実は気づいてなかったけど、転生先がキングダムだった話、する?   作:匈奴人

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第28話 対合従軍会議

《秦国 王騎視点》

 

「王騎様、氷牙から書簡が届きました」

 

 王騎が自室で軽く矛を握っていると、扉の外から声がかけられる。

 そして返事を待たずに、外から扉が開かれた。

 扉を開けたのは、騰の代わりとして城を預かっている事になっている摎だ。

 

「あ、王騎様、また矛持ってますね! まだ早いと妙爺も言ってたじゃないですか!」

 

 部屋に入ってきた摎は、王騎が矛を持っているのを見ると顔色を変える。

 摎にとっては、王騎はまだ怪我から完全に復帰することの出来ていない病人なのだ。

 

「ココココ、バレてしまいましたか。しかし、軽く動かしておかなければ鈍ってしまうとも妙本には言われてますからねえ」

 

 一方で王騎は、笑いながらそう返す。

 本人としては軽く体を動かしていただけであり、それよりもそのことにプリプリとしている摎が微笑ましく見えたからだ。

 

「もう、またそんな言い訳を……。とにかく、座ってください。汗をお拭きしますから」

 

 実際のところ、今現在王騎の傷はもう完全にふさがり、後は妙本による機能回復運動で徐々に元の状態へと戻していく段階にあるのだが。

 もともと戦人である王騎としては、体が動くのであれば武器を振るいたい、という思いがあって少しばかり医者の言葉よりも逸っているのである。

 

 とはいえ傷が治っていることもまた事実といえば事実。

 そのため、軽く矛を振るうのであれば問題は無い。

 問題は王騎が矛を握ると軽くにならない、というだけの話で。

 

 故に、この二人の互いへの主張は、どちらもあっているのである。

 

 椅子に座った王騎は、摎に汗をふいてもらいながら話しかける。

 

「摎、氷牙からの書簡の内容は何でしたか?」

「宛名が斗真だったので、王騎様と一緒に確認しようと思ってそのまま持ってきました」

 

 座っている王騎の手元に、背後から書簡が差し出される。

 それを受け取った王騎は、両手でしっかりと書簡をもつと、開いて内容を確認する。

 少なくともその動きが出来る程度には、王騎の体は回復してきていた。

 

「ふむ……」

「なんの連絡でしたか?」

 

 背中を拭いている摎の疑問に、王騎はしばらく書簡を読みながら考え込んだ後口を開いた。

 

「おそらく、匈奴が何かしらの動きを起こす可能性が高いでしょうね」

「匈奴が、ですか? 趙と楚の話とはまた別ということですか」

 

 趙と楚の話、とは、飛信隊の隊長が目撃したという趙の宰相李牧と、何らかの有力者の密会のことである。

 飛信隊から報告された、徐という情報の流しを生業とする小国の存在と、そこに関わる趙・魏・楚の三国の関係から、趙魏同盟、あるいは最悪の可能性を想定して、楚趙同盟の可能性が考えられており、現在も情報収集が行われているが、詳しいことは未だ判明していない。

 

「そちらは騰達に調べてもらっていますが、それとはまた別件です。どうやら匈奴の張っている網が相当に激しく動いているようです」

 

 王騎がある程度怪我から復帰したことと、戦線の放棄による謹慎が解けたことで氷牙はまた前線の地へと帰っていった。

 一時は氷牙を騰の下につけて以前の王騎軍を再現するという話もあったのだが、氷牙が王騎の下を離れた後にそれなりの地位についてしまったためすぐに役目を辞することが出来ずに、国からの命令で再び前線での敵国への警戒任務についたのである。

 氷牙の騰軍復帰はまだしばらく後の事となる可能性が高いだろう。

 

「情報網が激しく動いている……」

「各地からの情報を吸い上げると同時に、間諜への指示書が飛び交っているようです。おそらく匈奴は何かを仕掛けてくるつもりでしょう」

 

 匈奴が仕掛けてくる事。

 そんなもの、中華の民である王騎と摎には1つしか考えられない。

 

「中華への、侵攻」

「おそらくはその準備段階、と言ったところでしょう。ですが数年以内に、確実に大きな侵攻がありますね」

 

 そこで笑みを深めた王騎は笑う。

 

「ンフフフ、李牧さんは何やら大きく動こうとしているようですが、その前に趙の方が、背中を突かれることになるかもしれませんよぉ」

「趙楚同盟で秦を攻めているところに、北部から匈奴が侵攻してきたら、趙はかなり攻め込まれませんか?」

 

 王騎程には戦略眼が無いとはいえ、摎もまたかつて大将軍まで登りつめた程の人物。

 ある程度は大局的なものの見方もすることが出来る。

 

「そうですね。こちらに戦力を回せば回す程、趙はどうしても北部を空けざるを得ません。そこに攻め込まれれば、痛い目を見るでしょうね」

「うちの国としては望ましい展開ですね」

「とも言い切れませんよ」

「え、そうなんですか?」

 

 ンフフ、と笑って王騎は話を続ける。

 

「今の大王の目的は、中華の統一ですからねえ。余計な異民族の流入や侵攻は避けたいところではあります。趙の弱体化は望むところではありますが……」

 

 それでもやはり、一概にどちらが秦にとって利益になるとは言い難い、と王騎は考える。

 異民族の侵攻によって趙が弱体化する代わりに、最悪の場合趙の北部が異民族に占拠されるか。

 あるいは、趙が異民族の侵攻を受けず弱体化もしないが、異民族は中華には入ってこない。

 

「とにかく、しばらくすれば大きな戦が起こることでしょう。騰の方からも、いよいよ楚が怪しい可能性が高いと書簡が来ていましたから──」 

 

 王騎がそこまで述べたところで、王騎の部屋の扉が規定の回数叩かれる。

 王騎が生存している事を知っている人物が、王騎の部屋を訪れる際の合図だ。

 これ無しで王騎の部屋を訪れることが出来るのは、実質的に摎ただ一人である。 

 

「入りなさい」

 

 王騎の言葉に、文官の装束に身を包んだ男性が扉を開けて入ってくる。

 王騎が信頼して普段から働いてもらっている使用人だ。

 そしてそれ以外にも、軍事関係の取次などの役割も担っている。

 戦場に出ることはないが、王騎を傍らで支え続ける者の1人だ。

 

「騰様より報告です。南虎塁が抜かれました。騰さまは隆国様、同金様と共に他軍が駆けつけるまで楚軍の足止めをされるそうです」

 

 それは、今まで王騎が懸念して探らせ続けていた、楚軍による秦への侵攻である。

 そして同時に、ある可能性を王騎に想起させる報告であった。

 その浮かんだ可能性に目をつぶり、王騎は使用人に声をかける。

 

「来ましたか。わかりました。下がって結構です」

「はっ」

 

 王騎の一言を受けた使用人が部屋から出ていく。

 

「来ましたね。楚軍が」

「ええ。やはり動き出したようですね。李牧さんが会っていたのは楚の宰相である春申君の可能性が高そうです」

「しかし、楚趙同盟が本当に成るなんて……」

 

 楚の今回の侵攻の裏には、当然のことだが先日報告のあった李牧と楚の要人の接触があったと王騎達と摎はともに考えている。

 少なくとも楚は単独で動き出すような国ではない。

 図体が大きすぎる分、他国とのなんの兼ね合いも無しにどこかに攻め込めば、逆にどこかから攻め込まれる可能性もある。

 それが楚という動かぬ大国であったわけだ。

 

 その楚が大きく動いた。

 ならばその背景には、必ず他国の存在があると見て間違いない。

 

「ありえない話ではありませんでしたからね。というより、楚が自ら動くには外部からのそうした要素が必要になりますから」

 

 楚と趙の同盟。

 それは秦にとっては最悪の事態の一つだったが、しかし同時に起こりにくい可能性の一つでもあった。

 楚趙は国境を接しているとはいえそれはごく一部のことであり、そもそも同盟を結ぶ意味がそれほど無い間柄の国同士であったからだ。

 

 その二国が同盟を結んだ。

 それはすなわち、互いに攻め込まないための同盟ではなく、協力して何処かを攻めるための同盟が結ばれた事を意味している。

 そして今回秦がその目標となった。

 それはすなわち。

 

「趙も攻めてくる、ということですか」

 

 摎の言葉に、王騎は笑みを深めた。

 

「李牧さんのことですからねえ。それだけでは済まないかもしれません。摎、戦の支度をしなさい」

 

 その王騎の言葉に、摎は顔をパアッと輝かせる。

 王騎の復帰戦以降ずっと戦に出たいとごねていた摎だが、ついぞ自分が出張っていくような戦の機会に恵まれなかったのである。

 どころか騰軍自体が、王騎がいなくなったことで中央との繋がりもかなりの部分途切れてしまい、ある種の残党軍のような立場になってしまっていた。

 

 そのため、結局これは摎にとってほぼ10年ぶりとなる復帰戦になるのである。

 摎が喜ぶのも無理はない。

 

「良いのですか?」

 

 摎の言葉に、王騎は微笑ましげに笑う。 

 そしてその笑みを深くしながら、答えた。

 

「ンフフ、久しぶりの戦ですからねえ。それに、今回はあなたを温存している余裕も無いかもしれません」

 

 王騎の言葉に、摎は首をかしげる。

 楚趙同盟以上にとんでもないこととは一体なんなのか。

 その答えを摎が知ったのは、更に数日たってからのことだった。

 

 そしてこのとき楚軍の侵攻によって意識の隅から追い出した匈奴の情報網の活発化を王騎が思い出すのは、それから更に半月以上後のことになる。

 

 

 

******

 

 

《秦国 咸陽》

 

 合従軍侵攻。

 その報を受けた秦王都咸陽の宮廷は、大混乱に陥った。

 

 それはそうだろう。

 合従軍というのは国家存亡の危機、などという生易しいものではない。

 国家の滅亡が確定する程の破壊力を秘めている。

 それが合従軍というものだ。

 

 故に、その起こりだけで多くの者達が放心状態に陥り、一時会議の場は完全にその能力を失いかける寸前までいったのである。

 

 それを秦王嬴政がなんとか立て直した数日後。

 秦国王都咸陽には、秦国の誇る強力な将軍達が呼び出されていた。

 蒙武、蒙驁、麃公、王翦、桓騎、張唐、騰、そして氷牙。

 

 秦国の中でも大将軍、または大将軍級の力を持つ将軍たちが一同に会したのは、軍総司令官昌平君からの招聘があったからである。

 それは、この合従軍から秦国を守るという最大の戦いにおいて、いかにして守るかという作戦会議を行う必要があったからだ。

 

 今回の侵攻は、一国との戦争ではなく多数の国に同時に侵攻されたことによって発生した防衛戦争である。

 兵士の総数は、五国の合計が五十数万にのぼり、全力で兵士をかき集めた秦もまた全てで三十万以上の兵士が揃う、戦国でも他に類を見ない程の大戦になる。

 

 そのためその戦場は、通常十万対十万程度の戦争で大将軍が描くものよりも遥かに規模が大きい。

 例えば蒙武が十万を率いて同数の敵と戦ったとして。

 その隣の戦場では、王翦が同じく十万を率いて同数の敵と戦っている。

 そんなことが普通に起こり得るのがこの対合従軍戦だ。

 

 いざ戦場に出てみれば即時に連携を取ることは難しいが、事前に防衛の方針を共有しておくことは出来る。

 故に、それぞれに数万からの軍を率いる将軍達を、更に上からまとめる役割が必要となったのだ。

 

 それが軍総司令官昌平君が、各将軍をわざわざ侵攻を受けているこの時期に王都咸陽まで呼び出した理由である。

 

 そして会議は、昌平君の衝撃的な、けれどどの将軍も理解していた一言で始まった。

 

「秦国の持つ軍力で、合従軍の侵略を完全に止める手立ては一つもない」

 

 戦ごとに慣れていない文官や、並の将軍なら怖気づくであろう昌平君の言葉。

 しかしそれを、集まった八人の将軍たちは特に動揺の色を見せる事なく聞いていた。

 

「故に、これまで幾重に設置した咸陽までの防衛戦は全て撤廃する」

 

 しかし続く昌平君の言葉に、ピクリと表情を動かす者は複数いた。

 防衛戦の撤廃。

 それすなわち、守りを捨てることに繋がるからだ。

 

「函谷関、か」

 

 その昌平君の言葉に耳を疑う将軍達の中で、一番始めに口を開いたのは氷牙だった。

 

「なに?」

 

 いくつもの思考の過程をすっ飛ばして正解を導き出した氷牙の言葉に、蒙武が疑問の声をあげる。

 本能型と知略型が融合し、ときにかつての主である王騎すら驚くほどの冴えを見せる氷牙の観察眼。

 それが見抜いたものが、武力が主体の蒙武には読みきれなかったのだ。

 

 その蒙武に答えるように、昌平君が口を開く。

 

「敵を止められない無意味な戦いをして、これ以上兵力差を広げるわけにはいかない。故に民や兵を城に入れ、合従軍は素通りさせる」

「その引き込む先が函谷関、てことかい。一気に国門まで通してやるとは剛毅なもんだ」

 

 氷牙と昌平君の言葉から同じ絵図面を描くことが出来る桓騎が、茶化すようにそう言う。

 

「野盗はものを知らんらしいな」

「ああ?」

 

 その桓騎の態度を咎めるのが、堅物な武人である張唐だ。

 もともと桓騎を気に入っていない張唐は、少しばかり桓騎に対する当たり方が辛辣である。

 

「国門函谷関は難攻不落。故にそこを敵に攻められたところで、困ることはなにもない。守りきればいいだけの話だ」

「守りきれんのか? 今回みてえに攻め込まれたことは流石にねえだろうが」

「……その通りだ」

「ケッ、だろうと思ったぜ」

 

 張唐と桓騎の言い合いは、桓騎が言い負かした所で終わりとなる。

 二人とも流石にそれ以上場を乱すことは望んていなかったし、この小競り合いもせいぜい表面上のものに過ぎないからだ。

 

「では定石通りに門固めで」

「ええ。結局この咸陽防衛戦の戦い方はたった一つ。いかにその入口である国門を守り抜くかということ」

 

 大勢の将軍たちを集めたが、根本の方針は単純だ。

 いかに函谷関という咸陽を守る城壁を越させないか。

 これに尽きる。

 

「それでは配置を発表する。蒙驁将軍、張唐将軍、桓騎将軍は函谷関へ上がるように。王翦将軍は函谷関の北、山岳部の守りを。騰将軍と蒙武将軍で、函谷関の南の平野を。おそらく敵の最大の戦力である楚軍が相手となる。楚軍が展開出来る場所はここしかない。そして麃公将軍には山岳部を挟んで一番南側の平野を守ってもらいたい」

「氷牙の名が呼ばれていないようだが、どうするのだ?」

 

 騰の問いかけに、昌平君はコクリと頷くと氷牙に視線を向ける。

 

「氷牙将軍には、南の麃公軍、及び騰・蒙武連合軍の補佐を頼みたい。戦場の状況を見極め、より応援が必要な方へ参戦するように。場合によっては、日によって戦場を移動して構わない。両軍との連携を密にしてくれ」

「承知した」

 

 敵の軍の数、そして守るべき場所の数を考えたときに、将軍が八人いると一人余ってしまう。

 その一人を、南方での遊撃隊にすることで、いずれの場合も敵に戦力で大きく劣ることになるだろう両戦場を安定化させることを狙っての策だ。

 

 それはすなわち、氷牙の能力をそれだけ高いものと評価してのことでもある。

 先ほど昌平君の言葉からすぐさま函谷関での守りと見抜いたように。

 あるいは、馬陽の戦いで敵の奇襲を読み王騎の救助に向かったように。

 氷牙という将軍には、戦場以上の規模で盤面を捉えることの出来る力がある。

 

 その力に期待して、昌平君は氷牙をその配置に置いたのだ。

 

「各将各軍を迅速に集結させるのだ。国門、函谷関へ! 各将の武運を祈る!」

 

 昌平君の号令によって、合従軍に対する秦国王都咸陽での会議は終わったのだった。

 そしてここからは、軍議の場ではなく、戦場での戦いがいよいよ始まるのである。




氷牙とかまだ生きてる王騎とかいるので、合従軍戦はダイジェスト気味で変わったところだけ書いていこうと思います。

最新話の後もう一戦南東胡とする戦の描写、欲しい?

  • 欲しい(趙・匈奴の戦いレベルでしっかり)
  • 欲しい(今回の戦ぐらい短めで)
  • それより早くあの将軍と会え
  • 合従軍まだ?
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