どうも真祖(型月)です   作:全智一皆

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第三話「果たされる邂逅」

 

 

■  ■

 クレーンゲームというものは、実は人が思っているよりもかなり奥が深い、というのは真祖の談である。

 何故に真祖ともあろう存在が、人間達によって造られた戯れの場所に設置された戯れの道具で、遊んでいるのだと聞かれれば、それはもう答えなどたった一つ。

 ―――暇なのだ。

 

「おっと、また取れなかった。あと少しなのに…全く、むず痒いね。流石はクレーンゲームだ」

「俺、クレーンゲームにここまで沼り込んでる奴初めてだよ…」

「取りたいものがあるのに、それを思う様に取れない。そんな状況を楽しめるのは、中々に稀なものでね。それに愛らしいじゃないか、このキャラクター」

「吸血鬼なのにシスターを可愛いとはこれ如何に」

 

 暁古城の意見は御尤もである。

 だが、この真祖―――真祖の中でも、大変珍しい生粋の人間好きなのだ。

 ので、わりと人間の性癖にも理解がある。人の(さが)ではなく人の(せい)に理解がある吸血鬼だ。

 

「良いじゃないか、シスター。特にほら、このスリット部分から垣間見えるガーターベルトと太ももが大変素晴らしい。すらっとしている様でちょっと肉が付いているとか最高じゃないか?」

「止めて! ゲーセンの中でいきなり性癖を吐露しないで!? 俺まで恥ずかしくなるから!」

「君はそれでも男か? 男なら溜め込むものがあるだろ、色々と。個人的にはバニーが好みだ」

「お前の性癖とか知らんで良いよ! てか早くお取りになられてもらってよろしい!? もう取れるだろ!?」

「そう急かすなよ。あと少しだ」

 

 愉快愉快と、一人の男子高校生(推定年齢不明)が愉悦に浸る笑みを浮かべながら、シスターのフィギュアを取る様と言ったら何ともシュールである。

 アームを動かし、その先が箱に取り付けられた輪っかへと通される。右へと動いた鉄の手が登っていった先に、遂ぞ箱は落下した。

 取り口から取った箱を眺めて、真祖はうんうんと何度も頷いた。

 

「シスターは善い文明だね」

「結論それかよ…まぁ、良いや。つか、もうこんな時間かよ。」

「もう夕方か、何かに取り組むと時間が過ぎるのが早く感じるのは人も真祖も同じだね。さて、それでは優雅なジャンクフードタイムと洒落込もうか」

「ジャンクフードをティータイムみたいに言うなよ。全然違うだろ、優雅ってよりは豪快だろ」

「細かい事を気にすると禿げてしまうらしいよ。まぁ、君の場合は刈られるが正しい表現だけど」

「刈られるは明らか確信だろ! お前が明確に自分の意思で以て俺の髪を刈るつもり満々じゃねぇか!」

「分かっているなら細かい事は無視したまえよ、新入り君。先輩による後輩いびりは辛いんだぞ? 俺はいびられた事はないがね」

「理不尽だろ…あと、俺は帰るぞ。凪沙が待ってる」

「おやおや、愛妹の手料理とは何たる贅沢だ。ふむ、そうなると彼女の分も取れば良かったかな?」

「あー…確か猫のストラップが何とかって言ってた様な…」

「なるほど、猫ね。また来た時に取っておくとしよう」

「わざわざ、ありがとな。凪沙もまた喜ぶよ」

「暇人だからね、暇潰しで人に喜んでもらえるならば結構だとも」

 

 ゲームセンターから出た二人の真相は、日の下を堂々と闊歩する。

 片やフードで顔を隠し、気怠そうにする少年。

 片や半袖の上に夏用のパーカーを着込んで堂々と歩く青年。

 これこそ格差。歴然たる差に他ならない。同じ真祖だというのにここまで違うものかと、古城はその理不尽さに義憤せざるを得ない。

 ()の真祖曰く、

 

「真祖は真祖でも全く異なるね。君達は『祖』止まりで、それも二十七祖に数えられない下級の祖だ。大して俺は真祖、星の触覚なものでね。まぁ、そっちの方がオマケで本来としての性質の方が特殊だが」

 

 との事らしい。

 古城が理解出来る部分は三分の一にも満たなかったが、とりあえず彼の言う『真祖』と自分達や言う『真祖』は出自というか、根本からまったく異なるという事だけは分かった。

 分かった上で、理不尽だと思わずにはいられん真祖(笑)であった。

 

「おや? 暁、大変だ」

「ん? どうした?」

 

 突如として立ち止まった古城。下げていた肩と視線を上げてみると―――

 

「どうやら魔族と打つかってしまったらしい」

「何しやがんだ、テメェ!」

 

 大柄な体格の、人間とは全く異なる異形の存在―――魔族が、同級生に憤っていた。

 

「えぇ…」

「すまないね。いや、何分、腹が減っていたものでね。つい近くにドライブスルーの店はないものかと、余所見をしてしまっていたんだ。申し訳ない」

「何が余所見だ! 誰がどう見てもテメェからぶつかって来ただろうが! 堂々と正面向いてたよな!?」

「さぁ、何の事だろう? 言い掛かりはよしてくれよ」

「お前は何してんだよ! なんで自分から打つかりに行ってんの!?」

「おいおい、暁。話しをちゃんと聞いていたのか? 俺は打つかりにいったんじゃない、打つかってしまったんだ。故意ではないんだよ」

「信用ならんわ!」

「ナメた態度取りやがっ」

 

 言い切る前に、魔族の口が閉ざされる。

 膝に引っ掛ける様に振り抜かれた右足が、意識の外からの奇襲となって魔族の体勢を崩した。

 まるでボールでも掴む様に、真祖は魔族の口元を片手一本で鷲掴みし、路地の方へと一瞬で連れ去って行く。

 時間にして1秒。古城が瞬きをした、その隙の出来事だ。

 

「―――は!? ちょ、雨宮、何やってんだ!?」

「暁も早く来い。御客様がお待ちかねだ、可愛い可愛い一年下の後輩が見てるんだ、良い所を魅せたまえよ、先輩。なぁ、そうだろう?」

 

 真祖の笑った声は―――しかと“彼女”の肩を震わせた。

 

「まったく、中学生ともあろう()が一人で夕方の街を出歩くものではないよ。この通り、絃神島は危険な物も多くてね。門限はしっかりと守るべきだと俺は思うな」

 

 場所は変わって某ハンバーガーショップ店内へ。

 揚げ立てのポテトを頬張りながら、真祖は対面する様に座っている後輩へとお咎めの言葉を口にする。

 魔族を文字通り秒で黙らし、最後の美味しい部分を古城へと譲って自分達を尾行していた一人の女子中学生―――姫柊雪菜を発見次第、積もる話は食べながら聞こうと二人を此処に連れ込んだ真祖。

 そんな相手に、姫柊雪菜は不服そうに異議を申し立てた。

 

「…雨宮先輩が言えた事ではないと思います」

「おや、これは手厳しい指摘だ。俺にそんな指摘を投げるとは中々やるね、ご褒美にジュースを差し上げよう。大丈夫、口はつけてないから。シェイクだけど、飲めるかい?」

 

 ストローを差し込み、二つ頼んだ飲み物の内の一つを彼女へと差し出す。

 少し慌てる様に、彼女は手を振った。

 

「あ、いえ、大丈夫です。先輩のですから…」

「遠慮しないでいいよ。人の親切は素直に受け取るものだよ、それが先輩からのものなら尚更だ。ここは、どうか不良紛いな先輩の顔を立ててくれたまえ」

「…では、お言葉に甘えさせていただきます」

 

 差し出されたシェイクを吸う。

 とろけた甘さが口の中に広がり、甘味特有の衝撃が意識に叩き込まれていく。

 美味しい…そんな言葉が、小さくこぼれた。

 

「うん、素直なのは良い事だ。あ、暁にはナゲットのソースを上げよう」

「なんで俺だけソース!? ナゲットくれよ!」

「仕方ないな。ほら、投げるよ」

「投げるな!」

「冗談だよ、冗談。はい、どうぞ」

「ったく…あむ。うん、久々に食ったけど、やっぱ美味いな」

「だね。このステーキソースが良いね、期間限定なのが悔やまれる」

「あの…」

「あぁ、ごめんごめん。いきなり本題に入るのもあれだろう? まずは交流からしようと思ったんだ」

「そんな…わざわざ気遣っていただいて、ありがとうございます」

(なるほど。この子、冗談があまり通じない系か。ふむふむ…俄然楽しくなってきたね)

 

 この真祖、後輩に愉悦を見出し始めている。笑みがちょっと深くなっているのが恐ろしい。

 それを察知したのか、古城がわざとらしい咳払いをして、話題を変える。

 要するに、本題だ。

 

「じゃ、本題だね。まずは自己紹介から。俺は雨宮紅蓮。正式には本名ではなく、あくまでもこの絃神島での籍なだけなんだけど、まぁ、そこは置いておくとして。隣は補習を受けてしまった哀れな哀れな少年、暁古城だ」

「なぁ、俺の自己紹介だけ悪意がないか?」

「あるのは悪意じゃなく事実だよ」

「尚の事、質が悪い…!」

「さて、それでは改めて君の事を教えてもらってもいいかい?」

「わ、わたしは獅子王機関から派遣された、剣巫(けんなぎ)の姫柊雪菜です。獅子王機関三聖の命により、第四真祖である暁古城の監視の任を帯びて此処に来ました」

 

 獅子王機関。その名に、真祖は興味を示す。

 政府の国家公務委員内に設置された特務機関―――『獅子王機関』。

 彼らの担任たる南雲那月とは関係が悪い組織であり、しかし魔族へのテロやら事件やらへの解決を行うという点では共通している、

 大規模な魔導災害や魔導テロの対処・阻止を執り行う組織。それが獅子王機関であり、彼の世界で言う所の魔術協会に位置するものである。

 

 そんな機関に属する者が監視に来た。そして、それを馬鹿正直に伝えた。

 うーん、と真祖は考えて、

 

「やったね暁。プライバシーがおさらばだ」

 

 友人を煽る事にした。

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