モブウマ娘がハンドラー・ウォルターのところへ来る話【第二部完結】   作:合間理保

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二部 第6話

 夢を見ていた。

 

 私は鉄の塊のコアだった。物言わぬ巨人を動かすための核。私によってそれは手足のように動いた。私の手足はまるで動かないというのに。

 

 そばにはウォルターがいた。彼の指示に従い戦った。彼にはなにか仕事があり、それを果たすために私を使っているようだった。

 

 私は戦う。わけも分からぬまま。

 

 道すがら、友人ができた。私にだけに声を飛ばしてくるその友人は、いろいろと私を手伝ってくれた。

 

 やがて私は捕まった。捕まった私にウォルターは真意を告げた。

 増殖する危険な物質。いずれ来る破綻。そしてそれを回避する計画。

 

 ウォルターは私を自由にした。囚われの身となった私に手足を与え、そして檻を破壊した。

 

 逃げ出した先にウォルターはいなかった。

 私はどこへ行けば良いのだろう。

 私の首には、持ち主のいないリードが繋がれているのみだった。

 

 そこで気づく。私はわけも分からぬまま戦っていた。

 けれど、いつからか私はウォルターのために戦っていたのだ。

 

 ウォルターは言った。

 全てに火をつけろ、と。

 

 けれど、それは友人ごと星を燃やすことにほかならない。

 

 だから私は、だけど私は、

 

 

 ◆

 

 

 目が覚めると、知らない天井が目に入ってきた。

 ええと、と記憶を掘り起こす。なにか変な、SFじみた夢をみていた。その夢の記憶は残っているが、結局話の結末は分からずじまいだった。

 いや、夢のことはいい。私はレースをしていたはずだ。それで倒れたのだった。

 

 ちらりと顔だけ横を向ける。

 

 ベッドのそばにはウォルターがいた。彼はなにかファイルに目を通している。

 やがて彼はファイルを閉じた。

 

「大丈夫だ。コーラルの痕跡はない。当たり前だ」

 

 呟かれたその言葉の意味は分からなかったが、苦しそうに吐かれる息が気になった。

 

「ウォルター」

 

 呼びかけた声は思った以上に掠れていて、彼に届いたか不安になった。それでも、ウォルターはこちらに気づいた。

 

「起きたか、621」

 

 彼はベッドの脇の簡素な椅子に腰かけた。ペットボトルの水を渡してくる。蓋を開け、口を湿らすように水を飲んだ。

 私の意識がしっかりしていることを確認したウォルターが、ファイルを胸の前でひらひらと揺らす。

 

「レース後に倒れたのは覚えているな。倒れている間に検査したが問題はなかった。以前に行なった検査でも健康体そのものだ」

 

 彼は眉をひそめる。そして端的に聞く。

 

「何があった?」

 

「いや、ええと。レースが終わったあと、体が熱くなって、幻聴が聞こえてきて……」

 

「なにかうわ言をつぶやいていたな。覚えているか」

 

「実はあんまり……。なにか変なことを言ってましたか?」

 

「……」

 

 ウォルターは黙りこんだ。腕を組んで指先で腕をとんとんと叩いた。なにか考えこんでいるようだ。

 

「いや、ならばいい。検査でも何も出なかった。俺の杞憂だろう」

 

「あの、ウォルター……」

 

 起きてからずっと不安に思っていたことをおずおずと切り出す。

 

「走れますからね、私は」

 

「……まずは休め。それが今すべきことだ」

 

「走りますからね、私は」

 

 諦めたようにウォルターは息を吐いた。

 

 

 ◆

 

 

 私は無事に退院できた。次に向けてのトレーニングを行う。

 そう、次だ。私には次がある。

 倒れた理由はレース後の疲労によるもの、ということで決着がついた。

 幻聴のほうは相変わらず原因不明だ。けれど、それは危惧されるような問題がなかったということで、前向きに捉えてほしいとのことだった。

 

 すぐに次のレースを、と逸る私に、ウォルターは顔をしかめて、じっくり調整しながら次を狙うと答えた。

 

 それで、ひとりロングランに臨んでいるのだが、どうにも落ち着かない。

 なんと言えばいいのだろう。体がふわふわするような気持ちがある。視界と体が直結しないとでも言うべきか、実際に今見えている世界と、体の感覚がリンクしない。

 

 ゆっくりと足を止めて眉間を揉む。

 やはり倒れた影響が出ているのだろうか。

 

 いや、弱気になるな。ちょっと調子が悪いだけだ、と気を取り直す。

 再度走り出すと、いつもの耳鳴りが聞こえてきた。

 ほら、いつも通りだ何も問題はない、とこめかみを叩いた。

 

 

 ◆

 

 

 結局調子が戻らないまま次のレースを迎えた。ウォルターには黙っているが、このレースで何かあったらいよいよ不調を告げたほうがいいかもしれない。

 

 気をつけろ、と言われ送り出された。私はこくりとうなずいてゲートへ向かった。

 

 ゲートに着くと幻聴が聞こえてくる。集中させろとこめかみを叩く。

 

 息を整えスタートを待つ。ゲートが開いた。

 

 スタートはうまく行かず、いつも通りの集団中央だ。

 やはり感覚の不調は続いており、どうも体が落ち着かない。視界がふわふわとしている。

 周囲の様子はどうだ、と辺りに視線をやったところで、幻聴が聞こえてきた。なにごとか語りかけてくる。

 

 すると、視(・)界(・)が(・)飛(・)ん(・)だ(・)。

 

「え?」

 

 思わず息が漏れる。戸惑った自分の動きが背中から伝わった。

 それで、なんとなく認識できた。

 

 私は今、私(・)の(・)こ(・)と(・)を(・)背(・)後(・)か(・)ら(・)見(・)て(・)い(・)る(・)。

 

 まるで車の全周囲モニターのように、私は自分の姿を収めた視界で走っている。

 困惑するが、しかしそれ以上に何故かしっくりくる感覚があった。

 なぜだろう。この視点を私は知っていた。

 

「そうか」

 

 つぶやく。この視点は夢で見た鉄の巨人を操っていた時のものだ。あれと同じだ。

 どうしてこんな事が起きたのかは分からない。倒れた影響だろうか、あるいはあの夢の中で身につけたとでも言うのだろうか。

 

 何故かなどどうでもいい。大事なことは私が新たな視点を手に入れたということだった。

 

 自身に何が起こったのかが分かると、とたん自分の体が動かしやすくなった。そして辺りの状況もよりつぶさに観察できる。

 今まで振り返ったりしなくてはならなかった背後の状況や、真横のウマ娘の状況がより簡単に把握できる。

 

 先程まであった視界が浮く感覚。その原因はこれだ。視野が体を飛び出そうとしていたのだ。

 

 視界がひとつ広がったようだった。集団のわずかな隙間が見つけやすい。

 そして、私の得意である周囲のウマ娘の状態把握がよりしやすくなった。

 

 そしてそれは新たな力を私にもたらした。

 

 後方のウマ娘、私に合わせてペースを作ろうとしている。

 それをかき乱すように、細かいステップでリズムを狂わせる。とたんに彼女はペースを掴めず走りにくそうになった。後方集団はそれに付き合わされて全体的にペースが乱れる。

 

 前方のウマ娘は仕掛けるタイミングをうかがい、じれったそうにしている。後ろから小突くように足音を激しく立てれば、彼女は慌ててペースを上げた。

 玉突きのように逃げウマ娘が追い立てられる。

 前方はかなり早いタイミングでスパートをかける形になった。

 

 集団が分断される。

 

 いや違う。私が、集団を乱した。

 視界の変化で周囲の状況を観察しやすくなり、そしてその結果、把握するだけではなく、積極的に周囲をコントロールできるようになった。

 

 私が、レースを支配している。

 

 にやりと笑い、ここだというタイミングで仕掛ける。

 

 ペースを乱されていた後方は付いてこれない。

 すぐに前方集団に追いつく。ハイペースで走らされていた彼女らは、私に対応できない。

 

 あっという間に追い抜いた。

 

 あとは独走だ。残りを私はひとりでひたすら走る。陰を踏ませる余地すら与えなかった。ゴールを駆け抜けると歓声が上がった。

 

 中央に来て、こんな歓声を浴びることは初めてだった。

 そうだ、これが一着の景色だった。長らく忘れていた。

 私は両手を広げ歓声に応えた。

 

 私は何かひとつ殻を突き破ったのだ。イレギュラー。その領域に足を踏み入れたことを感じる。

 

 私こそ、時代を表すイレギュラーのひとりだ。

 広げていた両手の拳を握りしめた。




たしかV系の設定でACの操縦者はコックピットのモニターでプレイヤーと同じ画面を見ているみたいな設定ありましたよね…?(うろ覚え)
そんな感じ
6だとコックピットの視点ってどうなんでしょうね?なんか言及ありましたっけ?
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