ハルのウララの 2XXX海の向こうの甲子園   作:コンスタンチノープル

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 今回から本格的に登場するキャラクターを書く上で、今年の夏の甲子園は大変参考になりました。これについては本当にタイミングに恵まれたと言って差し支えないです。


第62話

 山淵の言葉に吹本は首を横に振った。

 

「山淵君、『老兵は死なず、ただ消え去るのみ』だ。私の最後の役目は、この征隆と滝山たちの学年を送り出すことだろう」

 

 それは吹本が来年限りで教師を退職し、監督も退任するということだった。

 

「そうですか……寂しい限りです」

 

「すまないね、こんな時に。今、後任を校長が探しているところなのだが……」

 

「ええ、実は南部先生から私にも打診がありまして」

 

「成程、それで」

 

 この春から高実の校長に赴任した南部が山淵に後任の監督を打診していたため、山淵はこの状況を知って話を切り出したのであった。

 

「え!? じゃあ……」

 

「ウララ先生、申し訳ないですがお受けすることは出来ません」

 

「えぇ~っ!? なんでー!?」

 

 今の瑛北義塾野球部員の多くは、山淵のことを慕って瑛北の門をたたいた生徒が多い。中には関西や九州からわざわざ附属の中学校に入学してきて進学した者もいる。そのような部員たちを置いて他の学校に行くことは出来ないという。

 

「トレーナーからウマ娘に契約解除だって言うようなものだから、ウララもそんなことをしてまで来てほしくはないだろ?」

 

「たしかに……」

 

 そう例えられてしまうとウララも引き下がらざるを得ない。

 

「ですが、この件は森重やもっと上の人間からも相談を受けていまして、私が直接という訳には参りませんが、私が信を置く者に話を通しておきましょう」

 

「えっ? いいの!?」

 

「それは、その先方の事情もあるのでは?」

 

 山淵曰く、その人物はそろそろ新天地に身を置くべきで、年齢的にも戦いの場を変えるには最後の機会であるという。

 

「それに、(アレ)はウララ先生の事を高く評価していましたから、断るにしても話を聞くぐらいの事はしてくれる人間です」

 

 山淵のこの一言から件の者はウマ娘ではなく人間であることだけはこの場にいた3人は理解した。

 

 病院に向かう山淵の姿を見届けると、吹本はウララと末松に正式に決まるまでは自分が来年で辞めることを考えているのを含めヒミツにしておくように注意した。

 

「みんな、待たせてすまない」

 

 高実野球部は、そのまま自宅帰した末松を除き全員が学校の一室に集合していた。

 

「今、瑛北義塾の畝本先生から連絡があった」

 

 一同に緊張が走る。

 

「北淵はまだ意識を取り戻していないが、命に別条はないとのことだ」

 

「よ、よかったぁ~」

 

 ウララはその場で力が抜けてへたり込んだ。

 

「それで、詳しい容態だが……」

 

 吹本から伝えられた北淵の怪我の状態は、左側頭葉脳挫傷、及び頭蓋内血腫で全治3ヵ月。まだ意識が無いことも込みで重症、この夏は当然だが、秋季大会への出場も困難である。

 

「征隆にはわたくしから話しておきます。ウララ先生はみんなや他の生徒たちのケアをお願いします」

 

「まかせてください!」

 

 こういう時にウララに優る適任者はいないであろう。

 

「当ててしまった征隆のことも考えなければならない。校長先生は、自分が来れる状態になるまでは、学校に登校してこなくて問題ないと了解を得た。みんなも無理に征隆に来るようには言わないように」

 

「はい」

 

 今の末松には必要な休みである。

 

「そこで、有賀は今日で引退になるから最後に何か話す場を設けるつもりだったが、全員が揃うまで延期する。いいな?」

 

「勿論です」

 

「ごめんね、有賀くん」

 

 やはりウララに謝られてしまうと許さざるを得ないが。元から有賀もそのつもりである。この日は他の部員たちのメンタル面のことも考え、この場で解散して各自帰宅させた。

 

「はい、私も山淵先生からお話を伺っています。その方なら、次の野球部監督に問題ない人物ですから、もし本人がOKしていただければ、まずは嘱託ですぐにでも野球部のことをみてもらおうと考えています」

 

 数日後、ウララの姿は校長室にあった。

 

「それで……」

 

「あぁ、ウララ先生がまだ野球部のことをみていたいのであれば、引き続き野球部に出入りしていただいても私としては問題ありません」

 

 ウララは、もし新しい指導者がやって来るのであれば自分はもう野球部に来てはいけないと言われるのではないかと少し心配していたのである。

 

「わたくしとしても、事務的にウララ先生にいてもらった方がいいですね」

 

 まだ滝山が陸上部の練習にも顔を出しているため、吹本としても正式には陸上部の副顧問であるウララが野球部と関わることは好都合なのであった。

 

「今日お呼びしたのは、最近問題になっている廃材置き場への生徒の立ち入りです。ウララ先生の証言からボールを左手で投げている生徒の姿が確認されたこと、それが末松君が登校してきていないここ数日の間もみられたこと。この2つを踏まえ、岸井君なのではないかと考えています」

 

「そんな……そんなことありません!」

 

 ウララはこう言うが学校としても廃材とはいえマットがボロボロになって中身が辺りに散乱しているので見過ごせることではない。

 

「わたし、今からみてきます!」

 

 ばびゅーん! という効果音でもしそうな勢いで校長室から飛び出していくウララを留める術は2人には無かった。

 

「あいたっ」

 

 勢い余って転倒するウララに1人の生徒が声を掛けた。

 

「大丈夫ですか? ウララ先生」

 

「あ、岸井くん。うん、大丈夫だよ!」

 

 起き上がり元気一杯にポーズをとるウララに岸井は何事かと聞いた。

 

「それなら、俺も一緒に行っていいですか? もし俺が一緒に行って、そこで例のがいたら俺じゃないってことになりますよね?」

 

「そうだね! 一緒にいこっ!」

 

 こうしてウララは岸井を伴い廃材置き場へやって来ると、そこに件の人影があった。

 

「これで俺じゃないって分かりましたよね?」

 

「うん。でも、もしかして……オバケ!? うーっ!」

 

 飛び出していくウララ。けるウマ娘を止める術は人間に無く、むしろ強引に止めるべきではない。

 

「つっかまーえた~っ!」

 

「うわっ!?」

 

 件の人影に飛び掛かるウララ。勿論後で注意されることになる。

 

「ったー……ウ、ウララ先生?」

 

「あれ? オバケじゃない」

 

 ウララ期待の幽霊やお化けなど、この世の者ではない類いのものではなく、れっきとした学校の生徒であった。

 

「アンタさあ……こんなトコでこういうコトされると困るんですけど。俺や末松先輩がやったって思われてんですけど」

 

「えっ、そうなの? ご、ごめん」

 

「岸井くん、ごめんって言ってるからゆるしてあげよう?」

 

 岸井もウララにこう言われると許さないといけない。

 

「えっと、あっそうだ! キミは……えーっと……」

 

「あっ、1年の毛利(もうり)阿伏兎(あぶと)です」

 

「なんだ、タメじゃん」

 

 クラス数が多いわけではないが少ないわけでもないので知らない同級生がいるのも仕方のないことである。

 

「ねぇ毛利くん! 野球部に入ろうよ!」

 

「いや、ボクは……」

 

「また変な場所に行かれると迷惑だから……」

 

 岸井が言い終わる前にウララが毛利の左手をとって引っ張っていく。勿論ウマ娘が人間の身体を直接掴み、引っ張って走るのは危険なのでほどほどである。

 

 グラウンドにやって来るとそこにウララがこの数日待ち望んだ人物の姿があった。

 

「末松くん!」

 

「俺が出てこないと有賀さんが引退の挨拶ずっと延期だって聞いて、とりあえず今日だけ」

 

 まだ正式に復活するわけではないが事情を知りとりあえず今日練習に顔を出したとのことであった。挨拶が終わればすぐに帰るとのことである。

 

「毛利、どうしたんだよ?」

 

「加納くん、知ってるの?」

 

「同じクラスですけど……いや、ホントにどした?」

 

「廃材置き場に入ってマット荒らしてたの、毛利(コイツ)だった」

 

 当然学校から後で注意を受けるわけだが今は置いておく。

 

「新入部員だよ!」

 

「えっ!? いや、それはちょっと……」

 

「なんで加納くん! もっとよろしくねとか言ってあげようよ!?」

 

 毛利がそういうことをしていたのも当然知らないが、クラスメイトの加納は彼が野球部に入れないであろう理由に心当たりがあった。

 

「ウララ先生、こちらにいらしたんですか」

 

「あっ、吹本先生! 野球部の新入部員の毛利くんです!」

 

「毛利、本当に入部するつもりか?」

 

「吹本先生までなんでですか!?」

 

 1年生を受け持つ吹本も毛利の事情は当然知っている。そもそもウララにも事前に話されていることなのだが忘れてしまっているのであった。

 

「まあまあ、今日は全員揃ったことだし、有賀に引退の挨拶をしてもらおうと思う。有賀、さあ」

 

 部員たちと成り行きでこの場にいる毛利も集まった所で有賀が一歩前に出る。

 

「甲子園優勝を目指すって春に言ったけど、出来なかった。本当に、こんな力不足の他に3年がいないから消去法でなったようなキャプテンについてきてくれてありがとう」

 

 深々と頭を下げる有賀。

 

「そんなことないよ!」

 

「ありがとうございます、ウララ先生。こういう話は長いといけないから一言で済ませるから、みんなよく聞けよ」

 

 ゴクリと息を吞む一同。

 

「みんななら甲子園優勝できる。絶対行けよ、甲子園」

 

「うん! みんな、甲子園にいこう!」

 

 野球部の面々は気持ちを新たに今後一層練習に励んでいくことになる。

 

「まあ、引退って言ってもちょくちょく顔は出すつもりだから。それに! 校長先生はこれから高実(ウチ)は勉強厳しくするって言ってるんだから、ちゃんと勉強しろよ?」

 

「先輩はサトノグループに就職が決まってるからいいですよね」

 

 だがそうではないと有賀は言う。

 

「あのサトノに就職ってなったら、それ相応の知識や教養とかを身に着けておく必要があるからむしろ勉強厳しくなるし、勉強以外の事も憶えなきゃいけないんだって」

 

「えぇっ!? そうなの?」

 

 本来それを一番知っているべきあるトゥインクル・シリーズを走っていたウマ娘のウララが最も知らないのは仕方のないこととご了承いただきたい。

 

「そういう訳で、時々顔出すって言っても本当に時々だから」

 

「今日はこのまま帰るのか?」

 

 吹本の問いにそうさせてもらうと有賀が答えると、有賀にも聞いてもらいたいことがあるからしばらく残るように言われ、今度は吹本が一同の前に立った。




 毛利くんはモチーフする選手を急遽1人加えました。誰のことなのかは今後のストーリーを読んでいただければすぐに分かると思います。

 アンケート選択肢の詳細については第21話の前書きと後書き、第39話の後書きをお読みいただければとおもいます。

今後の高知実業(ストーリー展開)の方針

  • 目指せ!全国制覇!
  • 目指せ!模範的高校生スポーツマン!
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