ハルのウララの 2XXX海の向こうの甲子園   作:コンスタンチノープル

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 通院があったり、精神的にくることがあって執筆が停滞しております。

 特に精神的にくることは解消しておりません。


第12話

 近くのコンビニで軽食と飲み物を買い、そこのイートインスペースで飲食するウララと片貝。片貝のほうから話を切り出す。

 

「ハルウララ先生が高実で高校野球に携わられているのはニュースで知りました」

 

「ありがとうございます」

 

「それで、人から聞いた話ですが、甲子園を目指されるようですね?」

 

 ウララがただ出るのではなく甲子園で優勝を目指すというと片貝は少し考え込んだ表情を見せた。

 

「成程……それで……」

 

「えっと、片貝先生?」

 

「いえ、それで、吹本先生が本腰を入れて指導なされると聞きましたのでな」

 

 その言葉にウララもわたしも吹本先生も本気です。と元気よく答えると、片貝は何度か頷いて答えるのであった。

 

「吹本先生が戦場(いくさば)に帰ってくるというのは。教え子の一人として嬉しく、対戦できることを心待ちにしたいと思います」

 

「片貝先生は吹本先生の生徒だったんですか!?」

 

「ええ、ですが今の時代に帰ってくることを同時に心配にも思います」

 

 ウララにとってそれがどうして心配なことなのか理解することができなかった。

 

「吹本先生は、あまりご自身のことを話される方ではないですから、ハルウララ先生は昔のことはご存知ないでしょう」

 

「むかしの吹本先生のことですか!? すごいきになります!」

 

 片貝は、吹本本人が話していないであろうこと自分の口から話すべきかとも最初考えていたのだがウララには話しておくべきであろうと思ったし、ウララもしつこくせがんだため話すことにした。

 

(わたくし)は中学の時は結構腕に覚え在りのピッチャーだったんですがね、中学3年の頃には肘を悪くして高校に入った時にはもうピッチャーとしては限界でした。そこで当時監督だった吹本先生の下でバッターに転向したんです。それからはもう練習も試合も死に物狂い。お陰で甲子園に何度も連れて行ってもらい、そこで活躍もさせてもらいました」

 

「へぇ~、そうだったんですね」

 

 当人は軽く言っているが、この片貝耀冶こそ現在でも甲子園大会におけるヒットと打率の記録を多数保持し、「甲子園の申し子」と謳われた好打者である。

 

「守備が不味かったのでプロには行けませんでしたが、北九州の社会人野球チームで長く選手をさせてもらいました。それもこれも、吹本先生のお陰だと思っております……だからこそ、不安が募るんです」

 

 社会人野球でも片貝は活躍を続け、「ミスター社会人野球」の称号を戴冠されていた。

 

「どうしてですか? 本気になるのはわるいことじゃないですよね?」

 

 片貝が不安だと指摘するのは自身が吹本の指導を受けた時から20年以上の月日が経過しているということであった。

 

(わたくし)の高校生だった頃は、もう指導者が頭ごなしに『やれ』と強制することや、上級生と下級生の間に理不尽な上下関係があったり、厳しいルールを作ってそれに絶対服従させることが目だと言われ始めだした時期です。そんな中で吹本先生は厳しい猛練習で選手たちを鍛え上げていた、その最後の時代の指導者と言っていいでしょう」

 

 ウララは普段の吹本の老紳士のような様子からは片貝が云うかつて鬼監督であったという姿はとても想像できなかった。確かに夏の大会の試合中にみせた冷淡な言葉遣いには真夏日の最中(さなか)でも悪寒が走ったし敗退後、甲子園優勝を目指し本気で指導に当たっている姿には厳しさも端々に感じてはいたが理不尽さやスパルタなものは感じなかった。

 

「で、でも……1番になりたいんならちょっとぐらいはきびしいものだと思いますし、わたしも走っていたときは1着になりたりってつらいトレーニングもすこしやりましたし……」

 

「それはハルウララ先生の仰る通りです。全く厳しくせず、マナーも教えず、最低限の正しいルールも憶えさせずになんでも好き勝手にさせたら生徒は堕落した世間知らずのならず者になってしまいます。(わたくし)だって節度を持った厳しさで指導に当たっているつもりです。ですが今の時代、少し厳しくしただけで不適切な指導だと言われてしまうようになりましたから、我々教育者も言葉や行動の一つ一つに責任を持たなければならなくなっているんです」

 

 それはウララも多少なりとも分かっているつもりである。レースで走っていた頃、担当ウマ娘と反りが合わずにその険悪な関係が問題となったトレーナーが1人2人ではなかったことは、教師を目指したいと思い始めた時に他のウマ娘やトレーナーたちから少し聞いていた。

 

「それならだいじょーぶです! 生徒たちも、吹本先生も、わたしも、ちゃんとみんな『甲子園で優勝するんだ』ってもくひょうにむかっていっしょにがんばっていますから!」

 

「一つの目標を共有し、それを達成するために団結することは甲子園優勝を目指す上では欠かせないことです。しかしそれは同時に危険も併せ持っているんです。例えるんなら、みんなが同じほうを向いていて、気づかないところに落とし穴があって落ちてしまっては大変でしょう?」

 

「そ、そんな……グラウンドに落とし穴がほってあるなんて……このまえの試合のとき、だれも落ちなくてよかった」

 

「い、いえあくまでも例えなので……」

 

 片貝も分かり易くするための例えだと言ったのだがまさか本当に球場に落とし穴が掘られているとウララが解釈するとは思わず、ただただ困惑する。

 

「えっとですから、みんなが同じことをしていたり、考えたりするだけではなく、『変だ』とか『間違っているんじゃないか』となった時に、吹本先生やハルウララ先生であってもちゃんとそう言い合える環境や空気を作らなければならないのが今の教育というものです」

 

「あ、そうですね。まちがってたらちゃんと『ダメだよ』っていってあげないとタイヘンなことになっちゃうし、わたしたちだってまちがえることはありますもんね」

 

 ウマ娘であっても人間であっても自分が間違っていると指摘されることはいい気がしない。しかしウララはそもそも教師を目指したキッカケが座学で赤点が多かった自分に教師が根気強く付き合ってくれたことに起因するもので、いい意味で間違っていると言われ慣れており、自分が間違っていると指摘されても反抗することは少なく、まずは相手の言う事を聞くウマ娘に成長したのである。

 

「ハルウララ先生は今年から教師になられたばかりとのことですからしばらくの間は意見を言っても『若輩風情が生意気だ。黙っていろ』と聞き入れてもらえないことも多いでしょう。それでも自分の意見を通せとは言いません。時に相手の意見を尊重することをしなければ『ワガママな奴だ』と余計自分の意見が取り上げてもらえなくなるでしょう」

 

「わかりました!」

 

「ですが功董も、そう簡単に甲子園を譲るつもりはないです。吹本先生にもそうお伝えください」

 

 ウララがハキとそれに応え2人はそれぞれの学校に戻っていった。高実に戻ると、吹本を見つけたウララは早速片貝とのことを話した。吹本は意気込みを新たにというより、厄介なのに目をつけられたと面倒そうな表情を浮かべるのであった。


 9月に入り新学期が始まった。野球部は8月に開催された新人戦は吹本の方針変わらず不参加であった。新学期が始まり、ウララは早速行動を起こした。

 

「こんばんわ~!」

 

 定時制の授業と授業の間の休憩時間に突撃した。野球部の新たな部員集めである。

 

「昼間は働いているんで厳しいですね」

 

「俺も……」

 

「あうぅ……」

 

 野球経のある生徒もいたが、吹本が考えていた通り日中は働いている生徒が殆どで、いい返事をくれる生徒は中々現れない。そんな中、仮眠をとる一人の生徒のカバンに目が留まる。

 

「あ、野球の……」

 

 それは、ひどくくたびれていたが野球のボールをかたどったお守りであった。

 

 ウララは声を掛けようとしたが寝ているからと周りから止められたため出直すことにした。

 

 下校時間を見計らい、今度こそとばかりに声をかけた。

 

「野球部ですか……」

 

「うん! そのおまもりをみて、野球好きなんじゃないかと思ってね」

 

 その生徒は困った表情で答える。

 

「明るいうちは、バイト掛け持ちしてて……」

 

「あうぅ……やっぱり、ダメかな?」

 

「しーちゃん? どうしたの?」

 

 少し大人びた女性が2人に声をかけてきた。

 

「姉ちゃん。遠回りになるんだからわざわざ迎えに来なくていいって……」

 

「お姉さんですか!? はじめまして!」

 

「あれ? もしかして、ハルウララさんですか?」

 

 どうやらその生徒の姉らしい。さすがは高知ということもあり、ウララのことも知っているようである。

 

「はい! ハルウララです! 今は高実(ここ)で先生をしています! えーっと……そういえば名前きいてなかったね」

 

「やだもうしーちゃんったら。すいません、こいつは市居(いちい)紫電(しでん)。私は姉の(れい)といいます」

 

「カッコいい名前だね!」

 

「親が軍事オタクで、戦闘機の名前から採ったみたいです」

 

 大日本帝国海軍の紫電改と零式艦上戦闘機がその由来である。

 

「すいません、こいつ何かしましたか?」

 

「いえいえ! 違うんです、野球ボールのおまもりをもってたから野球部にさそおうとしていたんです」

 

「大丈夫だから、今断ろうとしてるとこ」

 

「ええっ!?」

 

 紫電から断るつもりだと言われ、ウララはいた。

 

「う~ん……先生、今から(うち)に来ませんか?」

 

「え? いいんですか!? あ、でも……」

 

 ウララはそう簡単に生徒の家に、しかも夜に行くのはさすがに問題だと思った。

 

「心配されないでください。家庭訪問ということにすれば問題ないと思いますよ」

 

「そうですか? それなら……」

 

 ウララは2人の家に行くことにするのであった。家までは車で運転は零、普段は紫電が助手席とのことだが今回はウララが助手席で彼は後部座席に押し込められた。

 

 その車中、寝ている紫電を横目に零がウララに話した。

 

「ウチに来ても、かないでくださいね?」

 

「ふぇっ!? な、なんででしょ……う……か?」

 

 ウララも寝てしまうのであった。ウララが次に起こされたのは2人の家の前であった。家に入れてもらうと、そこには予想外の人物が待ち構えているのであった。

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