ハルのウララの 2XXX海の向こうの甲子園   作:コンスタンチノープル

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 南野君をモチーフにした選手になぞらえて配球で勝負するピッチャーにしたので展開が進まない……これでもそれなりにカットした描写はあります。


第30話

「旭日はこの回高実(連中)が何か仕掛けてくるかもしれないって言ってた……先んずれば人を制す。先制してその『何か』を潰す!」

 

「さっきの2人でさえ並みの強豪なら1、2番を打つレベルの選手だ。でも前の打席徳山さんは真っ直ぐで押し切っている。ここも強気に行きましょう」

 

 バッテリーは初球、インコース低めのストレートを投じた。

 

「ちっ……さっきより力入れてんな」

 

 2球目、アウトコースに要求したストレートが真ん中寄りに甘く入った。

 

「くっ!」

 

 徳山のバットが捉えると打球はフラフラと力ない打球だったが、ライト前に落ちるヒットになった。

 

「なんちゅう球だ、捉えたつもりが完全に差し込まれた」

 

「厄介なランナーを出したな……」

 

 櫻がブルボンに徳山というランナーの有用性について説明する。

 

「有田商工の打線はかなり強力です。得点パターンも多岐に渡ります。ですが、あの徳山君が塁に出た時はかなり得点の確立が高くなります」

 

「つまり、窮地を迎えたと?」

 

「でもそりゃ奴さん(有田商工)がベストなオーダーを組んできた時だ。それは徳山の後ろを皆村が打ってるって時、今は違う」

 

 それは高実ベンチも把握していることであった。

 

徳山君()は勿論ウマ娘には及びませんが去年助っ人に来てくれた新島君に匹敵するんじゃなかという瞬足の持ち主です」

 

「えっ!? じゃあピンチっていうことですか?」

 

「藤の力量が試されますな」

 

 その藤はキャッチャーボックスで思案していた。

 

「どうする……2アウトでも徳山さんは走ってくるかもしれない、だけど南野さんも前の打席討ち取りはしたけど末松先輩のボールに対応してきているからカウントは悪くしたくない……思い切って」

 

 末松がクイックモーションに入った瞬間、徳山が流れるようなスタートを切る。

 

「セーフ!」

 

「くそ……」

 

 悠々セーフ。二盗成功で2アウトながら俊足の徳山を2塁に置くピンチを迎える。

 

「頼むぜナンノ……」

 

「徳山さんなら三盗も考えられる……いやここはバッター集中で行こう。よし!」

 

 続く2球目、低めに見せ球のスプリット。外れて1ボール1ストライク。

 

「ちょっと不安はあるけど次はこれで」

 

 3球目、バッテリーの選択はスローカーブ。三塁線へのファウルとなり1ボール2ストライクと追い込んだ。

 

「よし、今のでカウント取れたのは大きい。ここはこれしかない!」

 

 末松もそのサインに頷いてピッチングモーションに入った。

 

「あっ!」

 

「しまっ……」

 

 バッテリーの選択はアウトコース低めのストレートだったがやや真ん中寄りに入った。南野のバットが白球を捉え打球はセンターへの鋭い打球になった。

 

「くっ、ギリギリ」

 

 ヒットになろうかという所で舘のグラブに収まり、ピンチを脱した。

 

「ナイスピッチング! さあ、えーっと……藤くん、何かさくせんがあるんだよね?」

 

「サダメが出ないことには始まりません。1塁コーチ行ってきます」

 

「舘くん! がんばってね!」

 

 舘は何が何でもというんならこれしかないと思いバッターボックスに立った。

 

「やるなら初球……」

 

 その初球、舘はセーフティバントを仕掛けた。打球は一塁線、渥美が押さえたがセーフになった。藤の望んだ展開となった。

 

「サダメ」

 

 藤が舘に耳打ちする。

 

南野さん(ピッチャー)ホームに投げる時、左の肩がホームの方向に流れる」

 

「マジ!?」

 

「声が大きい!」

 

 なんと藤は先ほどの打席で南野がランナーを置いた時のホームに投げる時と牽制球をする時の癖を見つけ出していたのである。

 

「わかった」

 

「ナンノ気を付けろよ……今のセーフティ見たろ? ランナー脚速いぞ、まず牽制だ」

 

 北が牽制のサインを出し南野が頷く。

 

「左肩が流れてない。牽制」

 

「セーフ!」

 

 余裕をもって帰塁する。

 

「もう1球」

 

 再び牽制のサインが出る。

 

「また牽制、今度は癖が漏れてるのがバレないようにちょっと遅らせて……」

 

「セーフ!」

 

 舘は次の帰塁を少し危うくした。1回牽制球を受けているのでタイミングが図れたのも大きい。

 

「2球クギ刺しとけば、アウトハイの真っ直ぐ」

 

「流れた! よし」

 

 舘は抜群のスタートを切った。悠々盗塁成功、得点圏に進塁、チャンス到来である。

 

「何か南野(あいつ)に癖があんのかも。さっき盗んだんじゃね?」

 

 三宅は抜群のスタートを切った舘を見て、その可能性を言及した。

 

「それが仕掛けかもしれませんね」

 

「ええ、もっと大人しくやればいいのに……」

 

 この機に高海はファーストへ送りバントを成功させ1アウトランナー3塁と絶好の機会がやってきた。

 

「いっけー! 碓井くーん!」

 

「天命の脚なら内野ゴロでも還ってこれる。有田商工(向こう)もそれは分かってるハズだから三振か打たせて取るんならフライ、ゴロなら左方向に打たせたいと思ってるハズだから……」

 

 南野と北のバッテリーがアウトコース中心の配球をしてくると読んだ碓井は、それを潰すために前の打席よりもややホームベース寄りに立った。

 

「くそ、理解ってんな碓井君(コイツ)。キツめに行っとくか?」

 

 北のサインに南野が頷き投じられた初球はインコース低めからさらに右足元にエグり込むスライダー。

 

「ファウル!」

 

 碓井はバットに当てたが力のないファウルボール。0ボール1ストライク。

 

「当てんのが上手いな……しかも積極的にバットを出してくる。ナンノの苦手なタイプだな。次はこれでどうだ?」

 

 2球目のボールはインコースのボールゾーンからストライクに変化するシュート。所謂フロントドアと呼ばれるボールであった。

 

「っし!」

 

 碓井は難しいボールであったがインコースと読んで踏み込む右足を外側に開き、これに対応してきた。会心のヒットではなかったがセカンドゴロで舘がホームへ生還、高実が1点を先制した。

 

「くっ……」

 

「気にすんな。ボールは悪くねぇ」

 

 沢田石の言葉通り南野の調子は悪いわけではない。だが練習試合ということもあり、真剣さに若干の甘さが出ているのと、配球面で試しで投げている、言うなれば危ない橋が練習試合だから負けても問題ないといつもより渡ることに抵抗が無いのもある。

 

「やったぁ! 先制! 先制だよ!」

 

 生還した高海から藤が盗んだ南野の癖について周知される。

 

「成程、藤はそれで……」

 

「塁に出たら積極的に仕掛けていくことを考えよう」

 

「よーし! いっけー! 岸葉くーん!」

 

 一方の南野と北。既に切り替えている。

 

「ランナーなくなったし2アウトだから切り替えていこう」

 

「はい」

 

 流石は夏の甲子園制覇の有力校に挙げられるチームで正捕手を張るキャッチャーと練習試合とはいえ2年生ながら先発のマウンドを任されるピッチャーなだけのことはある。先制を許し、崩れてもおかしくないがここで岸葉をセンターフライに討ち取って最少失点に留めてみせた。

 

「ナンノ、旭日。また出てたよ。高実(向こう)に見つかったんじゃないかな?」

 

 有田商工ナインがベンチに戻ると南野と北に声をかける1人のメガネを掛けた部員。記録員の氷谷である。

 

「マジかよ、すまない氷谷(マメちゃん)。ナンノ、俺たち(今の3年)が引退したらお前がエースなんだから直さないとフリーパスだぞ?」

 

「でもこんな序盤でバレるなんてきですね」

 

 南野がランナーを置いた場面で打者に投げる時に左肩がホーム方向に流れる悪癖は彼らの中で直すべき課題として取り組んでいることでもあった。

 

「感心してる場合じゃねえよ! すいません、冬の間に何とかしたかったんですけど……」

 

 この朽木、控えキャッチャーとしてベンチ入りしている彼と南野は同じ2年生ということもあり配球やこの悪癖を直すためのピッチングモーションのチェックなどを重点的に冬場に行ってきたがまだ完全に改善できていなかったのである。

 

「いいよ、焦ってイップスでもやったらもっと面倒だし。それに逆手に取る手だってある。第一、ランナー出さなきゃ問題ないからね」

 

 焦らないように気遣うと見せかけ、案外無茶なことを要求する氷谷。監督の伊藤から窘められる。

 

「すいません。ナンノはユウちゃんと違って頭使って投げてるんであれこれやらせてみたくなるんです」

 

「だぁれのピッチングがバカの一つ覚えだってぇ?」

 

 件の沢田石が氷谷を締め上げる。

 

「いたたたた……ユウちゃんが悪いとは言ってないって。ほらナンノ、飲んで飲んで」

 

 氷谷が運んできたウォーターサーバーから飲み物を注ぎ南野に渡す。それは高実ベンチのウララにどことなく伝わっているのであった。

 

「あれ? この匂い……」

 

「ウララ先生、どうしたんですか?」

 

 それはウマ娘の優れた嗅覚だからこそ感じ取れたものである。

 

「なんだか、はちみーのはちみつレモンドリンクみたいな匂いがする」

 

「スポドリじゃないんですか?」

 

「ううん、ぜんぜんちがうよ」

 

 ウララはどことなくその匂いが有田商工のベンチからやってきていると感じた。

 

「試合がおわったら聞いてみよ!」

 

「さ! この1点絶対守り抜きましょう!」

 

 防具を着けた藤が揚々とグラウンドへ出ていく。

 

「どう見ますかな?」

 

 三宅がブルボンにこの戦況を問った。

 

「先制を許したので、同点にするために一層奮起してくるのでは?」

 

(ヤス)はどう?」

 

「これは練習試合だし、色々試してくるんじゃないかな? 実際いつもと違うオーダーを組んできているわけだし。こういう時って打線が良いチームほど結構無策になりがちだからね」

 

「どういうことでしょう?」

 

 櫻曰く、純粋に好打者が揃う打線だと、打者の打力に頼るが故に作戦が打つこと一辺倒になりがちで窮してしまうことが珍しくないのだという。

 

「『勝負は水物』って言い方されますけど、野球だと特に『打線は水物』って言葉が常識として根付いているぐらいなんです」

 

「つまり、打線の力に依存しないように何かしら戦略を用いてくると?」

 

「末松が有田商工を追い詰めるほどのピッチャーだったら。って前提は要るけどな」

 

 三宅は更に、3番の高鶴から始まるこの回の攻撃で動いてくる可能性は低いだろうと付け加えた。

 

「みんなー! がんばれー!」

 

「さて、1年が必死で先制点獲ってくれたんだ。有田商工(向こう)はクリーンナップからだから気は抜けねぇけど、逆にここを抑えたら高実(こっち)の流れに引きずり込める」

 

 末松の投球練習のボールにはより一層気合が込められていた。




 公式では明言されていませんが現実世界のサラブレッドの嗅覚は人間の約1000倍と云われているのでウマ娘のウララも反対側のベンチにある飲み物の匂いを感じ取れる描写を入れました。人間と変わりなかったらどうしよう……

 アンケート選択肢の詳細については第21話の前書きと後書きをお読みいただければとおもいます。

今後の高知実業(ストーリー展開)の方針

  • 目指せ!全国制覇!
  • 目指せ!模範的高校生スポーツマン!
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