ハルのウララの 2XXX海の向こうの甲子園   作:コンスタンチノープル

61 / 64
 最近、1試合でタイムを取った回数をあまり憶えていないことに気が付いたのですが、もしかしたらこれは憶えきれないかもしれません。


第59話

「征隆、先頭打者、理解っているな?」

 

「はい」

 

 このイニングの先頭バッターは末松対策でスタメンに入っているサウスポーに強い選手の内の1人である白橋。慎重なピッチングが要求される。

 

「うわっ!? スゴイせーえん!」

 

「皆、前の試合を理解っているんでしょう」

 

 場内アナウンスで「ピッチャー・末松君」の名がコールされると球場中から鈴生りの大歓声が巻き起こる。

 

「我々の真価が試される時が来た。やるべきことをやれば必ず打ち崩すことが出来る」

 

 山淵は多くを語らなかったが、それだけで充分であった。

 

「ストライク!」

 

 末松の初球。アウトコース高めのストレートで0ボール1ストライク。

 

「反則だな」

 

 バッターボックスの白橋は少しヘルメットの位置をズラす。

 

「でも、俺はキミを討つためにスタメンに入っているんだ。先頭を斬ってリズムを掴みたいだろうけどそうはさせない」

 

 続くボールを、白橋はものの見事に二遊間を綺麗に破るセンター前クリーンヒットにした。

 

「おいおい……末松先輩のインハイストレートだぞ……」

 

 名門・強豪と称されるレベルの高校で中心バッターを任されるクラスの選手でも末松のインコース高めのストレートをヒットにすることは容易なことではない。高実ナインに動揺が走る。

 

「カントクサン、今のバッターまでは有賀センパイを続投させて、次から末松センパイを出したほうがよかったんじゃないですか?」

 

「そういえば、あの子はサウスポーを打つのがトクイなんですよね?」

 

 レイチェルとウララの言う事も一理ある。前の守りではピンチでもサウスポーに強い菱岡をバッターボックスに迎えたため有賀を続投させたのだから、ここも白橋まで有賀が投げて次の西江を迎えたところで交代させれば打たれなかったかもしれない。それに末松が準備をする時間を長くとれるメリットもある。

 

「それは目だ」

 

「ええっ!? どーして!?」

 

 キッパリと否定する吹本にウララは尻尾を毛まで逆立ててく。

 

「エースと呼ばれる投手は、例え自分と相性が悪い打者を相手にすることになっても、逃げるような事は決して許されない。特に征隆にはそれを絶対にさせてはならない」

 

 その表情は、前年の夏に一瞬垣間見えたかつての寒くもないのに悪寒の走る鬼監督の表情であった。ウララと有賀は既に昨年喰らっていたため無事だったが、夏にはいなかった市居やベンチの1年生たちに悪寒が走る。

 

「だったら俺を出してください」

 

 その中で1人、藤は怒気を含んだ眼光で吹本に訴える。

 

「この試合、お前は絶対に出場させない」

 

「っ!」

 

「なんで! なんでそんなイジワルするの!?」

 

 レイチェルと蔣がウララを必死に抑える。

 

「お前にとってこの試合、ベンチから観ていることで学ぶことのほうが多い。私に意見している暇などない。ひと時もグラウンドと瑛北(相手)ベンチから目を離すな」

 

 その言葉に藤は渋々引き下がる。

 

「最前列の真ん中にいろ」

 

 吹本は藤が座る位置まで指定してきた。

 

「カントクサン……」

 

 レイチェルには何か感じるものがあったようで、吹本が指定した場所を陣取っていた浅香に場所を空けるよう促した。

 

「くっ……」

 

 バチッという鈍い音とともに、キャッチャーの沈がボールを零す。

 

「ストップ!」

 

 ファーストランナーの白橋がセカンドを窺うがバッターの西江が制する。

 

「全く、真っ直ぐだぞ……キャッチャーがまともに捕れないとかどんな球投げてんだよ……」

 

 春からの約3ヶ月半の間に藤しか捕ることのできなかった末松のボールを、他のキャッチャーたちもある程度キャッチすることが出来るようになってきている。ただそれでも、ストレートとなると全てのボールを完全に捕球しきることはまだ出来ない。

 

「成程、キャッチャーがまともに捕れないボールって瑛北(向こう)に思わせるわけか」

 

 食あたりから復帰していた宇多田は、藤のためだけではなく、敢えて完全に捕球しきれない沈をキャッチャーにしたままにすることによるイメージ戦略があると感じ取った。

 

「これは投げる前に振り始めるぐらい割り切ってみるか」

 

 この西江の開き直りがドンピシャにハマった。甘いコースに入ってきたストレートを見事に三遊間を破るレフト前ヒットにした。

 

「随分バクチなタイミングの取り方するな」

 

 ベースコーチに立つ太刀川が西江に声を掛ける。

 

「真っ直ぐはあのぐらいじゃなきゃ無理」

 

「だったら俺ならストレートは捨てるか」

 

 この場面、続く浜崎は当然送りバント。末松のインコース高めのストレートをものともせずサードとピッチャーの間に絶妙な打球を転がして見せた。

 

「任せろ!」

 

「アウト!」

 

 サードの滝山が処理したこの送りバントを、瑛北ベンチの山淵は見逃さなかった。

 

「今のプレー……もしや」

 

 この何でもないただのサードへの送りバントが、後に天祐を左右することになるとは、この時はまだ誰も知らなかった。

 

「どうしますか?」

 

 続く大縣がベンチに目をやる。

 

「是非に及ばず」

 

「ですよね」

 

 大縣はこれまでのバッターたちよりも、より一層ホームベースに覆いかぶさるように構えた。

 

「この場面で求められるのは間違いなくランナーを還す右方向へのバッティング。だからこそここまでベース寄りに」

 

 沈はアウトコースからボールになるシュートを要求した。あからさまなアウトコース狙い、であればストレートに近いスピードで手元で外に逃げるシュートで打ち損じさせる。だがこのサインに末松が首を横に振った。

 

「逃げてんじゃねぇよ。1点やってもいいなんてボール投げたらこの打線は必ず逆転してくる。3点のリードなんて忘れろ」

 

「分かりました。じゃあせめてコレで」

 

 次のサインにも末松は首を横に振ったが今度は沈が譲らず渋々頷いてピッチングモーションに入る。

 

「ストライク!」

 

 初球、バッテリーの選択は真ん中から落ちるスプリットに空振り。決して「せめてコレで」で要求していいボールではない。

 

「マジかよ……このバッテリー、パスボール怖くねぇのか? ったく、こっちも腹括んねぇと」

 

「俺よりよっぽど強気じゃねえかよ。面白れぇ、ノッてやんよ」

 

「末松先輩が投げ間違うことは全く考えていないんで」

 

 ピッチャーへの全幅の信頼があるからこそ、パスボールが即失点を意味する特に危険なボールであるスプリットを「せめてコレで」の感覚で要求できたのである。

 

「先輩がその気ならコレでいきましょう」

 

 沈のサインはインコース高めのストレート。インコースに寄って構えた沈にセカンドランナーの西江は関心した。

 

「まあここでソコに投げらんないなら先が知れてるわな。こっちも退()くんじゃねえぞ、タク」

 

 ベース上で、西江は闘争心を漲らせた。

 

「来る」

 

 末松がピッチングモーションに入る。

 

「っ!」

 

 刹那、大縣が主審の岡谷のほうを向く。

 

「ヒット・バイ・ピッチ!」

 

 末松のストレートが僅かに抜け、ベースに覆いかぶさるように構えていた大縣のユニフォームを掠めた。

 

「くっ!」

 

「タ、タイ……」

 

「ウェン! いい! 無問題(モーマンタイ)!」

 

 タイムをかけようとした沈を、末松が制する。

 

「う、うぅぅううぅぅ~!」

 

「ウララせんせー落ち着いて! みんなならダイジョブでしょ?」

 

「そ、そうだよね! よーし! ガンバレー! みんなー!」

 

 レイチェルのお蔭で寸でのところで元気を取り戻すウララ。

 

「ボールは来てっから、攻めてけよ」

 

 末松の下には沈の代わりにサードの滝山が声を掛ける。

 

「逃げっかよ」

 

 その末松は、既に次のバッターである北淵に鋭い眼光を送っていた。

 

「征隆。最高のシチュエーションじゃねえか!」

 

 その眼光を受けなお北淵京一というバッターは爛々とした表情を見せる。

 

「初球はコレから入りましょう」

 

 低めのカーブのサインだったが末松は首を横に振る。

 

「じゃあコレ」

 

「ダメだ」

 

 変化球から入りたい沈だったが、末松は全ての変化球のサインに首を横に振った。

 

「せめてコースはココに」

 

「わかったよ」

 

 最終的にアウトコース低めのストレートになったが、北淵は一塁側スタンドに飛び込むライナーを放った。

 

「そんなに首振ったらストレートってバレバレだよ」

 

「次こそは」

 

 またしても変化球のサインに首を振る。

 

「嗚呼これ、直球以外投げないつもりだな」

 

 インコース低めのストレートのサインに頷いて末松はピッチングモーションに入った。

 

「ストライク!」

 

「良いボールだね。でも、これじゃないよね?」

 

 北淵は末松にバットを向け、意志を示す。

 

「コイツで仕留めましょう」

 

 アウトコース低めのストレートに末松は首を振る。

 

「高め真っ直ぐか……じゃあ」

 

「ファウル!」

 

 アウトコース高めのストレートを、北淵はまたしても一塁側スタンドに撃ち込んだ。

 

「このバッターにアウトコース高めの真っ直ぐは通用しないか……」

 

「なんだよ、理解ってんじゃん」

 

 沈はインコース高め、胸元に構えた。

 

「あっ!」

 

「ファウル!」

 

 今度はレフトにホームラン性の大アーチ。僅かにファウルになった。

 

「このバッターには……」

 

「もっと厳しく」

 

 そこからインコース高めのストレートを続ける。北淵もファウルで応戦、カウントは2ボール2ストライクの平行カウントになった。

 

「末松くん、さっきからおんなじボールばっかり投げている気が……」

 

「そうですね」

 

「幼い頃にチームメイトだったと言っていましたから、期する想い、譲れないもの、色々とあるのでしょう」

 

「でもなんだか楽しそう!」

 

 それは、正しくウララがトゥインクル・シリーズで走っていた時のソレそのものであった。

 

「こんなとこで逃げるのは、エースじゃねえ!」

 

 インコース高め、渾身のストレートを投じ続ける末松。

 

「ファウル!」

 

 そのボールに一歩も退()かない北淵。

 

「来いよ」

 

「厳しく……もっと厳しく」

 

 正しく、雌雄を決する一討ち。

 

「いっけー! 末松くーん!」

 

 ウララも全力で、そして笑顔で声援を送る。

 

「もっと……もっと、もっと――――――……」

 

 そして、この試合の運命を決する1球が、末松の左腕から繰り放たれた。

 

 渇いた音が春野野球場中に響いた。

 

 ウララは、目の前で起きたことを一瞬理解することが出来なかった。




 親族の身体の状態が悪く、本来であれば近いうちに忌引きで休みを取るべきなのですがなんだか遮二無二書いているので、自分は自分が思っている以上にロクでなしの人でなしだなと呆れ返りながら、それでも書く手を止めない今日この頃。

 アンケート選択肢の詳細については第21話の前書きと後書き、第39話の後書きをお読みいただければとおもいます。

今後の高知実業(ストーリー展開)の方針

  • 目指せ!全国制覇!
  • 目指せ!模範的高校生スポーツマン!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。