ハルのウララの 2XXX海の向こうの甲子園 作:コンスタンチノープル
一通り練習が終わり、ウララは尾嵜をともない南部校長に挨拶に訪れた。練習前に尾嵜は南部の下を訪れていたが改めてということで、吹本も同行している。
「なるほど、さすがは彼の名トレーナーと呼ばれ、今は高校野球界きっての名将と謳われる山淵達史朗さんが推薦してきたほどのお方ですね」
「いえ、どれだけ口で善いことを言っても、結果を残せなければそれまですから」
南部校長からも好感触を得た。
「その『こういった結果を挙げる』という目標が良いんです。これであれば……」
「校長先生? なんだか……えっと、えーっと……」
得も言われぬ何とも云われぬ表情をする南部に対して、ウララはどう反応すればいいか困惑している。
「すいません。まさかこう事が運ぶとは……明日は我々教職員全員出席の会議で部活の練習などは休みと決めてありますが、尾嵜さんにも参加していただきます」
「分かりました」
尾嵜が頷きながら返答しこの日の解散となり、翌日件の会議を迎えた。
「どーして体育館なんだろう?」
普段の会議であれば職員室や空き教室などで行われるが、今回は広い体育館で行われることとなっていた。
「あれ? あの人たち、だれだろう?」
しかもこれまで出席したこともなければ、会ったことも無い人物が多くこの体育館に集まってきていた。
「あー、あー」
壇上に上がった南部がマイクの頭を数回軽く叩いてから動作確認をして話始める。
「本日は皆さんお集まりいただき、誠にありがとうございます。今回集まっていただいたのは、徳島県立徳島実業高等学校、香川県立香川実業高等学校、愛媛県立愛媛実業高等学校、高知県立高知実業高等学校の皆さんです」
四国4県の実業高校の教職員を集め、何かが始まろうとしている。
「今回の件は、新しい学校を創立する話についてです」
「え……じゃあ今の学校は……」
一同ザワつきはじめる。
「皆さんどうか落ち着いて、今この場に集まっていただいた皆さんの4校が無くなるという訳ではありません」
「ほっ……」
ウララを始め、一同胸を撫で下ろす。
「ご存知の通り、今日本は空前の好景気に沸き返り、世界においても超大国に次ぐ準超大国という位置付けにあります」
作中においては、エネルギー革命で石炭から石油の時代に移り変わろうとする頃に、日本全国の炭鉱から地球外の物質というほど極めて高品質のレアメタルとレアアースを始めとした非常に稀少な天然資源が超大量に採掘され始め、採掘・加工・輸出といった産業から波及して日本は瞬く間に超大国と肩を並べる「準超大国」と称されるまでの経済を中心とした活気を帯び、様々な産業や技術、文化などが百華繚乱と咲き誇っている。
当然のことながら、メジロやサトノといった名家もその一翼を担って余りある働きを見せている。
「その中で世界に遅れを取っているのが、我々教育の分野になります」
日本の4月から学年や年度が始まる体制は世界的には極少数派の部類であり、特に学生世代の人材が日本に集まり辛く、教育の分野についてはやや後進国といえる立ち位置に在る。
「そこで、世界へと通ずる人材を育成し、世界の人材をココへ呼び込む『四国から世界へ、世界から四国へ』という場を新たに創設する運びとなった訳です」
そういうと南部は後ろに置かれた幕の一部を捲った。そこには先ほど言った『
「四国から、世界へ……っ!」
「世界から四国、か……」
ウララには最初の一文、尾嵜にとっては後の一文が、その気を駆り立てるものであった。
「そこで、何を以って世界と通ずる人材と成すか……我々は、それを『スポーツ』を以って成すという答えに至った訳です」
「スポーツを……持って?」
言葉の意味を、ウララは分からない。だがウララは南部の言葉を体現した存在と云っても過言ではない。
「ここに四国4県による共立の公立大学、『四国共立国際体育大学』を創設し、徳島実業高校、香川実業高校、愛媛実業高校、高知実業高校の4校をその附属高等学校として世界と通ずる人材を育み、世界と四国の繋がる場とします」
南部の言葉に一同当惑。
「でも、ウチらは単なる県立の実業高校で、スポーツを専門には……」
「『スポーツ』とは、『
「えぇーっ!? そうなの!?」
体育館にウララの絶叫が
「ま、まあそのあたりの事は、野球部の連中なら岸井がだろうな。トレセンにいた頃の友達に聞くなら、ハヤヒデ、シャカール、タキオンあたりに訊くと面白い話が聴けると思う」
実際岸井は一人で爆走してウララが眼をグルグル廻してしまったので、この三人に訊いたほうがウララにとっては善い。
「フクキタルのトレーナーには訊いても良いが、間違ってもフクキタル本人には何があっても絶対に訊くな」
至極当然、妥当でしかない。実際は他にもこの妥当に当てはまるウマ娘は一定数居る。
「スポーツだから体育大学、体育科という時代ではなく実業学校が様々な角度から、様々な形でスポーツを成す人材を育成する。そういったコンセプトの大学、その附属校に我々がなるという話です」
吹本は以前の森重との話はここに結ぶための布石だったか。と逡巡を廻らせながら、「いや、こういう話ならまだ何かあるのでは?」と考えるのであった。
「そして、ただ人材を発掘養育するだけではなく、『スポーツを以って四国を活かし、育む』、それは…」
全体を見渡し、バチッと一点を指さす。
「ウララ先生が体現してきたハズですっ!」
「わ、わたし!?」
これ以上ない存在である。途中で中央に移ったとはいえウララの走りが四国、ひいては日本に与えた影響は計り知れない。
「ですが四国4県のどこかだけでは物理的な狭さという限界があり、そこで四国4県の共立で各県にキャンパスを置き、4県ごとにそれぞれ特色を以った学校にしよう。ということです。そこでまずは徳島、サッカーJ1で闘った四国最初のクラブがある徳島はサッカーを始めとした陸上競技場で行われる屋外スポーツ全般。日本の都道府県で一番面積の小さい香川はバスケやバレーボールを始めとした屋内スポーツ全般。愛媛は陸上の駅伝やマラソン、自転車のロードレース、アーバンスポーツなど街中を中心に行われるスポーツ。高知は野球・ソフトボール、クリケットの他にマリンスポーツ、スカイスポーツ、登山などアウトドアスポーツの中でも自然と対峙するスポーツ全般。四国一体となってありとあらゆるスポーツにおける人材の発掘と育成を行っていくコンセプトの学校です」
そこで、尾嵜が待ったをかける。
「それはつまり、
その尾嵜の一言に南部は毅然とした態度で回答した。
「それは断じて違います。おそらく
「そうですか……」
尾嵜はそれ以上言及せず、逡巡するように体育館の天井を見上げた。「言うべきことをいう」、尾嵜は野球部に対し、ウララに対しそう口にしたが、この時は自分が南部の言葉に対して何を口にし行動すべきかということを脳内に構築している最中のようであった。
そして南部はそのスポーツに取り組む指針について絶対的なものを口にした。
「そのためには何を置いても文武両道。これはどの運動部も絶対に厳守してください。入試においても定期試験や内部進学、卒業試験など学業には世界トップレベルに厳しい基準を設けます。いくら世界記録をいくつも出して金メダルを何個、何十個獲ろうと、そのスポーツで伝説のアルティメット・ヒーロー、ヒロインと讃えられる名選手になろうと、アスリート生活を終えた時にどうする事も出来ないような者にしては決してなりません。ですが、社会のためになる者とは学業が得意な者でもスポーツが得意な者でもありません。スポーツと学業を通し、世のため人のため、ウマ娘のためになり、社会にとってなくてはならない者も発掘し育成する。むしろ片方しか出来ない、どちらも出来ない、何の取り柄もないという者をゼロやマイナスからそういう者へと育成してこそ。そのつもりです」
考えは充分に理解に値するが同時に高過ぎる、最早理想空想の類いとも云える目標であった。
「そしてそれは学生たちにやらせればそれでいいという訳ではありません。人間であろうがウマ娘であろうが、死ぬまで勉強。様々なモノやコトが新たに発見、創造され続ける世において、我々教職員各位も勉強は欠かせません。忙しいなどどいうことを逃れる理由にしてはなりません。別に博士や学者、研究者になれというのではないです。近年世界中のありとあらゆる情報が手元の端末1つで手に入れられるようになっている中で、相手が教えられる側の学生だからと甘くみたり、軽んじてはいけません。特にこれから明晰な子達が増えると私は言っているので学生たちに捻じ伏せられているようではなりません。士別れて三日すれば、即ち更に刮目して相待すべしとも云います。特に若い世代の成長速度は凄まじいものです。子供を無礼てはいけません」
「えぇーっ!?」
大分長々と南部は喋った訳だが「我々教職員各位も勉強は欠かせません。忙しいなどどいうことを逃れる理由にしてはなりません」と言われ、ウララは正に青天の霹靂である。
なお、南部が最後に「子供を無礼てはいけません」と言い放った時の表情は「中央を無礼るなよ」のソレである。
やたらめったらに大きな風呂敷は拡げさせてもらいましたが、野球部は野球部です。アンケートで多く戴いたので目指せ! 全国制覇! の王道路線であることに変わりはないです。