ハルのウララの 2XXX海の向こうの甲子園   作:コンスタンチノープル

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 夏の甲子園の決勝までに続きを投稿したいけど厳しいかなと考えていましたがなんだかんだ言いながら書き上げることができました。

 いつもは投稿時間を少し考えているのですが今日は決勝戦の試合終了直後に投稿してみました。

 この夏戦った全てのチーム、全学校、全選手、ベンチ入りすることが出来なかった部員、指導者の方々、選手・部員の関係者、大会の運営に携わられた方々。皆様本当にお疲れ様でした。

 と言いましても、まだ新入部員たちの実力テスト的な場面の途中ではありますが……


第19話

「天童、お前何球種持っているんだ?」

 

 一般的な高校生ピッチャーなら3つか4つ変化球が投げられれば充分である。浅香のように5球種投げれば充分多いが天童は6球種目を投じようとした。

 

「フォーシーム以外ですよね? ツーシーム、ワンシーム、ノーシーム、横のカットボール、縦のカットボール、リカットボール、シンキングファスト、フォッシュ、シンカー、スプリット、スクリュー……11個あります!」

 

「すごいいっぱい投げられるんだね!」

 

 ウララだけではない。これには一同いた。過去にプロ野球では「七色の変化球」と呼ばれた野球選手がいるほど、7つ変化球を投げられればプロでは多彩な変化球を操ると言われている。「7」という数字は虹のように変幻自在という意味も含んだことでもあるが、実戦で戦力になる変化球をそれだけの種類を投げることができるピッチャーは少ないのでやはり稀ということに変わりはない。

 

「スクリュー以外のはフォーシームの握りや投げ方に工夫を加えたものなので実質的には速球とスクリューだけです」

 

 吹本は中には日本球界ではあまり知られていないマイナーな変化球も覚えていること、ボールの出所が分かりづらいピッチングモーションから、この天童裕次郎という部員の研究熱心なところを感じたのである。

 

「わかった、じゃあ投げてみろ」

 

「ありがとうございます! といってもスプリットとシンカーはまだ未完成品ですが……」

 

「なるほど、動くボールで打ち取ることに特化したタイプか……」

 

「もう岸井くん? 野球ボールは投げたり打ったりするものでうごくんじゃないよ?」

 

 そこから説明する必要があるのかと困り果てる岸井だったがウララでも理解できるように説明してくれた。比較的バッター寄り、所謂「バッターの手元」と称される位置で小さく鋭く変化し、バッターのミスショットを誘発して凡打に打ち取りアウトを重ねることに主眼が置かれたボールの多くを「動くボール」と呼ぶ。

 

「でもスプリットやシンカーはモノによっては大きく変化させられるピッチャーもいるんでまず見てみないことには、ってところですね」

 

「じゃあリカットいきまーす」

 

 リカットボールとは逆カットボールとも表現されることのある変化球で、その表現のとおり利き手と反対側にスライドする横のカットボールとは反対、利き手側に変化するボールである。天童のリカットボールは大きく変化した横のカットボールを逆にしたほどではなかったものの、右バッターのインコースに喰い込む鋭い変化をみせた。

 

「シンキングファストいきまーす」

 

「ねえ? じゃあどうして『かんがえるストレート』っていうの?」

 

 ウララの言うシンキングは考える(Thinking)であるがこの変化球のシンキングは沈む(Sinking)である。つまりシンキング(Sinking)ファストボール(fastball)とは、「沈むストレート」というわけだという岸井の解説。天童のシンキングファストは速いスピードを保ちながらバッターの手元で小さく沈むような変化を見せた。

 

「フォッシュいきまーす」

 

「岸井よ、フォッシュとは詰まるところ、どんな変化球なんだ?」

 

 老齢な吹本でも詳しいことを知らないほど、フォッシュという変化球は日本ではマイナーな変化球である。フォッシュとはシュートの中でもジャイロ回転を掛け、シュートさせながら落とすボールである。天童が実際に投げると、確かにシュートしながら落ちるボールであった。

 

「シンカーいきまーす」

 

「さっき岸井くんがいってたボールだね!」

 

 シンカーとは利き腕方向に曲がりながら落ちる変化球である。北米や中南米ではシンキングファストの略称で、ツーシームやワンシームの中でも特に沈む軌道のものを指すが日本ではそれらとは別の球種という認知をされている。天童のシンカーは高速シンカーという部類のボールで、中でも「高速」の前に「超」がつくほどストレートに近いスピードで曲がった、所謂ハード(Hard)シンカー(sinker)と称されるボールだったが、その変化する度合いにはバラつきがみられ、天童が言うように改善の余地ありというボールであった。

 

「スプリットいきまーす」

 

「ねえ、すぷりっとっていうのはどんなボールなの?」

 

 スプリットフィンガード・ファストボール、通称:スプリットはツーシームの握りで人差し指と中指の間にボールを挟み、手首の関節を殆ど返さずにリリースするボールで、人差し指と中指でよりボールの中心に近い深い場所を挟み、より手首を固定して抜くように投げるものはフォークボールと呼ばれ、スプリットはこの挟む位置が比較的にボールの上側で、よりツーシームに近い浅い位置で挟み、ピッチャーによっては縫い目に指を掛ける場合もあり、手首もフォークよりは遊びがあっても問題ない。投げる感覚も抜くよりはストレートに近い。

 

 これらの投げ方によりボールの回転を抑えることでバッターの手元で鋭く落ちるボールで、一般的にスプリットはフォークボールよりもボールの回転を抑えないことにより落差はフォークより小さいがストレートに近い速いスピードでより鋭くバッターの手元で落ちるボールと区別されている。また、習得もフォークよりスプリットのほうが容易と言われていて、近年フォークに代わって習得するピッチャーが増えているとも言われている。

 

 なお、アニメなどでヴィルシーナとシュヴァルグランが投げているのはフォークでありスプリットではない。

 

「すごい! ホームベースの近くまできたらすごく下に変化した!」

 

 天童のスプリットは1年生のそれにしては充分な変化をしたがコントロールがまだ未完成と言った部分で高めに抜けたり、反対に手前に叩きつけるボールもあった。

 

「天童、スプリットは球数を制限するつもりだからそのつもりでいろ」

 

「え? 吹本先生、どうしてですか?」

 

「スプリットは肘への負担が大きいんです」

 

 1980年代のアメリカ、メジャーリーグ。スプリットは「現代の魔球」、「20世紀最後の魔球」などと称され一世を風靡していた。しかしその投げ方故に肘、肩に大きな負荷が掛かるケースが殆どで、多くのピッチャーが故障を発症し、中でも1985年からスプリットを実戦に投入し出し1988年までの4シーズンの間にシーズ16勝以上3回、14勝1回、1989年には20勝を挙げ、僅か5年で86個の白星を重ねたスプリットの代名詞とも言われた当時のメジャーリーグを代表するエースピッチャーが翌年に故障でその輝きを失い、さらにその翌年には現役引退に追い込まれたことからスプリットは「デス・ピッチ(死の投球)」とされ、現在では廃れてしまっていると言われている。それほどスプリットという変化球を投げるのには注意が必要である。

 

「なるほど、けがはさせたくないですもんね」

 

「スクリューいきまーす」

 

「すくりゅー……どこかできいたことがあるような……」

 

 独特の回転を掛けて投げることからその呼び名が着いたともいわれるスクリューボールは利き腕方向に曲がりながら落ちる変化球で、シンカーとの区別が曖昧であるが握りや投げ方が違うため別々の球種である。ある野球ゲームで、右ピッチャーが投げるシンカーが左ピッチャーのスクリューと設定されているため同じ変化球と思っているウマ娘や人も多いがそもそもスクリューの開発者は右ピッチャーなのでこれは完全な誤りである。日本での区別の仕方はストレートに近い軌道から曲がりながら落ちる球がシンカーで逆方向のカーブのような軌道で浮き上がってから曲がり落ちる球がスクリューと言われている。スクリューはその独特の回転を掛けて投じる投げ方から、腕への負担が大きく故障を招きやすい変化球ともいわれているが日本プロ野球で数多くの最年長記録を保持し、日本人で唯一50歳のプロ野球選手として試合に登板した大投手はプロ入り5年目に憶えたスクリューをその後27年もの間ウイニングショットとして投げ続けているので一概にスクリューを故障しやすい変化球と片付けることはできない。

 

「す、すごい! なんかみたことない変化をしたよ!」

 

「これは……」

 

「どうですか? この球結構自信があるんですよね」

 

 素人のウララ目線というのを差し引いても、いや、素人のウララにも強烈なインパクトを残すほど天童のスクリューは大きな変化を見せた。

 

「打ち取ることに特化した動くボールに空振りを奪れるボールもいくつも持ってる。これはうかうかしていられないですね」

 

「よし天童、それまでだ」

 

「それじゃあ、最後にボクですね」

 

 ウララに天童のボールを解説していた岸井がマウンドに上がる。

 

「左か」

 

「みんな右ばっかりだから貴重な存在だな」

 

 新入部員15人の中で左投は岸井1人だけである。そもそも左利き自体が少ない存在であるが吹本は欲を言えばもう1人か2人サウスポーに入ってきてもらいたかったと思うのであった。

 

「真っ直ぐ」

 

 ノーワインドアップモーションから投げ込まれるストレートには末松が1年生の時に初めて投げた時のようなスピードと威力を感じた。

 

「あれ?」

 

「ウララ先生どうしたんですか?」

 

 岸井のストレートにウララはどこか違和感を感じた。

 

「なんだか、末松くんとおんなじサウスポーでおんなじまっすぐをなげているのにぜんぜんちがうボールみたいなきがする……」

 

 高海や加納はそれは当然のことだという。

 

「他のピッチャーと全く同じボールを投げるピッチャーなんていないですよ?」

 

「同じ左で上から投げていて、岸井も結構速い球放りますけど選手にはそれぞれ個性ってものはありますから」

 

「それは合ってるけど、ちょっと違うかな」

 

 横平が2人の回答は満点ではないと言ってきた。

 

「でもさすがはウララ先生、伊達に中央で走っていたウマ娘じゃないですね」

 

「えへへ、一度も1着になれなかったんだけどね。じゃあ岸井くんの投げるボールはほかの人とちがうの?」

 

 そうではないと横平は言う。

 

「違うのは岸井君じゃなくてユキのほうです」

 

 そう言うと横平は吹本にある提案をする。

 

「ねえねえカントクさん、藤君にならユキのボール捕らせてみてもいいんじゃないですか?」

 

「そうだな、4人の中で今一番力量があるのは藤だろう。誰かは受けさせてみないといけないからな」

 

 忘れられているところだが岸井のピッチングはストレートは1年生の時の末松に匹敵しうるというかなりの実力で手持ちの変化球はカーブ、スライダー、フォーク。カーブとフォークは大したことはなかったがスライダーは1年生としては充分なレベルの切れ味であった。




 あくまでも新入部員たちの実力については基本的に「高校に入学したての1年生としては」という但し書きが殆ど付いていると思っていただければという感じです。
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