ハルのウララの 2XXX海の向こうの甲子園   作:コンスタンチノープル

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 ウララの人気ならトゥインクル・シリーズ引退後にプロ野球か独立リーグあたりの始球式とかやってそうと思ったのですが、そうすると第2話の「すごーい、わたし野球場に入ったのはじめて!」というセリフと矛盾してしまうのでやってしまったなと思う今日この頃。


第38話

 高知実業も修学旅行を迎え2年生丸々1学年がいない学内に寂しさを覚える生徒や教職員も多い。なんといっても今年度はウララが受け持つ学年が行くため彼女も同行している。ウララがいるといないとでは学内も灯が消えたようである。

 

 そんな最中、校長室の電話が鳴った。

 

「えっ!! ウララ先生が行方不明!?」

 

「うえ~ん! みんなどこー?」

 

 ハルウララ、迷子になる。

 

「警察には? ……ええ、そうですか。くれぐれも生徒たちは……はい、では」

 

 京都はまだ知った土地だったので大丈夫だったが奈良は目だったようである。このあと無事保護されたが、ウララ曰く奈良公園で鹿に生徒たちと一緒になって鹿せんべいをあげていたところ囲まれてしまい、あげるものがなくなって仕方なく逃げていたところはぐれてしまったとのことである。

 

 なおウララはこの一連の流れを「シカさんたちに食べられそうになった」と語っている。どうやら噛んできた鹿もいるらしい。

 

「はい、見つかりましたか? え? 分かりました。繋いでください」

 

 ある所からアポイントメントを希望する電話が入ったのも丁度時を同じくしたタイミングであった。

 

「しんぱいさせてごめんなさい……」

 

「いえいえ、こうして無事に帰ってこれたんですから。頭をあげてください」

 

 修学旅行を終えて高知に帰ってきてからウララは何を置いても謝った。鹿のせいなどにはせず、学校の皆に心配をかけたことをシンボリルドルフの言葉を借りるとすれば、正しく誠心誠意頭を下げて回った。

 

「実は今日呼んだのは、ウララ先生が迷子になったのと同じタイミングで会いたいという電話があって、ウララ先生に一緒に会ってほしいんです」

 

「え? どんなかたでしょうか?」

 

 件の人物が高実を訪れたのは更に数日後、その場には吹本も同席している。

 

「お初にお目にかかります。森重(もりしげ)です」

 

「校長の南部です。こちらは野球部部長兼監督の吹本先生と、正式な役目にはありませんがよく試合で責任教師で入ってくれるハルウララ先生です」

 

「吹本です。ご活躍はかねがね」

 

「ハルウララです! プロ野球チームのカントクさんをしていたんですよね!?」

 

 男性の名は森重(もりしげ)政洋(かずおき)。プロ野球、埼都(さいと)インベーダーズ(Invaders)でピッチャーとして活躍し、引退後に埼都、山手(やまて)ブルー(Blue)インパルス(Impulse)(現・北海道ブルー(Blue)ムーン(Moon))、横浜コンステレーションズ(Constellations)、中京オラシオンズ(Oracions)のコーチを歴任、中京では一軍の監督を任されたこともある名伯楽である。

 

「ええ、まあ監督としては迷うほうの迷将でしたが。今日はプロの話ではありません」

 

 ウララはこの言葉の意味が理解できずフリーズしており、その間に森重が話を進める。

 

「本日伺ったのはこの冬のことです。今、四国の野球が大変関心を集めています。同世代の選手同士の交流は勿論、更なる技術の向上……高知、徳島、香川、愛媛の四国4県それぞれで代表チームを結成してキューバに遠征し、キューバの高校との交流試合を考えております」

 

「きゅーば? って、どこにあるんですか?」

 

「アメリカの右下にありますが、アメリカとは仲が悪いです」

 

 過去にも東京の選抜チームがキューバに遠征したことがある。それもそれほど昔のことではないので前例のない計画ではない。

 

「4県各選抜チームそれぞれ36人……高実からはぜひ末松君に高知県選抜チームの一員として来てもらえたら」

 

「みんなのだいひょうってことですか!? すごいすごい!」

 

「それで、高知選抜の監督は誰が?」

 

 森重によると、功董学館の片貝に要請しているとのことであった。

 

「本人の希望も聞いたうえで正式に返答させていただきますが、校長としては冬のいつにやるか伺いたいです」

 

「基本的には冬休みの間を考えています」

 

 冬休みの間なら高校野球は対外試合禁止の期間でもあり、学業にも支障が出ないことから吹本と南部は了承。ウララも快諾した。

 

「ありがとうございます。それと、これは別件なのですが……」

 

 森重の表情から、それは厄介事であることが吹本と南部は察せたのだがウララは分からない。

 

(わたくし)がプロでコーチをしていた時の選手が、息子に日本の高校で野球をさせたいと頼み込んできていまして……」

 

「『日本の』とつけるということは外国人選手の息子さんですね? 日本人ならわざわざ頼んでくる必要はないですし」

 

 吹本の指摘の通り、それは俗に「助っ人外国人」と呼ばれる外国籍の元選手が、息子も野球をしていて日本で云う所の高校に入学する年齢が近くなったので日本の高校に進学させたいと森重を頼ってきたのである。

 

「え? でも、どうして森重さんにおねがいしてきたんですか?」

 

 ウララは知らなかったが森重は中京に携わっていた間、オフシーズンに戦力補強の一環で毎シーズン、カリブ海の野球強豪国であるドミニカ共和国へ渡航し、現地のウィンターリーグを視察していた。また監督在任中は同じくカリブ海の野球強豪国、キューバとの関係構築にも精力的に活動していた。実際に森重の紹介で入団した選手は多い。

 

「つまり森重さんは外国からきた選手にとって、日本のお父さんなんですね!?」

 

「ええ、まあそう思われているかもしれませんね」

 

 そういうならとウララは聞いてあげるべきではないかと言うが事はそう簡単にはいかない。

 

「う~ん、そういう話でしたら高知なら片貝や山淵(やまぶち)にするべきでは?」

 

「? 吹本先生、ヤマブチさんってだれですか?」

 

 山淵とは瑛北義塾高校野球部の監督である。吹本はそういった話なら自分たちのような公立高校ではなく、功董学館や瑛北義塾のような私立高校にすべきではないかという意味合いで言ったのである。

 

「いえそれが……私学には軒並み断られてしまいまして」

 

「ほう、それはまた」

 

 ただでさえ私立高校には県外からの越境入学、所謂「野球留学」と呼ばれるもののイメージが付きまとう。一般的に野球留学による越境入学のイメージは芳しいものではなく、功董学館と瑛北義塾も野球留学による越境入学者は多い。この上日本国外から野球留学生を受け入れるとこれ以上学校のイメージを損なうことになると断られてしまったのである。

 

「え? なんで遠くの学校に通うのが悪いことなんですか?」

 

 トゥインクル・シリーズは地方で目覚ましい結果を残したウマ娘が中央にスカウトされ編入することはごくごく当たり前、またそれ以前に学園側が才能アリと判断した幼いウマ娘を地方のトレセン学園に入学する前にスカウトしたり、最初から中央の目指して試を受けに地方から出てくるウマ娘も珍しいことではない。

 

 ウララも多少事情は異なるが高知から中央に編入しているのでむしろ高校野球でいうところの他県の名門校に野球留学で越境入学した側で、特に中央で走っていた多くのウマ娘にとっては野球留学が悪いものであるという風潮を理解しづらいのである。といってもウマ娘がみんなそうではないことは留意していただきたい。

 

「瑛北さんには海外からの留学生もいるのですが、ほとんどが語学留学が目的で日本にやってきた学生で、野球で海外からやってきた生徒はいないんだと断られてしまったんです」

 

「まあ山淵は基本的には越境入学には断固反対の姿勢ですからね。高知県外からの生徒を受け入れているのもどうしても山淵に野球を教わりたいんだという意志と情熱を持った中学生に渋々折れる形で、どれ程かは知りませんが一般入試で合格し、入学後も学業で優秀な成績を修め続けることを必須としているとのことですからね」

 

 森重もさすがに公立高校にもっていくには無謀な案件だったと一旦置いて、別の似た案件について切り出す。

 

「実は今回のキューバ遠征についてはキューバ政府からも今後について希望を受けているんです」

 

「キューバ政府から、ですか?」

 

 キューバの野球界ではなく政府からの希望と聞くと大きなものに聞こえるがそこまで大仰なものではない。

 

「ええ、キューバ政府からも15歳以下の世代の選手を今後日本の高校に留学させたいという希望を出されているんです」

 

「あれ? せーふのきぼうってことは国のえらい人がおねがいしてるってことですか?」

 

 それはウララにとって疑問を抱かせるには充分な話であった。

 

「選手や、選手のお父さんやお母さんじゃなくて、どうして国のえらい人がおねがいするの? おかしいよ」

 

「キューバの野球選手は国家公務員として扱われていますからね」

 

 プロ野球というものはキューバに存在しない。野球リーグはあるがプロではなくアマチュアという扱いでキューバリーグの選手は国家公務員としてプレーし、国から給与という形で収入を得る所謂ステート・アマと呼ばれる体制である。

 

 そもそも国の社会体制が違うので同列に語るべきではないかもしれないが日本でいえば自衛隊や警察で野球チームを持っている組織もあるのでこれが近いかと思う。大日本帝国の時代には戦艦大和に有名な旧帝国海軍呉海軍工廠の硬式野球部が都市対抗野球大会に出場したこともある。

 

「政府としては、長年の懸案事項である選手の亡命を予防する目的で今回の希望を出したとのことです」

 

「ぼーめーって、なんですか?」

 

「そうですね……他の国に逃げて、キューバ人を辞めますって宣言することです」

 

「えぇーっ!?」

 

 キューバにはトゥインクル・シリーズがない。そのため、キューバのウマ娘がスポーツをやる場合は格闘技が基本である。このため、キューバで「知っている日本のウマ娘は誰か?」と聞くとレスラーを父にもつエルコンドルパサーがダントツで、次点は父が日本の伝統格闘技である相撲の力士であるサクラチヨノオーと、いかにキューバにおいてウマ娘の走りというものに対する関心が低いかということが表れた結果になっている。

 

 しかしキューバに走ることを望むウマ娘がいない訳ではなく、希望する者はキューバと比較的友好関係にあるカナダへ転籍させてくれるケースが殆どで、比較的に容易であるためわざわざ国を捨てるというほどの決断をする必要はない。また、都留岐涼花とソノンエルフィーによってU.A.F.が立ち上げられると参戦を希望するキューバウマ娘も少なくないと言われている。しかし人間の、野球選手となると事情は全く異なる。

 

「どうして人はぼーめーしなきゃダメなんですか!?」

 

「こればかりは『どうして』と言われましても難しい問題なんで答えようが……」

 

 一見すると人間には厳しく、ウマ娘には優しい扱いをしているようにも思えるが、見方を変えると人間は亡命されては困る重要な存在だとしている反面、ウマ娘はキューバ国外に流失しても大して問題ないと軽く扱われているともとれる。人間とウマ娘の扱いが異なることについて、キューバ政府は現在の体制になって以降公に明言していない。




 多分この作品のオグリキャップがプロ野球に興味を持っていたら森重さんのことは知っています。あと競馬ネタ的にプロ野球チームの名前に「オラシオン」という言葉を使いたかった。予想よりも大分早く設定していたプロ野球チームの名前を登場させる展開になりました。

 ここからは本当に急展開、書き出すまで全然このストーリーは考えていませんでした。低評価の嵐を覚悟の上で思い切って壊していくので「ご都合主義」と「チート」のタグを追加します。

 アンケート選択肢の詳細については第21話の前書きと後書きをお読みいただければとおもいます。

今後の高知実業(ストーリー展開)の方針

  • 目指せ!全国制覇!
  • 目指せ!模範的高校生スポーツマン!
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