ハルのウララの 2XXX海の向こうの甲子園   作:コンスタンチノープル

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 正直なところ、この功董学館は最後の年の甲子園を懸けた高知大会の決勝で対戦するようなチームですがそこは末松征隆のモチーフとなった選手の力によりこの段階で対戦することになりました。


第45話

 盗塁が期待できる瞬足のファーストランナーに敢えて盗塁をさせないことは不利な事ばかりではない。

 

堀口(向こう)は荒れてる、走るなのサインが出てるから狙いは甘く入ってくる真っ直ぐ一本……」

 

 一般的に盗塁が警戒される場面においてはストレートが多くなる傾向が強い。基本的に変化球はストレートよりも球速が遅いため盗塁されやすくなるため変化球が少なくなりストレートが占める割合が多くなるわけである。

 

「タイム」

 

 この場面で沖がタイムを要求し間を取ってマウンドに行く。

 

「ホリ、分かってると思うけど今日のお前は荒れてる。末松(相手)の調子が良さそうだからこのままじゃタフなマウンドになる。メリーちゃんと忍に準備するよう監督に頼むから完投は考えずに行けるところまで行くぐらいのつもりでいけ」

 

「分かりましたよ」

 

「よし。ここはバッター集中。走る素振りやスタートしてきても気にするな。でもクイックはしろ。いいな?」

 

「はい」

 

 沖がキャッチャーボックスに戻りプレーが再開、末松がバットを構える。

 

「ファウル」

 

 初球、アウトコース高めのストレートをレフト線に強烈なファウルを末松は放った。

 

「よし決まった」

 

 一見押されていると思われるこの1球で沖はこの勝負の勝利を確信した。

 

「あっ」

 

 次のボール力のない打球がレフトのファウルゾーンに上がる。

 

「アウト! スリーアウト、チェンジ!」

 

「くっ……」

 

 ランナーを活かすことが出来ずに高実4回裏の攻撃は終了した。

 

沖君(向こう)に狙い球を読まれたな。投球に引きずるんじゃないぞ」

 

「吹本先生、どういうことですか?」

 

 この場面は基本的にストレートを狙うのがセオリーである。末松もストレートに狙いを絞ったが、それが初球のファウルで沖に読まれて盗塁を許しても構わないとチェンジアップでタイミングを外され力のないレフトファウルフライに討ち取られてしまったのである。

 

「むー、末松くん! ドンマイだよ!」

 

 ウララに声を掛けられて末松は5回表のマウンドに登った。

 

「アウト」

 

 先頭の未光をサードゴロに討ち取り6番の玉田をバッターボックスに迎える。

 

「ファウル」

 

 玉田はレフト線に痛烈なファウルを連発する。

 

玉田(アイツ)のあの癖は治らんもんかな……」

 

 片貝はその様子を複雑な心境で俯瞰する。玉田は典型的なプルヒッターで特にレフト線へのファウルが多い。ヒットや長打を打てているのであればプルヒッターでも問題ないがファウルになることが多いのは懸念事項であり、片貝この悪癖が矯正できれば玉田は漆嶋と溫に肩を並べるほどのバッターになれるポテンシャルがあると期待をかけている。

 

「聞き分けは良いんだがなあ……」

 

 功董野球部の他の指導者やOBたちの間でもそれは一致した意見でよく玉田のバッティングに指導を入れていて、本人も言われたことは何でも「ハイ!」と素直に聞き入れてくれるのだが、試合になると結局元に戻ってしまう。だが今のファウルを連発するバッティングも、打席でよく粘ることで相手ピッチャーの投球数を稼がせてスタミナを浪費させるため侮り難い存在であることに違いはないのである。

 

「コーナーで見逃しは見込めない。ここはコレで行きましょう」

 

 末松が頷きピッチングモーションに入る。

 

「あっ」

 

「あっ!」

 

「あっ!?」

 

 バッテリーと玉田、3人にとって想定外の出来事が起こった。

 

「ストライク。バッターアウト」

 

「ちっ……」

 

 藤の要求はスプリットだった。しかし完全にすっぽ抜けた棒球をど真ん中に投げてしまったのである。これがバッテリー2人の想定外。玉田にとっての想定外はまさかそんな絶好球が来るとは思いもよらず、呆気にとられスイングすることが出来なかったのである。

 

「まあこれは流石に」

 

 いくら功董に有利な判定を下すと噂がある審判といえど、さすがにど真ん中の球に対してボールとはコールできない。

 

「沖さん、この回抜け球増えるかもしれません」

 

「分かった」

 

 すぐさま次のバッターである沖に情報が伝達される。

 

「ボール!」

 

「くっ!」

 

 藤が思わず後ろを見上げた。

 

「どうしたのかね?」

 

「いえ……」

 

 またストライクと判定されてもいい球を岡谷球審はボールとコールしたのである。

 

「ボール! ボール・フォー」

 

 結局沖にフォアボールを与えてしまい出塁を許す。

 

「フッ……このキャッチャー、まだ娑婆僧だな」

 

「藤くん、どうしたんですかね……?」

 

 ウララも藤のいつもと違う様子に心配になり吹本に尋ねた。

 

「ふぅ……審判が功董(相手)に有利な判定をしていると思って苛立っているのでしょう。まだ冷静さを取り戻せずに『掛かった』ままの状態という事でしょう」

 

「そんな……『落ち着いて』ってアドバイスしないと……」

 

「いえ、それはお勧め出来ませんな」

 

 冷静さを欠いている時は忠告などをしても聞き入れることはなく、却って逆効果になることもあるのでやめておくべきだとウララを制した。

 

「それに、審判が功董有利な判定をしているのは恐らく合っています」

 

「え!? なんで審判さんなのにそんなことするんですか!?」

 

 ウララはシンボリルドルフの言葉を借りるとすれば、審判というのは常に公明正大な判定をしていると信じて疑わない。

 

「審判が最初から不公平な判定をしているわけではないでしょう。ですが、判定は往々にして人間がしますからその眼を味方につけることも出来るわけです」

 

 吹本が人間とウマ娘と言わなかったのは野球の審判をするには身長について最低条件が求められているためである。例えば日本のプロ野球で審判になるためには身長が175cm以上ないといけないので人間より体力・身体能力が長けているウマ娘でもこの規定のためなれないことが多い。人間の女性と身長が大して変わらないことが殆どであるウマ娘でこれを満たしているのはヒシアケボノを始め一握りのウマ娘だけである。

 

 このため、ウマ娘がセカンドキャリアでプロ野球審判員になることはGⅠを制するよりも難しいと云われている。ただし、アマチュアの場合は特に制限がないので身長160cm台の人間の女性が審判員として活躍しているので野球の審判に絶対なれない訳ではないがアマチュア、特に高校野球の場合は正式な職業ではなくボランティアであるため相当な野球好きで、中でも変わり者と言われるほどでもない限りウマ娘でなるケースは少ない。

 

 話を元に戻そう。

 

「野球の捕手は左投げでは不利なので基本的に右投げの者がやるのですが、左投手の球を捕球する場合、捕手に求められる技術はより高いものなのです」

 

 そういうと岸井がそそっと近づいてきてウララと吹本の会話に参加した。

 

「フレーミングですね?」

 

「え? コレのこと?」

 

 ウララは左手を出して薬指と小指を折り曲げて親指、人差し指、中指を伸ばして見せた。横でこのやり取りを聞いていた浅香たちはウララがその法則を知っていることを意外に思ったが、ウララも勉学に励んで教師になっているのでさすがに知っている。岸井はそうではなくと断ってウララにフレーミングについて解説を始めた。

 

「ストライクゾーンぎりぎりの際どいボールをキャッチングする時の体勢や動きでストライクってジャッジしてもらうテクニックのことです」

 

「えっ!? でもそれって審判さんをダマしてるってことなんじゃ……」

 

 岸井はそれはフレーミングの本来の目的ではないという。

 

「フレーミングのゴールはコースギリギリの『ストライク』をちゃんと『ストライク』ってジャッジしてもらう事です。メジャーリーグではフレーミングの巧いキャッチャーと下手なキャッチャーだと得失点差が40点以上も違うってデータが出ていて、これは他のテクニックによる得失点差と比べると20点、30点近く高いのでキャッチャーのスキルにおいて最も重要視されているものだって云われています」

 

「へぇ~、そうなんだ」

 

 みんなウララが岸井の話を理解したのか訝しんでいる。

 

「相手捕手の沖君はその捕球技術に長けています。一方藤はまだ未熟と言っていいでしょう。成長の余地はありますが岸井が言ったメジャーリーグの巧い捕手と下手な捕手の得失点差40以上の差が今の2人にはあると言えるでしょうな」

 

「そんな……」

 

 ウララは真剣に落ち込んだ。

 

「功董の春夏9大会連続甲子園出場の内、この直近3年間4大会の出場における沖君の功績は溫君と漆嶋君以上のものがあるといっても過言ではありません。日本中……いや、世界を見渡しても今の高校生世代で1番の捕手と言える選手ですね」

 

「アウト。スリーアウト、チェンジ」

 

 こうしてベンチで話している間に5回表最後の3アウト目を取った。沖が盗塁を仕掛け、藤がアウトにしたのである。

 

「ナイスプレー! 藤くん!」

 

「ナメられてるんですよ。沖さんは特に脚が速い訳でもないのに仕掛けてくるなんてナメてるのもいいとこですよ」

 

 相変わらず機嫌が悪そうな藤にウララはさっきの会話を伝えるのを躊躇った。吹本から言われたのもあるが生徒に面と向かってヘタだとは言いづらいのもある。

 

「さあ! 気をとりなおしていこー!」

 

 ウララは元気に選手たちを鼓舞したが5回裏、8番の藤から始まった攻撃は藤がショートゴロ、碓井が見逃し三振、高海もショートゴロに打ち取られて終えてしまった。

 

「うぅーっ、みんな! ドンマイだよ!」

 

「マズいな……」

 

 碓井の言葉にウララはどうしたことかと思った。

 

「堀口さん、ボールが安定してきだしたみたいなんです。(ヤス)、俺の見逃し三振は他の審判が裁いても三振ってぐらいコーナービタビタだった」

 

「ああ、そうだな。こうなると容易に点は獲れねぇ。マジでハードな試合になったな」

 

「大丈夫だよ! みんななら絶対勝てるよ!」

 

 こういう時にウララのこの一言は効いてくる。ナインは気を取り直して6回表の守備に就いた。

 

「堀口、この試合はピッチングに集中しろ。次の打席は打つな」

 

 片貝も堀口の調子が上がってきたのは分かっているので無理に打ちに行って折角調子を取り戻したピッチングに影響が出てはいけないと「打つな」という指示を出した。

 

「ファウル」

 

 しかし堀口は打ちに来たのである。レフトスタンドに特大ファウルを打ち込んだのであった。

 

「やっべえ。話によれば功董のバッティング練習で漆嶋さんと溫さんの次に飛ばすのは堀口さんだって云われてるぐらいだし、実際高校通算ホームランも結構多いから8番だって思わねえほうがいいな」

 

「こらこら堀口……」

 

 片貝は先ほどはベンチで口頭により伝えた「打つな」の指示を、今度はサインとして出した。

 

「分かりました分かりました。オレだって1回打ってダメなら打たないつもりですよ」

 

 堀口はその後全てのボールを見送り、見逃し三振でベンチに引き上げた。




 第12話で吹本監督と片貝監督の因縁みたいなことを書いたので対戦する時はこの2人の師弟対決として智略を巡らせた試合を展開させても良かったのですが、如何せんモチーフにした試合が監督の智略の及ばない展開だったので2人を上手いこと喋らせることが出来ていないことを反省。

 ですが、この試合は是非とも書きたかった試合の1つなのです。

 アンケート選択肢の詳細については第21話の前書きと後書き、第39話の後書きをお読みいただければとおもいます。

今後の高知実業(ストーリー展開)の方針

  • 目指せ!全国制覇!
  • 目指せ!模範的高校生スポーツマン!
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