ハルのウララの 2XXX海の向こうの甲子園   作:コンスタンチノープル

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 末松君が高実野球部の中で1番の実力者で作品でも序盤においてはウララに次ぐ準主役のつもりで書いているのですが、日本野球における配球とリードの主導権は基本的にキャッチャーが握っていることが一般的なので特に試合になると末松君の影が若干薄くなってしまうことが何とも言えないです。

 日本の高校野球にもピッチコムやピッチクロックが導入され、ピッチャーも主導権を持つことができるようになればまた違うのですが、そもそもアメリカでこれらが導入された経緯を考えると日本の高校野球には今の所導入するまでもないものなので可能性としてはかなり低いです。

 サインに対して首を横に振らせる回数を増やしたり、ノーサインにするというように手がないわけではないのですが末松君とキャッチャーたちの中でも主に藤君のキャラには合わない気がするのでやらせるかは現時点で未定です。


第33話

「ボール!」

 

 北旭日という選手は夏の甲子園優勝の有力校に挙げられる強豪チームにおいて、鉄壁と称される投手陣を導く不動の正捕手というだけではなく、バッターとしても強力と称され、好球必打で積極的に打ちにいく、中には好球どころかストライクゾーンから外れた悪球さえ快打を飛ばすバッドボールヒッターと言われるバッターも連なるタレント揃いの打線の中で数少ないアンティルヒッターである。

 

「ファウル!」

 

 際どいコーナーのボールはファウルでカットしてボールゾーンの球は確実に見送ってフォアボールをもぎ取る。しかも普段は7番か8番など下位打線を打つことが多いがバッティングセンスも確かなものを持っているので甘いコースに投げればたちまち好打される。さらに入学当初は内野手としてセカンドとサードを中心に内野の全ポジションを経し、一般的に脚が遅い選手が多いイメージが強いキャッチャーとは思えないほどの俊足を持ち合わせた総合力の高い選手である。

 

「ボール!」

 

 並みの強豪校と呼ばれるチームであれば1番か2番を任されて然るべき実力者。下位打線に置いておくにはなんともいやらしい存在であり、末松と藤のバッテリーも手こずっている。

 

「ここは末松先輩(ピッチャー)のボールを信じよう。これで仕留めに掛かりましょう」

 

 末松もこのサインに頷き白球を投じたが響いたのは藤のキャッチャーミットの捕球音ではなく鈍い打球音だった。

 

「全く、なんてボールだ。左手に悪い(キャッチングに響く)よ。でもこれで……」

 

 バッテリーの選択はアウトコース高めのストレート。ボールの力で抑え込むつもりだった、要求通りのボールだったが北の磨かれた流し打ちでライト線に運ばれてしまい、セカンドランナーの沢田石がホームに生還し点差を1点に縮めてきた。

 

「すいません……もっと慎重にいくか、攻め手でいくかすれば……中途半端なサイン出しちゃいました」

 

「いいって。まだ1点、次抑えよう」

 

 続く御崎にはピンチヒッターが送られる。普段は2番バッターを任されている実力者の皆村であった。櫻がブルボンにそのことを解説する。

 

「試合が始まった時に言っていた皆村さんとは彼のことですか」

 

「嫌なのが続くな……」

 

「というと?」

 

 櫻は皆村を注意すべき存在だとしたが三宅はそこまでではないといった表情を見せる。

 

皆村君()は打てる上に脚も速い、中でもボールとストライクの見極めに長けている」

 

「打てるっつってっけど、皆村(あいつ)のバッティング粗いからここを力押しで切り抜けれんなら末松のこと考え直す必要があんな」

 

「成程、実力を測るには格好の場面が来たということですね」

 

 1点返されてなおも同点のピンチが続く。ウララにとっては気が気でない。

 

「みんながんばれー!」

 

 自然と声も大きくなる。あまりにも声を張り上げるので注意された。

 

「ここがこの試合の分かれ目かもしれませんな」

 

「そうなんですか!?」

 

 吹本は御崎にピンチヒッターが送られたことで南野が降板することを察知した。と同時に、そのピンチヒッターが皆村であったことがこの場面を乗り切らなければ高実に悪い流れがくると感じるのであった。

 

「次どうする?」

 

「攻めていきましょう。こっから有田商工(向こう)のレベル爆上がりだと思ってください」

 

 藤はそう言うとキャッチャーボックスへ戻っていった。

 

「まずはこれ」

 

 末松がサインに頷き初球を投じた。

 

「ストライク!」

 

 初球はインコース低めのストレート。見送って0ボール1ストライク。

 

「次はここにこれで」

 

 藤の要求はアウトコース低めのストレート。若干真ん中寄りの甘いコースに入ったがボールの力で勝りファウル。2球で追い込んだ。

 

「遊び球は要りません。決めにいきましょう!」

 

 3球勝負。力のあるインコース高めのストレートに皆村のバットは空を切り、この場面を最少失点で切り抜けた。

 

「いいねぇ」

 

 その言葉は2箇所から発せられた。

 

「気に入らねぇ顔、さっき投げ合っといたほうがよかったかな」

 

「そう言うわりには、三宅さんからステータス『高揚』を探知。末松さんの実力を認めたようですね」

 

 ブルボンの言葉の通り、とても愉しそうな表情を三宅は見せていた。

 

「でもここからが本番だよ」

 

 一方で櫻は冷静に今後の展開を観てやろうとしていた。

 

面白(おもしれ)ぇ……監督、シンジロー(御崎)ミナ(皆村)に代えたってことは俺がいくってことですか?」

 

「ああ、ロクに準備させられなかったが大丈夫か?」

 

「俺はいつでもいけますよ」

 

 日吉田が球審の小北に選手交代を告げる。ピンチランナーの槙村がそのままレフトに、ピッチャーの南野がショートに、ピンチヒッターの皆村がサードに、サードの沢田石がピッチャーにそれぞれ交代となった。

 

「ここからは腰を据えてかからねばなりませんな」

 

「吹本先生、ならどうして座らないんですか?」

 

 ウララが言葉を文字通りに受け取るのはもう高実でも見慣れた光景となっていて、吹本も悪かったと意味を説明し、更に言葉を付け加える。

 

「それにウララ先生、監督とは試合中に座らないほうがいいんです」

 

「そうなんですか!? あれ? でも練習試合をした相手のカントクさんはすわっている人もいた気が……」

 

「私は座るべきではないと思います。授業と一緒ですよ」

 

 それは納得のいく説明だった。ウララも授業の際はピアノを弾く時ぐらいしか座らないからである。

 

「話が逸れてしまいましたね。有田商工(向こう)が投手を交代してきました」

 

「そうですね! さっきまでサードで出ていた子がピッチャーになりましたね!」

 

沢田石君()が有田商工のエースです。しかも有田商工にとって彼は絶対的な存在です。まさか今の高実(うち)相手に登板してくるとは予想外でしたが、どの程度の力を出してくるかはこれからですが」

 

 レイチェルが沢田石は「今の高校ナンバーワンピッチャーは誰か?」という質問の答えに必ず挙げられる1人というほどの凄い選手で、右投げと左投げの違いはあるが末松が今後超えるべき選手の1人でもあると説明するとウララはかなりのきをみせた。

 

「ユキちゃん」

 

 このイニングの先頭バッターで準備をしていた末松に市居が声をかける。

 

「この試合で奪っちゃえば? 高校ナンバーワンピッチャー(・・・・・・・・・・・・・)

 

「言われなくても」

 

 この言葉に市居はやはりこのチームの柱は末松であって自分ではないんだと若干の劣等感を感じた。

 

「へぇー、沢田石(あいつ)いくんだ」

 

「御崎君に皆村君を代打で出したからね。上田君か野島君が行ってもいいっていう展開じゃなくなってきたからね」

 

「沢田石さんという方がお2人の言うような選手であれば、確かに沢田石さんが出てくるべき展開と言えるでしょう」

 

 それは一流ウマ娘といって相違ないブルボンであれば当然感じ取れる試合の流れであった。前の回から末松は明らかにボールの出力を上げてきて、このままでは手が付けられなくなるかというところで1点返して追い上げムードが出来たところである。

 

「でもこんな練習試合でガチの起用してくるとは思わなかったな」

 

「それは末松さんの活躍によるものでしょう。この試合はもう、こんなと言われるようなただの練習試合ではなくなったと思います」

 

「流石ミホノブルボンさん、この流れを作ったのは間違いなく末松君。彼のピッチングが沢田石君を引きずり出したといっていいでしょう」

 

 話題の中心となっている沢田石は、サードで出場していたことや、前のイニングはバッターボックスが回ってきてヒットを打って出塁していたこともあり充分投球練習をとれなかった。そのため軽いところから始め、徐々に出力を上げてきたところで先頭バッターの末松と対峙する。

 

「俺を出させるなんてちょっとは認めてやってもいいぜ……」

 

 初球のピッチングモーションに入り、左足が頭上まで高々と振り上げられ、その脚は爪先までピンと伸ばされた。

 

「でも盛り上がってるとこ(わり)ぃだけどさ」

 

 その1球に高実ベンチは凍り付いた。

 

「俺とお前じゃ役者が違うんだよ」

 

「す、末松くーん! かっとばせー!」

 

 それはウララでも感じるほどであった。

 

「いつまでも調子に乗ってんじゃねえ」

 

「ストライク!」

 

 ウララからいつもの元気を奪うほどの圧倒的ボール。

 

「俺がナンバーワンだ!」

 

 それが沢田石雄匠という選手の持つ力である。

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

 6回裏高実の攻撃は、末松、代打の北沢、滝山が沢田石の前に3者連続空振りの3球三振に斬って捨てられた。1球もバットに掠りもしない、正に圧倒的な力を誇示された。

 

「えっと……なんか宇多田くんみたいな投げ方する子だね!」

 

 ウララにこの顔をさせて話題を逸らされるほど……しかし吹本にとっては願ってもない展開に持ち込めたと思うのであった。

 

「厳密には僕と沢田石さんの投げ方には全然違うトコがあります」

 

「えっ!? そうなの?」

 

 逸らした話題が広がったのでウララは少しいつもの元気を取り戻した。

 

「まず、僕と沢田石さんみたいに足を爪先まで高く上げる投げ方を、ハイキック投法っていいます」

 

「へぇ~」

 

「でも沢田石さんの投げ方はかかともグッって上げているんです。これはそのままヒールアップっていいます」

 

 ハイキック投法には下半身のパワーを最大限に利用する効果が期待できる。ヒールアップには体重移動がスムーズになり、かかとを上げてから下げる反動で球に勢いが生まれ、腕の振りも加速するので球速も上がる効果が期待できるという。

 

「そうなんだ!」

 

「でもどっちも強靭な下半身の強さとバランス感覚の良さがないと出来ないフォームです」

 

「現役で走っているウマ娘なら手ほどきしたら出来ちゃうかもしれませんね」

 

 レイチェルの言うとおりであるがそもそもウマ娘であればそんなことをせずとも普通の投げ方で人間より速いボールを投げることができる。

 

「ウララ先生」

 

「末松くん……」

 

「大丈夫ですよ。俺は負けません」

 

 末松のその一言はウララに向けて発されたものであった。口調は荒いものではなく普段の喋り口調で熱量を感じるものではなかったが、その一言は沢田石のボールに凍り付いた高実ナインに闘争心を灯すには充分過ぎる一言であった。




 あるシーンは某野球漫画のワンシーンがモチーフになっています。

 アンケート選択肢の詳細については第21話の前書きと後書きをお読みいただければとおもいます。

今後の高知実業(ストーリー展開)の方針

  • 目指せ!全国制覇!
  • 目指せ!模範的高校生スポーツマン!
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