ハルのウララの 2XXX海の向こうの甲子園   作:コンスタンチノープル

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 ウマ娘のその後でもあんまり現実味のなさそうな未来を書いてみたかったのです。


プロローグ

「生徒会のみなさん。今までありがとうございました」

 

 生徒会から呼び出しを受けたハルウララ。生徒会室に招き入れられると役員たちに挨拶をした。

 

「よくきてくれた。エアグルーヴ、ブライアン悪いが二人は席を外してくれないか? 彼女と一対一で話したい」

 

「会長? 分かりました。行こうブライアン」

 

 一旦退室するエアグルーヴとナリタブライアン。ハルウララは取り残されて若干涙目、耳も後ろに向けて絞れている。

 

「さて、ハルウララ。学園を去る決意をしたそうだが、悔いはないのか?」

 

「悔い……」

 

 ウララは少し回答に困っている。

 

「君はほかのウマ娘たちと同じようにレースでの1勝を目指し勤倹力行の日々を送ってきた。だが……」

 

「き、きん……きん?」

 

「勤倹力行、仕事に励みつつましく、精一杯努力することだ」

 

 シンボリルドルフは次の言葉を面と向かって言うのを躊躇っていたが意を決し口にすることにした。

 

「君はほかのウマ娘たちのように才能に恵まれていたわけではない。だがそういうウマ娘は君だけに限った話ではない。自分の力の及ばなさを痛感し、1勝の壁に跳ね返されつづけ、失意のままトレセン学園(ここ)去っていったウマ娘は数えきれないほどいる。しかし君はどれだけ1勝が遠くとも、へこたれず常に笑顔で一生懸命に走り続けてきた。ハルウララ。君の走る源は一体何なんだ?」

 

「ウララの……走る、源……」

 

 ウララは自分が答えていいのかと戸惑いながら言葉を振り絞った。

 

「ウララは、走るのが楽しいから、大好きだから、もっとワクワクしたくて、だから1着になりたくて……だから走ってました」

 

「そうか……なあ、君はトレセン学園(ここ)を辞めてこの先どうするつもりなんだ?」

 

 ウララはルドルフの目を見据えて答えた。

 

「ウララ、1着になるのと同じくらい、なりたいものができたんです」

 

「ほう、一体何になりたいんだ?」

 

 彼女の「なりたいもの」単純な興味だけでルドルフは聞いたわけではない。

 

「先生に……学校の先生になりたいんです」

 

 その夢はルドルフにとって予想外のものであった。

 

「教師か……だがハルウララ、君は座学が苦手だと聞くが?」

 

「はい、ウララ……わたし、お勉強は苦手です。でも、先生たちはわたしがどんなに授業で指された時に答えられなくても、テストで間違えてばかりでも、見捨てないでずっと『大丈夫だよ』って『ウララならできるようになるよ』って応援してくれて、忙しくてもわたしのお勉強をみてくれて、赤点ばっかりだったのが赤点じゃなくなったんです。それで、わたしもそんな先生になってみたいなって、思うようになったんです」

 

 ウララの教師という新たな夢、憧れやただのカッコ良さだけで志したものではないことにルドルフは感心した。

 

「そうか、君の志は立派だと思う。だがハルウララ、教師になるのは1勝を挙げるよりも難しい目標かもしれないぞ?」

 

「わたし、いっしょうけんめいがんばります! どんなにつらくてもあきらめません! がんばって先生になります! 先生になって、みんなでいっしょに笑いたいんです!」

 

「みんなで一緒に笑いたい」それは、「全てのウマ娘が幸せに暮らせる世を」というルドルフの願いと相通じるものがあった。

 

「ハルウララ。どうやら君の意志は鉄心石腸のようだな。君が良い教師になることを一日千秋の思いで待つとしよう」

 

 ウララはまたルドルフの口にした四字熟語の意味が理解でいなかったが「君が良い先生になることを心待ちにしている。という意味だ」と言われ「ありがとうございますカイチョーさん」とお礼の言葉を口にし、一礼してから生徒会室をあとにした。

 

 生徒会室をウララがあとにするのを見計らい、エアグルーヴとブライアンが部屋に戻る。

 

「ルドルフ、一体彼女と何を話してたんだ?」

 

「辞めていくウマ娘を呼び止めるのはご法度では?」

 

「二人とも、私は生徒会長失格かもしれない」

 

 ルドルフの思わぬ一言に動揺する二人。

 

「会長、一体どうしたというんですか?」

 

「私はハルウララというウマ娘について当初、勝ち負けが二の次で勝利への欲求や競争意識の本能が薄く、ウマ娘としては異質であまり中央にいるには相応しい存在ではないと思っていた」

 

「確かに、どことなく彼女は抜けたところがありますが……」

 

 椅子から立ち、二人に背を向け、窓の外のウマ娘たちに目を移しながら彼女は言葉を続けた。

 

「だが彼女にも勝負を楽しみたいが故に抱く勝利への執念や諦めない心があり、それがどれだけ勝てずとも、どんな順位であろうとも、決して挫けず常に笑顔を絶やさず一生懸命に走り続ける彼女の姿は、どれほど多くのウマ娘たちに活力を分け与え押し上げてきたことだと思った」

 

「“皇帝”?」

 

 二人に向き直るルドルフは更に言葉を続ける。

 

「私は、彼女に辞めても何らかの形で中央(ここ)に残ってくれないかと言おうと思ってここに呼んだんだ」

 

「会長……目ですよ」

 

 彼女は静かに頷いてから答えた。

 

「分かっている。それがここまで走り続けてきたことに対する彼女への侮辱以外の何物でもないということ……しかし、彼女なら残ってくれるのではという思いがあったのも事実。しかし言えなかった、あれほどまでに辞めた後の夢への決意を口にする彼女を引き留めようとするのは野暮だ」

 

「“皇帝”、よく言わなかったな。全ウマ娘の代表であるアンタが、ここで過度な贔屓をしたらほかのウマ娘たちに示しがつかねぇ」

 

 普段「テイオーに甘すぎる」とツッコまれるほどトウカイテイオーにはとことん甘いルドルフであるが、それでも締めるべきところはちゃんと締めている。時に非情ともいえる決断をしなければならなかったことも数えきれない。

 

「彼女の夢とは?」

 

 ウララの教師という夢は二人にとっても意外なものであった。

 

「確かに、彼女なら良い教師になってくれるかもしれませんね」

 

「でもそりゃ教師になれたらの話だろ? 正直言って私はあのハルウララが教師になるイメージさえ浮かばないんだが」

 

「ハルウララの教師への思いを語り、一生懸命頑張ると言った姿は、決戦を前にしたウマ娘の姿そのものだった。別に道に対してそこまでの決断をした彼女を、応援したくなってな」

 

 願わくば、教師になれた暁には再びトレセン学園に戻ってきてほしい。三人はそう思うのと同時に、自分が教師となったハルウララの授業を生徒として受ける姿はどうも想像することが出来なかった。

 

 ―翌朝 栗東寮の一室―

 

 キングヘイローはいつもより少し遅く起床した。

 

「いけない、ちょっと遅くなって……ウララさん! 早く起き、あ……」

 

 私物が何一つなくなった部屋の片側を見て、そこに昨日までいたルームメイトがもう居ないことを改めて実感する。

 

 昼食、キングが自分を慕う二人のウマ娘と昼食をともにしようと席を探していたところ、一人のウマ娘が声をかけてきた。

 

「キングさん」

 

「ライスシャワーさん?」

 

「ライスでいいよ」

 

 キングを取り巻く二人は、ライスが彼女に何か大事な話をしたくて声をかけてきたんだというのをライスの耳から感じ取った。キングも察したがそう簡単に二人に席を外してほしいというべきかと思ったのだが、二人から席を外すといってきた。

 

 ライスとキングが丁度よく空いていた席に着くと、取り巻きの二人もライスシャワーというウマ娘に限ってそういうことはないだろうと思ったが二人が見える位置に陣取った。

 

 キングは自身がライバルと見据えるスペシャルウィークや、トレセン学園一の健啖家とも言われるオグリキャップと引けを取らない量の昼食を小柄なライスが食べることに若干のきを覚えつつも、彼女が自分に話しかけてきた理由に心当たりがあるのであった。

 

「ウララさんのこと、ですよね?」

 

「え? どうして……」

 

「ウララさんがトレセン学園(ここ)出て行って、昨日の今日のことですし、私と話している時もよくライスさんのことが話題になりましたから」

 

 キングはウララがライスのことを話すとき「ライスちゃん」と呼ぶのでウララに彼女は高等部の先輩だからちゃん付けで呼ぶのはやめるよう注意したことがある。そのため一度ウララは「ライスさん」と呼んだのだがライスが仲が悪くなったみたいで嫌だからと引き続きちゃん付けで呼ぶことになった。このことは互いにウララから聞いているので話したことはなかったが二人は互いのことを思慮あるウマ娘だと認識していた。

 

「ウララさん、ちゃんと寝坊しないで朝起きれているかしら?」

 

府中(ここ)から故郷(高知)に帰ったばかりだから疲れて寝坊しちゃってるかもね」

 

「いえ、そうでなくても寮の部屋で朝、私より先に起きていた例がないので」

 

 何かと面倒見が良いキングはウララの世話をよく焼いていて、毎朝寝坊しそうになっているウララを起こし、その後三度寝しているのではと心配するまでがセットとなっていた。

 

「でもウララちゃん、学校の先生になりたいってトレセン学園(ここ)を辞めたんだから。ウララちゃんなりに頑張っていると思うよ? ライスはウララちゃんの夢、応援してるけどキングさんは違うの?」

 

「私だって応援しています。でも心配でならないわ。ウララさん、集中力がそんなに持続するほうではないですし、勉強だってテスト前に私に泣きついてくるのは常でしたから」

 

 そんなことを言っているがキングもウララがテスト勉強で泣きついてくることを見越して頼まれてもいないのに練習問題を用意するなど本当に面倒見がよく、そういうことをどことなく嬉しそうに、そしてどこか寂しく話すキングにライスからクスりと笑みが零れるのであった。

 

「何か変なこといったかしら?」

 

「ううん。キングさん、ウララちゃんのこと大好きなんだなって」

 

 そしてそれはライスも一緒である。

 

「そんな浮いた話ではありません。できればもっとウララさんと走って、共に勝つ喜びを分かち合いたかったわ……」

 

「ライスも、ウララちゃんには助けてもらったから、今度はライスが助ける番だったんだけど……」

 

 二人とも、レースでは自分が勝ちたいのが一番であるが同時にハルウララというウマ娘にも1勝の悲願を達成してほしいと願っていた。ウララがターフを去り学校の教師になりたいという新たな道を目指しだしたことは、素直に彼女を応援したいと思うのであった。

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