ガールズ&パンツァー〜大洗女子学園のデストロイヤー〜   作:ReA-che 名義

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※この物語はフィクションであり、登場する人物・地名・団体名はすべて架空のものです。
車の運転は交通ルールを守り、安全運転を心がけましょう。※





閑話 Smoky (下)

 

午前0時半頃、首都高速大黒PAエリアに自動車部一行は到着した

 

「結局一度も追い付かなかったな…」

 

「これでもずっと250km/hオーバーをキープしてたんだけどね…」

 

助手席のホシノと運転席のナカジマはひきつった表情で呟く、追いかけていた対象である杉野のスカイラインGT-Rは結局一瞬たりとて視界の端にすら捉えることは出来なかった

 

──無論、断じて彼女たちが遅いわけではない

それ程までに互いの車輌のジャンル、及び主戦場が異なるのだ

 

自動車部のソアラは5000cc500馬力のエンジンを積み、主な主戦場は峠や街道

そして自動車部4人はドリフト族と呼ばれる者達だ、低速域でドカンと来る出力特性で主な速度域は時速100km/h前後、勿論車輌はその速度域で一番扱いやすく作られており

それ以上の領域はそこまでで仕上げた車輌調整のいわば副産物的扱いである

 

ギア比や空力パーツの都合から最高速度も出て280km/h前後が精々、そもそも200km/hオーバーの領域は考えられていない

 

対する杉野のスカイラインGT-Rは全く異なる作りである

ドーピングにドーピングを重ねたエンジンは3400ccでフルブースト時1300馬力を絞り出し、0-100km/h加速を僅か2.6秒で終え

停止時から凡そ12秒でオーバー300km/hの領域に到達する

 

その主戦場はほぼ直線のみの首都高速湾岸線、オーナーである杉野自身もオーバー300km/hステージでしのぎを削る湾岸全開族である

 

あくまでも箱形というスカイラインGT-Rのボディ形状から、他の高排気量高出力エンジンを積んだ同クラスの国産スポーツには空力面で劣るものの

エンジンのスペック的には時速400km/hの領域にすら手を掛ける仕様となっていた

 

首都高速湾岸線は長大な直線の続くステージレイアウトから自動車部のソアラのように500馬力、最高時速280km/h前後の車輌では全く歯が立たずスタートラインにすら立てないエリアである

最低600馬力、時速300km/hの大台に乗せられる車輌でなければお話にならない

700~800馬力級はザラの如く存在し、少し数は減るが900~1000馬力級も存在する

そんな規格と頭のネジがぶっ飛んだイカレた車輌が蔓延るのが湾岸最高速ステージなのだ

 

 

「あ、いたいた」

 

「見てみなよスギノを…余裕の表情だよ」

 

「うわっ腹立つ~」

 

パーキングエリア内へ入り、最初の突き当たりのある商業施設の前を右折して行くとトイレのある並びの目の前に杉野が愛車のフェンダーの上に腰をかけてコーヒーを啜っている姿が4人の目に飛び込んでくる

まるで何も無かったよつな様で、遠くを見つめながらコーヒーを飲む飄々とした姿に運転手のナカジマ以外好き放題に言い放った

 

「お待たせ~、待った?」

 

「おっそ~い!5時間待ったっすよ!!」

 

「…もっとゆっくり来て良かったんじゃない?」

 

「お望み通りもっと待たせてあげれば良かったね…」

 

車を杉野の横に着けて、ナカジマが体裁的に待たせてごめんと謝罪を入れるが

杉野はコーヒーを片手に冗談めかした皮肉を飛ばし、それにホシノとスズキがさらに皮肉で応酬する

言葉だけ見れば一触即発のような空気感だが短い期間ながらも連日長時間一緒にいる相手であるため、杉野と自動車部の4人はお互いにこれくらい雑な扱いが出きる程度には打ち解けている証拠である

 

「で、1本走った感覚として

どう?今日の調子は」

 

「えっれぇ調子良いよぉ!

さすが俺のサンニーって感じ」

 

続いてツチヤが久々に走った感触はどうかと尋ねれば杉野は笑みを浮かべて絶好調だと返す

その様子を見て他の三人は少し羨ましそうに顔をしかめた

 

「いいなぁ…どこまで行ってもうちらのソアラは部車だからな~」

 

「私もシルビアくらい買おうかな」

 

口々に呟くのは、自分達が乗っている車はあくまでも部車であると言うこと

最終的には卒業と同時に関われなくなってしまう車輌であり、やはり自分の車

マイカーが欲しいという夢があるのだ

 

「今年の夏こそバイトで車買おう…」

 

「いいな、それなら冬までに仕上げてさ

そうすれば5台で走れるね」

 

シルビアが欲しいと呟いたナカジマの他、スズキもホシノも各々冬までに皆で車を持って、一人一台で走れる状況に持っていこうと意気込みを新たにした

ちなみにツチヤはまだ高二で卒業まで一年猶予があるということで、今年の夏以降は部車のソアラはほぼツチヤが転がすことになるだろう

 

「──いいなぁ、俺ももう一台買おうかなぁ」

 

「スギノはサンニーあるでしょ?」

 

「でもジャンル違いすぎてあんまり皆とまともに走れないじゃん?

湾岸だったら皆を置いてっちゃうし、逆に内回り(c1)とか、それこそ皆の走ってる峠とかこの車じゃ逆立ちしても追い付けないだろうしな」

 

「あー…」

 

仕方の無い事だが、現状二台の性能差は主戦場が全くことなる為に大きく離れている

狭く低速~中速にかけてなら自動車のソアラにスギノのBNR32は勝てないし、逆に中速~高速

その更に上の超高速エリアにかけて自動車部のソアラはスギノのBNR32の後塵を拝むことさえ叶わない

 

「戦車道の友達の送り迎えもグッと楽になるように広い車が良いんだよな~」

 

「西住ちゃん達か~」

 

「じゃあセダンとか?」

 

「送り迎えと自動車部と遊ぶ事考えたら

FRのセダンかね、やっぱり」

 

それに新しく車を用意出来るのならば、現在のクーペタイプではなくもう少し大きなセダンであれば何かと便利である

 

維持費も圧倒的に安い気を使わなくて良い分楽でもあるし、なんならBNR32は完全に走りに振って

通学許可証は新しく買う車で取り直せば良い、その上で杉野が狙い目をつけた候補は国産のFRセダンだ

 

「車種はもう目星ついてるの?」

 

「C33のローレルとか良いよなぁ」

 

「渋ッ」

 

「センスは感じるけど

何でスギノってそんなに感性が古いの??」

 

何が欲しいのか、もう粗方候補は絞れたのかと聞くツチヤにC33のローレルが欲しい答えた杉野へホシノとスズキが苦笑いを浮かべる

 

「華奢いピラーにボンネットの低い車が好きなんだよ」

 

「あ~…それじゃ今時の車は無理だね」

 

「あとセダンはカクカクした箱形じゃないと」

 

「だから感性が昭和なんだって、好きだけどさ私も」

 

杉野の好みの車の条件、それは衝突安全や燃費性能重視で太い骨格に高い背のまま曲線を描いた現代の車には出せないスタイリングである

 

勿論、車は年々進化し続けており新しければ新しいだけ昔のモデルよりも性能差は顕著になるわけだが

それを知ってなお、やはり一番にオーナー自身が惚れ込めるかどうかが重要

 

性能は良くても、外見に対して「もう少しデザインが…」と思う車に乗り

もし万が一が起こればそれこそ死んでも死にきれない

 

対する自動車部は、例えば呆れたように上の会話を杉野としたツチヤや苦笑いしながら感性が古いと言うホシノ

その他ナカジマ・スズキの二名もそうなのだが特に車種にこれといった強いこだわりはあんまり無かったりする

 

なぜなら彼女たちは自動車を心から愛しているから、各車両事の性能や個性は付随するおまけでしかないという考え方である

突き詰めてしまえば、何でもいいのだ

自分で運転できて、たまに壊れてはぶつくさと悪態をつきながら修理をする

そういったことが出来るのなら、別にスポーツカーじゃなくても何でもいい

 

それが自動車を心から愛してやまない

自動車部の人間性なのである

 

「あ、そういえばスギノ

新しい車探してるんだったらさ、島田町の車屋に面白そうなの増えたらしいから見てみたら?」

 

「島田町の?」

 

「整備の手伝いとかであそこの車屋さん知り合いだから、この間連絡きてさ」

 

「ふーん…行ってみよっかな」

 

 

 

 

 

 

 

「──で、最初どこ走りたいって?」

 

「内回りが良いんだけど…

コースは慣れてないからさ、先頭おねがしていい?」

 

5人がPAについて10分程度経ち、コーヒーを片手に雑談に勤しんだり

近くに止まってる車で目を引くものを視線で追ったりと皆一様に思い思いの過ごし方をしていた

 

「俺先頭っすか…」

 

「ダメだった?」

 

「そうじゃないっすけど、俺も内回りは得意なわけじゃねぇから、拍子抜けするかもって」

 

その中で頃合いを見て杉野がナカジマへ声をかける

ルートとしてはここからC1の内回り、しかし先頭は杉野が良いと言ったナカジマに杉野は少しばかり唸った為

問題があるだろうかと聞き返すナカジマへ、走りなれてないのは自身も同じな為拍子抜けするくらい遅いかもとだけ伝える

 

「一般車はこの時間だとまだ多いだろうから、少し待とうか」

 

「了解、あと一時間くらい?」

 

「っすね、ベストは運送屋の夜便・朝便が入れ替わる3時~4時が一番だけど

2時くらいから一般車は少なくなるから、本気で走るわけじゃないしそこらで良いっすよね?」

 

時刻は午前1時手前、オールクリアを狙うには少し早いがC1入りの目標時刻を2時半辺りに定めるが

大黒からC1まで、ゆっくりと向かえば大体30分ほど掛かる(オービスが光らない程度の速度で巡航)ため2時に出て丁度良いと判断

これにより約一時間程度暇な時間が出来てしまった

 

「俺ちょっと買い物行ってきますわ」

 

「はーい、待ってる~」

 

突如として沸いてきた中途半端な暇な時間に、杉野は買い物に行くとPA出口側のローソンへと歩いていく

 

「──あれ?スギノは?」

 

「コンビニ行った」

 

「あー…そっか~」

 

 

入れ換えでPA内を巡り終わったツチヤが帰ってきて杉野がいないことに首を傾げる、そんなツチヤにナカジマは買い物に言ったことを伝えると

納得いったと頷いてからソアラのフェンダーに腰をおろした

 

「アノ~…」

 

「「?」」

 

杉野を含めた他三人を待ってる間に談笑にでも勤しもうとしていた折、背後から掛けられた声にツチヤとナカジマの二人は振り返る

 

「すいません、お姉サン達の車デスか~?」

 

「あ、いや…これは私たちのだけど」

 

「そっちは友達のかな」

 

そこにいたのはロングの金髪に黒ぶち眼鏡をかけたスーツ姿の女性だった、流暢ではあるが所々片言混じりな発音から彼女はいわゆる外国人というのが感じ取れた

 

「あ、ソウナンデスか~

Sorry…すいません、ワタシこういうモノで」

 

「…え?」

 

「記者さんなんですか…」

 

渡された名刺に『Illegal street 編集・記者 アイラ』と書かれており、思わぬ展開に思わず二人は顔を見合わせた

 

「ハイ、一応小さいデスが日本にも支社がアリマシテ

本国はイギリスの改造車雑誌デス、本社から日本特集を組みたいからと頼まれまして…」

 

「それで大黒ですか?」

 

「ハイ、でもそれだけじゃないデス」

 

アイラと言う女性は、あくまで大黒に来たのはきっかけの一つに過ぎないと続け

ナカジマ・ツチヤの両名は思わず小首を傾げる

 

「実は、来週

本社が主催するカーイベントを日本でするんデス

そこに改造車、JDMの本家本元の日本の改造車をイベント展示していただけマセンカ?という…」

 

「ず、ずいぶんと急な話ですね」

 

「…リアル志向の方々をお呼びしたくて、ソノ条件を満たせそうな人が中々集まりマセンでした」

 

「あー…確かに今はもう殆んどいませんもんね」

 

せっかくならと本当にストリートを走ってるマシンを呼びたかったようだが、もう10年前ならともかく

徐々に監視カメラが増え始め、取り締まりも厳しくなってきた今のご時世では

走り屋仕様のマシンに乗って走らない【通称語り屋】は見つかっても中々走り屋、それも本当に全開で走ってる本気組はほぼ見かけない

 

「いや、私たちも言っても首都高は殆んど来てないけど…」

 

「普段は行っても山だもんね」

 

「それでも、フロントの傷とキャリパーの色は誤魔化せマセンよ」

 

彼女、アイラが指摘したのは自動車部のソアラのフロントは少ないとはいえ無数に飛び石傷が浮かび上がっているところだ

その横の杉野のR32はグリーンの車体と言うことも相まってバンパーの約半分ほどの面積が飛び石により塗装が剥がれておりかなり目立つ

 

そして極めつけは二台ともブレーキキャリパーが変色しているところだ、自動車部のソアラは他車種流用の大きなキャリパーとローターが

杉野のR32はAPレーシングという高価な社外ブレーキシステムが入っているが、どちらもその耐熱塗料は熱により変色して色褪せている

 

つまりは耐熱塗料すらダメになる領域でブレーキを使っているという何よりの証拠に他ならなかった

 

「正直、ここまでイケイケなオーラがある車は初めて見マシタ!

私個人的には是非来ていただきたいのデスガ」

 

「…ただボロいだけじゃないの?」

 

「なんて事言うんデスカ!?」

 

アイラが興奮するようにオーラがあると褒めるが、イタズラな笑みを浮かべたナカジマがボロいだけでは?と茶々を入れて

思わずアイラはずっこけそうになりながらも否定する

 

「兎に角…来ていただけるようデアレバ、当日こちらを受け付けに渡していただければ…」

 

「エントリー用紙?」

 

「ちなみに場所はどこになるんですか?」

 

「本国イギリスの文化を取り入れた、聖グロリアーナ女学院という学校が場所を貸してクレマシテ

会場は聖グロリアーナ女子学園の学園艦にナリマス」

 

アイラに渡されたエントリー用紙を眺めながらナカジマとツチヤの両名は場所はどこかと聞けば会場は聖グロリアーナ女学院だと返ってくる

エントリー用紙は横乗り参加も含めて合計5枚、簡単な説明だけするとアイラは「まだ参加者を募らなければナリマセンので!」と慌ただしく去っていった

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「車のイベント?」

 

「うん、なんか参加者募集してるらしいよ」

 

少しして杉野と、別行動でPA内を巡っていたホシノとスズキが帰ってきてからツチヤは渡されたエントリー用紙を片手にイベントに呼ばれていることを伝えた

 

三人の反応はまちまちだったが、杉野は顎に指先を当てて考え込むように唸った

 

「…お前ら行くなら行こうかな」

 

「ホント!?」

 

しかし続けて皆が行くなら行くと答えた杉野にツチヤは喜色に満ちた声をあげる、ツチヤ個人的には行きたいイベントではあったが

さすがに杉野が参加しなければ自動車部一台のみのエントリーである、そうなると他の三人は渋るかも知れないという不安があった

 

「…この組織・団体名どうする?」

 

「2台だけだし書かなくても良いんじゃないっすか?」

 

「いや、一緒の名前にしないと

個人エントリーだと展示場所バラバラになっちゃうかもよ?」

 

ひとまずは杉野も行くということで参加への前向きな話がされるも、エントリー用紙の一項目にホシノが悩ましい声を上げ

杉野は組織・団体名に関しては書かなくても良いんじゃないかと意見を述べるものの

きちんと書いておかないと会場で離ればなれになるかもとツチヤが続けて押し黙った

 

「名前か、どーしよ?」

 

「『ナカジマと愉快な仲間たち』は?」

 

「絶対却下」

 

組織・団体名を統一の何かにしなければいけないということで残るナカジマ・スズキも混ぜて5人で「あーでもないこーでもない」と話し合い

ホシノがふざけた名称を着けようとしてナカジマ本人に即座に拒否されると言う憂き目に遭いながら続く

 

「こういうのはシンプルで良いんじゃない?」

 

「何か考えついた?」

 

「さすがに学園の名前出すのは憚られるから…

大洗レーシングクラブ…【OARAI RACING CLUB】で頭取って『O R C』ってどう?」 

 

その中で杉野はそんなたいした名前を着けなくても、シンプルで良いんじゃないかと言って特に捻りは無い【O R C】でどうかと聞く

さすがに大洗女子学園名義で出すことは憚られるが、大洗地区でわかりやすい事に加え

安直で分かりやすく、名称にCLUBと入っているため本気感が薄れる

 

「悪くないね」

 

「それで良いんじゃないかな?」

 

自動車部4人の反応も上々で、別段チームの集まりでも何でもなかった5人はこれにて書面上だけとはいえ正式に同じチームの仲間となった

 

 

 

 

 

 

「──そろそろ出ようか」

 

「そうだね、ちょうど良い時間かな」

 

時刻は午前1時半を過ぎ、そろそろ頃合いかと暖気を始めた杉野に習ってナカジマもソアラのエンジンを始動させる

 

話をしていた他3名もエンジン音に気付いて話を切り上げた

 

「じゃあ俺先頭で良いんっすよね?」

 

「大丈夫!

道中は?生麦から横羽で?

それとも湾岸上りから??」

 

「湾岸はつい踏んじゃうんで横羽線で行きます

…あと、着いてこれようだったらなるべく同じライン通った方がいいかも知れないっすよ」

 

「?わかった」

 

内回りへ向かうためのルートとしてナカジマは横羽線を経由するか湾岸線を経由するかどちらなのかと聞くが、杉野は横羽線を使用する気らしい

 

次いでもし危険無く追えると判断し、現地で後ろを着いてくるのなら極力同じラインを通るようにと言った杉野にナカジマは少し小首を傾げながらも頷き

それを見て満足したのか杉野は自分の車に戻っていった

 

 

自動車部達もソアラにゾロゾロと乗り込んで行くのを確認してから、杉野は四点式のシートベルトを閉め直した

 

「……。」

 

「……。」

 

ベルトを閉め直してからナカジマの方を見やり、ナカジマがこちらに気付いてから杉野はハンドシグナルで前を指差す

するとナカジマが右手でOKサインを出したので準備完了と判断した杉野はゆっくりと車を発進させる

 

 

ゴォッゴゴォッ!!

 

発進時は重たいクラッチをいちいち半クラで合わせるのは面倒なのと発進時のギクシャクを防止するために何度かリズミカルにアクセルを吹かして発進する

 

休日ではあるが閉鎖開けの金夜ということもあり、あまり周囲に人はいないため迷惑にはならない*1

 

 

 

 


 

 

 

「拍子抜けするほどゆっくりだな」

 

「道知らない私たちに気を遣ってくれてるんでしょ

ありがたい話だよね」

 

現在は生麦JCTを右に曲がり、横羽線を走行中

速度は凡そ100Km/hで正直もっと飛ばすだろうと踏んでいたホシノは少し怪訝な表情を浮かべて続けるが

ナカジマはおそらくはぐれないように気を遣ってるのだろうと続けた

 

ちなみに2台とも仕様が仕様なので100km/h巡航何て眠さすら感じるような速度だが、実は横羽線の制限速度は60km/hなのでオービスが反応する+40Km/h にギリギリ届かない速度で先頭の杉野は走っていた

別に自分一人であるのならオービスの場所は全て把握しているので飛ばしても構わないが、後ろの自動車部がうっかり記念撮影をしてしまっては目も当てられない為である

 

 

 

「…あ、ハザード炊いてる…」

 

「浜崎橋JCT …ここからスタートか」

 

「なんか蛇行してるけど」

 

「タイヤ暖めてるんじゃない?」

 

 

突如前の杉野が乗ったR32のハザードが点灯し、それを皮切りに右に左にと速度は変わらないが激しく蛇行を始める

後続の自動車部達4人の目にも分岐看板と「浜崎橋JCT」の看板が目に入った

 

──時刻にして午前2時10分頃、分岐を左に曲がり浜崎橋JCTへ入り

一行はC1内回りへと突入、直後ハザードを炊いたままの杉野のR32が急加速を初めて一瞬で視界の片隅へと離れる

 

──ガリュォオオオアァッバシュシューンッ

 

「はッや!!」

 

「置いてかれるよ!?」

 

「これでも全開だって!」

 

「まぁ、4人も乗ってるからね…」

 

 

こちらが止まってるのでは無いかと錯覚するその加速力に4人は改めて驚愕に、比較的冷静なスズキ以外は声を荒げる

そもそもパワーで負け、車重も外装全てがドライカーボンに変わった杉野のR32に負け

ついでに言えばFRのソアラと4WDのR32でトラクションでも負けているとなれば直線でこうなることもある意味で言えば必然と言えた

 

「んん!?」

 

視界の遥か彼方の杉野のR32は早くも汐留S字へ突入、その瞬間テールランプがパパパパパッと小刻みに何度も断続的に点灯する

 

「何かあったのかな?」

 

「何かを知らせてる感じはするけどね」

 

ブレーキランプが常灯に切り替わり、最初の左のコーナーへ吸い込まれるように消えていく

ちょっと遅れて自動車部のソアラが左コーナーへ入った頃には杉野のR32は続く右コーナーへ消えていくところだった

 

直後、R32のテールが消える直前にその車体がリア過重がスコンッと抜けた用に持ち上がり横滑りに流れていくのが見えた

 

「え!?」

 

「スギノがスピン!?」

 

「まさかドリフト!?」

 

「いや、違う──」

 

意図的なものなのか、それとも事故の前触れなのが

スズキ、ホシノ、ツチヤが横滑りのままコーナーに吸い込まれるように消えて行ったR32に対してその挙動に着いて度肝を抜かれたように呟くが、ハンドルを握るナカジマだけは冷静に

 

しかし少しだけ苦悶の表情で右コーナーへ突入、4速の高回転域からブレーキングと共に3速へシフトダウン

その侵入速度は普段の彼女にしてかなり抑え込みだったがコーナーの途中でソアラのリアが急に抜けてリアが軽く流れた

 

「くっ──!?」

 

「危なッ」

 

カウンターを当てて立て直しながらコーナーを抜けると続く汐留トンネルへと前走のR32のテールランプがフッ消えていくのが見える

 

「焦ったね~!」

 

「そっか、スギノはこれを伝えようとしてたのか」

 

「汐留S字、そっか…ここがそうなんだ」

 

「知ってるの?ナカジマ…」

 

口々に危なかったと安堵の息を漏らす傍らハンドルを握るナカジマだけは納得したように呟く

それに反応したのはツチヤで、ナカジマは視線だけは前からそらさずに続ける

 

「名前くらいは聞いたとあるでしょ?汐留S字の『ラビットコーナー』

C1の内・外共通の危険スポットだよ」

 

「あぁ、ラビットか」

 

ナカジマの言葉に納得したようにホシノが頷く

ラビットコーナーとはC1を反時計回りに回る内回りから行くと汐留トンネルの手前の下りながらのS字、時計回りに回る外回りからだと汐留トンネルを抜けた先にある上り坂の頂上付近の路面に存在する大きなうねりの事だ

 

一番有名なのは外回り側のラビットコーナーであり、汐留トンネルを抜けた先の上り坂から平坦に変わる斜度が切り替わる部分の路面に大きなうねりがあることで法定速度内であれば問題ないが、スピードを上げた状態だとトンネルを出た瞬間に車体がフワッと浮き上がり一瞬四輪が完全に宙を浮く

 

そこへ路面の凹凸が重なるため、タイヤが完全に接地を失って続くS字にて足回りがまるでウサギのように「ピョンピョン」と激しく跳ねてしまうことから名付けられた

 

内回りは外回りほど酷くは無いまでも、うねりによってコーナーの途中でそれまでタイヤを路面に押さえつけていた荷重がすっぽ抜け、瞬間的にスパッと車体が流されてしまう

 

C1随一の鬼門であるラビットコーナーはその特性上「ラビットを制する足回りが作れれば、C1の全コーナーも通用する」と言われたほどであった

 

「離されては…ないな」

 

「コーナーが続けばこっちのが利があるからね、そこしか勝てないけどさッ!」

 

続く汐留トンネル内の右から左へのS字を抜けると視界に杉野のR32を捉える、実は技量だけで見ればナカジマと杉野、両者の技術はそこまで大きく離れているわけではない

直線が続けば軽さもパワーも勝る杉野のR32が自動車部達のソアラを一瞬で置き去りにするが、コーナーが続けば直進安定性の為に曲がりづらいセッティングの杉野のR32よりもローパワーでコーナー特化に作られている自動車部達のソアラの方が断然速い

 

仮に+3人分余計なバラスト(重り)が加算されていても、である

単純に性能と駆動差、それとC1を知り尽くしてる杉野とまだ覚えきれていないビギナーなナカジマの差が出てるだけである

 

「とはいえ、あんな湾岸専用車でここまでのペースを作れることにも驚きだけどね」

 

「思ってたよりかは速いよな、こりゃボケッとしてたら一瞬で見えなくなるぞ」

 

本来曲がらない筈の車を腕で無理やり曲げていく、C1に重点を置いた車では無いとはいえそれでもかなりのスピードで

もちろんこれは車輌性能差や経験の差の代物でもある

 

技量は同じでも道を知り尽くして常に全開で走れるのとコーナー全ておっかなビックリ飛び込むのでは全然話が違う

加えてFRベースの4WDであるスカイラインGT-Rは横滑りしてからフロントタイヤの駆動力が強くなる

 

リヤが流れ、あわやという体制になってもここでビビらずにアクセルを踏み足すことで次第にフロントに分配される駆動力が追い付いて必ず立て直せるが

自動車部のソアラはその逆、リヤタイヤがブレイクすればアクセルを緩めることも踏むことも出来ず

 

ただひたすら一定にアクセルを保ってグリップ力が戻ってくるまで待つしかない

 

そう言った違いがコーナーで詰めても出口からの加速で一気に置き去りにされるほどの違いを生むのだ

 

「そろそろ銀座出口か…その先は中央分離の橋脚が二つ出てくるから気を付けなよ?」

 

「わかってるって!」

 

首都高C1は元々、1964年の東京オリンピックへ間に合わせるために急ピッチで作られた突貫工事の高速道路だ

ビルなどを避けるために土地を買うための交渉時間も川を埋め立てる時間もなく

 

基本的にはグネグネとビルや川を避けて側面を掠めていく特殊な構造をしている

一部の川は埋め立てに間に合ったがそうでない場所は当時一般道の通っていた橋脚がそのまま残されている

 

それが新富町~京橋の間に二つ残った中央分離の橋脚なのだ

 

「マジか、あっちはペース落とさないぞ」

 

「そりゃ、道知ってればそうじゃない?」

 

安牌を取ろうと速度を緩めずにコーナーへ侵入する直緒とは対照的に、再び3速へ落として自動車部のソアラは減速

 

右から左のS字を抜けて銀座入口と新富町出口を越えると左から右へのS字があり

その間に最初の橋脚が現れる

 

『!?』

 

一つ目の橋脚を勢いよく抜けた前走の杉野のR32はそこから急制動をかけて続く右コーナー手前で100Km/hに満たないくらいまで速度を落とし

パッパッパッパと何度も断続してブレーキランプが点灯した

 

 

「トラブル!?」

 

「いや、違う…!」

 

「──オービスだ!!」

 

急な減速にトラブルかと心配そうなスズキに助手席のホシノが否定すると、後席のツチヤが上にかかった柱にオービスが設置されていることに気付く

 

「ナンバー隠してるスギノは大丈夫でも、それについてったら私たちは記念撮影しちゃうわけだからね」

 

「アイツよく見てるなぁ…」

 

オービスを過ぎれば再び前走の杉野のR32は加速を始める、京橋出口を越えてコーナー抜け

再び現れた二つ目の橋脚を越えると短いながらも直線に入る、京橋JCTだ

 

 

プワァアアアアッ!!

 

 

「え…!?」

 

「右の合流も速そうなの来たね!」

 

「あれ?あの車…」

 

右車線に現れるKK線からC1への合流分岐で3台の車が杉野のR32の後ろにつく、杉野はすかさずハザードを炊いて左に寄り

3台は杉野の前に出る

 

その3台は先頭が白のEG6、真ん中が銀色のEF3、少し遅れて一番後ろが赤と白のレーシングカラーのEK9だった

 

「知ってるの?ホシノ…」

 

「あぁ、この間ツチヤの運転で大黒来たときに話した子なんだよ」

 

3台の後ろに杉野のR32がつくがブレーキが断続的に光って抜かしにはかからない

京橋JCTから次の江戸橋JCTまでは上りながらの、C1最長のストレートとなる

 

トップスピードが出て220~240程度のNA車の一番の泣き所であり、杉野のR32も自動車部のソアラもこの距離なら追い抜くことは容易い

 

しかし───

 

 

「…先行を3台に譲るってことは、遅れてるEK9はまだしも前の2台は私たちより速いって判断したってことかな」

 

「後ろのEFの子はスギノと多少面識があるみたいだったから、こっちはバトルしてる訳じゃないし水を差したくないのかも」

 

3台が上り坂の向こうへ消えていくとようやく、合図の変わりにハザードを出してR32が再び加速を始める、途中までは離されていたがここからは再びテールトゥー状態でスタートだ

 

 

ゲーーーーーッ

 

フルスロットルでウエストゲートが開く爆音を轟かせながら前走の杉野のR32が坂の向こうへと一足先に消えていく

 

 

「やっぱ速いなぁ!?」

 

「直線で一瞬で消えてくもんね~」

 

「一応こっちも500馬力あるんだけどな?」

 

自動車部のソアラが坂を上りきる頃には杉野のR32は江戸橋JCTのC1内回りの周回ルートである左コーナーへ消えていく所だったが

またもブレーキランプが激しく断続的に点滅した

 

「ナカジマ!この先は──ッ!!」

 

「わかってる!宝町の直角カーブでしょ!?」

 

江戸橋JCTは三車線あるがC1内回りの周回ルートは左の二車線のみ、真ん中は9号深川線経由で湾岸線へ出るルート、右は新環状へ抜ける6号向島線だ

 

C1内回りの周回ルートは一番左の二車線と言うのは前述した通りだがこの宝町直角コーナーはほぼ直角なキツイ左コーナーのわりに右側の車線がコーナーの途中で1号上野線として分岐していく為に途中で一車線が消えてエスケープゾーンが無くなる

 

「くっ!?キッツ~!!」

 

ヒール&トゥにより一瞬2速まで落としながらコーナーに飛び込むが手前で載る速度が速度なのでズルズルと外側の壁へと車体が流されていく

過剰に減速していなければ今頃壁と仲良くお友達になっていただろう

 

「危ね~!ギリギリじゃんか!」

 

「道知らないんだから無茶しないでよ!?」

 

「ごめんって、気をつけるよ」

 

横のホシノや後ろのスズキから講義の声が上がり、少しばかり焦りを滲ませた様子のナカジマがごめんと謝罪を入れることとなった

宝町直角コーナーを抜けるとその先の緩い右コーナーが見えてくるがちょうど先ほど合流してきた三台の最後尾のEK9がコーナーへ消えていくところで

 

意外にも杉野のR32はまだコーナー手前にいた

 

「あれ?スギノ待ってるじゃん」

 

「いやこっちが思ってる以上に向こうのがコーナーは全然踏めないのかも知れないよ」

 

思っていたよりも距離が離れていないことにツチヤは拍子抜けした様子で呟くが、そもそもこっちの想定よりもコーナーは踏めないのでは無いかとホシノか訂正を入れる

 

オーバー300km/hを想定した足回りはC1のような高速コーナーの続く場所ですらパワーを持て余して極端に曲がらない車となってしまう

それを腕でねじ伏せて曲げる杉野も相当ではあるが、それこそがC1初心者の自動車部が離されてもついてはいけている大きな理由である

 

「しかしこうして見ると見事なもんだな~」

 

「入りはスローインでコーナー出口で全開、滑らせながら立ち上がる

スカイラインGT-R の特性をよく理解してなきゃ出来ない芸当だね」

 

ここからはコーナーが密集しており、しかも神田橋出口を過ぎてから竹橋JCTまでは下りながら右に左にと連続していく

 

この辺はスカイラインGT-Rのような重量級スポーツカーや慣性でリアが暴れるFR車はあまり得意とは言えず

どちらかといえば前を走るFFのシビック等、左右に対するフットワークが軽い車が真価を発揮できる場所である

 

「あ…譲った」

 

しかし先ほどから距離を詰められてた三台の最後尾のEK9は振りきれないと判断したのかハザードを炊いて左へ避けると杉野は右の追い越し車線から追い越して行った

 

「どうする?抜いてく??」

 

「向こうは抜いてってほしいみたいだよ」

 

抜いていくべきか否か、ナカジマをして判断に困るところではあったが杉野が追い越してからもハザードを炊きっぱなしで左車線を流すEK9にこちらも追い抜くべきかと判断し右車線から捲る

 

「あ!女の子が乗ってる!」

 

「ホントだ!結構速かったけどあんまり私らと歳変わらなそうじゃん」

 

横に並び追い抜きの際に助手席のホシノが「あ!」と声をあげ、助手席側後部のツチヤもEK9の運転手を一目みようと乗り出す

一瞬ではあるが驚いたように目を見開く向こうの運転手と目が合った

 

 

「後ろついてきてるね」

 

「そりゃこっちが抜かしたらそうなるでしょ」

 

自動車部のソアラが前に出ると後ろについたEK9はハザードを消して加速し追従してくる

 

パァアアアアッ!!

 

「お~良い音させてるね」

 

「音で言ったらどんな車もNAには敵わないからね」

 

「しっかしあんな派手なEK9に乗ってるのが私らと歳が変わらなそうな女の子とは…」

 

「さすが首都高C1、カオスってるね~」

 

VTECに切り替わることで甲高い高音を奏でながら続く竹橋JCT手前の下りながらの連続コーナーで一気に距離を縮めてくる

コーナーもほぼ全開でクリア出来る向こうは自動車部のソアラ以上にコーナリング特化のマシンだ

 

しかしパワーが無い分わずかにでもストレートがあれば距離は離れる、現に続く竹橋JCTの5号池袋線への分岐がある僅かなストレートでジリジリとバックミラーに映るヘッドライトは小さくなっていった

 

「お、スギノに追い付いた」

 

「やっぱ中速コーナーの連続帯はこっちのが速いね」

 

竹橋JCTの先の左コーナーを抜け、北の丸出口のある僅かなストレートで再び視界に丸目4灯の特徴的なテールランプを捉え

アクセルを踏み込むナカジマの右足に自然と力が入る

 

プワァアアアアッ!!

ゲーーーーッ!

 

フォァアアアッ!パシューンッ

パァアアアアッ!

 

竹橋JCTのトンネルに入ると前からも後ろからも、なんなら自車からも放たれる爆音により無意識に肩が竦む

その先もさらにコーナーが続くためにブレーキランプの光った杉野のR32ともまたさらに距離が詰まる

 

「完全に射程に捉えたな」

 

「あとは離されないようについていければ良いんだけど…!」

 

トンネル内の右コーナーを抜ければ短い距離ではあるが、傾斜路を登って一瞬トンネルの外へ

そこから再び左に曲がりながら霞ヶ関のトンネルへと下っていく

 

 

──ガリュオオオオッバシュシューンッ

 

「こういうトコはホント…泣き所だなぁ~」

 

霞ヶ関トンネルは入ってすぐの三宅坂JCTの分岐の辺りまでストレートになっているため

稼いだ距離もここで一気に離されてしまう

 

決してパワーが無いというわけではないのに完全にパワー敗けで置いていかれるストレートは

杉野のR32を相手にした際のソアラの泣き所だと助手席のホシノがため息混じりに呟いた

 

「この僅かなストレートで200km/hオーバー出てるんだけどね!」

 

「後ろついてきてないしさ」

 

「スギノが異常なだけだよ、多分」

 

杉野は一瞬の加速でその先の2台、白のEG6と銀色のグランドシビックの真後ろにつく

ナカジマがふとスピードメーターをみやれば追加のスピードメーターがおよそ220km/hを表示しており

後ろのEK9はバックミラーのはるか彼方である

 

つまりこんな短い直線でおそらく杉野のR32は目測でも250Km/hオーバー出ており、加速力で対抗するだけ無駄なのである

 

「よし、コーナーだ」

 

「ここからは巻き返しだよ!」

 

続く三宅坂JCT出口の2連続の左コーナーで急減速を余儀なくされる杉野のR32を再び射程圏内へ捉える

さらにその先は霞ヶ関のキツい右コーナーが待ち構えている

 

距離を詰めるならここと一気にナカジマはアクセルを踏み込んだ

 

ウゲーッゲーッゲーーッ!!

 

「ッ!?」

 

「ど、ドリフト!?」

 

「なんで!?」

 

霞ヶ関の右コーナー手前、左から右へ車体を振った杉野のR32の車体が一度大きくブレると白煙を撒き散らしながらスライドしてコーナーへ突っ込んでいく

 

それにナカジマもスズキもツチヤも呆気に取られたような表情となったが、直ぐに意図に気付いたホシノが声を荒げた

 

「ナカジマ!これ突っ込みすぎッ!!」

 

「えッ!?」

 

右コーナーへ入ったソアラは一瞬、左へフロントが流されるとリアタイヤがグリップ力を失い右方面へ流れる

 

──キャアアアアッ

 

耳をつんざくようなスキール音を奏でながら右コーナーに対して車体が左に向いたことで四人の視界一杯にトンネルの壁が迫るがすぐに振り子の要領で右に流れたリアが今度は左に流れることでようやくコーナー側へ車体が向く

 

ゴンッ

 

「…あーあ」

 

「あちゃ~…やっちゃったぁ~」

 

なんとか無事にコーナーを抜けれるかと思ったが、そのまま車体に大きな振動が走る

流れた左後ろが軽くトンネルの壁へ接触したようだ

ナカジマは深々とため息を吐いてハザードのスイッチを押して左車線へはいるとペースをスローダウンする

 

 

「気にするなよ、ナカジマでぶつけるなら私でもきっとぶつけてたから」

 

「そーそー」

 

「スギノに連絡してどっか待避する?」

 

先ほど追いかけっ子をしてた際の熱はどこへやら、一気に車内はお通夜ムードとなるがすぐホシノもスズキもナカジマへのフォローへ回り

ツチヤも先に行ってしまったスギノへ連絡して走りを中断して最寄りのPAへ避難しようと段取りを組み始めた

 

 

「あ、もしもしスギノ?ごめん実はやっちゃってさ…うん、うん」

 

杉野へ電話をかけたツチヤは軽く二言三言喋るとスピーカーモードのボタンを押してナカジマへとパスする

 

「あ…スギノ?」

 

『事故ったって聞いたんすけど大丈夫なんすか!?』

 

「あはは…心配ありがとう

車は大丈夫、自走できそうだし…

どっちかって言ったら自分の腕を過信しすぎた私自身が参っちゃってる感じかな~」

 

電話を変わったナカジマは珍しく取り乱した様子の杉野に若干の申し訳なさを感じながらひとまず人は無事で車も自走は出来そうなことを伝えた

 

『そしたら俺ペース落として待っとくので

辰己にでも逃げ込みますか』

 

「了解、無理せずゆっくり向かうね」

 

通話を終了したナカジマは振り返らずに後ろのツチヤへケータイ端末を返し、ふと横を見るととうに追い抜きをかけていなくなったと思っていた赤白レーシングカラーのEK9が横に着けており

こちらをジッと見つめる運転手の少女が助手席のウィンドーを開ける

 

すかさずナカジマも運転手側のウィンドーを開けた

 

「──大丈夫~!?」

 

「あ、うん──

なんとか自走は出来そう!」

 

初対面の相手ではあるが純粋に心配で声をかけてくれたようで自走はできそうと言ったナカジマヘ、おそらく排気音で聞き取りにくいことを考慮してホッと胸を撫で下ろすようなジェスチャーをした

 

「この辺警察うるさいけど、一度どこで止めるか決めた~!?」

 

「辰己辰己!

辰己に逃げる!」

 

「わかった、気を付けなね!」

 

辰己に逃げると伝えればEK9の少女はそれだけ言ってVTECサウンドを轟かせて走り去っていった

 

「いい子だったね~!」

 

「ね、人は車によらないな~」

 

 

 

 

 

 

午前2時30分頃、先頭は杉野のR32

後ろに自動車部のソアラが着き、一行は辰己PA上りへと到着した

 

「…なんかめっちゃインテグラ多くない?」

 

「すっげぇ入り辛いな」

 

PA内はDC2型インテグラタイプRにほぼほぼ埋め尽くされ、満車に近い状態だった

 

「…あれ?さっきのEK9だ」

 

ポツポツと駐車スペースの空き始めた奥の方には先ほど内回りで出会ったEG6とグランドシビック、そしてEK9の三台が止まっており

 

杉野はその横の、というかそこしか空いていないため横の駐車スペースに車を入れ

自動車部の四人もそれに続いて杉野の車の隣に駐車する

 

「あーあーあー…」

 

降りて早々、ようやくぶつけた箇所の確認が取れたナカジマはため息混じりにうつむいた

別に重傷と言うわけではない、出てた速度はそれなりだったが軽く掠めた程度なため左リアのフェンダーが窪み、テールランプが割れた程度である

 

しかし自分のミスで車を傷つけてしまったというのは傷の大小関係なしにやはり凹んでしまうものだ

 

「痛いなぁ~

こりゃまた板金7万円コースだ」

 

「それ俺の車のセリフじゃないっすか」

 

ぶつけた箇所を指先で触れそう呟いて屈み込んだナカジマに杉野は苦笑いしながら言った

もしかして板金王

 

「──ちゃんと自走して来れたみたいね」

 

「あ、さっきはどーも」

 

 

かけられた声に振り返るナカジマの視界には、先ほど本線で話したEK9のオーナーである黒髪ロングの少女が立っておりナカジマはポリポリと頬を掻きながら会釈して続ける

 

「重傷じゃなくて良かったね」

 

「うん、フレームまでは逝ってないからなんとか帰りも自走出来そうだし

アライメントも狂ってなさそう…」

 

「本当は自走していかん方が良いんすけどねぇ

まだここからだと距離あるし…」

 

「良いの良いの、どーせ直すから」

 

ぶつけたときにはかなり速度は出ていたが傷・凹みの大小でいえば全然軽症な部類である

特に自動車部達はドリフト族であちこちぶつけまくるため、この程度直すことは造作もないことだ

 

「どこでぶつけちゃったんすか?」

 

「…えっとね、あそこどこだったっけかなぁ」

 

「霞ヶ関トンネル内の逆バンクでしょ?」

 

「あぁ、あっこか

事故多いものなぁ」

 

どこで事故したかを聞く杉野へナカジマは場所がうろ覚えだとうんうんと唸るが、後ろでみていたEK9の少女は霞ヶ関トンネルの逆バンクと答えると杉野は納得したように呟いた

 

逆バンクとは、基本コーナーは外側から内側へかけて落ちるように斜めに傾斜がかかっているのだが

霞ヶ関トンネルの霞ヶ関出口付近は内回りも外回りもコーナーの内側から外側へ

つまりコーナーの外へ落ちるように逆向きにバンクがかかっている

 

それに気付かないと今回のナカジマのように、パッと見なんともない多少キツいだけのコーナーなのに外へ弾かれてぶつけてしまうのだ

 

「速度の乗らない内回りだから良かったけど

外回りなら一発廃車、下手したら死人が出てたかもね」

 

「み、耳が痛い…気をつけるよ

今日はある程度したらさっさと帰ろうかな、車直さなきゃだし」

 

「のが良いっすよ、ぶつけたときは素直に帰らんと

動揺でもっと酷いことになるかも知れんっすからね」

 

「杉野は?まだ走るの?それとももう帰る??」

 

「もっかい湾岸走って帰ります」

 

「了解、じゃあここでお別れだね」

 

話を区切ってナカジマは、なにやらシルバーのグランドシビックのオーナーの銀髪の少女と話し込む残る三人へ声をかけた

 

 

 

「おーい、帰るよ~!

撤収撤収~!」

 

「お、もういいの?」

 

「それじゃ、また今度」

 

「お話ありがとうね」

 

「ん」

 

そしてバタバタと忙しそうに去っていく自動車部を尻目に杉野も自身の車のエンジンをかける

 

____フィヒヒンッゴォッゴォッゴォゴォッゴォッ

 

 

「──調子良さそうね」

 

「だろ?誰の車だと思ってんだよ」

 

後ろからかけられた声にそう自信満々に答えた杉野が振り返ると、底にはキャップを目深く被った長い銀髪の少女が立っていた

 

「久しぶりだなイオ」

 

「ええ」

 

互いに交わす言葉は少ない

湾岸全開族とC1ルーレット族、ジャンルは異なるが互いに深く踏み込まないという不文律がある

知ってるものと言えば互いの車と、嘘か本当かわからない名前や愛称程度だ

 

「最近は中々上がれなかったけど

イオは前も見かけたし、まだ走ってるの知れるのは嬉しいよ」

 

「そういう貴女もね」

 

「元気にターボ車煽ってたろ」

 

「…それこそ貴女も、湾岸でバリバリだって聞いてるわよ」

 

あまり深く踏み込まないということは、必然的に互いのことはあまり知らない

しかしそれでも同年代でこの入れ替わりの激しい首都高エリアで互いの生存確認が出来ることは素直に嬉しく感じていた

 

「…まだいるなら、どう?たまには私と

内回りでも外回りでもどっちでも良いわよ」

 

「ふざけんな逆立ちしても勝てねぇだろうが」

 

挑発的な笑みを浮かべてそう言い放つイオに杉野は機嫌の悪そうにしかめた顔で拒否する

相手はシビックと言えど足回りから何から完全にC1用のセッティング、ドライバーはC1全域こそもう一台の白のEG6に腕で劣るものの

内回りに限った話でなら今一番速いとされている少女である

 

自身の車両を考えれば、逆立ちしても勝てないといった杉野の言葉もまた大袈裟ではなく

加速・最高速共に勿論杉野のR32のがNAのシビックに比べれば余裕で速いわけだが

代わりに向こうはほぼすべてのコーナーでほとんど減速をせずに駆け抜ける

 

全体のアベレージで見てしまえば直線でいかに踏もうがコーナーで巻き返されて終わりなのだ

 

「ちぇ、つまんないの」

 

「おまえとタメはれる奴なんてそれこそほぼ皆無じゃん」

 

「ごめんね、速くて」

 

「うわ、ムカつく~」

 

悔しいが認めざるを得ないためにつまらなそうなイオへそう言った杉野であったが

ドヤ顔混じりに返されたことで少し苛立った様子でつづけ、ふと悪戯な笑みを浮かべた

 

「元々湾岸グルっとして帰る予定だったからさ

湾岸なら相手してやるぞ?」

 

「嫌よ、逆立ちしても勝てないじゃないの」

 

「10秒前に言ったセリフ、そっくりそのまま返してやろうかテメェ…」

 

 

それは元々杉野が取る予定だった湾岸ルートであるが、先程までの自分を棚上げし

それでは自分が勝てないから嫌だと宣うイオに思わずピクリとこめかみに青筋を浮かべて杉野は言った

 

「…ま、日常の足を含めてコレだけでこなすのは少し無理があるから

勝負するなら遊び車買ってからだな」

 

「そっか、じゃあそこまで預けとこうかな」

 

そうしてエンジンに熱が入って排気音の音色が変わったのを確認してから杉野は自身のR32へ乗り込む

 

「んじゃ、またな」

 

「ええ、ご安全に」

 

互いに言葉は少なく、杉野は蹴り飛ばすように重たいクラッチレバーを踏み込んで走り去っていく

スカイライン特有の丸目4灯のテールランプが完全に見えなくなるまでイオはその場に佇んでいた

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

翌日、昨夜は帰路の途中で寄ったネカフェで一夜明かした杉野は

午前10時を越えた辺りで茨城県大洗町まで帰ってきていた

 

「…確かこの辺って聞いたんだけどな」

 

自動車部達に場所は大洗の隣町である島田町であることは告げられていたが、それでも町境辺りに位置する車屋らしく

場所的にはそろそろ見えてきてもおかしく無い頃合いだ

 

「お、あったあった」

 

そうしている内に視界に一件の車屋の看板が飛び込んでくる、掲げられた名称が自動車部達に教えてもらった名前と同じであることを確認してから店の敷地に車を止めて外へ降りる

 

田舎特有の広めの敷地には販売車と思われる多くの車両と修理待ちと見られる車両がところ狭しと並べられていた

 

「──いらっしゃい、修理?」

 

「あー…知り合いからここに車見に行ってみるように進められて、増車なんですけど」

 

止めて早々、工場の方から一人の男性

恐らくは従業員と思われるつなぎ姿の人物が話しかけてくる

 

車両が車両なため修理かと聞く男性に車を見に来たことを告げると男性は予想が外れたからと小首を傾げた

 

「へぇ?誰だろ、車種とか聞いてる?」

 

「いや、車種までは…

大洗女子学園の自動車部の子って言えばわかります?」

 

「あ~!あの子達か

じゃあこの間来たときに言ったやつかな?

こっちだよ、ついてきて」

 

男性に案内されるまま工場に踏み入れた杉野は、しばらく工場内を歩き

突き当たりに差し掛かった辺りでリフトにかけられた一台の車、黒色のセダン車が目に入った

 

「一応最低限の点検はしてるけど現状売りなんだよね

車検も一年切ってるし、5万でどう?」

 

「安すぎないっすか?10万は越えるかと思ってたんですけど…」

 

「君たちみたいなスポーツカーが好きな子以外、この車の価値は皆無だからね

知らない子からしたらただの20年以上前の古くさいセダンだからさ」

 

「まぁ、そりゃそうっすけど」

 

「おまけに非力な2リッター、シルビア系に比べて人気もないし

前オーナーも乗り換えで置いてった下取り(ユーザー買い取り車)だからね、下手な値段で欲かいて長期在庫するくらいならとっととハケて欲しいんだよ」

 

現在若者のトレンドはミニバンからSUVへ切り替わり真っ只中である

さらに言えば少し前の震災や就職氷河期、昨今の原油高騰により一般には男性からですら

特に燃費も悪く故障のリスクを抱えた古めのスポーツカーは見向きもされない時代である

 

「わかりました、買いますよコレ」

 

「…言っといてなんだけど、こんな車で良いの?

君の乗ってるのは本物のGT-Rだろ?

あっちと比べて遅いし吹けないし、ゴミ同然だと思うけど…」

 

「良いんですよ、通学で友達乗せるのと…

あとは自動車部達と遊ぶ車が欲しかったんで」

 

「…なら、ちょうど良いのかな

名変だけだから来週には納車できるよ、お金は引き渡しの時で良い

──一応聞いとくけどローン通す?」

 

「一括で、来週また来ますわ」

 

 

こうして杉野は日常の足兼自動車部達と遊ぶための車を手に入れた

日産のスカイラインタイプM、俗に言う4drのHCR32型スカイラインである

 

 

 

 

*1
時間軸がガルパン放送時の2012年がベースなのでまだインバウンド客はおらず、人は少なかった





思ったより長くなったのと趣味でやってる車輌製作に取り掛かり始めたので遅れました
次回からまた本編に戻ります

閑話側の次回を予告するなら『聖グロ学園艦出禁伝説~スモーキー杉野直緒、世界最高速度違反編~』です
見てる人ほぼいないと思いますが、着いてこれる人だけ着いてきてください

この話を見て好き嫌いつけるのは難しいと思うので本編の方でも良いんですが
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