ハルのウララの 2XXX海の向こうの甲子園 作:コンスタンチノープル
センセーショナルな南部の発表は間を置かずに公にも発表され、世間の目はトゥインクル・シリーズや他のメジャースポーツほどではないものの、四国へ向くことになった。高知においてその中心は間違いなく野球部であり、今はウララの徳と以って彼らへ悪感情が集まらないでいる。そのウララと吹本、尾嵜が今後の野球部の方針について話をしようとなっている。
「トレーナー! 野球部のみんなはどうかな?」
「おいおい、もうトレーナーは辞めるという話だし、僕はウララの担当じゃなかったじゃないか」
「でもトレーナーはトレーナーだよ!」
ニカっとはにかむ宇宙一可愛い生き物。彼女の言う通り、トレーナーをやめても尾嵜と同じ時期にトレセン学園ですごした者たちにとって彼はトレーナーである。
「まあ尾嵜君、実際この数日
「そうですね……強みはやはりピッチャーですね。末松という大黒柱に加え、市居という基軸となる2人を始め、ピッチャー経験者が多い上にその皆がウイニングショットになるようなボール投げることが出来ます。ちゃんと練習や試合で経験を積ませ地力を向上させてば充分甲子園を狙うことは出来ます」
「むーっ! ちがうよ!」
頬を膨らませ如何にも不満だという顔をするウララに尾嵜は何が問題かといった表情を浮かべる。
「甲子園に行くんじゃなくて、甲子園でゆーしょーすることをみんなめざしているんだよ!」
これには尾嵜も困った。困ったと同時に、トゥインクル・シリーズで走っていた時と変わっていないウララを嬉しくも思った。常に走ることを楽しむ、しかし例え相手が誰であろうと一着を目指し続けていた。ハルウララとはそういうウマ娘だ。
「もう一つ、攻撃面において単純な打力だけではなく機動力が武器の選手もいる。細かいプレーの再現性を高めれば、全国レベルの強豪とも充分競り合えます。ですがウララが言う甲子園優勝は今のままでは絶対に出来ないと断言していいです」
「なんでっ!?」
尻尾をビーンっと毛先まで逆立てながら絶叫するウララ。練習していた部員たちも驚いて3人を注視する。吹本が気にせずにと促しまた練習に戻った。
「守備、か……」
吹本の言葉通り投手力が高く、打力もあって脚の使える選手もいる。となると残っているものは守備力である。
「ええ、ピッチャーの枚数が豊富ですがほとんどが野手として兼務の幅も大きいですから自ずと綻びも出てしまいます。今の段階で及第点は、
そう言いながら尾嵜はグラウンドで練習する選手たちの中で、ある一点に眼を着ける。
「高海と碓井を二遊間で使うのなら、僕は責任を取りません」
「えぇーっ!? なんでーっ!?」
ウララ、再びの絶叫となったところで来客である。
「やってますね」
「あっ! 校長先生っ!」
凄まじく早い切り替えで満面の笑みで南部を迎えるウララ。吹本と尾嵜にとっては厄介な相手である。
「そういかにも面倒なヤツが来たなという顔をされても用事があって来たので終わるまで帰りませんよ?」
「むっ? そうだよ、2人とも。 校長先生だよ!」
なんだかんだウララが悪意を感じないあたり、南部もそれなりの人物ではある。吹本と尾嵜もそれは理解かるのだが、「ソレはソレ、コレはコレ」である。
「ですが、校長先生がああ仰られたので、野球部に注目が過度に集まってきているのは事実ですから」
「それで、用件とは?」
尾嵜としては話が途中で遮られてしまったので、早く要件を済ませてお帰りいただこうというつもりである。
「実は私のほうでも吹本先生のお歳のことを考えて後継者を探していたんです」
「つまり、僕とどちらが後任に相応しいか比べると……」
最低でも面白い話ではなさそうだと思う尾嵜、もし南部がその者と自分と同時に話を進めていたとあればこれは信義に悖る重大なルール違反と言ってもいい。だが実際にはそれぞれ別のルートでオファーを受けていたのでそういうことではなく、誰がこの件について動いているか南部が把握していなかったこと。そしてトップである南部に自分の件が伝わっておらず、自ら独自に話を進めていたことなどが問題である。
「いえいえ、私が
公立か私立を問わず、高校野球の監督をするのにその学校の教諭か否かは問われない。学校の生徒がやっても構わないし、極端な話急病などで本来の監督がベンチに入れない緊急事態が発生した際にその時球場にいる適当な人やウマ娘をとっ捕まえて代わりにやってもらうことも可能と言えば可能。学生野球資格を回復していないプロ野球経験者以外であれば、ある程度やってもいい者の自由が利く。
「尾嵜さんがされるということで、その者に『現場じゃなければいいのか?』と改めて問うと『視るだけ視ましょう』と言ってくれましてね」
若干強引ではあるかもしれないがこの際置いておく。
「何を任せるつもりで?」
吹本の問いは尤もである。
「一先ず来てもらっているので呼んでいいですか?」
「いいよ!」
ウララに元気よくこう言われると二人としては断る訳にもいかない。
「よかったよかった。トラン、入って」
「えぇ~!? ……えっ?」
ウララが驚くのも無理はないが、眼にしたのは更に予想外。
「会長、この場でボクをそう呼んじゃ駄目ですよ」
「え? あっ! あーそうだね、ごめんごめん!」
「皆さんすいません本当に、改めまして、
入ってきたのはいかにもオリエンタルな雰囲気を纏わせたかなり容姿端麗でゴールドシチーと並んでも引けを取らない、だがあくまで人間。尻尾も無ければ耳もヒトのソレである。
「えっと、トランちゃんの……お姉ちゃんですか?」
「あの……ボクこれでも一応男で……
実は容姿端麗ではなく眉目秀麗だったヴィン。中性的よりもかなりフェミニンな男の娘の類いだが身体つきは男性的とまではいかなくとも中性的で纏う服も男物なのでニューハーフや女装家の類いでもないのだが、却って顔だけでヅカの男役を務める男装の麗人にしか見えず逆効果も甚だしい。
「ご、ごめんなさい。ベトナムの人なんですね?」
「一応、でも生まれも育ちも日本です」
こう話していても何ら問題なく、片言の違和感も感じないほど澱みなく日本語を話せている。
「トランは今言った通りベトナムでは多い名前なので、ビリーかヴィンとでも呼んでください」
「じゃあビンちゃん!」
「はい」
流石のウララ、すぐに懐に飛び込んで悪い心象を得ないあたりは特殊能力とも云える。
「トランセンドさんとは家族でも親戚でもないです。ただの野球が好きな日本産まれ日本育ちのベトナム人です」
「全く以ってキミは相変わらずだなぁ……こんなことを言ってるがトラン、いやビリーは野球について面白い見識というか造詣を持っていてね。私としては尾嵜さんが次の監督として現場の責任者ということでいくなら、ビリーには外部特別顧問として主に外部との折衝を任せたいと考えておりましてね」
その業務について、吹本は違和感を感じた。
「折衝というと、広報や宣伝などの活動とはまた違ったものだと?」
「僕は過度の『商』でなければ……」
「いえそういうものとは、基本的には新入生に関する調査ですね」
学校が新しくなってもあくまで公立学校であることに変わりはない。特に思わしくない考えを持っているのは尾嵜であった。
「僕は反対ですね。トゥインクル・シリーズと高校野球は別物です。他の都道府県からの越境入学は絶対に認めたくないです」
「え!? 高校野球って、高知から東京の学校に行っちゃダメなの!」
この部分の心象について、トゥインクル・シリーズと高校野球に向けられるイメージは尾嵜の言う通り全く別物、正反対と断言できる。
「いえ、そういうレベルの話ではなくて。実は高野連の
「来ましたか」
「こーやれん? って、何?」
「日本の高校野球を取り仕切っている所で、URAみたいなものだよ」
「ゆ、ゆーあーる……?」
ウララは理解らなくてもウララの走りがURAとNAUに与えた貢献は計り知れず、今高校野球へ携わっていることでその影響は高野連にもかなり大きなものを与えている。
「『本当にやるつもりなら、キューバ以外の国の選手もスカウトしてほしい』と、言われましてね」
「やめろ。ではなくてですか?」
高校野球における野球留学と野球特待生問題などの中でも、特に地元を離れた他の都道府県への越境入学は社会問題とも云われており、尾嵜のように厳格な反対と激しい侮蔑と隠さない者にも市民権が与えられ、寧ろ清廉の志士であると称賛されることも多い。
「廃絶させるべき立場にある苗木さんがですか?」
尾嵜の意見は尤もである。
「私も『そうでなくとも色々と言われているので』と一旦は断ろうとしたのですが……」
南部の言うように、国内の越境入学どころか海外からの留学生を公立学校が招こうという事には日本では色々と異論を唱える者も多い。
「苗木会長から『四国という地域を挙げて取り組むんなら、勉強は出来るけど経済的に厳しい状況にある子達を救済する取り組みを行うべきだ。それがスポーツを以って、ということじゃないか』と言われましてね」
「つまり、高野連の会長直々の意見を四国共立国際体育大学のコンセプトに取り入れたと?」
吹本の言う通り、新設させる大学とそこと連動する四県の高校については苗木会長の意見も大いに取り入れられた部分がある。
「『ただ生活の面倒を見るのはアマチュア規定に抵触するから最低限に留めるように』と、これについてはラグビーの
「てっとーさん? って?」
「鐵東
この数十年の日本スポーツ界において、鐵東大祐という人物はかなり稀有な大人物として知られている。南部はラグビー部においては何を置いても鐵東の話を訊くべきと考えていたところ、向こうから突撃してきたのであった。
「大分ウララ先生のことを買われているようでしたから、心配されていたのでしょう」
「え? でもわたし、その鐵東さんっていう人に会ったことないですよ?」
当のウララは知らないが、彼女のことを好く想っている人やウマ娘は世界中の至る所にいる。
尾嵜さんとビリーは特に水と油の中でも燃えて煮えたぎる油に冷水もいい所な間柄なのですが、ハルウララを以ってくっついたり反発したりとかを考えています。