ハルのウララの 2XXX海の向こうの甲子園   作:コンスタンチノープル

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 苫小牧だけではなく船橋も出したいと思う今日この頃、苫小牧は高校野球の歴史にその名を刻んでいますが船橋にも高校野球で有名な高校があるほか、色々考えられる選択肢があります。


第36話

末松(あいつ)はまだ上にいくのは(はえ)ぇかな」

 

 それは突然三宅が冷淡な口調で発した一言であった。

 

「どういうことでしょうか?」

 

 ブルボンは突然の一言だったためその真意が分からなかったようで、櫻が解説する。

 

「こういう時に相手のベンチを見れる選手は手強く、一方で自分のベンチを見てしまうのは目だと言われています」

 

「成程、確かにトゥインクル・シリーズ(私たち)の間でも、ゲートイン前に勝負するウマ娘を見れるウマ娘は強者だといわれることがあります」

 

 苦しい時やここが勝負所という極面(局面)において、相手を見れるということは情報を探そうという冷静さを保っているので手強く、反対に自軍のベンチや自分のトレーナーを見てしまうのは自信がない、自分で何も考えられない、焦りから余裕を失っていると言われることがある。

 

「メジャーリーガーにまでなったヤツで、高校時代甲子園のマウンドの上で相手チームのブラバンの応援を口ずさんでたヤツってのもいんだよ」

 

 ある意味ではゴールドシップはこれに近いのかもしれない。

 

「ですが、お2人は重大なことを失念されています」

 

「それは一体?」

 

 ブルボンは一息溜めてからそれを口にした。

 

「ウララさんは別です」

 

 先頭バッターの皆村は期する思いでバッターボックスに入った。彼は普段2番サードのレギュラーであるがその地位は不動のものではない。今日の練習試合のように、沢田石が投げていない時はサードを守るためである。ショートとセカンドも守れるがそれぞれ御崎と徳山がいるため実際に試合で守る機会は少ない。ある意味ではレギュラーの当落線上にいるともいえるので夏に向けて結果が欲しいのである。

 

「このレベルのピッチャーからでも打てるってトコ、見せてやんねえと」

 

「ベタな配球だけどここは……」

 

 バッテリーはアウトコース高めにストレートを投げてきた。皆村はスイングしてきたが空振りで0ボール1ストライク。

 

「手だしてきたか……やだな、ここは1球」

 

 2球目、バッテリーの選択はインコース高めのストレート。

 

「くっ!」

 

「フェア!」

 

 皆村はこのボールを捉え、打球は三塁線を破るレフト前ヒット。先頭が塁に出た。

 

「ナンノ」

 

「はい!」

 

 ここで伊藤は南野を呼び寄せる。

 

「交代だ。お疲れ」

 

「はい」

 

「上藤!」

 

 一方で藤はこの交代に思案を巡らせる。

 

「ここまで末松先輩に合ってる南野さんに代打か……多分レギュラーにも負けないクラスのバッター……あー目だ目だ、まずは徳山さんに集中しないと」

 

 徳山への初球はインコース低めのストレート。若干真ん中寄りに甘くなったが球威で手が出なかった。

 

「こいつ……」

 

 手が出ないほど球威のあるストレートを投げてきた末松を徳山はジッと睨む。

 

「そんな(ツラ)されても全然怖くねえよ」

 

 続くボールはアウトコース高めのストレート。今度はスイングしたが空振りで一気に追い込んだ。

 

「全然合ってない。遊び球は要りません! 一気にカタつけましょう」

 

 藤のサインに末松は一瞬ニヤりとしてからピッチングモーションに入る。

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

 サインはインコース高めのストレート。少し高めに抜けてボール球だったがノビ上がるストレートに徳山のバットは空を切り3球三振に斬って取った。

 

「マジかよ……」

 

 ここまでブルボンの手前丁寧な言葉を心掛けていた櫻の口調が崩れる。

 

「徳山ってヤツは中々三振しねー上にインコースにつえーんだよ。その徳山をインコースで三振、しかも今日これで3個目なんだから大したヤツだって言わざるを得ねえんさ」

 

「相手のストロングポイントで勝負して徹底的に封じ込めたと。確かに凄いと言えますね」

 

 この場面で南野にピンチヒッター、上藤が起用される。

 

「さてと、あまり情報が無い相手だな……ここは一発」

 

 藤のサインはインコースの胸元をえぐるストレートで上藤の眼をインコースに寄せるというものだった。身体に近いボールでないといけないので当然ボール球。

 

「今度はココ」

 

 次のボールはアウトコース高めのストレート球威抜群であった。

 

「なっ!?」

 

「ファウル!」

 

 上藤はこのボールを完璧に捉えた。ファウルにこそなったもののレフト線への痛烈なライナーを放った。

 

「マジかよ……もっとインコースに眼付けするようなリードしときゃよかったか? しかも末松先輩のアウトコース真っ直ぐを引っ張るとか只者じゃねえぞこの人……さっきは真っ直ぐのサインしか出さないって言ったけど考え直すか?」

 

「こういうヤツこそストレートで討ち取りてぇんだよ。さっさとサイン寄越せ」

 

 藤に若干の迷いが出た。その迷いの中出されたサインはインコース低めのストレート。

 

「くっ!」

 

 迷って出したサインのボールではあまり効力は望めない。上藤のバットが一閃、ボールはセンター前に弾むクリーンヒットとなった。

 

「タイム!」

 

 ここで藤はタイムをとってマウンドにいった。

 

「すいません、今の球迷いました。完全俺の責任です」

 

「大丈夫だよ。こっから迷ってる暇なんてねえよ」

 

 しかし場面は1アウト2塁1塁で迎えるのはクリーンナップ、最後にして最大のピンチを迎えた。

 

「末松先輩……」

 

 レイチェルがベンチで心配そうにスコアブックをつける。吹本や他の選手たちも固唾を飲んで見守るしかない重苦しい空気が漂う。

 

「末松くーん! だいじょうぶ! 末松くんならゼッタイやれる! ここからぜいいん(全員)さんしんだー!」

 

「ウララ先生……」

 

 その空気はウララの言葉によって浄化された。

 

「先生の言うとおりだ! 末松ならやれる! いけー末松ー!」

 

 有賀がそれに感化され声援を送ると下級生たちも釣られてノッて、声援を送り始める。

 

「どうやら高実(相手)を小さく見過ぎていたようだな」

 

「そうですね。末松1人のチームだと聞いていましたがこれほどまでに強いチーム。甲子園でも中々相手にする機会はないですね」

 

 伊藤と氷谷はその様子を反対側で見ながら高実が末松征隆のワンマンチームだという当初の評判とは違う強豪になりつつあるチームであると同時に、有田商工の今後を占うのであった。

 

「認めるよ君たち(・・)のこと、だからこそ本気で相手してあげる」

 

 相当に真剣な表情で高鶴は末松に鋭い眼光をぶつけた。

 

「へぇ、本気(ガチ)じゃん。あの眼」

 

 高鶴の纏うものは前年の夏の甲子園で自分と対戦した時のそのものだと三宅は言う。

 

「末松さんも、表情はよく見えませんがあの後ろ姿からは相当な『気迫』を感知します」

 

 ブルボンの言うとおり、末松も並々ならぬ気迫で初球を投じた。

 

「ファウル!」

 

 末松のストレートに完全についていく高鶴。ボール球は見送り、厳しいコーナーに決まったボールでさえ完璧に打ち返す。カウントは2ボール2ストライク。

 

「どうする……投げるコースが無い。高鶴さん(この人)に末松先輩の変化球はもう通用しない……いや、無い訳じゃない。避けてきただけ、でもここ(・・)への配球はキャッチャーが考えるのを放棄したも(おんな)じ、それでいいのか? いや違う、これは先輩のボールを信じるんだ」

 

 そして藤はサインを出した。末松は一瞬いた表情をする。

 

「死なば諸共、最高のボールをください!」

 

「こいつ、勝手に俺を道連れにして死ぬ気だな……させるかよ!」

 

 そのサインに頷き、末松がピッチングモーションを起こす。

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

 高鶴は手が出なかった。文字通り最高のストレートがど真ん中に決まり見逃し三振に討ち取った。

 

「ちっ……」

 

 ベンチに戻る前にネクストバッターズサークルの今本と言葉を交わす高鶴。

 

「どうしたんだよ? なんか変化したのか?」

 

「違う、ど真ん中に真っ直ぐ叩き込んで来やがった。さっきまでの比じゃない。ガチでいったほうがいいよ」

 

 ど真ん中とは基本的にバッターにとって絶好球でピッチャーにとっては失投といっても過言ではない。普通はこのコースに要求することはない。つまり、普通なら投げてこないボールを投げられたので呆気にとられて手が出なかったのである。

 

「監督、すいません。マメちゃんもゴメン」

 

 ベンチに戻った高鶴は伊藤と氷谷に詫びた。

 

「その割には愉しそうな顔だな」

 

 伊藤はバットを片付ける高鶴が一瞬見せたその表情を見逃さなかった。

 

「ええ、楽しみが増えましたから」

 

「甲子園で末松君()から打つって?」

 

 氷谷のその一言は沢田石を退屈させた。

 

「こんな練習試合じゃなくて、甲子園で勝負したいよ」

 

「マメちゃん、高鶴、まだ試合終わってねえから」

 

 伊藤は沢田石のこの姿勢こそが有田商工(このチーム)を高みに押し上げるラストピースであると同時に、有田商工が目になる原因ともなり兼ねない劇薬であると知っていた。

 

「ふぅーっ……」

 

 今本は1つ息をついてからバッターボックスに入った。

 

「こういう場面では誰よりも怖いバッター……だから有田商工(このチーム)主将(キャプテン)……」

 

「なぁんてこと考えてんだろうなー……」

 

 藤は一旦キャッチャーミットの腹を拳で軽く叩いて考えをリセットした。

 

「どうせこの打線と普通に勝負したら末松先輩の変化球じゃ通用しないんだ。そのための撒き餌だってしてあんだから俺らの勝負をしないと」

 

 藤の出したサインに頷き末松が投じた初球はインコース低めのストレート。ボールゾーンに外れた球だったが打ってきて三塁線へのファウル。

 

「でもある意味では今本さん(この人)でよかったかもしれない」

 

 今本のようにボール球を打つことを一緒くたに悪球打ちと呼ぶがアメリカではボール球でもヒットやホームランにすることができるバッターはバッドボールヒッターと呼び、できないバッターはフリースインガーと区別する。今本はバッドボールヒッターであり、普通ならこんな場面で迎えたくないバッターであるが藤は違った。

 

「虎穴に入らずんばなんとやら。ボール球もヒットやホームランにしてくんならコッチだって大胆に攻めてかなきゃそれこそ獲って喰われておしまい。思っ切しいきますよ」

 

 独自の理論で球界を斬るとあるプロ野球OBは、バッドボールヒッターを抑えることを「空腹の猛獣が入った檻に一緒に入って無傷で出てくるようなもの」と語っているので虎穴に入らずんばというのはある意味で正しい表現といえる。

 

「コレで」

 

 末松がサインに頷き投じられたボールはアウトコース高めのストレート。今本はこれもファウルにするが前のボールよりタイミングが外れている。

 

「よし、押せてる。ここに、最高のボールをください」

 

 藤が出したサインに末松が頷き、一息つく。

 

「くる……」

 

 今本がキッと末松を見据え構える。

 

「ここで、決める!」

 

 末松がピッチングモーションを起こし、白球が投じられた。

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

 今本のバットが空を切り、高知実業野球部は練習試合ながら13年ぶりに勝利を挙げた。




 公式戦では40年勝っていませんが練習試合では多少は勝っていた感じです。それでも13年未勝利でした。

 アンケート選択肢の詳細については第21話の前書きと後書きをお読みいただければとおもいます。

今後の高知実業(ストーリー展開)の方針

  • 目指せ!全国制覇!
  • 目指せ!模範的高校生スポーツマン!
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