ハルのウララの 2XXX海の向こうの甲子園   作:コンスタンチノープル

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 作中に名前を登場させた高校の中で1校モチーフの高校が市立高校だったのに話中で県立高校にしてしまったことを反省。まだ対戦もしていないですし、その1回しか名前が出ていない、高校の名前的にも市立に変更して大丈夫だったので今は市立高校に変更してあります。今後の対戦があるかわたくしも期待しております。


第47話

「そんなこと、わたしがゼッタイにゆるさない!」

 

 ギリッと奥歯を嚙み締めるウララの表情は、正にトゥインクル・シリーズで走っていた時の、レース中の表情そのものだった。

 

「ウララ先生、俺なら平気ですよ」

 

「ううん! ぜんぜんへいきじゃない! 吹本先生、末松くんを代えるべきです」

 

「ウララ先生……」

 

 ここまで声を荒らげて自分の意見を主張する、過去のハルウララというウマ娘の姿からすれば……いや、去年も同じ時期にこうして強い主張をしたことがあった。

 

「で、でもウララ先生、末松センパイが代わったら多分負けますよ?」

 

「いい! 負けてもかまわない!」

 

 ベンチの一同はその一言に愕然とした。

 

「負けても構わないって……」

 

 ウマ娘とは人間より遥かに「勝ちたい、負けたくない」という勝利への欲求、競争意識(闘争本能)を持っている。他のウマ娘と比較するとそれが薄いと指摘されたウララでも「1着になりたい」という願いを胸に走り続けていた。そのウマ娘であるウララから飛び出した「負けても構わない」という発言はベンチにいる全員を愕させるには充分過ぎる一言であった。

 

「去年甲子園で優勝しようっていったのはウララ先生ですよね?」

 

 有賀が一般の高校3年生が出してはいけない鋭い眼光をウララにぶつけるがウララは一歩も怯まない。

 

「それはね、先生だって甲子園にいきたいよ?」

 

「だったら!……」

 

 岸葉のそれ以上の発言をウララは眼で制した。ウララはかわいさだけではなく顔立ちだけで言えば凛々しさも併せ持つ。

 

「末松くん」

 

「はい」

 

 次の一言に一同固唾を飲む。

 

「このままこの試合投げつづけたら、末松くんがこわれちゃう」

 

「!」

 

 吹本はウララがこういった故障が潜み隠れるリスクに敏感であることを思い出した。

 

「それこそ知ったこっちゃないですよ。ぶっ壊れんなら勝手に壊れればいい」

 

「ダメだよ! そんなことゼッタイダメ!」

 

 甲子園を目指す高校球児の、その甲子園に懸ける想いは等しく常軌を逸しているといえる。これ以上やったら故障する、過去には試合中のプレーで腕を骨折しながら三角巾で腕を吊ってマウンドに上がった投手や、利き腕の肘を疲労骨折しながら大会全試合を完投した投手もいる。勿論現在ではそのような状態の選手をプレーさせることは認められていないが甲子園を目指す、甲子園で勝つ、そのために自分自身の野球選手としての選手生命の一生を棒に振っても構わないという高校球児が今の時代になっても後を絶たないほど、甲子園というものは魔物を孕んでいる。

 

「ウララ先生の甲子園ってそんなモンなんですか!」

 

「わたしだっていきたいよ!!」

 

 ウララはこの試合の前に抱いていた「怖い」という本能の理由が分かったのであった。

 

「でもわたしは……わたしはみんなで甲子園にいきたい!」

 

「だからここで俺が……」

 

「みんなっていうのは! みんなっていうのは、末松くんも入ってるんだよ?」

 

 ウララは、末松がこの試合の先発に指名された時から今日この試合で自分の選手生命の一生と引き換えに勝とうとしているということをその本能が察知したのである。それが「怖い」という感情になってウララを支配したのであった。

 

「この試合勝てば、あとは有賀さんと紫電で甲子園にいけるんです!」

 

「わたしは末松くんといっしょに甲子園にいきたい!」

 

 ウララは、ただみんなと一緒に甲子園に行きたいのであった。吹本が止めに入る。

 

「はいはい、止めましょう! 2人の気持ちは充分に伝わった」

 

「じゃあ!」

 

 流石にすぐには交代させられないという。

 

「他の投手はまだ準備していません。準備不足でマウンドに上げることは故障の原因になります」

 

「うぅ……わかりました」

 

 こうして言い争っている間に9回裏の高実の攻撃は、先頭の加納がピッチャーゴロ、舘はキャッチャーファウルフライ、岸葉はフルカウントからストレートを左中間にいい当たりを飛ばしたが予め左中間寄りに守っていた玉田に好捕されて延長戦に突入するのであった。

 

「高校野球の延長戦は決着がつくまで回数無制限にやります。ですが日本のプロ野球では12回までに勝負がつかなければ引き分けとします。征隆、12回だ。12回までに決着がつかなければ例えノーヒットのままでも交代させる。明捷、天童準備を始めておいてくれ」

 

「はい!」

 

 10回表、ともすれば12回で降板といわれ萎えてしまいそうなマウンドだったが末松は先頭の淀井の送りバントを打ち上げさせサードフライに討ち取り、バッターボックスに3番の溫を迎える。

 

「淀井君の送りバントを封じれたのは幸いですな」

 

「はい!」

 

 高校野球は延長10回からノーアウトランナー1塁、2塁から始まるタイブレーク制が採られている。功董の10回表の攻撃はなんでも出来る繋ぎ役の2番淀井からであるため送りバントをするのが当然であった。その小技に長けた淀井のバントさえ失敗させるほど、末松のボールはまだ球威があった。

 

「あれ? でもさいしょからランナーがいるってことは、ノーヒットノーランが……」

 

「いえ、タイブレークのランナーでもノーヒットノーランは続きます」

 

「そうなんですね! よかった」

 

 末松のここへ来ての球威には溫もくばかりである。

 

「淀井のバントを失敗させるだけある。なんてボールだ……」

 

「よし、真っ直ぐとカーブのコンビネーションが良い具合に効いてる。コレでいきましょう」

 

 藤は慎重にサインを出す。

 

「でも、あぶないってなったら交代ですからね?」

 

「安心してください。私も末松を潰すつもりはありません」

 

 この場面、溫は試合終盤からその効果を増しているカーブにタイミングを外されてキャッチャーファウルフライに討ち取られた。

 

「さて問題は……」

 

 割れんばかりの鈴なりの大歓声の中漆嶋がバッターボックスに入る。

 

漆嶋さん(この人)は……何も考えていない(・・・・・・・・)。読みとかヤマ張りとか全くしないで感性で身体がボールに反応している。真の天才バッターだ」

 

「何も読んでない、ヤマも張っていないバッターに読みやヤマを掛けても意味がない。漆嶋さんをよく観察するんだ。狙ってるボールぐらいはさすがにあるはずだ」

 

 カウントは1ボール1ストライクの平行カウント。藤がサインを出す。

 

「ここで1球外します」

 

 サインはストレートを高めに外すであったが……

 

「甘い球っ!」

 

「なっ!?」

 

「あっ!?」

 

 その高めに外れた完全なボール球を漆嶋はフルスイングでジャストミートした。

 

「嘘だろっ!?」

 

「いけーっ!」

 

 打球はレフト後方への痛烈の当たり。

 

「くっ、届けっ!」

 

 加納が必死のジャンプ。

 

「アウト」

 

「っしゃああああああ!!!」

 

 レフトフェンス際、加納寿博執念のジャンピングキャッチに球場中からため息が漏れる。

 

「ナイスプレー! 加納くん!! ほんとうにすごかったよ!!!」

 

 ウララもご満悦である。

 

「今フェンスにぶつかったけど、どこかいたいところはない?」

 

「末松先輩が頑張ってるんですからこれぐらい大したことないですよ」

 

 それはそれとして、フェンスに激突した加納を気遣うウララはちゃんと教師しているのであった。上手いぶつかり方をしたので脳震盪の心配はない。

 

 一方で吹本は10回裏先頭打者の北沢に出す指示を思案していた。

 

「バントしますか?」

 

「自信は?」

 

 北沢が聞いてきたのでそう聞き返すと口籠ったので打たせることにした。

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

 残念ながら堀口-沖バッテリーの配球の前に見逃し三振に倒れてしまった。

 

「うぅー、ドンマイだよ! かっとばせー! 滝山くーん!」

 

 1アウトランナー1塁、2塁。セカンドランナーは瞬足の舘、迎えるバッターは滝山という場面で吹本は策を弄する。

 

「頼むぞ……」

 

 吹本のサインに滝山はふうーっと一息ついてバッターボックスに立つ。

 

「表情が(かて)ぇな……ここでやってくるか? ホリ、攻め手でいくぞ」

 

 堀口がピッチングモーションに入るとランナーの舘と岸葉がスタートを切る。バントではない、ヒットエンドランだった。

 

「アウト!」

 

「あぅ」

 

「アウト! スリーアウト、チェンジ!」

 

「あうぅ……」

 

 バッターランナーの滝山は瞬足だからダブルプレーの心配はないと思いだしたサインだったが打球が飛んだところが悪かった。

 

「うぅー、次だよ次! まだチャンスはあるよ!」

 

「すまない。私の考えが読まれたようだ」

 

 実際は滝山の表情から読まれたがエンドランとは1、2塁の時に仕掛けるのは珍しく、一般的には奇襲戦術とされているがこれは1回から9回までの場合でタイブレークの場合はまた別である。

 

 この場面、功董はセカンドの淀井が2塁ベースに入り、サードの漆嶋かショートの里辺に打球を処理させる戦略を敷いてきた。その網に滝山の打球が掛かってしまい、瞬足の滝山をもってしてもダブルプレーに討ち取られてしまったのである。

 

「征隆、投げてあと2回だ。気負わずいけ」

 

「はい」

 

 高実ナインがグラウンドに散っていく様子を吹本は苦々しく見つめていた。

 

「12回まで交代させる機会を逸してしまいましたな……ウララ先生ですよ」

 

「えぇっ!? わたし、なにかしっぱいしちゃいました?」

 

 別にウララが失敗したわけではない。ノーヒットノーランを続けているピッチャーの代え時に、ヒットを1本許したらというものがある。または終盤にランナーの出塁を続けて許し、ピンチを招いたらとも、であるが延長タイブレークに突入して常にピンチの場面からイニングが始まるためその代え時が失われてしまったというのが吹本の言。

 

「ウララ先生ですよと言ったのは、選手の異常に敏感であるウララ先生の眼が12回までの代え時を測る頼りだということです」

 

「わかりました。末松くんの投げる姿、ちゃんとみておきますね!」

 

 11回表、この回功董は先頭バッターの未光にピンチヒッターを起用してきた。

 

「うーん、ここで丹波君ですか……」

 

「すごい選手なんですか?」

 

 丹波宗次郎という選手は漆嶋のサードの控えで他のポジションも不動の陣容で堅められているため、公式戦出場機会の多くはピンチヒッターで占められている。謂わば漆嶋の影の存在であるが、中学時代は漆嶋のライバルとして双璧を成す名うてのサードで、レギュラー争いで漆嶋に後塵を拝す現在もその実力は並みの甲子園上位進出常連の名門校であっても3番バッターか4番バッターを任されるほどはある実力者である

 

 それほどまでの実力者がこの場面まで功董のベンチに残っていて、片貝はここで満を持してそのカードを切ってきたのであった。




 またハルウララがいわなそうなことを言っていますが、今回の話はわたくし自身でいうのもなんですが中々の出来だと思います。

 アンケート選択肢の詳細については第21話の前書きと後書き、第39話の後書きをお読みいただければとおもいます。

今後の高知実業(ストーリー展開)の方針

  • 目指せ!全国制覇!
  • 目指せ!模範的高校生スポーツマン!
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