と、お礼を言うべきなのかしら?」

私が口を開くと、男は私の顔に目を据える。内心の動きを見せない、歴戦の寡黙な男のようだ。

「地球軍第八艦隊、マリュー・ラミアスです。」

私の名乗りを聞き、まだ幼さの残る少年が嘲るように笑った。

「あれ〜?第八艦隊てのァ、全滅したんじゃなかったけ?」

私はその言葉に思わずその少年を睨みつけた。リーダーの男が“アフメド”と少年を制するように手で制止した。

「俺達は『明けの砂漠』だ。俺はサイーブ・アシュマン。………別に礼なんざいらんさ、特に助けてねぇしな。それにアンタ方を助けたわけじゃない。」

真意を探るように、サイーブと名乗った男の目を見つめた。すると男はニヤッと笑ってその目を見返す。

「こっちもこっちの敵を討とうとしたまでさ。」

なるほど、どうやらこの連中はここらの反ザフト派のレジスタンスということか………。

「砂漠の虎相手にずっとこんな事を?」

隣のムウが、少し呆れたように尋ねると、サイーブはじろじろと彼を見た。

「………アンタの顔はどっかで見たことあるな。」

「ムウ・ラ・フラガだ。―――この辺に知り合いはいないよ。」

そっけなくムウは返したが、サイーブは小気味よく笑った。

「へぇ、エンデュミオンの鷹と、こんなとこで会えるとはよ。」

そっけなくムウが言ったが、サイーブは小気味よさそうに笑う。

「へぇ、『エンデュミオンの鷹』とこんなとこで会えるとはよ。」

ムウの異名を言われ、意表を突かれた。こんな砂漠の真ん中で、ハンドランチャー片手にほそぼそと戦闘をしているゲリラ部隊の割には、たいした情報通ではないか。

「情報も色々とお持ちのようね。では、私たちのことも?」

「地球軍の新型特装艦“アークエンジェル”だろ?クルーゼ隊に追われて地球へ逃げてきた。そんであれが―――」

サイーブが間に立つ“ストライク”を顎でさした。すると後方から、彼の声を遮るように、やや高めの声が上がる。

「X105……“ストライク”と呼ばれる地球軍の新型機動兵器だ。」

その声にマリューは驚いて見やり、金色の髪をした少女に気付いた。多くのレジスタンスと同様に防弾ジャケットらしいものを着用し、物腰は荒削りで男勝り、金に近い色のきつい目は真っ直ぐ“ストライク”に向けられていて、こちらからは凛とした横顔しか見えない。

彼女は明確に周囲の人間たちと異なる雰囲気を纏っていた。そもそも人種さえ違うようだ。

だが今は彼女の素性より、彼女が口にしたことのほうが気にかかる。そこまで詳細なデータがなぜ、どういった経路でこの人たちの元に届いたのか………?

マリューがじっと少女の姿を見つめていると、その視線を遮るようにサイーブが前に出た。

「さて、最後にアンタの紹介を頼むよ。こん中で一際雰囲気のある男だ。俺たちなんかよりよっぽど修羅場を潜ってきたのが一目でわかる。」

サイーブはムウとは反対側に少し半身で立っている人物に目をやって尋ねた。

「私はただの雇われの傭兵だ。」

端的に答え、バッサリと話の流れを切りにいったがサイーブも歴戦の男。そう簡単にはいかない。

「名前を教えてくれんか?それとそのキャップとサングラスも外してくれるとありがたいな。」

恐らくカナデさんの正体に気づいているのだろう。笑いながら言うサイーブを見て、そう思った。

「カナデ・キリュウ。モルゲンレーテの特別教導部隊所属の傭兵だ。今回は護衛とパイロットの教導の任務でアークエンジェルに乗っていた。」

帽子とサングラスをとり、サングラスを胸のポケットに片付けながら答えた。

「そうじゃない。アンタの本当の名だよ。」

横目で見るといつも通りの冷静な顔で涼しく流していたが、その様子に焦れたサイーブがクツクツと笑いながら話し出した。

「アンタが答えないなら俺から話してやるよ。カナデ・ドウジマ、元ザフト特務隊FAITH所属。FAITH所属後、様々な戦場、作戦に従事する専任部隊『特殊作戦群』を設立。様々な作戦に宇宙、地球問わず参戦。ユーラシアとの一大会戦『アウステルリッツの戦い』でユーラシアの3分の1の機械化戦力を殲滅し、地球で名を馳せる。その後も各地を転戦し、北アフリカのカイロ、エジプト、トリポリでも勝利をおさめ、北アフリカがザフトの支配域になる切っ掛けになった。」

目して語らず、カナデさんは沈思黙考して様子を見ている。

「オラァお前さんだと思ってんだが、別人かな?」

サイーブが笑いながら探るような目を向ける。それにカナデさんも不敵な笑いを漏らした。

「いや、俺の事だ。相違ないよ。で、それを暴いてどうする?ここでドンパチやろうってかい?」

臨戦態勢に入ったカナデさんに反応してレジスタンスの男達も反応し、銃を持つ手に力が入った。それをサイーブが手を上げて留めた。

「いんや、俺はお前さんが本物かどうか知りたかっただけでアンタとやり合おうなんて微塵も思っちゃいない。アンタのことだ。こんなに人数いても問題なく対処できんだろ?」

それに対してカナデさんは笑うことで答えとした。

「さてと、お互い何者だか分かってめでたし―――といきたいとこだがな、こっちとしちゃ、とんだ災いの種に降ってこられてびっくりしてんだ。ま、そっちにしてみりゃ、こんなトコに降りちまったことが災難なんだろうが、―――アンタたち、これからどうするつもりなんだ?」

サイーブは無害そんな口調で話したが、その目は私たちから何かしらの情報を引き出そうと抜け目なく、油断なくこちらの反応を窺っている。それはこちらも同様だ。マリューはたずねた。

「―――力になっていただけるのかしら?」

するとサイーブ食えない笑みを浮かべる。

「話そうってんなら、先ずは銃を下ろしてもらわねぇとな。そっちの男の臨戦態勢もだ。」

どうやらこの男は、念のために伏せてあった兵の存在も、とっくに承知していたらしい。ハッチの陰で様子を窺っているクルーに向けて、マリューは手で合図をした。隣の彼にも頷くことで警戒を下げるように合図をした。

「………で?」

「アレのパイロットもだ。」

サイーブが顎で示したのは、巨大な番人よろしくこの会談を見守っていた“ストライク”だった。

マリューは短く息をつくと、くるりと“ストライク”に向きなおった。

「ヤマト少尉!降りてきて!」

“ストライク”の外部マイクから、コクピット内にマリューの指示が届き、キラはハッチを開けた。ラダーに捕まり、足をかけると、スルスルと地上まで垂れ下がる。無重力とはやはり勝手が違った。キラはマリューたちのもとへ合流しようと、歩き出しながらヘルメットに手をかける。現れた彼の顔を見て、レジスタンス達が一瞬どよめく。

「ああ?あれがパイロットかぁ?」

「まだガキじゃねえかよ。」

その中で大きく反応を示したものがいた。硬質な金色をした髪をなびかせて、一人の少女がキラの前に飛び出した。

「おまえ………っ!」

彼女の突発的行動は、慎重に互いの動きを探り合うこの会談で突出して映った。誰もが一瞬緊張し、ムウとカナデさんは彼女がキラに危害を加えるのではと、ホルスターの銃に手をかけようとする。するとその動きをさらに牽制するように、サイーブと筋骨たくましい長身の男が立った。長く伸びた髪を不潔そうに垂らしているが、その陰からのぞく目の光は鋭い。それだけでこの男は出来ると思わされた。それに反応してレジスタンス達も臨戦態勢になる。

一方、少年少女はその緊迫した周囲の雰囲気に気づくこともく、互いの顔を見つめ合った。少女は喧嘩腰に叫び、キラに手を上げる。

「おまえがなぜ、あんなものに乗っているっ!?」

キラは反射的に彼女の拳を受け止め、相手の言葉に怪訝な表情になる。その言葉は、まるで彼女が前から自分の事を知っていたようではないか。

少女は拳を受けられて悔しそうな顔になり、キッとキラを睨みつけた。その野の獣を思わせる、金に近い褐色の瞳に見覚えがあった。キラは目を見開く。

「―――きみ……あのとき、モルゲンレーテにいた………!」

ヘリオポリスをザフトが襲撃した、あの運命の日、カトウ教授に会いに来ていた少女だ。あのあと襲撃に巻き込まれて―――彼女は避難用シェルターへ、キラはストライクへと別れ、それきりになった。

あれから―――まだ一ヶ月もたってないはずなのに、遠い遠い過去の話みたいだ。キラがしばし呆然とし、少女は彼の手を振り解こうと身を捩る。

「くっ………離せ!この馬鹿っ!」

彼女のもう一方の拳がキラの頬に当たった。キラは思わず彼女の手を離し、頬を押さえて後退る。

「カガリ!」

リーダーに咎められて、カガリと呼ばれた少女は一度そちらに目をやり、渋々引き下がった。最後にあの印象的な眼差しで、怒ったようにキラを見やったあと、彼女は仲間たちのところへ戻っていく。

殴られた痛みより混乱の方が大きかった。キラは唖然として彼女の後ろ姿をを見送った。カナデさんがそばに寄って心配してくれたのにも気付かなかった。

彼女が―――なぜこんな場所に?

 

 

 

 

 

滑らかな砂の海に突き出した、小島のような岩山に、アークエンジェルは近づいていた。降下ポイントから東に200キロほど離れた場所だ。白く輝く巨大な艦はバギーに先導され、岩の隙間を縫うようにゆっくりと進む。住人らしい男たちが、艦の威容に驚いて目を見張るのが見える。岩山に取り囲まれた谷底に、アークエンジェルは両翼で突き出た岩壁を削りながら着底した。その上に、上空からの偵察に備え、隠蔽用のネットを人とモビルスーツで広げていく。

「サイーブ!どういうことだよ、こりゃあ!」

岩山の奥から男が駆けてきて、サイーブ・アシュマンに抗議する。だがレジスタンスのリーダーはムッツリと命じただけで話し合いを終えた。

「客人だ。仲良くしろ。」

この岩山が彼ら『明けの砂漠』の本拠地なのだろう。もとからあったのか、洞窟があちこちにポッカリと口を開け、中には武器や弾薬、あるいは生活するための物資が積み上げられ、雑多な印象だ。

物資の搬入やチェックをしているむさ苦しい男たちは、マリューたち女性士官が通り過ぎると、ヒュウと口笛を吹いた。マリューかニッコリと受け流し、対照的にナタルはムッと睨みつける。

彼らはサイーブについて奥へと通され、どうやら司令室らしい用途の部屋にたどり着いた。暗い電灯が灯った部屋には通信機や情報分析用だろうか、コンピューターなどの機械類が並び、中央には広いテーブルが据えられている。ムウが小さく口笛を吹く。

「大したもんだ。だが、こんなとこで暮らしてんのか?」

「ここは前線基地だ。皆家は街にある。まだ焼かれてなけりゃな。」

サイーブが壁の方に行き、電熱器にかかっていたポットを取り上げながら答える。マリューか“街?”と聞き返す。

「タッシル、ムーラ、バナディーヤから来てる奴もいる。俺達はそういう街の有志の一団だ。―――コーヒーは?」

黒い液体をホーローのカップに注ぎながらサイーブが尋ねてきたので、マリューは「ありがとう。」と言ったが、男はそのカップに自分で口をつけながら、素っ気なく「好きなの使いな。」とその場を離れた。残念ながらカップがなく、飲めそうにない。

隣にいたカナデがスキットルを胸ポケットから取り出して差し出してきた。

それに「ありがとう。」と口に出し、口付けて飲もうとした時に匂いに気付いた。差し出した彼を見遣ると悪戯が見つかった子供のように笑いながら、グイッとと合図をしたので口に含み一口飲む。口内、喉、胃が焼けるように熱くなる。

この男、アルコール度数の高い酒を隠し持っていたのだ。

「くぅ〜〜〜。」と漏らすと、先を行き、前にいたムウとナタル、そしてサイーブも此方を見ていた。カナデさんが手を出したので彼に返すと彼も一口飲み、口内で味わい、嚥下した。

蓋を閉め、片付けると今度は胸ポケットからタバコを取り出し、「いいかい?」とサイーブに尋ねていた。

ここまでくるとやりたい放題やっている。サイーブは顔を一瞬険しくしたが、短く「ああ。」と答えた。

白煙を燻らせながらテーブルに近づく。

「艦のことも―――助かりました。」

あのでかい図体ではどこに置いても目立って仕方ないが、ここなら隠し場所として申し分ない。そのことに礼をいう。

ムウが直ぐ側にいる金髪の少女が気になったのか、「彼女は?」と尋ねた。サイーブは例の寡黙な目で彼らを見つめたあと、答える。

「俺達の『勝利の女神』だ。」

「へぇ?」

少女を見るムウの目にからかいが混じる。確かに『女神』と呼ぶには、彼女はいささか女っ気が薄いように見える。

「名前は?」

「……………」

答えが返ってこないので、ムウは青い目をサイーブに向け直し、肩をすくめてみせた。

「女神様じゃあ、名を知らなきゃ悪いだろ?」

サイーブはコーヒーを啜ったあと、ムッツリと答える。

「………カガリ・ユラだ。」

彼はカップをテーブルに置き、その上の地図に手をやった。

「アンタらはアラスカに行きてぇってことだがな―――」

明らかに話を逸らそうとしている。マリューは一瞬、彼の態度を不思議に思ったが、直ぐに地図に注意を引かれてしまった。

「まずアフリカ大陸を出る算段だな………。そりゃ、ザフトの勢力圏内ってったって、こんな土地だ。砂漠中に軍隊がいるわけじゃねぇ………今回の戦闘で大半が落とされちまったから戦力は激減だ。だが周囲の部隊から来援がくれば盛り返してくる。それに3日前にビクトリア宇宙港が落とされちまってからこっち、ヤツらの勢いは強い………。」

淡々と情勢を語るサイーブの言葉に、マリューたちは驚愕の声が被った。

「ビクトリアが!?」

「三日前―――!?」

流石のムウも「ありゃー。」と渋い顔になる。ただ横のカナデさんは口元に手をやり、考え込んでいる。そしてかすかに笑ったのが分かった。どうしたのかと聞こうとしたがサイーブが話し始めたので顔を戻した。

「アフリカ共同体はもともとプラント寄りだ。最後まで抵抗してた南アフリカ統一機構も、ついに地球軍に見捨てられちまったんだろうよ。ラインは日に日に変わってくぜ。」

現在アフリカ大陸は大まかに見て二分され、北部から西部にかけて、大陸の7割ほどが親プラント国家であるアフリカ共同体、南部は地球軍寄りの南アフリカ統一機構の二国に分かれる。

ザフトの地球侵攻作戦“オペレーション・ウロボロス”は、赤道付近に並ぶ宇宙港を全て制圧するというものだ。すでに華南宇宙港は落とされ、今また広大な宇宙港であるビクトリア宇宙港までもザフトに制圧されるとは………。

ビクトリア宇宙港が陥落したことで地球軍の欧州、アフリカ大陸の補給は殆どが死んだ。

先程から黙り込んでいた男が口を開いた。

「ビクトリアを攻撃した部隊は分かるか?」

「ん?ああ……………ほら。」

そう言ってバインダーに挟んだ資料を渡された。何枚かペラペラと捲り、考え込んでいる。“ほら”と私に渡してきた。

「ザフトは地球駐留部隊と宇宙からも大部隊を降下させている。そしてビクトリアのマスドライバーを一気に攻め落とし、ほぼ無傷で攻略した。ここにいる部隊、大半は動かせないな。」

皆が驚愕の表情で発言した男を見た。

「ユーラシアは当然だが、大西洋連邦も東アジア共和国も隙があれば奪還作戦を試みるだろう。それを防ぐとなると大隊じゃあ足りない。師団規模のモビルスーツ部隊を置くだろう。そしてジブラルタルとの連絡先、補給線の確保は必須。ウィーンにも師団規模、パリにも敵がどちらに来てもいいように後詰部隊を置く必要がある。ザフトも防衛策の構築が出来るまで大部隊の移動はしたがらないだろう。アフリカを脱出するなら今から半月が勝負だな。」

ザフトでその人ありと謳われた男の冷静な情報分析には舌を巻く。彼がいるいないでは安心感が違っただろう。

「そうかい。なら脱出の話をしようか。」

サイーブが本題に入ろうと話を戻した。

「あの艦は、大気圏内ではどうなんだ?」

「そう高度は取れない。」

質問にナタルが応じ、サイーブは地図の上に身を乗り出す。

「山脈を越えられねえってんなら、あとはジブラルタルを突破するか………。」

「この戦力で?無茶言うなよ。」

ムウが顔をしかめた。ヨーロッパおよびアフリカ大陸侵攻の足掛かりとして、ジブラルタル海峡にはザフトの前線基地がある。その強大な勢力圏をアークエンジェル一隻で突破出来るとは、とても思えない。横の男に目をやると、その視線に気付き、顔を横に振った。

「なら頑張って紅海へ抜けて、インド洋から太平洋へ出るっきゃないな。」

サイーブはあっさりと言い放った。所詮は他人事だ。だが当事者たちはその航路の可能性を真剣に検討し始める。

「―――太平洋………。」

「補給路の確保なしに、一気に行ける距離ではありませんね。」

「でも確かに、他に道は………。」

「大洋州連合は完全にザフトの勢力下だろ?赤道連合はまだ中立か?」

3人は地図の上で顔を突き合わせて話し合っていると、サイーブが呆れた声を出した。

「おいおい、気が早ぇな。もうそんなとこの心配か?」

不審げに顔を上げた3人の前で、レジスタンスの首領はずっと戻ったアフリカ大陸の1点を、トンッと太い指で指した。

「ココッ!バナディーヤには、“レセップス”がいるんだぜ!」

一瞬の沈黙の後、ムウがヘラっとごまかし笑いをした。

「あ……、『頑張って抜けて』つて、そういうこと?」

マリューはサイーブの指が指し示す場所を見つめ、深い溜め息をついた。そして隣の男に手を差し出す。男は苦笑し、胸ポケットからスキットルを手に置いた。気付けとして、それをグイッと再度呷った。

 

 

 

 

 

迷彩ネットをアークエンジェルに掛け終わり、ストライクから降り立ったキラに、あの少女が近づいてきた。カガリとか言ったか。

「さっきは悪かったな。」

彼女はキラを上目遣いに睨みつけるようにして、ボソッと言った。

「殴るつもりはなかった……」と言いかけ、自分でも途中で気づいて「………わけでもないが、あれははずみだ。許せ。」

気まず目に締めくくるが、その態度はまるで謝っているように見えない。キラは思わず吹き出すと、心外そうに睨みつける。

「何がおかしい!」

「何がって………。」

彼女は自分のおかしさにまったく自覚していないようだ。真面目な性格なのだろう。それだけに自分が笑われるのが我慢できない。だが怒ったところも、まるで小動物のような可愛らしさがある少女だ。

カガリはすぐに怒りを引っ込め、目をそらした。

「……ずっと気になっていた。あのあと、お前はどうしたんだろうと………。」

相変わらず、怒ったようなぶっきらぼうさで言う。それは気不味さを隠すためのものだとキラは気付いた。

ヘリオポリスでキラは、満員と言われたシェルターに「せめて一人だけでも」とカガリを押し込んだ。自分はコーディネイターだし、相手は女の子だし、と考えたのだが、彼女はキラのことなんて知らない。もし身も知らぬ人間が自分だけ助けて、その後のコロニー崩壊に巻き込まれていたら―――と、我が身に置き換えて考えると、カガリの気持ちは分かった。

「………ごめん。」

キラは思わず謝罪の言葉を口にしたが、よく考えると謝るのも妙だ。だが、カガリは居丈高にその言葉を受け入れた。

「そうだ。二度とあんな事をしてみろ。許さないからな。」

苦笑して俯いた、多分同じ状況になれば自分はまた同じ事をするだろうと思ったからだ。

そんなキラをよそに、彼女は更に怒った口調になった。

「で―――そのお前が、なんでこんなものに乗って現れる?おまけに今は地球軍か!」

彼女に咎められる筋合いではないが、何となく怒られて当然、という気がして、キラは俯いた。

本当に、なぜこんなことになってしまったのだろう………。

でも自分にはこうするしかなかったのだ。たぶん、次もカガリにシェルターの席を譲ってしまうだろう、というのと同じ心理で。

「色々あったんだよ………。」

キラは低く言った。その脳裏を、仲間たちの顔が、アスランの悲痛な叫びが、少女に手渡された紙の花が、そして、燃え爆発したシャトルが、一瞬のうちに駆け抜ける。

「………いろいろ、ね。」

彼の疲れた声に何かを聞きつけたのか、カガリはそれ以上追及せず、だが探るような目で彼を見つめる。そういう気がかりそうな表情をしていると、急に女の子らしく見えた。

「そういえば―――きみこそ、なんでこんなところにいるんだ?」

ふとキラは思い出してたずねた。

「オーブの子じゃなかったの?それとももともとこっちの方の人だったわけ?」

「えっ!?……えー……」

カガリが困ったような顔でそっぽを向いた時に「カガリ。」と呼ぶ声が聞こえた。そこで2人の会話が終わった。

 

 

 

 

夕食を終え、食後のコーヒーを飲みながら今後の補給を話し合っていると横に座った男が眠りこけてしまった。木箱に座った私の太ももを枕に静かに寝息を立てている。

まだ20歳と聞いたがこういう姿は幼く見えるのね。そう思い、彼の黒髪をクシャリと撫でる。その姿をナタルやサイーブが少し驚いて見ていたが、私が苦笑し、少し静かにしましょうと手振りをすると皆が頷いた。

1時間もしない内に、彼がバッと目を開け、顔を起こした。そして周囲に鋭い視線をやる。

すると鋭い笛の音がキャンプ中に響いた。

どうやら警報の意味らしく、サイーブが周囲に何が起こったか怒鳴るように聞いている。

「どうした!?」

見張り台にいた少年が、まだ高い声で叫び返す。

「空が……空が燃えてるっ!」

皆がハッと息をのむ。

「タッシルの方向だ!」

その声にサイーブは無線に向かい、レジスタンスはいつでも動けるように諸々の準備に動き出した。

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