ハルのウララの 2XXX海の向こうの甲子園 作:コンスタンチノープル
他の教職員たちにも紹介を済ませ、改めて部員たちにも挨拶を兼ねてヴィンの方針などを所信表明する場を設ける運びとなった。
「トラン・ビ・リー・ヴィン、前以って言っておくがこれでも男だ。何でもこれからそこの尾嵜さんと、漢と漢の意地を懸けた決闘をすることになった」
なんとも物騒なワードが飛び出す。
「え? タイマンですか?」
「た、タイ……」
ウララにとってタイマンといえばヒシアマゾンである。
「ケンカはダメーっ!!」
当然のことである。
「なんだか勝手に話を面倒にしているけど、ビリーの所信表明というプレゼンテーションを聞きながら、今後の方針を決めていこうという話し合いの場を作って、君たちには立会人になりながら意見も出してもらうつもりだ」
それがヴィンにとっては意地を懸けた決闘らしく、勇ましさそのままに空き教室の教壇へ昇る。
「ボクの方針……それはセイバーメトリクスだ」
「なるほど。岸井、末松とウララの隣を代わってくれ、
「はい」
「ありがとー岸井くん」
末松と岸井が場所を代わっていざ本題である。
「ビリー、頭ごなしに申し訳ないが僕は全てを賛同できない」
「必ず誰かはそうくるとは思っていました」
「うぅ~、ふたりとも……」
漂うヒリついた空気にウララはタジタジである。
「でも、確かにセイバーメトリクスには限界があるんで、俺も全部が全部善いとは思っていないんです」
「そうなの?」
比較的に肯定派の岸井であるからこそ、ソレに限界があることをウララに解説する。
「岸井の言う通り、セイバーメトリクスにはその性質上の限界がある。だが僕が反対するのは、僕の野球教義とは異なる部分があるからだ」
「聞きましょう」
まず訊く辺りヴィンも一廉のものは持ち併せている。
「第一に、セイバーメトリクスにおける野球とは、『27個のアウトを取られるまでは終わらない競技』で合っているな?」
「えっと1回のアウトがみっつで、えーっと……」
「ウララ先生、3×9です」
「そっか! じゃあ27だね」
大変微笑ましい。
「まずそこが僕の考えと違う。僕の方針はあくまで、『試合は勝って終わること』を目指す」
「そうだね! みんな優勝をめざしているもんね!」
「ウララの言う通り、だから『勝つために必要なアウトの数を考えた』」
それは本来、考えるまでもない話である。
「ここで皆にも訊こう。『1試合勝つために、アウトはいくつ必要だ』と思う?」
「そんなの、27個じゃないんですか?」
北沢だけではない、野球について多少知識があれば誰だってそう答える。だが尾嵜がわざわざそんな質問を投げかけたという事はつまり、違う意見があるということである。
「僕は54という仮説をここに建ててみた」
「なっ!? 多すぎますよ、54じゃ18イニング戦うことになるじゃないですか!」
確かにその通り、54ではキッカリ2試合分のアウト数である。
「良い反応だ。いいか? 野球という競技について考えてほしい。サッカーやバスケのような特定の時間で終了するタイム制でも、バレーやテニスのように先に特定の点数を入れた方が勝つラリーポイント制でもない、3個のアウトで1イニングに換算されてこれを9イニング行う」
「最初に野球のちゃんとしたルールを決めた時には、『先に21点取ったほうが勝ち』っていうバレーやテニスみたいなラリーポイント制だったんですよ」
「へー、そうなんだ!」
途中様々な変遷を辿るが、主に21点先取制ではいつまでやっても試合が終わらないので現在の試合形式に落ち着いている。
「重要なのはこのアウトが両チームで共有されているものではなく、それぞれに課せられたアウトだ。ということだ」
「課せられた……ですか?」
中々特殊な物言いと云っていいだろう。
「そうだ、つまり勝つためには僕たちも攻撃で『
後攻の場合は9回裏が無くて51個に減る場合もあるが、という注釈も付け加えた。
「確かに……勝って『試合が終わる』ためには『試合が進む』必要がありますね……」
「野球という競技は『対戦チームの合計アウト数が54個、或いは51個の時点で多く得点していた方が勝ち』というゲームだと考えた場合、『相手チームから27個アウトを奪う間にいかに失点を許さず』、その間に『自チームが27個のアウトを使いながらいかに得点を入れる』か、と考えるのが勝ち筋ではないか? これが僕の建てた理論だ」
「えっ? アウトってダメっていうことで『使えないよ』ってことじゃないの?」
尾嵜の建てた理論は異端な部分があり、ウララを始め周囲の理解は中々追いついてない。
「そうだな……『10点取っても11点取られたら敗け』だし、『1点しか取れなくても相手を0点に抑えたら勝ち』。これはみんな理解るな?」
「あ、そうだね!」
「『10点取っても敗けは敗け』、『1点だけでも勝ちは勝ち』。特に日本の高校野球は得点や失点、得失点差ではなく引き分け無しの勝ち抜きトーナメント方式で行われる大会がほぼ全てと言っていい。こう云うと『10点取って0点に抑えて勝ちたい』そう考える者も中に入ると思う」
実際、周りには痛いところ……をという者もいる。
「それは目指すべきではないと断言できる。特に日本の高校野球においては、だ。プロでも打率3割で一流のバッターと言われている、パーセントでいうと30%だ。つまり野球の70%はピッチャーと守備が握っていると云える」
「ですが、高校野球では打率4割や5割以上打つバッターが出てくることも珍しいことではないですよ?」
天童の一言に尾嵜は数回軽く頷いた。
「最初に言ったように、僕はセイバーメトリクスについて全てを賛同できない。と言った。つまり賛同できる事もあるということだ。ビリー、アメリカでセイバーメトリクスを用いたプロ野球チームの運営がされ始めた当初、新人選手をドラフトする際に高校生ではなく大学生を指名するべきということになっていたのは何故だ?」
「あ、試合数が多くデータの絶対量が多い上に、そのデータは対戦相手のレベルに差が生まれにくく信頼度が高い。という観点から、大学生がいいと言われています」
ただあくまで大学生の方が良いというだけで高校生を全否定するものではない。
「つまり、試合の数自体が少なくてデータも少ない上に、対戦相手のレベルの差が大きくなることも珍しくないのでその信頼度も低い日本の高校野球にセイバーメトリクスは適していない」
「ボクが校長先生から任されるのは新入生の選考について、主にプレースタイルについてですから現場の戦い方については、ベトナム人のボクがソコを任されたのもそういうことだと思います」
「? どうして、ベトナムの人だから新入生のみんなのことを任せるの?」
ウララは気にしなくても良いが今後高実で受け入れることになるキューバとベトナムは社会体制が同じで日本と同じか、それ以上に友好的な外交関係であるので単純に行き来しやすいのである。
「勿論、キューバという国が高校生世代の選手を出してくるわけですから性格などは、最低でも途中で亡命を画策するような人は寄越してはこないでしょうけど、選手としてどういうツールを重視するか……向こうは色々記録を採っているのでそこから色々とやるつもりです」
「そうか……僕はピッチャーをメインにディフェンス面にウエイトを置く、ピッチャーはどう評価するつもりだ?」
尾嵜のこと一言は一種の計略である。
「Batted Ballを基にDIPSやBABIPなど色々と」
「でぃ、でぃーあい……?」
「ホームラン以外のヒットは全部運、って考えで出来たデータですね」
岸井はウララを置いてけ堀にしないように言葉を選んで解説している。
「つまり、ホームラン以外のヒットはピッチャーの実力によるものではない。そういうことだな?」
これは尾嵜の念押しである。
「そういうことになりますね」
ヴィンも同意。尾嵜にとってはしめたものである。
「ということは、『
「あっ、え、えぇ……でも、限度はあるでしょうけど」
「そういうことだ。現状のチームにおいてバッティングと走塁は良い、放っておいても全国レベルでも通用すると云っていい。慢心と過信はするな、だが自信は持て」
一同から「おぉ……」っという声が上がる。
「だから僕はオフェンス面については余程の事がない限りしばらく放っておく。今このチームが全国制覇を成し遂げるために必要なもの、それはピッチャーと野手は守備力。ディフェンス面の向上が今のチームにおいて最優先事項だ」
「えっと、つまり……」
ウララが言葉に詰まっていると、末松がポーンとその一言を発した。
「俺が日本一のピッチャーになればいい。ということですね?」
ぱあっとウララの顔に笑顔が咲き誇るがすぐさま氷水とも云える冷水が頭から浴びせられる。
「駄目だ、それは違うな」
真っ向からの否定は他ならぬ尾嵜の言葉。
「なんで!? どうして!?」
「地方大会はまだいい、だが甲子園には球数に制限がある。一人のピッチャーで戦い続けるには限界があるが、君たちの云う全国制覇は神宮や国スポではないだろう?」
ここにいる選手たちの目標はあくまでも甲子園。当然のことである。
「それに校長先生の動きではキューバからも今後学生を呼ぶと言っているし、既にここには台湾から来ている者もいる。新しくなる学校の方針を考えれば他にも様々な国から学生を呼ぶことは間違いないだろう」
「あ、そうだね! あれ、つまり……」
ウララには尾嵜が何を言いたいかなぜか理解かった。
「末松だけではない。
筆者だって自分の思想をドーンっ! と突っ込んだので低評価点と批判、酷評の嵐になる覚悟は一応してあります。自分が異端の徒だという認識は持っていますから否定と拒絶をされて当然だと思っています。