ハルのウララの 2XXX海の向こうの甲子園   作:コンスタンチノープル

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 この話を投稿するのはタイミングが悪かったかもしれない。ですが書きたかったのです。


第61話

「ストライク! バッターアウト!」

 

 市居のピッチングは圧巻だった。百合沢を空振り三振、照井をサードゴロ、川平を見逃し三振に討ち取り三者凡退で守りを終えた。リードも配球もない、力一杯今投げられるベストボールで瑛北義塾に力の差を誇示するかのように圧倒するピッチングだった。

 

「行ってきます」

 

「うん、滝山くん。がんばってね」

 

 そうしてバッターボックスに向かう滝山に、山淵は敬意を払う。

 

滝山(あのバッター)もまた試合を投げ出していないな。これは高実は来年も警戒しなければならないチームだな」

 

「申し訳ない。滝山君の首根っこを押さえてでも瑛北に入れるべきでした」

 

 瑛北義塾野球部部長の畝本(うねもと)侑夫(いくお)の言葉に山淵はく。

 

滝山()に声を掛けていたと?」

 

「えぇ……」

 

 そして山淵は考察をやや巡らせた。

 

「シロナガスクジラを逃しましたな」

 

「成程、どうりで釣れないハズです」

 

 瑛北義塾の戦力状況を考えると、滝山のようなサードは欲しかった。実際、畝本も滝山にはサードとクリーンアップを空けておくと声を掛けていたほどで、背番号5番を与えた百合沢は本来ショートのポジションを西江と争っていた選手であった。

 

「外で打ち気を逸らすか?」

 

 北淵に代わって途中からキャッチャーの守備に就いている大市のサインに高脇は首を横に振る。

 

滝山(コイツ)の眼は死んでない。トモルと北淵が外角(そこ)に投げて意識付けをしてきてるから今更投げたら踏み込んでくるだろう。この展開で瑛北(ウチ)もインコース行き辛いのは分かるけど、だからこそ攻めていかないと間違いなく引っ繰り返されるぞ」

 

 高脇の意志に大市はインコースに構える。インコース高めのシュート、滝山と高脇の意地がぶつかり合う。

 

「くっ!」

 

 三遊間への深い打球、この試合、瑛北の内野陣が初めて飛び込んで打球を抑えた。

 

「ちっ!」

 

「セーフ!」

 

 三遊間深い位置から西江のロングスロー、ファーストの川平も身体を目一杯伸ばしてこの送球に応える。しかし滝山の気迫のヘッドスライディングが僅かに勝り、内野安打となった。

 

「ウェン、キャッチボールの相手してくれ」

 

「市居さん?」

 

 市居が既に試合から退いた沈を相手に、裏の守備に備えてキャッチボールを始めようとする。

 

「僕は君たちを信じるから!」

 

「市居くん……」

 

 ベンチ前でキャッチボールを始める市居に、舘たちも期する想いがある。

 

「今の俺に高脇さんクラスのピッチャーを討つ力はまだ無い。だったらやることは決まってる」

 

 初球、ピンチランナーから守備に就いている百合沢が守るサード目掛けてセーフティバントを決行。百合沢も必死のチャージでこの打球を処理する。

 

「アウト!」

 

 舘も必死のヘッドスライディングで応戦するも今度はアウトに仕留められた。記録上はサードへの送りバントで1アウトランナー2塁で高海をバッターボックスに迎える。

 

「舘、気持ちは分かるがお前はヘッドスライディングをするんじゃない」

 

「そうだよ! 舘くんは足が速いからけ抜けたほうがいいよ!!」

 

 ウララもトゥインクル・シリーズで走ったウマ娘。脚が速ければヘッドスライディングではなくけ抜けたほうが速いという考えである。

 

「セオリーじゃ右のサイドの高脇さんだったら左バッターの俺の方が有利だ。でも今の俺と高脇さんにはセオリーだけじゃ打てない実力差がある。狙い球を絞らないとダメだ。でも何に……」

 

 バッターボックスの高海は、舘がセーフティバントに失敗したので自分は打つしかないと思いを巡らせた。

 

「高脇さんは両コーナーに投げ分けられる。的射さんがインコースを徹底的に突いてきたから」

 

 初球攻撃、高海は的を絞りスイングを仕掛けた。

 

「アウトコース一本!」

 

 高海の狙い通りアウトコース。センター返しが決まったが当たりが良すぎたため駿足の滝山でもホームへの突入は自重せざるを得なかった。

 

「ホタカは外に狙いを着けてヒットを打った。だからって続く左のオレにはじゃあインで行こうなんて甘い考えは瑛北のピッチャーだったらしてこないだろう。問題は俺の狙いを悟られないようにどう狙い球を呼び込むかだけど……」

 

 碓井はホームベース寄りに立って構えた。

 

「外狙いか?」

 

「いや……」

 

 大市はインコースにボールを呼び込んだ所を叩くためにホームベース寄りに構えたと考えた。碓井は狙い通りアウトコースにボールを呼び込み、逆らわずに三遊間を狙い振り抜いた。

 

「っ!」

 

「ちっ!」

 

 飛び込んでボールを抑えたサードの百合沢が滝山のホーム突入を目で制してからファーストに送球した。

 

け抜けろ!」

 

 ファーストベースコーチの蔣が叫ぶ。

 

「セーフ!」

 

 碓井がヘッドスライディングをせずにファーストベースをけ抜けたのが幸いし、今度は内野安打。1アウトランナー満塁で、末松をバッターボックスに迎える。

 

「末松くん……」

 

 プロ野球ではその故意・過失に問わず、頭部への投球は危険球としてその場で退場を宣告されるルールが定められている。だがあくまでもそれはプロ野球のルールで高校野球に危険球退場のルールは定められていない。

 

 だがこのルールは日本発祥の有名なルールのため北淵の頭部にデッドボールを当てても出場し続けている末松には厳しい言葉が飛ぶ。メタな話になるが書いたら間違いなく削除されてしまうような内容の野次も飛んだためその内容については割愛させていただく。

 

「コイツ……」

 

 末松はホームベース寄りに立って構えた。

 

「自分にぶつければ取り返しのつかない大ぎになる。だからインコースには投げてこない。だからアウトコース一本に的を絞ってるんだろうな」

 

大市(もっちゃん)、実際今の末松(コイツ)に当てたら溫・漆嶋にぶつける以上の大ぎは間違いない。でも俺なら大丈夫だ」

 

 高脇直晃というピッチャーのコントロールは、プロのスカウトからも1軍で即通用すると言う高い評価を得るほどのモノを誇っている。その抜群のコントロールは、このインコースを要求するのに躊躇する非常事態においても、キャッチャーの大市をインコースに構えさせるほどの厚い信頼を得ていた。

 

「わたしは、信じるからね」

 

 ウララの言葉にはいつもの元気は無い、この場面で大きな声で声援を贈れはしないことをウララは分からないウマ娘ではない。だがその一言には、自分の学校の生徒を信じる1人のウマ娘教師の姿があった。

 

「行くんだ」

 

 その強い想いから、末松は高脇の投じたインコース高めのスライダーを強打した。

 

「セカン!」

 

 打球は1、2塁間を破ろうかという強いゴロ。

 

「あっ」

 

西江(キヨ)!」

 

 セカンドの浜崎が回り込んでキャッチし、セカンドベース上に送球してファーストランナーの碓井をフォースアウトにする。

 

川平(シュン)!」

 

 ショートの西江からファーストの川平に矢のような送球。

 

「アウト!」

 

 その2歩は、今の高実にとってはあまりにも大きい2歩であった。

 

「ゲームセット!」

 

 ファーストベースをけ抜けた末松はヘルメットを脱がず、手をやることもせず、ただただ天を仰いだ。

 

「整列しよう」

 

 ベンチの有賀が市居に声を掛ける。

 

「互いに、礼!」

 

 ホームベースを挟み、一礼する両校の選手たち。真っ先に浜崎が有賀に握手を求めた。

 

「ナイスピッチング」

 

 浜崎を始め、他の瑛北の選手たちも全員握手を求め、その健闘を称える。

 

「本当に申し訳ない」

 

 有賀の言葉に浜崎は首を横に振った。

 

「謝るな。辛いな、最後の夏負けたのに、泣くのを許されないなんて」

 

 瑛北の選手たちから最も多く握手を求められたのは、末松だった。

 

「気にしなくていいからな」

 

北淵(アイツ)が悪いから。北淵(アレ)は避けるのヘタなんだ」

 

「来年、いや秋にでもまたやろう」

 

 最も大きくのしかかった言葉は、浜崎を始め何人かの選手から掛けられた一言であった。

 

「野球辞めるなよ」

 

 特に浜崎から末松にかけられたその一言は、「これで野球から逃げることは許さない」という警告のような重さを持っていた。

 

「征隆、お前は謝りに行かなくていい。余計なぎになるからこのまま家に帰るんだ」

 

「分かりました」

 

 今の末松に拒否権はない。

 

「ウララ先生も来ないでください。わたくし1人で瑛北(向こう)の方に行ってきます」

 

「な、なんでですか!? わたしは先生です! 先生ならいっしょにごめんなさいしないといけないです!」

 

「賢明な判断ですね」

 

「あっ……」

 

 瑛北義塾の山淵監督がわざわざ高実の下にやってきた。

 

「天下のハルウララに頭を下げて謝られたら、誰もが許さざるを得ない。世界中探してもそのウララを更に糾弾できるのは、ウララの家族とキングヘイローぐらいしかいないでしょう。ウララ、お前は自分がそれほどのウマ娘だということを自覚するべきだ」

 

 そして、山淵が中央トレセン学園のトレーナーを辞した訳も吹本を始め、ウララ以外の多くの人々やウマ娘たちが知っている。だからこそ山淵はこのような事態でもウララに謝られると許さなければならない立場に置かれている。

 

「本当にすいません。偏にわたくしの指導が足りていなかったせいです」

 

「安心してください、あの1球までの末松()のボールを観れば、北淵を打ち取るために力の限りを尽くしたボールを投げていた事は明白。その程度のことが理解できないような者など、最低でも瑛北義塾野球部の関係者には誰1人として存在しません」

 

 末松に山淵が歩み寄る。

 

「末松君、君が本当に申し訳ないと思っているなら。これからも野球を続けなさい」

 

「はい。選手の皆さんからも言われました」

 

 改めて吹本と話をする。

 

「吹本先生は、確か来年定年迎えられるはずでしたね?」

 

「いや、もう越えているんだ。再雇用で教壇に立たせてもらっている」

 

 吹本は既に教員の定年退職に定められた年齢を超え、再雇用制度を使って教師を続けている。

 

「そうでしたか……監督は教師でなくても続けることが出来ますが、これからも高実の監督をお続けになられるご予定ですか?」

 

 むしろ、公立高校の教員は異動がつきもの。教員でいる間は同じ高校の監督を長く務め続けることは出来ない。定年退職を迎えて教員の肩書きが無くなれば、公立でも体力気力その他諸々が続く間、長くその高校の監督として指導にあたれるため、都合がいいのである。




 この夏にこの話を書いたので説明しなければいけませんが、試合終了後の握手については旭川志峯高校を批判したり、広陵高校を擁護するという意図は一切無い事を強く言わせていただきたいです。

 この試合の展開自体はプロローグの時点で既に決めていたもので、北淵くんのモチーフになった元プロ野球選手に実際に起きた試合など過去のプロ野球とメジャーリーグの試合を3試合ほどオマージュした試合になっています。

 アンケート選択肢の詳細については第21話の前書きと後書き、第39話の後書きをお読みいただければとおもいます。

今後の高知実業(ストーリー展開)の方針

  • 目指せ!全国制覇!
  • 目指せ!模範的高校生スポーツマン!
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