ハルのウララの 2XXX海の向こうの甲子園   作:コンスタンチノープル

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 勝手に喪中なので休みますとのたうち廻っている間にジュウリョクピエロの寺島調教師に助けてもらいました。


第63話

「えー、みんなの中には知っている者もいるが、わたくし(先生)は既に教師の定年を超えて再雇用制度を使って教師を続けている」

 

 吹本のこの入りの一言で何を言うのか察知した部員も数名いた。

 

「ただどうしても時の流れに逆らう事は出来ない。身体の事を考えて、今の2年生たちが引退する来年の夏で監督を退き、卒業する再来年の3月で教師も退任するつもりでいる」

 

 やはりかと思う一同である。

 

「そこで、次の監督を校長先生にも探してもらっていたところだったが、ある方が推してくれた人がやってもいいと言ってくれたので、その人に今日から当分嘱託として入ってもらい、随時引き継ぎを行うと決まった」

 

 ある方、とは当然山淵のことである。

 

「既に来ているので早速所信表明をしてもらう」

 

 吹本がその場から離れ件の人物をグラウンドに連れてくると、ウララはその姿に飛び上がらんばかりにいた。

 

「えっ!? シリウスちゃんのトレーナー!!」

 

「あの!?」

 

 ウララが中央トレセンに在籍していた時に、同室のキングヘイローと並びよくウララの面倒をみてくれていたシリウスシンボリの担当トレーナー、その人であった。

 

「シリウスシンボリのトレーナーってことは……あのカペラのトレーナー!?」

 

「初めまして、尾嵜(おざき)穹介(きゅうすけ)だ。ウララの言う通り、この前まで中央でトレーナーをしていて、シリウスシンボリを始め、他にも何人かウマ娘を担当していた」

 

 尾嵜穹介。中央トレセン学園で彼の学園最強と謳われるチームリギルと肩を並べる強豪、チームカペラを担当するトゥインクル・シリーズにおいて名伯楽にして、サトノ家お抱えの専属チームであったカペラの門戸を拡げ、チームを使命を背負った名家のウマ娘たちが誇りを懸けて互いを磨き合い、競い合う虎の穴と称されるまでのチームに導いた改革者と言われる名物トレーナーの1人である。

 

 なお、尾嵜はカペラが虎の穴と呼ばれることについて元ネタが悪役の養成所で麻薬精製や各国要人の買収なども行う世界的な悪のシンジケートの一部門であることから心底嫌がっており、穴よりは上等だからと虎の門とたまに呼んで抵抗していた。

 

「尾嵜さんて野球わかるんですか?」

 

「尾嵜君は元々広島水産の野球部OBでアメリカでプレーしていたこともある野球人だ」

 

「アメリカといっても独立やマイナーなんで、あまり褒められた経歴ではありませんが」

 

 尾嵜は全国3位タイの春夏合わせ7回の甲子園優勝を誇る伝統校、広島水産野球部OBで兵庫の神戸森林大学、広島の社会人野球企業チームの大和東西でプレー後渡米し、アメリカの独立リーグとマイナーリーグを2年間で目まぐるしく渡り歩いた球歴を持つ。

 

「ただ、指導者に選手時代の実績は不要だ。勿論これからは野球を教えるわけだからウマ娘を教えていたことも忘れてもらいたい。だが野球とレース以外にも色々な指導を経しているからその中でいいものは使っていくつもりだ」

 

 当初野球の参考になるのではと片手間で大学からトレーナーの勉強を始めた変わり種の尾嵜は、アメリカでプレーしている際にアメリカ人選手の多くが引退後の人生設計を日本のソレよりも具体的に建て、シーズンオフになればそのセカンドキャリアのためのスキルアップに余念がないことに感銘を受け、片手間だったトレーナー資格取得のための勉強にも本腰を入れ引退後、どの国においても屈指の難関であるトレーナー試ということもありすぐに合格とはいかず、帰国後自衛隊に入隊して朝霞のウマ娘部隊で様々なスポーツに打ち込む自衛隊アスリートウマ娘たちを指導しながら中央の試に合格という、トレーナーとしては紆余曲折の全くもって異色の経歴を持つ。

 

「でもトレーナー。シリウスちゃんたちはいいんですか?」

 

「なんかウララに敬語を使われるのは慣れないな……近くカペラにサトノ家の娘が入ってくる予定で、それに合わせてそろそろ担当トレーナーの代替わりに向けて、前から準備していたんだ」

 

 このサトノ家のウマ娘とは、以前有賀と市居をサトノグループ野球部にスカウトしたダイヤとクラウンのことである。そのため山淵のほかに2人からも高実のことを聞いていたのである。

 

「これまでその娘をサブトレーナーに着けて、カペラを任せても問題ないように教えてきた。彼女に任せるにあたって、僕がいたら却って面倒な事が起きかねないから、中央を出ようと考えていた時に、山淵さんたちから誘われてね」

 

「尾嵜君じゃあ……」

 

 吹本に一言促され更に一同の一歩前に出る。眼光鋭く見渡し言い放った。

 

「野球において最も有害無益な選手は、スラッガーと剛腕ピッチャーだ」

 

「えぇーっ!? なんで!?」

 

 特に末松と滝山に対する宣戦布告ともとれる一言に、心象も良くない部員たちは多い。

 

「じゃあどんな選手が有益な良薬か、キミ達はどう考える?」

 

 しばし考える部員たち、蔣が最初に答えた。

 

「どんなボールでもヒットにするアベレージヒッターですか?」

 

「違うよ、今はボール球に手を出さない選球眼の良いバッターが評価されてる」

 

「ウマ娘並みに脚の速い選手とかどうですか?」

 

「どんな打球でもアウトにする守備の名手じゃないか?」

 

「いやピッチャーだよ。どんなコースにも投げ分けられる精密機械!」

 

「どんな魔球でも投げられるマジシャンとかですかね?」

 

 蔣の一言を合図に様々な回答が出てくる。尾嵜はそれをひとしきり聞いてからキッパリと言い切った。

 

「どれも正解ではないな」

 

「えぇーっ!?」

 

 ウララだけではない。一同困惑の表情を隠せない。

 

「最も良い選手とは勝利に貢献する選手だ。そしてそれは、『試合に参加する選手』だ」

 

 この一言に、部員たちはより一層分からなくなる。

 

「そんなの当たり前じゃないですか?」

 

「違うな。ウララ、ちょっとこっちに」

 

 尾嵜に促され、ウララは彼の横に立った。

 

「キミ達は、ウマ娘ハルウララのレースにおける通算成績を知っているか?」

 

 それは日本中のウマ娘と人間たちに広く知られていることであった。

 

「0勝ですよね?」

 

「そうだ。じゃあ出走回数が何戦かは分かるか?」

 

 それも広く知られていることで、藤が答えた。

 

「113戦、ですよね」

 

「その通り。113回走って1回も勝てなかった、それがハルウララの通算成績だ」

 

 今更何でこんな事をと混迷を極める。

 

「だが僕はこう考えている。ハルウララは、『113回勝つ準備をした(・・・・・・・・・・・)』ウマ娘だ。と」

 

 まだこれがどういう事なのか分からない。

 

「トゥインクル・シリーズにおける最高の栄誉、三冠ウマ娘たちの中で最も出走回数が多いのは誰か分かる者はいるか?」

 

 これには一同答えに困る。

 

「答えはナリタブライアンとオルフェーヴルの21戦だ。ちなみにトリプルティアラを達成したウマ娘たちの中ではジェンティルドンナの19戦が最も多い」

 

 その答えにはかざるを得ない。

 

「ハルウララは、三冠ウマ娘より5倍以上も走った。最後まで勝つことは出来なかったが、最後のほうは有記念やBCで勝ってもおかしくないほど良い状態だった」

 

「えへへ、でも1着になれなかったよ?」

 

 尾嵜はそんなことは関係ないと言う。

 

「いいかよく聞け。160mのホームランをレフト、センター、ライトに打ち分けることが出来る天才バッターでも、160km/hのストレートと魔球と称される7色の変化球を四隅一杯に投げ分けられる天才ピッチャーでも、その日試合に参加できなければ全く意味が無い」

 

 部員たちはハッとした。どのスポーツにも、当然野球界にも才能に恵まれながら故障など様々な理由でソレを発揮することが出来なかった「悲運の天才」などと称される知る人ぞ知る幻の名選手が数多く存在することを。

 

「特に高校野球の公式大会は勝ち抜き戦のトーナメント方式が基本。甲子園や甲子園の懸かる試合にでもなったら、ある程度重い怪我を抱えていても吹本先生や僕が行けるかどうか聞く前に行くと言い出すだろうし、そういう気構えであってほしい。だけどだ……」

 

 前置きをしてタメた、尾嵜にとってこれは大事だと考えている話をするとウララ以外の一同は感じた。

 

「痛けりゃ『痛い』って言え。キミ達のことだから『痛い』だの『つらい』だの言ったところでどうにかなる訳じゃないだろうって考えていると思う」

 

「えっ!? みんなそうなの?」

 

 実際今いる面々の中で痛い時に正直に「痛い」と言うのはウララぐらいである。

 

「昔は『男なら我慢しろ』というのが当たり前だったし、トレーナーは『これぐらいで弱音を吐いていたらメイクデビューや未勝利戦も勝てないぞ』と言うのが当たり前だった。でも痛いのに『痛くない』って言うのは自分に対して嘘をつくことで、自然の(ことわり)に逆らうことだからやるな」

 

「え? おことわりにさからう? ダメだよトレーナー、ヤダって言ってるのにワガママしちゃ」

 

 尾嵜は中央トレセンのトレーナーだったとは思えない言葉選びの間違えをした。ウララに「(ことわり)」と言えば「お断り」と間違えるのは当たり前の事である。尾嵜も本当ならそれが分からないわけではないが理について説明した。

 

「自然に逆らっちゃ目だってこと。水は高い所から低い所に流れるし、お日様はいつも東の空から昇ってきて、南の空を通って西の空に沈むでしょ? 僕はこれまで色々な事を経してきたけど、そういう自然に逆らった奴はウマ娘だろうが人間だろうが必ず罰が当たっている。僕も何度かある」

 

 一同尾嵜の言わんとせんことは何となく理解できるし、自身の経談ということならそうなのだろうが、イマイチそれが「痛い」と正直に言うことに繋がらない。

 

「重要なのは、『痛い』の後だ。いきなり『これは重な怪我に違ない』と憶測を建てるのは褒められたことじゃない。しっかりと身体の『聲』を聴くんだ。骨折したとか、靭帯や筋を痛めた、切れたとかは自分で判ることもあるからそういったときは素直に言うこと。『痛いけど我慢して出る』っていう時も黙って出るんじゃなくて絶対に前もって言うこと。これ以上は目だって僕が判断したらすぐに交代させるけど、それが当然だと思ってほしいし、だから黙って出るは絶対するな。あと、何があってもこれだけは絶対に変えるつもりはないことがある」

 

 それは尾嵜にとって、とても重要な指針だ。そう思い部員たちはその言葉により注力した。




 当初の予定では柴田一家から強引にこじ付けで押し通すつもりでした。「いろいろなスポーツのルールに詳しい」というウイニングチケットも多分野球分かるハズ?
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