ハルのウララの 2XXX海の向こうの甲子園   作:コンスタンチノープル

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 瑛北義塾の山淵監督は以前中央トレセンのトレーナーでスーパークリークを担当していたと書きましたが、この2人の関係は特殊というか厄介。

 まず、他の多くのクリークを担当するトレーナーたちとは違い、山淵さんはミスターシービーを三冠ウマ娘にした実績が既にあるので、風当たり自体はそこまでキツくなかったのですが、シービーは自由を愛するウマ娘で、当時新人だった山淵さんはシービーのやりたいようにやらせたら結果三冠ウマ娘になっただけで、自分に力がない事こそ理解してはいましたが実績だけ大きいものをもらった実質新人同然のトレーナーでした。

 クリークとともにトレーナーとしての力を積み上げていく中で、2人の関係はクリークが多くのトレーナーやウマ娘たちに求めるような甘えさせようとしてきたり、でちゅね遊びを山淵さんに求めることが無く、更に進んだ熟年主婦のような間柄で、山淵さんは後に多くのモブウマ娘たちのチームを担当することになり、その時にモブウマ娘たちが甘えさせたりでちゅね遊びのターゲットになっていました。この頃のクリークは女将さんのような感じです。

 ただ何より厄介なのは、傍から見たら熟年主婦のような間柄なのですがこの2人、心の底の芯の部分から通じ合ってはいないのです。互いの事を尊重して信用はしているのですが、自分にも譲ることのできない矜持のようなものがあってそこの部分で分かり合えなく、互いを頼る信頼というものがないのです。

 お互いに芯が強いからこそ認め合って信用する熟年主婦のような間柄なのです。


第55話

 あまりにも普通に、簡単な打球を捌くかのように西江が天童の打球を処理したため、ウララはそれがごく普通のプレーのように見えた。

 

「あの打球を捕られては仕方ない。切り替えろ」

 

「はい……」

 

「えっ!? どうしたんですか?」

 

 同じショートの碓井が今の西江のプレーがいかに凄いプレーだったかを説明した。

 

「多分、今の俺たちレベルじゃ必死に飛びついてギリギリ止めるのが関の山で、アウトにはできないですよ」

 

「それじゃあ、来年……ううん、3年生になるときには碓井くんたちも西江くんみたいなプレーができるようになれるようがんばろう!」

 

「あの守備が常に出来る選手になれば甲子園は夢物語ではなく手が届く目標になる。手本にすべき選手は西江と浜崎以外にも高知には多くいるぞ」

 

 吹本の言葉通り現在高知県下の名門、強豪と称される有力校の二遊間にはプロ注目の守備力に長けた選手が多く鎬を削っている。例えば高実が前の試合で激戦を繰り広げた功董学館の淀井と里辺の2人もそうした選手たちの1人に数えられる。

 

「やっぱりセンターラインは要ですからね」

 

「え? センターラインは道路にある線でしょ?」

 

 公道に専用レーンがある場所も珍しくないウマ娘のウララにとって、センターラインといえば車道の真ん中を分ける白線のことである。

 

「野球においてセンターラインというのは守備の際に特に重要と位置付けられる守備位置のこと指し、投手、捕手、二塁手、遊撃手、中堅手の5つのことを合わせてセンターラインと呼びます」

 

 今対戦している瑛北義塾の山淵監督のように野球はピッチャーで70%決まるという者がいるほど、中でもピッチャーは守備力の中でも投手力と独立した評価をされることが多いため、敢えてセンターラインの1つとして数えない場合もある。しかし吹本からそう言われたウララはしばし頭の中で考えを巡らせた。

 

「じゃあ! 高実(うち)のしゅびも、てっぺきの守りだね!」

 

「えっ?」

 

「あれ? またまちがえちゃった? 守りが上手な選手やチームのことを、『てっぺきの守り』っていうんだよね?」

 

 ウララからの思わぬ一言に、吹本はいて目を見開き、そして試合中にもかかわらず柔らか笑みを見せた。

 

「えぇ、ウララ先生の仰る通り。皆も聞いてくれ。高実(うち)は決して運が良かったからとか、マグレだけで準決勝(ここ)まで勝ち上がってきたチームではない。名門や強豪と呼ばれる相手にも堂々と渡り合える実力を持っている。この前の功董との試合だって征隆1人の力で勝ったように言われているが、高実(うち)の失策数がゼロだったから勝てたんだ。この試合もいつも通りの平常心を心掛ければ必ず勝てる」

 

 そして一瞬笑みを見せたのちに引き締まった顔付きで吹本が選手たちを鼓舞すると、ウララもその言葉に続いた。

 

「そうだよみんな! えっとね……そう! こんなにすごいチームと1番を目ざして勝負できるってことはとっても、とっても……幸せ! そう、幸せなことなんだよ! だから今日の試合もみんな楽しもう!」

 

 ウララの言葉は、既にバッターボックスに立つ沈の耳にも届くほどであった。

 

「『強い相手との勝負を楽しむ』今の俺たち台湾の野球人が忘れかけていたことだ」

 

「ボール!」

 

 的射のボールは初球、2球目とボールが続く。沈はこの打席、ボールがよく見えている。

 

「メジャーリーグで超一流の活躍をする選手の登場、トップチームが日本と国際試合で互角の勝負を繰り広げたことで台湾の野球人(おれたち)は自分たちを強いと思い込んでいた。それ自体は悪いことじゃない」

 

「ストライク!」

 

 3球目はストライクだったが、ある程度の好打者でもファウルか凡打にしかならないボールだったので、追い込まれていないこの場面は見送るのがベターである。

 

「でもだからこそ忘れかけていた……」

 

 4球目。ボールはアウトコース低めのストレート。ストライクともボールともどちらに判定されてもおかしくない絶妙なボールだった。

 

「挑戦者の、攻めの姿勢を!」

 

 その絶妙なコースのボールを沈のバットが一閃した。

 

「好っ!」

 

「ナイスバッティング! 沈くん!」

 

 打球はライト照井の前に弾むお手本のような流し打ちのクリーンヒット。高実、この試合最初のヒットが出た。

 

 それを見ていたネクストバッターズサークルの有賀が軽く素振りをする姿を見た吹本は、急遽作戦を変更する。

 

「今の有賀はバットが振れている。送らせるよりも普通に打たせたほうが良い」

 

 決して打力があるわけではないが、吹本はその姿に「何か」を感じたのだった。

 

「! ……ヒッティングのサイン。この場面、強行策として一番されたら嫌なのは……」

 

 今度は有賀がサインを送った。

 

「成程、そうきたか……」

 

「吹本先生、今のって……」

 

「ええ。よし、やってみろ」

 

 今度は吹本からそのサインが送られ、有賀はバントの構えをみせる。

 

「常套手段、でも簡単にはさせない」

 

 初球、瑛北の内野陣がバント阻止のためのシフトを敷いてきたのと同時に有賀はバットを引き、ヒッティングの体勢をとった。

 

「なっ!?」

 

 有賀は初球のインコース高めのストレートをものの見事に捉え、打球はシフトで広く空いた三遊間を破るレフト前ヒット、バスターエンドランが決まりノーアウトランナー1、3塁と正に絶好のチャンスを迎えた。

 

「有賀くんナイスバッティング! 吹本先生、でもどうして?」

 

「この試合の流れと場面、普通であれば間違いなく送りバントでしょう。ですがネクストバッターズサークルでの有賀の振りを視て打てのサインを出しましたが、有賀はただの強行策よりもバスターのほうが決まると思ったのでしょう」

 

 バスターエンドランはギャンブル性の高い戦術である。だが有賀には普通に打ちにいくよりも成功しやすいという考えに至った思惑がある。

 

「有賀は場面と自分の打力をよく理解している。間違いなく送りバントだという場面ではピッチャーは内角高めに速球を投じてくることが殆どです」

 

「つまり、最初から『打つよ』ってかまえるよりもねらっているボールが来やすいから打ちやすいってことですね!?」

 

「それだけではありません。瑛北は守備力に長けたチームです。この場面で送りバントをする構えをすればそれを阻止するための守備隊形を完璧に敷いてくるチームです。この場面なら一塁手と三塁手が前進してきて二塁手が一塁ベースの、遊撃手が二塁ベースのカバーリングにそれぞれ入ります。そうなると必然的に三遊間が広く空くことになるのでそこを目掛けて打てばヒットになる確率は更に高くなるということです。狙い球を絞りやすいので狙った場所に打つことも普通に打つより簡単です」

 

「なるほど! よ~し、いっけー! 滝山くーん!」

 

 ここで北淵が一旦間を取ってマウンドに行った。

 

「悪い、完全に送ってくると思い込んだ俺のミスだ」

 

「いいって、あそこなら誰だってそう考える」

 

高実(むこう)ノッてるハズだから次の入り慎重にね」

 

 北淵がホーム方向に戻っていくと、今度は入れ替わりに浜崎がマウンドにやってきた」

 

「あの功董に勝ったチームだ。やっぱりこれくらいの事はやって来たな。もっとハードな展開になるから飲まれるなよ」

 

 浜崎の言う通り、前戦で絶対王者の功董に勝利した高実にこの試合もアップセットを期待する声援が観客席から出始めていた。

 

「溫・漆嶋がバッターボックスに立ってる時に比べたらこんなの何でもないですよ」

 

「頼もしいな。でも油断するなよ」

 

 浜崎もセカンドの定位置に戻っていき、的射は滝山と向かい合った。

 

「スクイズのサインは無い。だったらこの場面で必要なのはサードランナー()を還すバッティング」

 

 滝山は、いつもより指2本分バットを短く握ってバッターボックスで構えた。

 

「滝山の去年のホームランはチェック済み。あそこまで飛ばせるんなら多少短く持ってもそれなりに飛ばせるだろうな。何よりずっと当たっていないのが逆にタイマーが隠された時限爆弾のようにいつか打つように思わせて不気味さを感じる。ここは…」

 

 山淵からのサインで守りに就く瑛北ナインはシフトを変更する。

 

「中間守備か、瑛北にはまだ余裕があるという構えだな」

 

「そうですね、先制のチャンスを迎えただけでまだ主導権は握れていないですし、逆に高実(うち)がここで点を挙げられなかったら一気に流れを瑛北(むこう)にやりかねない状況、しかも打順の巡りが悪いですからね」

 

「えっと、レイチェルさん。よくわかんないんだけど…」

 

 山淵が滝山のことを不気味に感じているとは高実ベンチは思っていない。そのため、吹本やレイチェルはこの場合はチャンスだが実は自分たちにとってもピンチでもあると考えている。

 

「そんなのダメですよ! わたしたちがみんなのことをイチバンに信じなきゃいけません! よーし! 滝山くーん! おちついて、れーせーに! ぜったい打てるよー!」

 

 ウララの言葉で吹本は自らを恥じた。この試合、山淵の的射先発という予期しきれなかった采配と、その的射の好投によりどこか後手に立たされているという思いからどこか後ろ向きの思考に陥っていた。試合になったら監督は自分のチームの選手たちを誰よりも信じるという至極当たり前のことさえ失念するほど。

 

「そうですね。ウララ先生の仰る通りです。実際にプレーすることが出来ないわたくしたちに必要なことは、誰よりもプレーする選手たちの力を信じてやること。わたくしたちが弱気な姿を見せれば選手たちに要らぬ不安を与えるだけ。滝山ー! 余計なことは考えるな! 目の前の1球に集中しろ!」

 

「ボール!」

 

 この局面。滝山はボールがよく見えていた。

 

「そうだよな、打てなかった時の事考える余裕なんて、チャレンジャーには無いな。っし」

 

 滝山は、短めに握っていたバットを長く握り直した。

 

「短く握ってくれていたほうが外は難しいから助かったんだけど……ここまで配球が偏っていたらさすがに狙われるよね。でも今の的射には手持ちの勝負出来るカードが少ない……昨日のミーティングでも監督は打者一巡、なんなら向こうの左だけ抑えてくれたら充分だ。って言ってたからここまで引っ張ってこれたのは予想外だ」

 

「まだ福沢(フク)さんも高脇(ナオ)さんも作っていない。ここは俺だって言ってくれてんだ。絶対切り抜ける」

 

 バッテリーが投じたのはアウトコース低め、ボール気味のストレート。バットを長く握り直していたことで滝山はこのボールに喰らい付いた。




 本編に書く隙がないような話は前書き、後書きに積極的に書いていくスタイル。

 アンケート選択肢の詳細については第21話の前書きと後書き、第39話の後書きをお読みいただければとおもいます。

今後の高知実業(ストーリー展開)の方針

  • 目指せ!全国制覇!
  • 目指せ!模範的高校生スポーツマン!
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