ハルのウララの 2XXX海の向こうの甲子園   作:コンスタンチノープル

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 現実世界においてセガサミー硬式野球部が今季を以って廃部ということになってしまいましたが、この作品におけるサトノグループ硬式野球部については世界観とか舞台設定をウマ娘の情報から独自に構築してあるのでその都度お話します。

 解説だけで3、4話以上は必要そうなので解説パートはなるべく避けたいなと。舞台装置のシステム機器は、公演中に観客に披露するようなモノではないですからね。


第65話

「変化球は投げないでくれよ。まず真っ直ぐからだから」

 

「へぇ、ボクにソレ、言うんだ」

 

「あ、悪い、もしかして変化球しか投げられなかったか?」

 

 藤はもしや指の関係で直球が投げられないのに自分が不適切な言葉をぶつけてしまったのかと謝った。

 

「フッ、冗談! こっちこそ悪い! ちゃんとストレート投げれっから、好きなトコに構えていいよ」

 

「冗談じゃないよ全く……こっちは冷や汗ものだよ……」

 

 そう内心で毒づきながら藤はキャッチングの構えを執り、真ん中やや高めにミットを示した。

 

「へぇ……いいキャッチャーじゃん。ホームまで近く感じる」

 

 毛利は心でそう感じながら、グラブも持たず、正確には周りが何を渡していいか分からなかったのだが、制服姿にボールだけ持ったままワインドアップモーションに入った。

 

「ほう」

 

「なるほど」

 

「アレって」

 

 ウララは毛利のフォームに見覚えがあった、ゴールデンウィークに練習試合で対戦した、有田商工の沢田石のように高々と脚を挙げるフォーム。だが、違いとして沢田石は右ピッチャーで、今投げようとしている毛利はサウスポーであり、沢田石のような踵を挙げるヒールアップを毛利はしていない。最も違うのは、左脚を爪先までピンと天高く伸ばす沢田石と比べ、毛利は右脚を適度に脱力させたようにユラリと挙げてみせた。

 

「これは」

 

「あ、これ目なやつだ」

 

 尾嵜と吹本、さらに藤は同じことを感じた。高く脚を挙げるフォームだがグラつきはなく、ユラリと脱力されていて、しかしスーッと挙がった右脚。明らかに体幹が強くて重心の取り方に長けている、好投手のフォームだとそのシルエットから理解した。藤が目と言ったのは、「自分が想像しているより数段好いボールが来る。準備が足りない」という意であった。

 

「えっ?」

 

 ウララは毛利が放った一球を理解できなかった。いや確かに速いボールだ、岸井や五十風に匹敵する速球だった。が、当然末松ほどではないし、なんならウララはこのボールを後ろから視て末松か岸井と間違えたからココに連行してきた訳である。しかし、ミットを構えていた藤がボールを捕逸したのである。高実のキャッチャーたちの中でも特に捕球技術に長け、普段から末松のボールを捕り慣れている藤が、であった。

 

「ねぇ! 今何投げたの!?」

 

「何って……ただの真っ直ぐだよ?」

 

 バッテリーの間で困惑が広がる。藤はただの真ん中やや高めのストレートを捕り損なう程度のキャッチャーではない。明らかにただのボールじゃない、だがそれを投げた当の毛利はただの真っ直ぐを真ん中付近目掛けて投げたつもりだ。当惑して当然である。

 

「ちょっと待っていてくれないか」

 

 尾嵜が足早にその場を後にして、ほんの数分後に何かしらを携えて戻ってきた。

 

「これにはぶつけないでくれよ?」

 

「それってラプソードですか!? うわっ! マジで、本物ですか!?」

 

「き、岸井くん、どうしたの? なにその、らぷそーど? って?」

 

 これにはメジャー志向の強い岸井は饒舌にならざるを得ない。今や当たり前となったボールの回転数や変化量といった数値を高精度に計測する最前線に立つモーションキャプチャーシステムである。こうやって地の文で解説している間も岸井がラプソードから始まりスタットキャストやセイバーメトリクスについてウララが間違いなく理解できないのに動画の何倍速なんだという早口でマシンガントークのように浴びせられてウララは眼が廻ってグルグルとしている。

 

「そうかそうか、岸井というのはそういう奴か」

 

「やだってコレ出されちゃあねぇってものですよ!」

 

 若干と辟易とする尾嵜。

 

「できれば使いたくはなかったのだが。どうやら毛利のボールを視るにはアレを要したほうがよさそうでな」

 

「あの、後でオレも……」

 

 当然岸井はここでちゃっかりいかないといけないと思ったわけである。

 

「だがああいった物体を途中に置かれるとコントロールを乱す選手も一定数居るからな」

 

 そういう訳で尾嵜は毛利にこれ(ラプソード)は存在しないものと思って変わらず藤のキャッチャーミット目掛けて投げるよう声を掛けた。

 

「なんか実するんだなー」

 

 と思いながら次の一球。藤は後逸こそしないものの、捕球に苦心しているようだ。

 

「これは……」

 

「ウソでしょ……」

 

 凄まじい数値が、そのモニターに示された。

 

「これ、回転数……」

 

 一般的にボールのノビやキレと云ったものの数値化とされるボールの1分間の回転数。毛利のストレートとして計測された数字は、「火の玉ストレート」と称された伝説のクローザーや、「昭和の怪物」と称された大投手に比肩するという数値がそこに映されていた。

 

「ねぇ岸井くん、この一杯かいてある数字ってすごいの?」

 

「……伝説の大投手とほぼ同じって数字ですね……他の数値も軒並み……」

 

 確実に言えることは、高校一年生のピッチャーが投げていいボールではないものを毛利は投げている。ということである。

 

「じゃ、じゃあ! スゴイボールなんだね!」

 

「あ、あの!」

 

「どうしたの、藤くん?」

 

 半ば当惑、ウララはワクワクしていると藤が困ったように言ってきた。

 

「すいません滝山先輩、ボックスで構えて貰っていいですか? 振らなくていいんで」

 

「まあ、いいけど……」

 

 滝山が右打席に立ち再度一球。すかさず藤が滝山に質問する。

 

「どうですか?」

 

「ノビてくるっていうか、吹き上がる? っていう風に感じるな」

 

「ですよね……」

 

 どうしても藤は捕球の感覚が掴めないでいた。ノビのあるボールは、末松のボールで慣れているわけだが……

 

「それ以上だっていうのか……?」

 

「『分からない』、といった表情だな。滝山、代われ」

 

「あ、はい」

 

 滝山に代わって打席に入る尾嵜、しかしバットは持たずに、拳法の型のように極端に重心を低くした構えを執った。

 

「は?」

 

「いいから投げろ」

 

 理解不能、とりあえず言われた通り一球を投じる。

 

「なるほど、そういう訳か」

 

「なんなんですか?」

 

「藤、考えているよりボールの半個……いや更にそのプラス半個、目測のボールより3/4個下を捕る感覚で捕れ」

 

「え?」

 

 明らかに見た目などを無視した、正反対のアドバイス。

 

「やれ。そうすれば理解る」

 

「もう一球ですかー?」

 

「ああ、頼む」

 

 次の一球、これまでと明らかに違う変化があった、藤のキャッチャーミットから会心の捕球音は響いたのである。

 

「捕れた……訳が分からない。えっ、つまり……」

 

「そうだ、毛利のボールはムービング・ファストやシンキング・ファストの類いのボールということだ」

 

「なっ!? そんなの絶対あり得ません!!」

 

「ど、どうしたの岸井くん? なんでぜったいちがうの?」

 

 いや、これは岸井でもそう反応して然るべきものである。

 

「だってココに出てる数値は全部ホップ成分がプロでも伝説のピッチャーって云われるレベルの数字を叩き出してるんですよ? それがムービングなんて絶対に無いです!」

 

「それはただの大投手なら通じる話だ。毛利ちょっと来い」

 

 尾嵜は今度毛利を自分の下へと呼びつけた。

 

「左手を見せろ」

 

「と、トレーナー! 毛利くんは……」

 

「必要な事だ」

 

「ウララ先生、大丈夫ですから」

 

 本人がこういうのでウララも引き下がる。

 

「やはり、思った通りだ」

 

 毛利の左手から腕、肩関節の周囲をひとしきり確認し、尾嵜は自分の建てた仮説に間違いが無いと確信した。

 

「な、何が!」

 

「毛利は非常に柔軟な身体をしている。アスリートとしては理想的な、な。その身体が持つ柔軟性と弾力性が最大限の効力を発揮するしなり(・・・)を使ったピッチングモーション。どうりでプロでも極一握りというクラスの爆発的なボールの回転数を産む訳だ」

 

「いや、だからそれは!」

 

 岸井が反論するが尾嵜が更に続ける。

 

「だが、それはムービング・ファストやシンキング・ファストとなる条件とも一致する。そして毛利の生まれ持った他者より不揃いな長さと変形の診られる指。これが高いホップ成分を有しながらムービング、シンキングする毛利のボールを創ることになった訳だ」

 

「バッターの手元でノビてきながら沈むボール……」

 

「昔のマンガに出てくる魔球じゃん」

 

「ま、まきゅー? ってなに?」

 

 レースが題材のマンガやアニメに所謂「魔走」と称される類いの走りが登場する作品が基本的に無いのでウララには分かりにくい世界観である。

 

「毛利、どうやら君は野球部に入るべきだな」

 

「と、言われても……」

 

「いっしょにやろ! ね?」

 

 満面の笑みでウララからこう言われては中々断れる者はいない。

 

「尾嵜君」

 

 吹本がかつて鬼監督と畏怖されたその眼光の片鱗を覗かせる。

 

「君は、この高知実業野球部が甲子園で優勝するためには何が必要と考える?」

 

「僕はまだ、公式戦の中継映像でしか彼らを知りません。まず我々が切れる手は何なのか? それを知らなければなりません」

 

「………………」

 

 その尾嵜の一言を受け、吹本はその心底を見定めているようであった。

 

「ふ、吹本先生? トレーナー? こ、こわいよ~」

 

「敵を知り、味方を知って勝つのは『一流』。敵を知り、味方を知らず勝つのは『二流』。敵も知らず、味方もしらずに勝つのは『三流』。全部しらずに負ける奴は『四流』だなあ」

 

「お言葉ですが、中学・高校年代の若き力が成長する速度は、ウマ娘であろうが人間であろうが凄まじいものがあります。『士別れて三日すれば、即ち更に刮目して相待すべし』と、……」

 

「い、一流の……かつ丼?」

 

 ウララの頭の中で言葉が混成された結果、脳内にはキングヘイローが作ったカツ丼が想像された。

 

「皆は凄いんだ、そしてそれは相手だって同じだ。ということだよ。中には試合中に爆発的な成長を見せ、たった3分でそれまでと別人に変貌する選手もいます。いや……世界を変えるのに3分もいらないのかもしれません」

 

「野球は3分では終わりませんよ」

 

「ですが、たった一瞬の判断がその後の人生まで明暗を分けてしまうこともあります」

 

「その一瞬のために、どれほどの努力と研鑽を尽くすか……君ほどの実績を重ねて来たなら、知らぬハズはあるまい。君は一体、どんな野球をしたいんだね?」

 

 やや長考の後、尾嵜が答えた。

 

「『こういう野球をするべきだ』というビジョンは自分の中に在ります。ですが、今の戦力で出来る『この戦い方がベストだ』という野球とソレが一致しているとは限りません。『無い袖は振れぬ』とは言いますが、袖や裾が無いならじゃあどんな袖や裾がベストか? そのための生地は? 生地を織るにはどんな紐が? 紐になる糸は? その糸はどんな繊維から? 甲子園で優勝するためには、そこまで考えるべきかと?」

 

「ねえねえトレーナー? お洋服の話じゃないくて野球の話だよ?」

 

「いえいえ、ウララ先生、尾嵜君の答えで充分です。そういう考えでこちらが切れる手は何なのかお知りになりたいのであれば、どうぞじっくりと視てやってください」

 

 かくして、新生高知実業高校野球部は始動することとなったのである。




 いかにも尤もそうな理由を着けたトンデモ野球理論をここに叩き込んでみました。
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