ハルのウララの 2XXX海の向こうの甲子園   作:コンスタンチノープル

66 / 69
 割と真面目に尾嵜さんはヘイトを集める要員であったりします。「何言ってるんだコイツ」と思ってもそういう役回りのキャラだから。と割り切って読んでいただければ何よりです。


第64話

高実(ここ)へくるにあたって色々な人やウマ娘たちから高実のことを聞いた。みんなは、全国制覇を目指しているんだってな?」

 

「そうだよ! みんなイチバンをめざしてがんばってるよ!」

 

 ウララが元気よく答えた。

 

「みんなそうなのか?」

 

 部員たちも各々それを肯定する。

 

「だったら何をすべきかは簡単だ。僕はキミ達に好かれようとか仲良くしようなんて一切考えない」

 

「えぇ~っ!? だ、ダメだよ! ケンカしないで、なかよくしようよ~」

 

 当然の反応をするウララ。

 

目だウララ。みんなよく聞け、本気で全国制覇をしたいんならそのために必要なことは一つだけ、『やるべき事をやる』んだ」

 

 その至極当たり前の言葉に怪訝な様子を浮かべる部員たち。

 

「そういう反応が来るのは予想済みだ。キミ達は恐らく、僕が中央トレセンで担当していたウマ娘たちはみんな特別な才能に恵まれていたとか、何か他のトレーナー達とは違った特別なトレーニングをしていたんじゃないかと考えているんだろう?」

 

「えっ!? ちがうの?」

 

 よもやウララがそういう反応をするとは、願わくばしてほしくなかったと尾嵜は思った。

 

「確かに、特に才能を持ったウマ娘も居た。だが変わったことはしていない。そのウマ娘の脚質や距離適性、その他諸々から今何をやるべきかを考え、それを充分やったから彼女たちは勝った。中には周りから見たら特別なことだと思うようなこともやったかもしれないが、その時やるべき事がたまたまそう見えるような事だっただけのことだ」

 

「で、でも! どーしてそれがなかよくしないってことになるの!?」

 

 これに関してはウララは分からないことといっていい。

 

「いいかウララ、『やるべき事をやる』というのはな、『目なものは目と言う事』でもあるんだ。だがほとんどのウマ娘や人間は自分のやりたい事を目だと言う者は人間であろうがウマ娘であろうが嫌うものなんだ」

 

「えぇ~っ!? なんで!?」

 

「ハァ……みんな、ウララはこういう性格だから、分かってくれる時はいいがそうでない時は本当に厳しいからな?」

 

 ハルウララというウマ娘は非常に素直なウマ娘である。集中力と持続性が低さや精神的な幼さからトレーニングの途中で綺麗な蝶々を追いかけて行ったり、川のヌシとかけっこを始めたり、やるべき事を途中で放り出してしまうことは多かったが少なくとも最初から無断でトレーニングをサボることはあまりなく、それが練習をやめて遊ぶことであっても最初に今日はコレがやりたいと言って、目だと言われた時は素直に聞き入れるといった善性が高く評価されていた。

 

「みんなここまで一見僕が厳しさで雁字搦めにしようとしている風に聞こえるかもしれないけど、言っておくが僕なんかよりもウララのほうが何倍も厳しいからね?」

 

「ゑ?」

 

 その尾嵜の発言は今この場にいる部員一同、全く以って理解しかねる発言だった。

 

「えーっ!? わたしみんなにグワーッ! とかゴワーっ! ってしてないよ!?」

 

 そしてそれは当のハルウララも一切気が付いていない。

 

「ウララ、お前はそのままでいてくれ」

 

 ハルウララの以つ厳しさ。誰も想像だにしていなかったが、それはウマ娘であれば誰しもが持ち合わせているものであった。

 

「じゃあこう聞こうか? みんな、『ウララを泣かせるようなマネ』していいと思っているのか?」

 

 誰も答えられない。答えは全員決まっているからであり、その答えは全員一致しているからでもある。

 

「さて、僕からはこれでよさそうですね」

 

「そのようだな。さて練習に入る前に……毛利、君は本当に野球部に入るつもりなのか?」

 

 尾嵜の表明も終わり、いざ練習という前にウララが連れてきた毛利の話に戻る。

 

「なんでみんな……た、確かにマットをボロボロにしたことはごめんなさいしなきゃいけないと思うけど! でも!」

 

「でも、ウララ先生。毛利は手が……」

 

「え? おてて?」

 

 加納にそう言われウララは毛利の手を視ようとするが、反射的に毛利が隠してしまう。

 

「あ、す、すいません。別に隠すとかそういうつもりじゃなくてつい……はい」

 

「え? ……あ、え? ……」

 

 差し出された毛利の手を視て、ウララは何がどうなっているのか理解できなかった。

 

「別に事故じゃないです。生まれつきのことなんで」

 

 先天性異常。毛利の場合は右手の手首より先がない先天性欠損症と左手の人差し指と小指が他人より短く、中指は小指の方向にやや曲がっているという変形が診られる。

 

「えっと……その……」

 

「そんな泣きそうな顔しないでくださいよ。尾嵜さんがウララ先生泣かせるようなマネしていいと思ってんの? って言ったばかりじゃないですか。生まれつきなんでこの手でも普段の生活はなんも問題ありません」

 

 そもそも毛利の入学が決まった段階で彼の手のことは職員会議で知らされているのでウララも聞いていたハズだが、ウララもその事を忘れてしまう程ここまで問題というような問題が起きていなかったのである。

 

「な、なら!」

 

「いえ、やめときますよ」

 

「なんで!? ずっと廃材置き場(あそこ)で一人でボール投げしてて……そんなに野球が好きなら、みんなでいっしょにやったほうがたのs……」

 

「とは限らないんです。ボクの場合は」

 

 そう言いながら、毛利はじっと自分の手を見つめる。

 

「ウララ先生はそういうウマ娘じゃないからいいですけど、世の中には色々なヒトやウマ娘がいるんです。ハナっからボクには無理だって決めつけてチームに入れてくれない意地の悪い人もいますけど……」

 

「そんな! みんなはそんな人じゃないよ! でしょ、みんな!?」

 

「最後まで聞いてください。ボクはそういう意地の悪い人よりも、ボクのコト考えて気を遣われるほうがイヤなんです」

 

 その毛利の一言に、視線をギラりと光らせる者が二人。

 

「正直、手のコトを理由に入れてくれないほうがまだマシです。どれだけボクが大丈夫だって言ってもどうしたって設備なんかでボク用のモノを準備しないといけないコトだってあるんで、ソレが用意できないからチームに入れられないってコトがあるのは分かっていますから。ちゃんとした受け入れ体制が整えられないままボクを受け入れたことで、お為ごかしの身勝手極まりないまやかしの正義に溺れる自分自身にベロンベロンに酔っ払った、『自称:人権活動家』でござい。なんて同情の余地もない阿呆の相手はしたくないでしょうからね」

 

「お、おかめ? どーじょー?」

 

 この中々に偏見の入り混じった毒づきだけで毛利は過去にそういった厄介事に巻き込まれたことがあるのだということは、ウララ以外のこの場にいる者は皆察しがついた。

 

「ボク一人でヒモの靴も履けますし、ノートだってとれます。メシだって一人で食えるんですよ。でもグラウンドに立っている間は、真にみんなと同じ一人ですから。だけど、どうしても日本じゃそういう訳にはいかないみたいなんで、ボクはアメリカの大学を目指してるんです」

 

「あ、アメリカ!?」

 

 中々に……中々に面白い野望を明かす。

 

「アメリカも全然ナシって訳じゃないですけど、日本よりもボクみたいなヤツでもちゃんと実力視て落としてくれんで」

 

「え、落として!? 入れてじゃなくて?」

 

 ウララの反応は確かに尤もなものである。

 

「『落として』です。ボクが特別ヘンなのかもしれませんけど、ちゃんと『お前は下手だ』、『実力が足りない』ってメンバーから落としてくれたほうが嬉しいんです。でもそうやってむざむざ落とされるつもりはないんで、そのためにあそこで勝手に投げ込みをしていたっていうか……」

 

「毛利といったな」

 

 ここで尾嵜が動いた。

 

「試しに投げてくれないか?」

 

「いやー……」

 

「そ、そうだよ! ちょっと投げてみよーよ!」

 

 ウララからそう言われては中々に意志の強そうな毛利とて無下に断ることも出来ない。

 

「受けてやるよ」

 

 大柄で投げる相手としては比較的に投げやすい北沢が急造で買って出ようとした。

 

「いや、藤といったな。君がこの間の夏2番を着けていたことは聞いている。君が受けるんだ」

 

「は、はぁ……おい、ボール用意できるだけカゴに入れて持ってきてくれ」

 

 なんだかんだいつの間にかウララが望む展開になってきている。

 

「尾嵜君、君の意図を聞こうか?」

 

「え? 糸?」

 

 吹本が尾嵜にこうなるよう仕向けた意図を問うた。

 

「あまりトレーナーだった時の尺度で測りたくはなかったのですが、毛利(かれ)と同じ眼をしたウマ娘を何人か知っていたもので」

 

「え? だれ?」

 

 尾嵜は最初からチームカペラのトレーナーではなく、他のチームで見せた才覚を評価されてカペラのトレーナーに迎えられた外様である。チームカペラがサトノ家以外にも門戸を開いたのは、この時尾嵜がシリウスシンボリを始めとした当時担当していたウマ娘たちも受け入れることを条件として提示し、サトノ家の当主が了承したためである。

 

「メジロアルダン、ケイエスミラクル、サクラローレル、彼女たちのような眼と同じものを彼の眼から感じたもので」

 

 中でも尾嵜が高く評価されたのは、脚部や身体に不安を抱えたウマ娘たちを見事その競走人生を全うさせた高い管理能力で、自身は野球出身。トレセン学園の前には朝霞の自衛隊ウマ娘部隊で様々なスポーツに打ち込むアスリートウマ娘たちを視てきた経が蓄積されたものであった。

 

「ケイちゃんたちと?」

 

「ああ、彼はウララが持っていた長所とは違った、アルダンやローレルたちが持っていたようなモノを持っている。彼の口ぶりから、そんな気がしたものでね」

 

 ウォーミングアップをする当の毛利たちの様子を見ながら、ウララたちはそのような事を話していた。

 

「それに、ウララは彼の投げる姿を後ろから見て末松や岸井と見間違えたから連れてきた。違うか?」

 

「えっ!? なんで知ってるの?」

 

「去年から高実(ここ)の野球部にウララが入れ込むようになった経緯は聞いているから、手のことや彼が左で投げているのを視て、そう思ったんだ」

 

 実際以前ウララは毛利が廃材置き場で投げている後ろ姿を視て、末松だと思って声を掛けようとしたことがあった。

 

「別に軽く投げてくれたら左手(こっち)だけでも充分に捕れっから」

 

「いや、用意したから練習用の使い古しだけど、使い込んでないのどんどん投げていいから」

 

 毛利と藤がそう言葉を交わして、18.44mの間に屹立した。




 中々に毛利くんには実力も精神性も空理空論を叩き込んでいます。筆者が言ってしまっては元も子もないのですが、彼には後々野球における一種のジョーカーにあたる役回りをさせる構想があるので、「これチートキャラ過ぎないか?」と攻めたキャラメイクをしました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。