ハルのウララの 2XXX海の向こうの甲子園   作:コンスタンチノープル

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 遅くなってしまい申し訳ございません、第37話の前書きでお話しした通りハーメルン以外のプラットフォームでの活動が忙しく、今後のストーリー展開について情報収集や対戦相手の情報をまとめたりなどで話し込んだりで、3月ごろまでは忙しく、更新が滞ることが増えてしまうこと、ご容赦ください。


第44話

 末松がスペシャルドリンクを紙コップ1杯グイっと飲んでから3回表のマウンドに上がる。

 

「アウト。スリーアウト、チェンジ」

 

 この回末松は先頭の沖をライトフライ、続く堀口と里辺をショートゴロに討ち取ってこの回の守備を終える。

 

「末松くん! ナイスピッチング! さあみんな! はりきっていこー!」

 

 しかし先頭の碓井は敢え無くセンターフライに討ち取られ打順は1番の高海に帰る。

 

「このままじゃ消耗戦になる。そうなると高実(ウチ)が不利だ……ここはいっちょ」

 

 高海はいつもよりバットを指1本分短く握りミートに徹する。

 

「ボール」

 

「ちっ……やっぱ今日のホリは荒れてるな……早いトコ立て直してもらいてえんだけどな」

 

 あからさまボールが続く。いくら功董に有利な判定をすると噂されていてもそこまでストライクゾーンから外れたボールはストライクにできない。

 

「ボール。ボール・フォー」

 

 高海がフォアボールで出塁し、続く打席には加納。

 

「俺のバッティングじゃまだ太刀打ち出来ねえ。だったらここは……」

 

 初球、加納はセーフティバントを仕掛けたが打ち上げてしまいキャッチャーフライに倒れた。

 

「考えたようだがまだ足りないな」

 

 ベンチに戻った加納に吹本が落ち着いた口調で叱責する。

 

「相手投手は3回までに四球を3個出している。制球が定まっているとはいえないからバントなら初球からいきなりセーフティバントをするのではなく構えだけで揺さぶったほうがよかったな」

 

「すいません……」

 

「だいじょうぶだよ! 加納くんは自分でかんがえてしたんでしょ? だったらいいんじゃないですか?」

 

 ウララは団体競技との関りはなんだかんだ薄い。こうして野球部には携わっているがそれでもこうした面への意識が若干足りていない。

 

「いえ、ウララ先生、ウマ娘のレースとは違って野球というスポーツは1つのプレーとプレーの(あいだ)()があります。その()に監督や捕手がサインを出してプレーするスポーツですから選手は可能な限りサイン通りにプレーをしようとしなければいけません」

 

「うーんと……えーっと……」

 

「ウララ先生もレース前に『今日のレースは差しで走って』ってトレーナーさんから言われたら無視して逃げを打ったりしませんでしたよね」

 

「あ! そうだね! わたしもトレーナーに言われたことはちゃんと守ってたよ!」

 

 レイチェルがウララも納得する最適解を出してきた。

 

「一番目なのは出されたサインを無視すること。同じぐらい目なのが出されたサインを見落とすことです。今、加納には『打ちにいけ』というサインを出していました。『打て』のサインでバントをするのはサイン無視や見落としの中でも多めにみられることが多いですがそれでも無視や見落としに変わりはありません。ですがこれは私も悪いです」

 

「えっ!? どうして吹本先生がわるいんですか?」

 

 吹本の言葉通り、打てのサインが出ている時にバントをすることはそこまで悪く言われない。だが選手がバントしたいと思った時に選手側から出すサインを予め決めておかなかったことは自分の過失だったという訳である。

 

 続く舘もショートへのイージーフライに討ち取られこの回の攻撃は終了。

 

「2巡目ですよ。気を引き締めてきましょう」

 

 藤は相変わらず機嫌が悪い。

 

「この試合、勝ったな」

 

(アキ)にしちゃ珍しいこと言うな? どうしたんだよ?」

 

城ヶ崎(ジョー)向こうのキャッチャーの顔見てみろよ。あんな不貞腐れた顔でマスク被ってんならこの試合は頂いたようなもんだよ」

 

 城ヶ崎は別に藤は沖と大して変わらないと思ったが野球にはキャッチャーのノせるのはご法度といわれるほどキャッチャーの出来は試合に関わると云われているので今機嫌のいい沖の気分を悪くするようなことを言うのは得策ではないと考え飲み込んだ。

 

「ファウル!」

 

 4回表の先頭バッター塩畑はこの打席で鋭いファウルを連発する。

 

「マズいな……一通り対戦して塩畑さんが断トツでタイミング合ってるな……ここら辺で1球使っておいたほうが良いな。次コレ、カウント余裕あるんでボールでいいです」

 

 藤のサインに頷き末松がピッチングモーションを起こす。

 

「ストライク。バッターアウト」

 

 丁度真ん中の甘いコースから落ちるスプリットが決まり厄介な塩畑を空振り三振に討ち取ることができた。続く淀井をサードゴロに討ち取り、漆嶋と肩を並べる人気と実力を誇るメジャーリーグ超一線級のスラッガー、溫をバッターボックスに迎える。

 

「ストライク」

 

「ちょっとちょっと……サイン通り投げてくださいよ全く……にしても、末松先輩は溫さんの時は他のバッターよりもボールがノッてるな。よし、ここはヘンに変化球要求するよりも真っ直ぐで押し通そう」

 

 次のボールも藤はストレートを要求したが末松のボールはインコースに抜けてしまった。

 

「ヒット・バイ・ピッチ!」

 

 球場中から大ブーイングの嵐、身体に直撃したわけではない。ユニフォームをかすっただけなのだがそれだけで酷い野次を飛ばす観衆もいるものだから思わず岸井が断ってからウララの耳を抑えて塞いだ。

 

「岸井くん、大丈夫だよ。このくらいは慣れているから」

 

 ウララは自分に対するブーイングを理解出来ないというわけではない。最初の内は確かに理解することが出来ていなかったが、自分が勝てないことが却ってトゥインクル・シリーズどころかウマ娘界を飛び出しあらゆる者を巻き込んだ「ハルウララブーム」にまで拡がるころには自分に対して向けられた心無い言葉も理解できるようになっていた。

 

 そういった言葉を受け止めて、そういう事を言うウマ娘や人たちのためにこそと走り続けたハルウララというウマ娘はシンボリルドルフにも引けを取らない優駿であると断言できる。回りくどくいってしまったがウララは鋼のメンタルを持っているということである。

 

「ウララ先生は大丈夫かもしれないですけど……」

 

 レイチェルはグラウンドに立っている選手たちの心配をしながらスコアブックの溫の打席にデッドボールと書き込んだ。

 

「悪いことをしたな……避けきれないボールじゃなかったから避けられなかった(こっち)が悪いのに」

 

 ファーストベース上でそう溫の言葉を聞いたファーストコーチスボックスに立つ来生は愕した。

 

(オンちゃん)が避けられると思って避けきれねえって末松の奴(あのヤロー)なんちゅう球投げてんだ」

 

 歓声と怒声が入り混じる中、漆嶋がバッターボックスに入る。

 

目だ。漆嶋(このバッター)はどんな手も超えてくる」

 

 末松は藤が出した変化球のサインに首を横に振った。

 

「ファウル!」

 

 漆嶋は末松のストレートにアジャストしている。痛烈なファウルをレフト、ライトに何本も放つ。

 

「完全についてきている……でも末松先輩の変化球じゃ漆嶋さんは抑えられない。行くか」

 

 意を決して藤が出したサインに末松は頷きピッチングモーションに入る。

 

「あっ!」

 

「ストライク。バッターアウト」

 

 この場面で漆嶋を空振り三振に討ち取ってこの回の守備を終えた。

 

「さっきのはどんな魔球なんだ……?」

 

 漆嶋が思わず藤に聞いた。

 

「ただのストレートですよ」

 

 藤は漆嶋が空振りの勢いで脱げて左バッターボックスの端まで飛んだヘルメットを拾い上げて漆嶋に渡しながら答えた。

 

「ど真ん中だってことは絶対言わないでおこう……」

 

 ストレートど真ん中。正に真っ向正面の力勝負でウマ娘で例えるならUS9ランクともいって差し支えない漆嶋を空振り三振に討ち取ってみせたのである。

 

「ったく……三振に討ち取ったのはこっちだぞ……」

 

 相変わらず藤は機嫌が悪い。が、今度ばかりは当然。空振り三振に討ち取った末松ではなく、三振させられた漆嶋のほうがスタンディングオベーションを浴びている。空振り1つとっても、全力フルスイングでヘルメットが脱げ飛ぶ漆嶋は常に熱狂の渦の中心にいる。

 

「ウララ先生と似てるかも……」

 

 と、ポツりと呟いたのは有賀であった。

 

「どこがですか!」

 

「んやな、三振しても大歓声なとこと勝てなくても人気者だったとこがちょっとね……」

 

「どっちかって言ったら功董(向こう)の連中全員全盛期のシンボリルドルフやオルフェーヴルっていったほうが正しいんじゃないですか?」

 

「えぇっ!? そうなの!?」

 

 ウララはこの岸葉の一言でようやくこの試合の対戦相手がどれほど強大な相手であるかという事が理解できたのである。

 

「ま、日本一目指すってなら避けては通れない相手ですからね。じゃ、俺先頭ですからもう行かないと」

 

 意気込んでいった岸葉だったが堀口の前にサードフライに討ち取られてしまう。

 

「なんか今、たいくつそうにボールをとったね?」

 

「あぁ……漆嶋さんはフライ捕るの嫌いなんですよ」

 

「ニガテだから?」

 

 ウララでなくてもそう答えられたらそう思うのが普通である。

 

「いえ、『面白くないから』って」

 

 市居の言葉通り、続く北沢はサード後方へのフライを打ち上げたが漆嶋はショートの里辺に任せた。普通ならサードフライという打球だったが記録はショートフライである。

 

「滝山くーん! かっとばせー!」

 

 この場面で滝山はセーフティバントの構えで功董守備陣に揺さぶりをかける。普段ならこの程度の仕掛けには動じないのだが序盤からボールが荒れていた堀口はフォアボールを出す。

 

「うーん、いや、ここは……」

 

 吹本は少し思案してからファーストベース上の滝山にサインを送った。

 

「吹本先生。どうするんですか?」

 

「ここは盗塁を仕掛けずに征隆の打撃に期待しましょう」

 

「えっ!? でも滝山くんは足が速いじゃないですか!」

 

 確かに膠着状態で相手ピッチャーのコントロールは荒れていてファーストベース上には瞬足のランナーを置いているこの場面、盗塁を仕掛けるのも1つの作戦であるが吹本は得策ではないという。

 

「一般的に2死からの盗塁を仕掛けるのは射幸性が高いです。まだ中盤に入ったばかりの4回で仕掛けに行くべきではありません。それと、滝山は確かに瞬足ですが同時に捕手の沖君の盗塁阻止能力も非常に高いです」

 

「とーるいが失敗しちゃうかもしれないってことですか?」

 

 吹本はその可能性が高いからここは動かないという。

 

「つまり、あの沖くんもすごいボールを投げるってことですか?」

 

「いえ、沖君は肩が弱いわけではありませんが特別強い選手でもないです。純粋な肩の強さで言えば宇多田と羽鳥の方が強いと言ってもいいです。ですが他の盗塁阻止に関する能力が高く、技術も持ち合わせています。高校生では日本一の捕手と言っていいでしょう」

 

 しかし吹本は沖だけが盗塁を仕掛けない理由ではないという。

 

「ピッチャーの堀口君も非常にクイックモーションが巧いんです」

 

「くいっくもぉしょん?って、何ですか?」

 

 クイックモーションとはピッチャーが盗塁を防ぐためにピッチングモーションを小さく素早くしたもので現代の、特に日本球界ではピッチャーの必修スキルとされるものである。

 

「場面と相手を考えた時に、盗塁を仕掛けるのはベストではないと至った訳です」

 

「なるほど! よ~し、末松くーん、かっとばせー!」




 プロ野球の試合を3試合参考にしたところ、過去の夏の甲子園の試合で似た試合があったことを思い出す。

 アンケート選択肢の詳細については第21話の前書きと後書き、第39話の後書きをお読みいただければとおもいます。

今後の高知実業(ストーリー展開)の方針

  • 目指せ!全国制覇!
  • 目指せ!模範的高校生スポーツマン!
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