ハルのウララの 2XXX海の向こうの甲子園   作:コンスタンチノープル

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 夏の甲子園の開幕日に投稿できたので決勝戦の日までに新しいのを作りたいと思っているのですがそんなに都合良くことは運ばないだろうな自分のペースで書くことを決意。

 頑張らない宣言ではないです。決勝の日に投稿が可能だったらするつもりではあります。

 好ゲームや波乱、事件などが多い今年の夏の甲子園なのでついつい試合を観て執筆や育成をサボりがちになってしまうんですよね…


第18話

「いや、そのままでいい」

 

 声の主は吹本であった。

 

「か、監督!? 良いんですか?」

 

 市居は思わず聞き返した。

 

「紫電、あの手合いは制球の事を言うと伸びなくなるタイプだ。とやかく言うのはよそう」

 

 吹本はなんとなくではあるが五十風のタイプを掴んでいた。

 

「はあ……五十風、球種何持ってる?」

 

「そんなモンありません! 俺はいつでもストレート一本です!」

 

「は?」

 

 今度こそ市居はキレた。

 

「あ、嘘ウソ! 嘘です! フォークいきます!」

 

 さすがに五十風もこの状況でこの冗談は通じないと分かった。

 

 五十風のフォークは手元で鋭く落ちる、謂わばスプリットフィンガード・ファストボールに近いボールであった。抜ける球も多く沈も捕球に苦労した。

 

 他に球種を持っていないとのことで次ということになった。

 

「次は北沢。捕手も宇多田と交代だ」

 

 身長188cmの北沢がマウンドに上がるとより大きく感じる。

 

「ストレート!」

 

 長身から投げ下ろすストレートはかなりの威力だが五十風ほどではないがコントロールにバラつきがみられた。

 

「うぉっと」

 

 低めに投じられると宇多田は捕り損ねる場面もあった。ノックの際にも宇多田はフライを何度か落球しているので課題といっていいかもしれない。

 

「変化球何ある?」

 

「縦のカーブ」

 

「へぇ」

 

 宇多田が聞くと自分のウイニングショットと同じボールを答えるので直々に見定めようと一層集中力を高める。

 

「ま、僕ほどじゃないね」

 

「でも、北沢くんのほうがへんかしているみたいな気がするよ?」

 

 ボールの精度自体は宇多田のほうが高そうだとウララも感じたのだが北沢のボールのほうが落ちているように感じた。

 

「北沢のほうが背が高いから、特に低めに投げられたボールはより変化しているように見えるんですよ」

 

 小柄な体格でも大柄な選手たちに混じって活躍することができるのが野球というスポーツである、選手のポテンシャルを身長の高い低いで判断することは大きな間違いであるが第二次性徴を終えていることが多い人間の高校以上のカテゴリの野球では身長が大きく伸びることは極稀であるため、このカテゴリまでくると高身長は生まれ持った、正に天賦の才能といってもいい。

 

「他に何投げられる?」

 

 北沢の持ち球はドロップカーブの他にフォーク、チェンジアップ、縦のスライダー……

 

「えっ!? すらいだーってへんかきゅうにもたてとよこがあるの?」

 

 地の文の腰さえ折ってきたウララに有賀が説明する。

 

「むしろカーブよりも縦の横のっていう表現をすることが多いのがスライダーですね」

 

「へぇー、そうなんだ」

 

 何はともあれ北沢の持ち球はドロップカーブ、フォーク、チェンジアップ、縦のスライダーと縦の変化が大きいもので彼の長身を活かす持ち球といっていい。

 

「じゃあ投げて」

 

 宇多田は変化球はそこまで捕り損ねることはなかった。北沢のフォークはシンカー気味に、縦のスライダーは横の変化成分もあり縦一辺倒ではなく左右横への変化も少々交えたボールであった。

 

 粗削りだが長身の利を活かしたボールで、他には特にないということなので交代となった。次に投げるのは胡である。

 

「うわっ!?」

 

 まずはストレートから、胡が1球を投じるとそのピッチングモーションにウララはかされた。ワインドアップモーションからテイクバックを大きく取り、そのまま身体の上体ごと捻って投げ下ろすという宇多田にも劣らない豪快な力感に溢れるモーションで白球を投じたのである。

 

「なんちゅうフォームで投げんだよ……」

 

「宇多田、そっちからボールの握り見えたりしない?」

 

 特に見えないと宇多田は答えたが念のため滝山と岸葉が交互に打席で構えながら投げることとなった。右打者と左打者で見え方が異なることを考え、打席が違うと見えるかもしれないということである。

 

 バチッ! っという音とともに宇多田のキャッチャーミットを弾く胡のストレートにはかなり威力があるように感じた。

 

「球種何投げられる?」

 

 胡の手持ちの変化球はカーブ、スライダー、シンカーと少なめではあるが、それぞれの精度は高く、ストレートと併せて充分使える武器であった。滝山と岸葉が左右の打席から確認し、特にピッチングモーションの大きさからは球種が判断されなさそうだということになったので次に蔣が投げる番となった。

 

「うーん?」

 

 蔣が投げてみるとその異物感はウララでも感じる所であった。オーバースローからそこそこの球速は出ていて、手持ちの球種であるフォーク、縦のスライダー、チェンジアップも悪いとまでは言わないが平均的なボールといった感じであった。しかしそのピッチングモーションにどこかぎこちなさや無理をして投げているような印象を、野球の知識が浅いウララにも抱かせるほどであったのである。

 

「あの……吹本先生」

 

「うん、そうですな。蔣」

 

「はい!」

 

 吹本は蔣にある提案をした。

 

「サイドスローで投げられるか?」

 

「さいどすろー……ってなに?」

 

 浅香が横から投げると説明したが、ウララにはイマイチピンとこなかったようで、天童が腕がグラウンドと水平、平行な投げ方だとジェスチャーを交えて解説した。

 

 言われたとおり蔣がサイドスローで1球投じてみると上から投げていた時のようなぎこちなさが取れるという劇的な変化をみせた。

 

「うむ、もう少し腕の位置を下げてみると良くなるしれない」

 

 更に少し腕を下げてアンダースロー気味のサイドスローから投げてみるとよりボールの球威が増した。

 

「すごい! でも吹本先生、どうして?」

 

「腰の動きですよ」

 

 ピッチングモーションは身体の使い方によってそれぞれ向き不向きがある。蔣の場合は腰の回転がサイドスローに向いているものであったが上から投げている。という動作の不一致がウララにも分かるほどの違和感を感じさせたのである。

 

「簡単に投げ方を変えさせることは一般的には推奨されない指導でしょう。しかし蔣の場合、あのまま上から投げ続けていたら遅かれ早かれ故障していたでしょうから変えさせました」

 

「そうだったんですね」

 

 だがここで新たな問題が発生する。変化球が投げられなくなってしまったのである。上から投げていた時の持ち球であるフォーク、縦のスライダー、チェンジアップはアンダースロー気味のサイドスローでは投げるのにあまり適しているとはいえないからである。

 

「くっ!」

 

 実際、蔣もダメ元で投げてみようとしたがどれも明後日の方向にすっぽ抜ける暴投になってしまった。

 

「まずはまだ付焼刃のサイドスローをしっかり身体に覚え込ませて安定したフォームに仕上げることが先だ。変化球を覚えるのはそれからだ」

 

「はい」

 

「ウララ先生、蔣のように比較的下から投げるフォームは足腰の強さが肝心です。彼に協力してやってもらっていいですか?」

 

「もちろんです! 蔣くん、先生といっしょにがんばろうね!」

 

 というところで蔣のピッチングは終了。次に投げるのは天童で、キャッチャーも藤に交代した。

 

「フォーシームいきまーす」

 

「ふぉーしーむ? ってなに?」

 

 日本で「ストレート」や「直球」、「真っ直ぐ」などと表現されるボールは、アメリカなどでは「フォーシーム(Four-seam)ファストボール(fastball)」と表現され、これまで1年生で4人が持ち球として投げたツーシームもフォーシームの仲間とアメリカではされているとメジャーリーグ志望の岸井が説明する。

 

 天童のストレートは中々の球速で球質も重そうに感じるものであった。それ以上にピッチングモーションが特に考えられた良いモーションだという。

 

「あのフォームだとボールの出所が分かりづらく、より体感速度が速く感じるでしょうな」

 

「たしかにほかのみんなとちょっとちがった投げ方をしていますけど、どんなところがなんですか?」

 

 吹本によればグラブや身体を上手く使い身体の開きを遅らせ、リリースポイントが遅くまで見えないようにしてバッターがボールを見られる時間を減らすことにより体感速度を上がっているため、バッターにタイミングを取らせにくくなり打ちにくくく感じるとのことである。

 

「アメリカじゃ天童(あいつ)みたいにボールの出処が見にくいことは『スモーキー』って呼ばれています」

 

「もう岸井くん? お相撲じゃなくて野球だよ?」

 

 ウララの一言に岸井は絶句した。

 

「ツーシームいきまーす」

 

 投じられたボールは変化こそあまりしないものの、比較的打者の手元で変化する打たせて取るボールであった。

 

「ワンシームいきまーす」

 

「わんしーむ!? なにそれ!?」

 

 気を取り直して岸井による解説。ツーシームの派生形で、握力が必要でコントロールも難しいボールだがツーシームよりも大きく変化するという。実際に天童が投げるワンシームはツーシームのソレよりも大きく変化した。

 

「ノーシームいきまーす」

 

「のーしーむ!? ん? ねぇ、なんで何々『しーむ』っていうの?」

 

 シーム(Seam)とはボールの縫い目のことで、フォーシーム(Four-seam)はボールが1回転する間に4つ縫い目を通るから、ツーシーム(Two-seam)はそれが2つだからそれぞれそう呼ばれ、ワンシーム(One-seam)は回転するボールを真正面から見た時に縫い目(シーム)が縦方向一本だけに見えることが名前の由来である。ノーシーム(No-seam)は指を縫い目(シーム)かけないで投げるからそう呼ばれ、ゼロシーム(Zero-seam)とも呼ばれることがあると岸井が解説するとウララにはある疑問が浮かんだ。

 

「あれ? ぜろ、一、二、四があるのにどうして三は無いの? 変だよ」

 

 野球ボールの構造上どうしようもないことなので見逃してもらいたい。

 

 天童のノーシームは切れ味のあるシュートのように高速で鋭く変化した。ウララは凄いと思ったが吹本は冷静な判断をする。

 

「天童、ノーシームはシュートを言い換えた球か?」

 

「いえ! フォーシームと同じフォームです」

 

「ねじったりひねったりしていないんだな?」

 

「はい!」

 

「ならいい」

 

 この吹本と天童のやり取りを何かと思い吹本に聞くと、もしシュートを言い換えたボールで、腕にねじりやひねりを加えて投げているのであれば肘や肩に負担が掛かり故障の原因となるため投げるのをやめさせるつもりであった。とのことである。

 

「横のカットボールいきまーす」

 

「かっとぼーる? よこ? え?」

 

 スライダーのように横に変化するボールで、スライダーよりもストレートに近い速いスピードで、バッターの手元で小さく、鋭く変化することでバッターがジャストミートだと合わせところから凡打に打ち取るボールで、さっき羽鳥が投げたスライダーはカットボールに近いと岸井は説明したのだが、天童の投げたソレは羽鳥のスライダーよりも更にバッターの手元で大きく鋭く変化した。

 

「おい本当にカットボールか? スライダーじゃないのか?」

 

 藤が聞くと天童の言によればフォーシームを少し握り替えて投げ方を工夫しただけでスライダーではないということであった。

 

「縦のカットボールいきまーす」

 

 岸井によれば日本で一般的にカットボールというと、横に変化するものが主流で縦のカットボールを投げるピッチャーは比較的に珍しいとのことである。

 

 天童が投げた縦のカットボールは横と比べるとそこまで変化はしなかったが打者の手元で鋭く落ちた。

 

「リカットボールいきまーす」

 

「ちょっと待て」

 

 吹本から一旦ストップが掛かった。




 早く試合に入りたいという思いと、他にも書きたいストーリーがあるのですが、2年生と3年生の人数を考えると1年生たちの実力はすぐに診ると思いますからこのパートは長めに話数を割かせていただくことをご了承ください。

 あんまり小出しにしても良くないと思うので新1年生の実力は一気に書いていきます。
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