ハルのウララの 2XXX海の向こうの甲子園   作:コンスタンチノープル

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 実は横平慶次についてはセイウンスカイを少し参考にして書いたつもりです。


第20話

「よし、岸井。上がっていいぞ」

 

「はい!」

 

 岸井はマウンドを降り、クールダウンを始める。

 

「有賀、紫電、征隆。藤を相手に投げてみてくれ」

 

「はい!」

 

 3人の中でまず市居から投げることになった。

 

「あの、吹本先生。どうして藤くんだけ上級生のボールをとるんですか?」

 

「残念ながら捕手が出来ると言った4人の中で、ノックでの動きや今ブルペンで実際に他の1年生投手たちの球を捕らせて力量を図った結果、上級生たちの……特に征隆の球を捕らせてみても大丈夫そうなのは藤1人しかいないと判断しました」

 

 他の3人にはまだ怪我の危険があって危ないと付け加えると、ウララはそれならそうした方がいいと理解したのであった。

 

「じゃあまず直球から行くよー」

 

「はい!」

 

 入部当初は野球から離れていたブランクの時期があり、本調子ではなかったが今ではかなり取り戻している。市居本人が言うには感覚は良かった時の7割5分ぐらいのところまで来ているという。

 

「へえ、中々やるね」

 

「ありがとうございます!」

 

 藤は市居のボールをストレートも変化球も逸らさずに捕球してみせた。

 

「市居、そろそろ代ろうか?」

 

「お願いします」

 

 次いで投げるのは有賀、やはり末松は最後の大将なのである。

 

「最初はストレートからな」

 

「お願いします!」

 

 有賀も一冬を越え大分実力を伸ばしてきている。冬場の走り込みで下半身の安定感が増したことで生まれ持った腕と指の長さと身体の柔軟さ活きはじめ、ボールの球威やコントロールが向上してきたのである。

 

 そんな成長をみせる有賀のボールも藤は捕球しきったのであった。

 

「藤君凄いね。結構本気で投げたんだよ? 俺や市居の球捕れるんなら末松の球捕ってみるのもいいかもね。おい末松、本気で投げてくれよ。結構面白いかもしれないよ?」

 

 いよいよ末松がマウンドに上がる。ピンと緊張の糸が張り詰める。

 

「おい、1年誰か打席立ってみたい奴いるか?」

 

 岸葉が1年生たちに聞くが誰もが及び腰な様子で、滝山が北沢を指名して防具を着けて打席に立つ。1年生たちは皆去年の夏の末松のボールを見て高実に進学してきているので当然と言えば当然のことである。

 

「まず軽くな」

 

「お願いします!」

 

 最初、末松は出力を抑えて白球を投じる。藤がこれも難なく捕球するので徐々に出力を上げていく。

 

「はえー、150km/h(キロ)出てんじゃね?」

 

「俺、辞退してよかったかも」

 

「ユキ、そろそろ本気で」

 

 横平の言葉に1年生たちはく。末松も冬場の体力強化でスケールアップしていた。

 

「ついて来いよー」

 

「はい」

 

 しかし藤は末松のボールに違和感を覚えるのであった。そんな中、末松が藤に最高出力のボールを投じた。

 

「っ!」

 

 藤は末松のベストボールを見事捕球してみせたのである。

 

「すごい! すごいよ藤くん!」

 

 しかし当の藤の表情は冴えない。

 

「あの、横平さん……」

 

「おやあ? どうやら藤君は気が付いたようですな? 北沢君はどうだい?」

 

 北沢は腰が引けないようにするだけで精一杯だったと答えるが吹本は入りたての1年生ならそれだけで充分だと言った。

 

「もしかして、末松先輩の球って……ジャイロボールですか?」

 

「せーいかーい!」

 

「ジャ、ジャイロボール!?」

 

「って、なに?」

 

 相変わらず分からないウララに滝山が説明する。ジャイロボールとは、一般的にバックスピンの回転で投じられるボールがこの場合、進行方向に回転軸が向いていて、ボールがドリルのような螺旋状の回転をしながらバッターに向かっていくボールである。

 

「でも、ジャイロボールって普通は縦のスライダー(縦スラ)なんかの時にやる落ちるボールになるハズですよね?」

 

「普通はね? でもユキのストレートは紛れもなくジャイロボール。それも初速よりも終速のほうが速いんじゃないかと感じるほどの伸びに威力も兼ね備えた特異な超特級品。よかったね、ユキ!」

 

「じゃ、じゃあ、末松くんはすごいんだね!?」

 

 ウララがそう尋ねると横平は控えめに言って天下を獲る。大きく出れば時代を創る。と答えたがウララはあまりのスケールの大きさに理解が追い付かないでいる。

 

「でもそうなると、変化球って投げられるんですか?」

 

「え? どうして、藤くん」

 

 質問に疑問でウララが返したが、常時普通とは異なる投げ方をする末松なので普通に変化球を投げることが出来るのか疑問に思ったのだという。

 

「一応覚えさせといた。普通のカーブとスローカーブ、それからスプリットとシュート。でも期待しないでね」

 

 実は吹本も末松のジャイロボールという球質には気が付いていた。なので投げ込みの際の投球割合をストレート:9、変化球:1と指示してストレートに悪影響を及ぼさないようにしたのである。

 

「確かに、速球に比べて変化球はそこまでのボールじゃないですね。特にカーブは結構バラつきがありますね」

 

「まあ変化球は練習し始めてそんなに時間も経っていないからね」

 

 変化球も一通り受けてみたが横平の言葉通りまだ練習し始めてから日が浅いのでストレートほどの質ではなく、藤は難なく捕球した。特にカーブは普通のカーブとスローカーブを投げ分けているつもりだが普通のカーブがドロップカーブやパワーカーブのようになったりなど変化にバラつきがある。

 

「特にカーブはジャイロボールとは真逆の腕の使い方をするからかもね。もしかしたらストレートに影響が出るかもしれないからあんまし投げさせないほうがいいかもよ?」

 

 藤も変化球は心許ないのであまり頼るべきではないと思うのであった。

 

「でもよかったよかった。試合でユキの球捕ってくれるのが入ってきてくれて。ま、ウララ先生は正式には陸上部の副顧問ですから、これからも陸上部でヨロシクってことで」

 

「慶、でも(こいつ)に何かあったらまた来てもらうかもしれねえぞ」

 

「ダメだよ。他にも3人キャッチャーやれるのがいるんだから3人にも捕れるようになってもらわなきゃ。藤君がちゃんと捕れるからって藤君にばかり受けさせちゃダーメダメよー? ですよね、カントクさん?」

 

 吹本はその通りだと言い、横平のこれまでの功を労った。横平はそれほどでもと言いウララと吹本に挨拶をし、野球部員たちに声をかけてグラウンドを後にした。

 

「よし、次はバッティングだ」

 

 有賀の一言で一同ブルペンからグラウンドに再び場所を移す。

 

「誰が最初に打つ?」

 

「あ、じゃあ俺打つのは全然だから先でいい?」

 

 そういうことならと他の1年生たちも納得して五十風がトップバッター。

 

 実際立ってみると成程確かに全然打てない。そもそもバットに全然当たらない。時折当たっても良くて内野の頭を超える程度で殆ど凡打でヒット性の当たりは出なかった。

 

「打つほうの目標はバントは決められるようになりたいです」

 

 控え目な目標だがそれで充分であった。次は誰が打ちたいとなり志願者多数であったので吹本が加納に決めた。

 

「どうして加納くんにしたんですか?」

 

 ウララの疑問に吹本はさっき投げたピッチャーたちは後で、キャッチャーをやった4人は更にその後と説明した。

 

 ピッチングマシンはないので人が投げる。最初、末松が投げようとしたが加減しても打てないからと断られる。岸葉が投げようかとも言ったが岸葉は左投げなのでサウスポーはボールの軌道が独特だからちゃんとバッティングを視ることができないだろうということで市居と有賀が投げることになった。まず市居が加納と対峙する。

 

「加減はするから思いっ切り行けよ」

 

「よしこーい!」

 

 加納は、長打力はイマイチだったがバットコントロールはそれなりによかった。際どいコーナーのボールを見極める能力は中々のものであった。

 

「よし次、舘打ってみろ」

 

「はい!」

 

 舘のバッティングは際どいコーナーにも積極的に手を出していくといった感じでバットコントロールは中々、長打力はそれなりとった感じであった。

 

「そこまで。次、高海」

 

「はい」

 

 右投げだが左バッターボックスに立つ高海。そのバッティングはかなりのもの、中でもバットコントロールは卓越したものがあり長打力や際どいコーナーの見極めも中々、すぐに上位打線を任せてもいいレベルであった。

 

「すごいよ高海くん!」

 

「いえ、加減して投げてくれるからですよ」

 

 当の高海は謙遜するがかなりの手練れと吹本はみた。

 

「次、浅香」

 

「はい!」

 

 浅香はバットコントロールと長打力はそれなりであったが際どいコーナーの見極めに光るモノがあった。まだ入りたての1年生、これからが楽しみだと思われる感じであった。

 

「よし、そこまで。碓井」

 

 次は碓井。彼も右投げだが左バッターボックスに立つ。なんと碓井のバッティングも目を見張るものであった。バットコントロールは先に打った高海と双璧を成すといったレベル、長打力もあるほうでボールの見極めについては際どいコーナーのボールもガンガン打ちに行く感じで高海とはタイプが違うといったところ。であるが高海と同様に上位打線を任せられる高いレベルのバッティングだった。

 

「碓井くんもすごい!」

 

「いやー、それほどでも」

 

ウララへの答え方から碓井のほうが自信家といった感じである。

 

「よし、北沢!」

 

「はい」

 

 北沢のバッティングは4人とは違い体格の良さそのままのパワーがあるバッティング。しかも長打力一辺倒の粗いものではなくバットコントロールもそれなりのレベルでボールの見極めも中々、どちらかと言えばクリーンナップを任せたいと言ったところである。

 

「あわわわわ」

 

 最早ウララは泡を喰ったような状態である。

 

「次、胡」

 

「はい!」

 

 胡も北沢と同様にパワーとバットコントロールを併せ持ったバッティング。胡のほうがどちらかといえば長打力よりもバットコントロールが良いという感じで北沢とともにクリーンナップを任せたいといったところである。

 

「すごい……北沢くんも胡くんもカンタンにホームランを打ってる……」

 

「岸葉と滝山で見慣れてるじゃないですか」

 

 滝山、岸葉がかなりの長打力で練習ではポンポン遠くに飛ばしているが北沢と胡も負けず劣らずという所である。

 

「蔣」

 

「えぇ……」

 

 前の6人がかなりのものを披露したのでこの後やり辛いなと思いながら蔣はバッターボックスに立つ準備をするのであった。




 末松征隆がサウスポーでジャイロボールを投げるというのは満田拓也先生作の漫画、MAJORの主人公である茂野吾郎を彷彿とさせますがノゴロー君は参考にしていません。

 ジャイロボールについて調べていたところ、複数の球界OBの間で末松のモチーフにした選手が投げていたボールがジャイロボールに近かった。という証言を得たのと、まだ少しだけの登場ですが瑛北義塾の北淵京一のモチーフで、末松のモチーフの選手と長年バッテリーを組んでいた球界OBがジャイロボールの第一人者といえるスポーツ科学者の方のジャイロボールについての話を聞いた際に「あんな軌道のボールを受けたのはヤツが最初で最後だ。今の話を聞いて、お前の言うジャイロで間違いなかった」と言っているという情報を得たので末松のストレートはジャイロボールという設定にしました。
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