ハルのウララの 2XXX海の向こうの甲子園 作:コンスタンチノープル
「あ、校長先生! 見てください! 野球部に新入生が12人入ってきてくれました!」
「12人じゃないですよ」
今年度から高実の校長に赴任してきた
「え?」
「この子たちも野球部に入りたいと」
「えーっ!? ほ、ほんとですか!?」
「そっちの子たちは、交換留学生の子ですね」
この南部の人脈などで公立であるが高実に台湾から交換留学生がやってきたのである。彼らが新1年生の担任となった吹本のクラスに編入されたので彼らのことを把握していたのである。
「そっちの女の娘もこーかんりゅーがくせいですか?」
「あいえ、私はマネージャー志望です」
1人女子生徒もいる。欧米系の白人だったためウララは彼女も交換留学生の1人だと思った。容姿端麗な顔立ちに外国人の中に入っても目を引くほどの長身に加え、特別セクシーでグラマラスな所謂美ボディは到底高校生とは思えない妖艶さを漂わせている。間違いなくスクールカーストの最上位、姫やクイーンビーと言われる存在になっていくであろう彼女のことを、部員の中には以前から知っているような素振りをしている者もいる。
「
「シチーさんと知り合いなの?」
「この娘モデルですよ」
宇多田の話によると、その美貌を活かしてモデルとして活動しているフィリップスは今の日本国内でモデルとしてという意味合いでゴールドシチーと張り合える同年代はウマ娘と人間を合わせても彼女ぐらいしかいないと言われていて、ライバル関係としてシチーとの共演経験も多数あるとのこと。
「キツいことは言われたことありますけどそんな世間が言うようなバチバチギスギスな関係じゃないですよ。でも言い触らさないでくださいね」
「え!? でも、ケンカしてないんなら『ケンカしてないよ』って言ったほうがいいんじゃないの?」
「ソッチのほうが雑誌とかがよく売れたり、他にもお互いにとって都合良いことが多いんです。それに、ライバルなのは合ってますから」
業界の事情はウララにはよく分からないが、互いが競い高めあいながら高みを目指す関係だということは伝わったようでウララは納得した。
「確かにウララ先生のことよく聞いているんならそうかも。でもゴールドシチーとウララ先生って接点なさそうな感じだけど?」
「実際の接点はあまりなかったみたいですけど、シチーさんにはハルウララ先生に対して思うところがあったみたいですよ? あ、別に悪い意味じゃなさそうでした」
「あ、わたしのことはウララでいいからね?」
自身について、その見目麗しい美貌のことが先行して言われることを酷く嫌がり、レースでの実力はレースでの実力として評価されることを強く望んでいるゴールドシチーというウマ娘にとって、レースで負けるたびに人気を博し、勝てないことで評価が上がり、負けることを望まれてさえいたとまでいわれるハルウララには、正確にはウララを取り巻いた周囲の環境には苦々しい想いがあり、ウララの1勝という悲願を他のウマ娘たちと同様に知っていたシチーにとって、その1勝を終ぞ手にすることなくレースの舞台をウララが去った時には、悲痛な思いが頭をよぎっていたのであった。
「でもどうして野球部のマネージャーになろうと?」
「小さい頃からよく観ていて、高校に入ったら野球部のマネージャーをやってみたかったんです。元々
瑛北義塾や功董学館のように、毎夏毎秋甲子園優勝を目標に戦う県下の名門校にとっては、入学以前からモデル活動で広く世間にその名前が知られているフィリップスがマネージャーとして入部してくると色々とやり辛いので事前に断られてしまったのであったという。
「そうなんだ。じゃあこれからよろしくね、フィリップスさん」
「ウララ先生がウララでいいって言うんならアタシのこともレイチェルって呼んでください。皆さんもお願いします」
こうして新たに女子マネージャーが加わることとなった。
「じゃあ次は……」
「ならボクから。台湾から来ました、
「僕の名前は
「俺の名前は
「メイショウ? もしかしてドトウちゃんのしんせき!?」
「メイショウドトウさんとは関係ないです」
そもそも中国語の日本語読みは正式なものではなく胡本人が母国台湾ではミンジエと発音するのが正式であると言っているので親類縁者ではない。
「吹本先生。私は教員にさえなったばかりの新参者の校長ですが、甲子園で優勝したいという野球部の目標は応援していますからね」
「生徒たちに重圧をかけるような真似はしたくないですが。何より彼ら自身が大海原の荒波を渡ろうとしているわけですから、枷にならないよう尽力させてもらいます」
「じゃあ1年は体力作りのために走り込み……なんて悠長なこと、2年と3年が合わせて5人しかいない
有賀の問いに驚くべき反応が返ってきた。
「え!? こんなにいんの?」
ピッチャーですと元気よく自己紹介した五十風をはじめ、手を挙げたのはなんと15人の選手中11人もいたのである。希望しなかったあとの4人は藤、舘、加納、高海であった。
「そうか、そうきたか……」
「監督。どうしましょう?」
「予定を変更しよう。2、3年生で野手がメインなのは2人だから、ピッチャー以外でそれぞれ経験のあるポジションに割り振らせてもらう。みんな上手い下手や自信の有る無しは問わないからそれぞれやったことのあるポジションを言ってくれ。レイチェル。悪いがノートかメモか何か書くものに記録しておいてくれ」
「そんなこと言われても今は持っていないんでスマホでいいですか?」
吹本が構わないと言ったので1年生たちがそれぞれ経験のあるポジションを言っていき、フィリップスが記録したものを簡易的にまとめたものが以下の通りである。
| ポジション | 選手名 | 選手名*1 | ||||||||
| キャッチャー | 宇多田 | 沈 | 羽鳥 | 藤 | ||||||
| ファースト | 浅香 | 宇多田 | 加納 | 北沢 | 胡 | 蔣 | 沈 | 高海 | 天童 | 羽鳥 |
| セカンド | 浅香 | 碓井 | 加納 | 高海 | 天童 | 羽鳥 | ||||
| サード | 浅香 | 碓井 | 加納 | 蔣 | 沈 | 高海 | 天童 | 羽鳥 | 舘 | |
| ショート | 碓井 | 蔣 | 高海 | |||||||
| レフト | 浅香 | 加納 | 蔣 | 沈 | 高海 | 天童 | 羽鳥 | 舘 | ||
| センター | 浅香 | 碓井 | 宇多田 | 加納 | 蔣 | 沈 | 高海 | 舘 | ||
| ライト | 浅香 | 宇多田 | 加納 | 北沢 | 蔣 | 沈 | 高海 | 天童 | 羽鳥 | 舘 |
表に名前がない五十風と岸井はピッチャー以外の経験はなく、藤もキャッチャー一筋とのことである。胡もピッチャーの他にはファーストぐらいしか経験がないそうで、他も1、2回やった程度のポジションも言ってもらったのでほぼ未知数のポジションもあるとのことなのでひとまず基本的な動きを見るために内野、外野の順に一箇所に集めてノックということとなった。
ここで目立つ動きをしたのは浅香、碓井、蔣、高海、天童、舘の6人。動きが軽やかで全体的にいい意味で力みのない身体の運びを見せた。それぞれポジションに分かれてノックをしてみると、碓井・高海の二遊間と舘のセンターは中々のレベルにあると判断された。碓井と高海はともにセカンドとショートの両方をやれるが碓井はセカンドの経験値が低く、反面ショートとしての運動能力に長けていること。高海はセカンド、ショート両方とも上手くこなせるが特にセカンドで堅実な守備力があるのでセカンド高海、ショート碓井で今度の練習試合に起用してみようということとなった。
「うーん……ねえ、滝山くん。新入生のみんなってすごいの?」
「まだ守備しか視てないですけど上手いと思いますよ。中学と高校じゃ打球の速さなんかの質が違うんでいきなり厳しいノックはしていないみたいですから、去年助っ人に来てくれた庄埜君みたいな派手で目立つプレーはないですけどみんな中々の動きをしていますね」
野球において、殊に守備というのは評価が難しいのである。守備に関する記録は色々あるのだが、数字上の成績が良くてもその選手の実力に直結するわけではないからである。また9つのポジションそれぞれに特性があり、一律に評価できる記録が少ない。メジャーリーグにそういった評価項目がないことはないのだが、多くの試合に出場して得られる膨大なデータを基にした統計学的見地に由来するものであるため、公式戦が一発勝負のトーナメント方式である日本の高校野球に用いることは適さないといっても過言ではない。
「うん。守備はこれでいいだろう。次はピッチングを視る。ピッチャー希望者と藤も来てくれ。加納たち野手希望の3人もこの後バッティングもやる予定だから目慣らしのつもりで来て。2年たちも、末松と市居は投げる準備しといて」
唯一の3年となり必然的に主将となった有賀の音頭で次の準備が始まる。
「ウララ先生も見られますか?」
「もちろん!」
吹本の問いに元気よくハキと応え、ウララもその様子を見守るのであった。
台湾からの交換留学生たちはあくまでも野球留学生ではなく語学留学や文化交流が名目の交換留学生です。