ハルのウララの 2XXX海の向こうの甲子園   作:コンスタンチノープル

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 まだ第48話の次回予告風後書きの内容を全て消化しきれません。もう少しかかります。


第50話

「それで、キミにどんな魂胆があったのか。聞かせてもらおうじゃないか」

 

 キャッチャーというポジションは9つあるポジションの中で、唯一他の8つのポジションに向かい合って構える。その求められる役割から、「司令塔」、「扇の要」、「グラウンド上の監督」などと称され、いかなる状況でも慌てたり短気を起こしたりするようなことはせずに、シンボリルドルフの言葉を借りるとすれば慎重居士で常に冷静沈着な態度を以って振る舞うことが理想とされている。

 

 そうすることが良いキャッチャーの必須条件であるにも関わらず、眼前の藤は冷静さを欠いた振る舞いを意図的に行ったという事に沖は例えそれがブラフであったとしても強い関心を抱いた。

 

「沖さんは自分のペースに審判を引き込んできますから、審判の判定が功董有利に進むことは珍しくないです。今日の試合、特に沖さんのペースに引き込まれやすい人たちが審判してましたから、審判の判定は終始功董に有利な判定がされてました」

 

「ほう、それで?」

 

「功董の過去の戦いで、沖さんが正捕手になってからは審判を沖さんのペースに巻き込んで有利な判定を得て、それによって相手は冷静さや平常心を失って自分たちの戦いが出来ずに自滅ってパターンは何度も観てきましたから」

 

 この言葉で沖は藤の意図に気が付いた。

 

「成程、つまりキミは僕のペースに高実の選手たちが呑み込まれないように自分が率先してキレた。って事かい?」

 

「え? どうして藤くんがおこるとみんな沖くんのペースにのみこまれないの?」

 

 ウマ娘であっても人間であっても、自身が怒りなどの感情で冷静さや平常心を欠こうとしている時に身近に自分よりも怒りの感情を露わにしている者がいると、却って自分は冷静な心持ちでいられることがある。

 

 藤は司令塔である自分が敢えて冷静さを欠いた態度を見せることで、他の選手たちの平常心を保とうとしていたのであった。

 

「でもそれは……ハッキリ言って、博打もいいとこじゃないかい?」

 

 沖の言う通り、自分の身近に怒れる者がいたとして冷静になれる者ばかりではない。藤に同調して平常心を失う者がいても何ら不思議ではないこの策は、どちらに転んでもおかしくない大博打だったと言わざるを得ない。

 

「そうですね。でも何も策を講じないよりかはマシだと思ったんで、それに……」

 

「それに?」

 

「失敗しても高実(ウチ)にはウララ先生がいますから。最悪、ウララ先生がなんとかしてくれると思って」

 

「えぇっ!? わたし!?」

 

 高知実業のベンチにはハルウララがいる。それは藤にこの大胆不敵ともいえるハッタリをかまさせるには充分な後押しとなる要素であった。

 

「そうかぁ」

 

 そういうと沖はウララににじり寄りその桜の虹彩をじっと見据えた。

 

「ハルウララ先生、貴女でしたか」

 

「わ、わたしにそんなスゴい力はないとおもうよ?」

 

「いえいえ、ご謙遜なさらず。それはそうと藤君」

 

 沖は一転、藤に向き直った。

 

「キミはまだまだ娑婆僧だよ。キャッチングが全然なってない。今のままじゃチームのお荷物もいいとこだよ」

 

「ちょっとキミ! おにもつなんてヒドいこと言っちゃダメだよ!」

 

「ハルウララ先生。厳しい事を言うようですが、ここで頑張れないようなら藤君は先が知れています」

 

 脇で話を聞いていた羽鳥がウララを宥める。

 

「ウララ先生、監督だって藤と沖さんのキャッチング技術は大分差があるって言ってたじゃないですか。ここは」

 

「あぅ……」

 

「藤君、全部を教えるほど僕もお人好しじゃない。取り急ぎキミに必要なスキルを1つだけ……」

 

 藤は顎に手を当て首を一捻りしてから答えた。

 

「よし、サウスポーのクロスファイアを受けるコツを教えよう」

 

「え!? なにそれ! かっこいい!」

 

 これ以上ウララをフリーにすると収拾がつかなくなると思った羽鳥がウララの口を塞ぐ。羽鳥もそのコツとやらを聞きたいというのもある。

 

「サウスポーのクロスファイアを受けるコツ、それは……」

 

 沖が左腕をスッと前に出して捕球する時のような手の動きを見せる。

 

「親指の丘で球威を押さえ込み、ねじ伏せる」

 

「ナルホド……」

 

「でもすぐには出来ないよ?」

 

「えぇっ!? せっかくおしえてくれたのになんで!?」

 

 それは努力と経がまだ足りていないから実践できるレベルにはないということだった。

 

「右バッターのインコース、左バッターのアウトコース攻めるクロスファイア。これはサウスポーにとっては生命線、だけどこのサウスポー独特の球の軌道は、キャッチャーにも高いキャッチングのテクが必要なんだ。何でか分かるかい?」

 

「えっと……人体の、ウマ娘もですが、構造上この方向の力に弱いから。ですか?」

 

「その通り! だから球威をねじ伏せるんだ。ピッチャーの力だけじゃ決して威力は発揮されない。キャッチャーの力が大切になってくるんだ。そのためには球の力に負けないトレーニングと経を重ねなきゃいけないからすぐには出来ないっていうんだ

 

「へぇ~」

 

 こっそりと羽鳥も聞き入っている。

 

「僕はね、トレーニングを重ねて、キャッチャーミットじゃなくてボクシングのミットでも球を落とさないまでやれるようになった」

 

「えぇーっ!? ボクシングのミットで野球のボールがとれちゃうなんてすごいすごい! ねぇねぇ! どんなトレーニングをしたの!?」

 

 ウマ娘はトレーニングの一環としてボクシングのメニューを取り入れることも珍しくない。ウララもボクシングのミットがどんな形をしているか知っているので素直に沖の凄さを理解することができたのであった。

 

「えっと……我流ですが、左の手首に紐で鉄アレイを吊り下げてキャッチングの姿勢を長時間キープするってトレーニングを。最初は短い時間から初めてくださいね?」

 

「うーん、でもいいんですか?」

 

 ここで羽鳥が一連の沖の言動を疑問に思う。

 

「え? 何が?」

 

「さっきは、沖さんだって『自分の手の内を相手のキャッチャーに明かすもんじゃない』って言ったじゃないですか。ご丁寧に自分のトレーニング方法まで教えるなんてことして。そういう話って普通は後輩のキャッチャーに教えるもんじゃないんですか?」

 

「あー、いいのいいの。僕はいいんだ」

 

 沖は一呼吸置くと、アグネスタキオンのように生気の抜けたような瞳で答えた。

 

「僕、功董学館(自分のトコ)の後輩のキャッチャーたち嫌いだから」

 

「うえっ!?」

 

「こらっ! ダメだよ! 自分のこーはいなんだからちゃんと……ちゃんと……そう! コミニュケーションをとらないと、きっとさみしいって思ってるよ?」

 

 ハルウララはコミュニケーションが言えない。

 

「だってどうやっても嫌いなヤツは嫌いなんですもん。今教えたことや、他のことも、後輩たちには教えてあげないつもりだからさ、次功董(ウチ)と試合する時は吉貞たちを完膚なきまでぐうの音も出ないぐらい叩き潰してやってよ」

 

「は、はあ……」

 

「うん、じゃあ僕は最後の目的が果たせて満足したから帰らせてもらうよ。高校最後に最高の試合をさせてくさて、ありがとね」

 

「うん! じゃあまたねー!」

 

 ウララの「じゃあまたね」という言葉に振り向き際に若干憂い気な表情を浮かべながら沖は嵐のように去っていった。

 

「ウララ先生、高実(ウチ)もそろそろ引き上げる準備をしましょう」

 

「あ、吹本先生! そうですね」

 

 吹本が全員を集めて今後のスケジュールについて説明する。

 

「これから3つのグループに分かれて行動しようと考えている」

 

 まず第1グループは吹本とともにこのまま球場に残り、これから行われる次の試合の対戦相手が決まる試合を観戦する。

 

 第2、第3グループはウララ引率の下一旦高実に戻り、第2グループは更にウララが引率して今朝緊急入院した宇多田の見舞いに行く。第3グループは学校でそれぞれ座学の自習という振り分けがなされた。

 

「ただし征隆は延長11回を完投したことを考慮してどのグループにも入らずにそのまま自宅に帰って充分休養をとるように」

 

「はい」

 

「末松くん、ちゃんとお休みしなきゃダメだからね?」

 

 ウララからも釘を刺されたので末松は大人しく家路に就いた。

 

「さて、有賀。お前は次の試合で先発させるから私と一緒に次の試合を観戦するグループだ」

 

「はい!」

 

「藤、羽鳥、沈。捕手の3人も同じく観戦だ」

 

「はい!」

 

「他の者は自由に決めてくれ」

 

 以下、胡、天童、市居、岸井、五十風は観戦組。高海、舘、北沢、加納は見舞い組。滝山、碓井、岸葉、蔣、浅香、レイチェルは自習組と決まった。特に2年生3人は安静が必要だろうと思われるところに上級生の自分が行くとゆっくりできないと慮って観戦組と自習組に分かれた。

 

「ウララ先生、では生徒たちを宜しく御願いします」

 

「はい! 任せてください!」

 

「大丈夫ですよ。オレたちがついてるんですから」

 

「もー! 先生はわたしなんだよ!」

 

 そんな軽妙なやり取りをしてウララは見舞い組と自習組の面々を引き連れて学校に向かった。

 

「さて、行ったか」

 

「ええ」

 

「次の試合は……」

 

 こうして吹本たちは次に行われる試合の席を確保しにスタンドに向かった。

 

「じゃあみんなはしっかりお勉強しててね!」

 

「俺は担任に授業に入れるように頼んでみます」

 

「わかった! じゃあみんな、びょういんに行こう」

 

 そしてウララは高海、舘、北沢、加納の4人を連れて宇多田が入院する病院へやってきた。

 

「あ、宇多田くんのおかあさん! もう大丈夫なんですか?」

 

「ええ、私は軽い方で。息子は念のため一晩入院して様子をみることに」

 

 幸い宇多田家に大きな被害は無かった。宇多田は当人の事情が事情であることを考え、一晩検査入院をすることになったが明日には退院できるだろうとのことであった。

 

「もう、大げさなんですよ本当に。全然平気ですって。なんなら今すぐに練習してもいいぐらいで」

 

「むー! ダメだよ宇多田くん! しっかり寝ておかないといけないんだよ!」

 

「てかお前さぁ、試合の前の晩に牡蠣なんて普通喰わねえよ」

 

 舘から手厳しいツッコミが入った。高海、北沢、加納も同調する。

 

「普通そういう時ってニンニクじゃねえの?」

 

「いやだって臭いが……」

 

「真面目かっ!」

 

「だって、ウマ娘は人間より鼻が利くっていうからウララ先生とか目なんじゃないかと思って」

 

「あー、うん……先生ちょっとダメかもしれないなあ……」

 

 ウララの正直な告白に腰砕けになる一同であった。




 高知実業のこの準々決勝功董学館戦が行われたのは準々決勝の4試合を2試合ずつ計2日に分けて行われる高知大会の準々決勝最初の試合です。なので高知実業は翌日に休みを挟んでから翌々日に準決勝に臨みます。

 なので1日待つことになります。準決勝までにもうちょっと話があります。

 アンケート選択肢の詳細については第21話の前書きと後書き、第39話の後書きをお読みいただければとおもいます。

今後の高知実業(ストーリー展開)の方針

  • 目指せ!全国制覇!
  • 目指せ!模範的高校生スポーツマン!
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