ハルのウララの 2XXX海の向こうの甲子園 作:コンスタンチノープル
自分どちらかというと書き屋というより設定屋という気質なのでひとたび設定し始めるともう駄目なんですよね……
8回裏、先頭バッターの碓井は思案を巡らせながらバッターボックスに入った。
「クリーンナップに回るここでもう1点獲りたい。でも俺は正攻法で沢田石さんを打てるほどの打力はまだない。なら……」
一方高実ベンチでは吹本が次のバッターである岸葉を呼んだ。
「交代だ」
「わかりました」
「天童!」
そして岸葉の代打で出す予定の天童に準備をさせた。
「天童くん! ファイトだよ!」
「任せてください」
吹本はその次にバッターボックスが回ってくる市居も呼び寄せた。
「塁に出たら代走で、出なくても9回表は守備固めで交代だ」
「はい」
市居の交代要員には加納が選ばれた。
「加納くん! がんばってね!」
「モチロンですよ! しっかり観ててくださいね!」
加納はこの出場に意気揚々としている。碓井はネクストバッターズサークルで天童が準備する姿を観てさらに思案を巡らせる。
「岸葉さんに代打天童か……ちょっと期待値薄くなるな、なら」
碓井は初球、セーフティバントの構えで揺さぶってみたがファーストの渥美もサードの皆村もバント封じのチャージでしっかりプレッシャーを掛けてきて、沢田石も揺さぶりに動じることなく威力のあるボールを投げ込んできた上に9人目の野手としてのフィールディングも卓越した動きである。セカンドの徳山もしっかりとファーストのベースカバーに入り、ライトの今本も万が一ファーストへの送球が暴投になった場合に備えカバーリングに入っている。そのほかの野手もカバーリングをこなしており、まさに「やれるものならやってみろ」という完璧な連携がとれた隙のない守備である。
「今の
今の1球だけで有田商工というチームのレベルの高さが伺える。宇多田とレイチェルがウララにどういうプレーだったのか解説している間に他の部員たちが吹本の言葉に賛同した。
「セーフティは厳しいな……てか天命のヤツよく決めたな……仕方ない」
碓井はセーフティバントを決めるのが難しいとみるといつもよりバットのグリップを余らせて握り、バッターボックスの若干ホームベース寄りの立ち位置で構えた。
「なりふり構わずきたか。でも
北はそう思ったがこの場面で碓井は際どいコースのボールを見送ってくる。といってもボールを見極めているのではなく球威に押されて手が出ないといった方が正しい。
「ボール・フォー!」
しかしそれが力で無理矢理抑え込もうとする沢田石には幸いしてフォアボールをもぎ取った。ピッチャーが沢田石に交代してから初めてのランナーである。
「ここは思い切らせよう」
吹本は盗塁のサインを出した。前にウララがいた練習試合でウララに作戦を言った際にさすがに作戦を大声で言うことはなかったのだがあまりにも選手に大声で応援するので作戦を読まれたと思われることが何回かあったのでこの場面ではウララには秘密にした。
「いくんなら初球……」
機を狙う暇などない。ピッチャーが代わってから自分が初めてのランナーなので癖など当然分からない。思い切って初球にスタートを切った。
「セーフ!」
代打天童が思い切り空振りしてくれたこともあり、この盗塁は成功した。
「こいつ……」
しかし沢田石は盗塁を決められた以上に代打で出てきた天童の空振りが面白くない。自分のストレートに怯まずにフルスイングしてきた、盗塁を成功させるためにバッターが大きく空振りすることも珍しくない。だがこの時はとにかくその大きな空振りが気に喰わなかったのである。
「はぁ、落ち着いてくれよ。タイミング全然合ってないじゃん。力で押し切れるって」
マウンドにスパイクの歯を突き立てる沢田石に北はそう思うのであった。確かに天童のタイミングは合っていない。ここで球速が落ちる変化球を投じるとむしろタイミングが合う可能性があるので力で押すべき場面である。
「ストライク!」
「チッ……」
「なんだこいつ、ボール見えてるのか分からないな」
2球目、高めのボール球に手が出て0ボール2ストライクとあっさり追い込まれたがタイミングは初球よりも合ってきている。だが手を出したのは高めのボール球、北は思案にあぐねた。
「真っ直ぐにタイミング合ってきてる。ここは……」
北は変化球のサインを出したが沢田石は首を横に振った。
「ここで力で押し切れなきゃいけねぇよ」
沢田石の意志を汲んで改めて北がストレートのサインを出し、天童は空振りの3球三振に終わった。しかし三振に終わった天童が浮かない顔をしているのはわかるとして、三振を喰らわせた側の沢田石と北のバッテリーはそれ以上に納得のいかない顔を見せる。
「ドンマイだよ、天童くん!」
ウララは当然のごとく天童をフォローするが吹本たちは全く違う印象である。
「なんというタマだ……」
吹本はその言葉を口にこそしなかったが驚嘆した。
「天童裕次郎……なんつう奴だ……」
「ふぅん……ちょっとは認めてやろうじゃねえ」
沢田石と北も当然気付く。天童は沢田石の真ん中よりやや高めのストレートに対し、ボールの上を空振りしたのであった。沢田石のように威力のあるストレートを投げるピッチャーにとって、そのストレートに対してバットがボールの上を空振りするのは1つの敗北である。
「末恐ろしい奴だ、スタメンでもよかったんじゃないかな?」
市居は自分の決意が揺らぐほどの感情を抱きながらも、卒業するまではその場所は自分のモノだという想いを胸にバッターボックスに立った。
「こいつは中々の奴だ、ユウのボールにもついてくるかもしれない」
初球、アウトコース高めのストレートで見逃し、ストライクをとってきた。
「やっぱり……」
2球目、バッテリーはインコース高めのストレートを投じた。市居はこれをバックネットにファウルにした。
「ユキちゃんのほうが凄い」
市居は微かに笑った。
「市居くん、今……」
「真後ろにファウルが飛ぶのはタイミングが合っているとも言われています」
吹本の言葉にウララは満面の笑みを浮かべた。
「こいつ……ユウ、わかってんね?」
北のサインに沢田石が頷いて3球目のピッチングモーションに入る。
「くっ……」
「ストライク! バッターアウト!」
ここまでストレートしか投じてきていなかったバッテリーが、ここで初めて変化球を投じてきた。
「ここで切ってきたか」
「『切って』って、ケガしちゃったんですか!?」
ウララには「投げてきた」というべきだったと吹本は反省した。
「ここでウイニングショット、1番自信のあるボールを投げてきたってことですよ」
「沢田石さんのドロップカーブっていうのは……」
「えっ!? ドロップって、アメ!?」
まさかウララがそんな解釈をするとは思わず、一同ズッコケた。
「えっと、ドロップカーブっていうのは縦のカーブのことで、沢田石さんは追い込んだら基本的にドロップカーブで勝負してくるほどで、それだけ来ると分かっていても打てないほどで、プロでもすぐに通用するって言われているぐらい凄いボールなんです」
「えっ!? でも
「格下相手だと思って、俺たち相手には使うまでもないと思って投げてこなかったんでしょう」
「むーっ! 末松くーん! ゼッタイ打ってー!」
ベンチに戻った市居がウララに話す。
「大丈夫ですよウララ先生。確かに凄いピッチャーです。でも……ユキちゃんのほうがもっと凄いですから」
「市居くん……そうだよね! よーし! 末松くーん! かっとばせー!」
末松は不思議と落ち着いてバッターボックスに立つことができた。
「なんだか打てそうな気がする」
バッテリーは初球、ストレートを投じてきたが末松は余裕をもって見逃した。
「うん、よく見えてる」
「嫌な見逃しかたすんなこいつ」
北は続いてストレートを要求したが末松はレフト線に鋭いファウルを打った。
「間違いない。タイミングが合ってる。ここはこれで」
次に北はカーブを要求し、仕留めにきたがこのボールにも末松はついてきた。
「旭日、ここは1番のやつでいこう……」
ここで1度北のサインに首を横に振って沢田石が投じたのはいつもウイニングショットに使うカーブ。しかし末松のバットが見事にボールを捉えた。
「くっ!」
「セーフ!」
打球は1、2塁間を奇麗に破るライト前ヒット。碓井が3塁を回って一気にホームまで還ってきた。
「やったあっ!!」
先ほどベンチの天井に思い切り頭をぶつけたの今度は控えめのリアクションで喜ぶウララ。一方で三宅と櫻は驚嘆する。
「
「これはこれは……」
「………………」
ブルボンは表情こそ変えていないが尻尾がパタパタと動いている。ご満悦といっていい。
「よし、ここは繋ぐなんて言わないで大きいの一発狙ってやる」
続く北沢は2球目のストレートを真芯でとらえ、レフトに大きな当たりを放つ。
「なっ!?」
「アウト!」
会心の当たりに近かったが僅かに足りず、レフトフライとなりこの回の攻撃を終えた。
「ドンマイだよ、北沢くん!」
ウララは北沢にフォローの言葉をかけるが吹本は北沢個人ではなくチーム全体にかけるべき言葉があると考え試合終了後にいう事にした。今言ってもいいことなのだが、既に守備のことでチーム全体に周知する言葉をかけているので1度の攻撃の間にいくつも今後のタスクを与えるのは得策ではないと考えたからである。
「最後の守りだ。勝っている時の最後は重圧を感じるものだ。だが夏の公式戦は今日これからの比じゃないと思うように。特に有田商工のような猛者の最後の攻撃は今日のような練習試合であってもその身で体感して夏に活かすように」
吹本の言葉に選手たちは答えてグラウンドに散っていく。
「ウララ先生、勝ったら喜んでくれっかな……」
末松は規定のピッチング練習を終えると、マウンド上でボールに向かってそう呟き、ベンチのウララに眼を向けた。
「末松くーん! いっけー!」
ウララは、末松が自分のほうを見ていると気付くと、いつもと変わらない元気溢れる姿で声援を送った。
とりあえずハルウララの高知実業での教員生活6年目までの間の高実野球部主要大会でどこまで勝ち進むかはほとんど考えてあるのでそこにどんなストーリーを展開するかというところまではきています。
アンケート選択肢の詳細については第21話の前書きと後書きをお読みいただければとおもいます。
今後の高知実業(ストーリー展開)の方針
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目指せ!全国制覇!
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目指せ!模範的高校生スポーツマン!