気が付いたら幼稚園らしいけどここ暗くないか???   作:ぱんのみみ。

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 前回のあらすじ

 目が覚めると、そこは緑色の村だった。怪我はないものの、共に村へ落ちた青い彼は放火の疑いで檻に入れられている。釈放のため有力者からの票集めに回るも、全票反対。挽回の機会を願うと、村長から火事のあった村へ証拠探しに行くことを提案される。



81 Stranger

 村長と共に、隣村の調査に向かうことになった。

 

 留守番を言い渡された檻の中の“ぼく”は物凄くそわそわしている。気にはかかるが、それでもこれまでの状況を見る限り、彼がこの村で危険な目に遭うとは思えなかった。

 

 全票反対の衝撃から少し回復し、私は改めて有力者たちの言動や村にあった”ぼく”の姿絵のことを思い返す。

 

 ――おそらく、村民にとって、”ぼく”は全く未知の余所者というわけではないだろう。

 

 疑念の強くなさそうだった有力者たちの票もすべて『反対』となったのは、何かこう……行き違いとか見落としている理由があったのか。あるいは……。

 

「それでは、準備ができたら出発しよう。良いときに声をかけてくれ」

「……いえ、すぐに出発できます。行きましょう」

 

 私は、隣に立つ村長を見上げる。

 流れるように隣村の調査を提案されたので、投票結果について詳しく確認する機会を逸してしまった。まるではじめからこうなる予定だったかのようだ。

 しかし、村長が本気で“ぼく”のことを放火犯だと考えているようにも見えない……。

 

 ……するとやっぱり、何か別の理由があるのだろうか……。

 

「いってらっしゃい……。きをつけてね……」

「ありがとう、いってくる。心配しないでね」

 

 落ち着かない様子の“ぼく”に手を振って、歩みを進める。

 

 

 ごめん。きっと、有力者や村長には、貴方自身が疑われているわけじゃないんだと思う。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 隣村へは、いくつもの吊り橋を渡って行くらしい。

 

「道中は暗い。はぐれないようにね。……何か明かりになるような物は持っているかい」

 

 そういえば、と私はズボンのポケットを探った。

 ……あった、懐中電灯!廃病院を出たあと、ポケットに入れてすっかり忘れていた。落下の際にも紛失しなかったようだ。小型だが、身の回りは照らせる。

 

「はい。近くを確認する程度なら」

「わかった。松明を持って私が先を歩く。キミはついてきてくれ」

 

 進むごとに闇に飲まれるような吊り橋を、下っていく……。

 今までの道と比べて相当に暗い。懐中電灯で足元を照らせはするものの、進む方向は村長の持つ松明が頼りだ。

 彼の狭い歩幅に合わせて、炎が細かく揺れている。独特な歩調だ。

 

 

 斜め前方から、彼の声がする。

 

「――開票結果を、奇妙に思っているだろうね。まず謝らせてほしい」

 

 落ち着いた声だ。歩みを止めぬまま、村長は続けた。

 

「事情があって今は詳しく説明できないが、いずれ話すよ。……でも、キミが二つ返事で同行してくれるとは思わなかったな」

 

 視線が私を向く。

 

「キミは随分と、あの彼を気にかけているね。彼とはどこで会ったんだい?」

 

 ……。私は、足元に注意を払いながら、慎重に口を開いた。

 

「会ったのはつい先ほどです。クローゼットに隠れていた彼を偶然見つけました。そのあとシリンジョンから逃れて……貴方がたも、シリンジョンから逃げてこの場所へ?」

「逃げたというより、追いやられたと言う方が、正しいかな。少なくとも私は、秘密を知ったからここにいる」

 

 秘密、と私は村長を見つめた。

 

「……村に、青い彼の姿絵がありました。ここに私たちが落ちてくる前から……貴方は彼のことを、ご存じだったのですか?それが、この場所に追われることとなった『秘密』でしょうか」

「そうだ。随分昔の話だけれどね。――キミも、同じように彼に関係してここにいる?」

「……そう、ですね」

 

 村長を見つつ、続きを口にしようとしたところで、吊り橋の端にたどり着いた。

 

 緑色の地に足が付く。

 

「――着いた。ここが火事にあった隣村だよ。青い彼が犯人ではないと信じてはいるが、火を放った者がいたことは事実だ。……キミが調査に協力してくれてありがたい」

 

 村長が続ける。

 

「ほかの村民たちへの説得にもつながる。手がかりを探そう」

 

 松明から、篝火台に炎が移る。赤々と燃える火によって、周囲がやっと見えた。

 小屋がいくつかあるが人けはなく、元いた村に比べると荒れた雰囲気だ。

 村長は身をかがめ、地面に手がかりがないかを探している。

 

 あたりからは焦げたような匂いがする……。

 ……火の手はどこから上がったのだろうか。そして目撃された犯人はどんな様子だったのか?

 

「――村長。村民の証言では、放火犯を見たという話でしたね。詳しく伺っても?」

「ああ。火を持つ影を見たと。はっきりとは見えなかったようだが、シルエットは我々村民とも、人間とも違ったようだ。頭の上に、2つの耳があったらしい」

 

 犯人をすぐさま特定できるほどの特徴ではなさそうだ。しかし、ほぼ同じ見た目の集団にとって、他所から来た2つ耳の”ぼく”は、それだけで怪しいかもしれない。

 

「……シルエットだけなら、姿をごまかすのは容易かもしれませんね」

「ああ。その通りだね」

「誰かに罪を着せるために、形を真似る、ということもなくは……ああ、ええと。現時点ではただの可能性の話ですが」

「ふむ……」

 

 村長と話しつつ、周囲をざっと見回す。

 そこまで広くなさそうな村だが、村長と手分けをして探そう。

 

「向こうを見てきますね。何かあったら呼んでください」

「ああ、わかった。気を付けて」

 

 彼の歩き方を見るに、足場の悪い場所は少し大変そうだ。離れた場所や高低差のある所は、私が調べた方が良いだろう。

 

 

 しばらく村を見て回る……が、小屋の周囲には手がかりがなかった。桶や、枝切り鋏、物干し竿など、生活の跡が残っているだけだ。さらに捜索範囲を広げることにする。

 

 ……村の奥に、植物の蔦のようなものが絡まった吊り橋と、その奥の怪しげな洞を発見した。

 

 一度小屋近くに戻って枝切り鋏を拝借し、蔦っぽいものを切っていく。薄く緑に光っている様子を見ると、村の足場を支えていた謎の植物のような物と、同じものである気がする。鋏で切り進めて、人がひとり通れるくらいの隙間ができた。

 

 できた隙間から、洞の中を少し覗いてみる。

 

 かなり広い空間があるようだ。

 先ほどと同じ蔦のようなものが複雑に絡み合って、坂道のようになって下へ続いている。壁際にぐるりと這っている蔦の足場によって、上下の2層に分かれたような形の空洞だ。

 壁や足元には所々強く発光する球体があって、視界に困らないほど明るい。

 謎めいた素材でできてはいるが、洞窟というより、巨大な植物の中に入り込んだかのようだ。

 蔦の足場を降り、中央部分の広場に進み入ったところで……頭上から、音がした。

 

 

 風を切って、前方に何かが落下する。

 

 

 ――それは、四つ足の獣のような影だった。

 

 

 音を立てて、数メートル先の床に着地したその生き物が、ゆっくりとこちらを見る。

 

 黒く骨ばった体躯。頭頂にある2つの三角の耳。顔つきや曲がった背から、犬型の生物……ハイエナや痩せた狼のような生き物に見えた。

 前足に持った松明が燃えて、ところどころ緑に濡れたその体表を照らしている。

 

 もう片方の黒い前足が、着地した際に背中から転がり落ちた荷物を、拾い上げようとした。

 

 ……それは、赤い……。

 

 

「――あっシックスの」

 

 

 私のつぶやきに、相手の動きが停止した。

 視線がぶつかる。

 

 ……え?

 

 私は目を瞬かせた。もう一度、相手の顔とその手の中にある物を交互に見る。大事そうに抱えられた、それは、やっぱり何度見ても……。

 

 

「こんにちは。……す、すてきな編みぐるみですね」

 

「……、……」

 

 

 周囲の時間はちょっと止まった。

 

 

 火がぱちぱちと燃える音が、空洞内によく響く。

 慎重に、私は、再び口を開いた。

 

「それ、バンバン……シックス、赤い彼の……しかも小さい時の編みぐるみ、ですよね」

 

 会話ができる予感に、言葉を続ける。

 

「かわいいですね。―――あの、実は私、以前バンバンのキーホルダーを持っていて」

 

「……キーカードの……リングに、付けるやつ?」

「!そう……!あの、他にもいろいろ種類はありましたが、それをつけて」

 

 正確には、過去の施設で”ぼく”の中にお邪魔していた時の話ではあるが。

 またちょっと沈黙が落ちたが、今度は相手から声がかかった。

 

「お前、あの青い……丸くて小さい耳の奴の、仲間じゃ、ないのか?」

「え、ええと、彼とは友達です」

「バンバンは?」

「赤い彼?協力者で友達です。彼の助けになりたいと思っています」

「……、……」

 

 松明はちょっと上下した。

 

「――いや、やっぱ駄目だ。……お前を、外科医のところまで……連れて行く。俺と来い」

 

「村の人に別れの挨拶をしても?」

「……呑気か……?抵抗しろよ……。いや、しない方が、面倒がなくて……いいんだが……」

 

 すごい、会話にちゃんと付き合ってくれる。いいひとだ。

 

 シリンジョン側の追っ手であることを教えてくれた相手は、どうも釈然としない顔をしている。

 観察する私の視線の先で、松明を持った彼は頭を振った。

 

「……ああ違う。お前の話に長々耳を貸すなって、言われてたんだった……」

「そんなことをあのドクターが……?なぜ……??」

 

「まず騙されるからって……乗せられるな、と……」

「……まるで人を詐欺師のように……」

「捕まえたら、猿轡……かませとけって……」

 

 まるで人を害ある何かみたいに……。

 早々と扱いに期待ができなくなってきた。やはり逃走一択かもしれない。

 

「お前か青いのどっちかを捕まえたら……人質にしてもう片方を呼ぶって」

 

 断然捕まるわけにはいかなくなった。

 

「そういう訳で、縄で縛るから、大人しく……してくれないか」

 

 背中の方から縄を取り出す相手に、私は首を横に振った。

 

「すみませんご辞退させていただきたく……」

「……じゃあ、仕方がない」

 

 松明の火は赤々と燃えた。

 

 

「―――少し痛い目にあってもらう」

 

 

 あぁ回避しきれなかった!

 

 チェイスだ!!!

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ごうっ、と体の横をかすめた炎から大急ぎで逃げる。

 

 火炎放射器もかくやという勢いで、広範囲にファイアブレスが飛んでくる。逃げ場の少ない洞の中では、相当の脅威だ。

 洞の外に逃げる選択肢も考えたが、相手は間違いなく追ってくる。村長を巻き込むわけにはいかない。

 

 何とかするしかないが、どうしたものか。

 突破法を考えつつしばらく洞の中を逃げ回っていると、背後でガラガラの声が聞こえる。

 

「……喉が……乾いた……」

 

 どうやって炎を出しているのかと思ったが、松明と体内のジバニウムを使ってるのか!……ジバニウム不足って彼らにとって良くないのではなかっただろうか……?

 

「……あの、つらそうなので、やめませんか…!」

 

「……息を切らしてる、お前に、言われても……というか、じゃあ、大人しく、捕まれ……」

「すみませんそれはちょっと」

 

 火を噴くとき彼は立ち止まるし、走る速度は私の方が早い。気を付けていれば追いつかれることはないが、しかし体力はジリ貧だ。

 相手もジバニウムを使って消耗している様子だが、彼は近くの壁の一部でジバニウムを補給している様子。それを止めなければ、限界は私のほうが先に来るだろう。

 

 なんとかジバニウム供給を阻止できないか、とその場所の1つに走り寄る。

 壁の一部が、ぶよぶよとしたスポンジのような構造になっていた。追っ手の彼は、先ほどからこの部分を押して、飛び出してくる液体を口にしている……。

 

 手で引っ張ってみるが、壁と一体化していて取り外せそうにはない。持っていた枝切り鋏を使って、少しだけ表面を削ることができたが……。

 そうこうしているうちに背後から足音が近づいてくる。熱気と炎が迫る。

 

 段差を飛び降りて避難した私の視線の先で、追っ手の彼はまたもジバニウムを飲もうとした。

 傷ついた壁面は、先ほどよりも勢いよく液体を噴き出す。

 

「……」

 

 かなりの量のジバニウムを被った彼は、やや頭を振ってから、再び私を追いかけ始めた。その体から緑の液体が滴って、足をつく度に水音がしている……。

 

 

 ――もう少し頑張れば、スポンジ部分を完全に壊して補給を断てるかもしれない。

 

 

 追手を撒きつつ足場をのぼって、別の補給場所にたどり着く。

 その近くの壁には、他とは違い、何かが描かれていた。

 

 雷マークと、矢印の絵だ……?

 

 ――電気?と、持っていたリモコンのボタンを押してみる。

 リモコンから放たれた電気が弾けるが、壁面を破壊するには至らなかった。しかし、奇妙なことに、バチバチと壁が帯電している……。

 

 よくよく観察する前に、背後から迫ってくる足音が聞こえる。

 沸きあがる悪寒に、急いでその場を離れた。心臓が激しく鼓動している。視界の端っこに火の粉が映る。

 

 はぁ、と息が吐かれる音。

 

「……喉が……乾いた……」

 

 そのまま彼は、補給場所からジバニウムを飲もうとした。

 

 バシャリ、と勢いよく噴出したジバニウムが彼に降り注ぐ。その緑の液体は―――仄かに光り輝いている。

 

 

「あっ」

 

 

 ……悪い予感に私が声を上げるのと、濡れた彼の全身に光が回るのは同時だった。瞬時に、手に持った松明の炎が膨らむ。

 

 

 ボカン!とごく小規模な爆発が起こった。

 熱風と煙が押し寄せ、あっという間に通り過ぎる。

 

 

 反射的に目をつぶった私が次に見たのは……追っ手のふらついた体が、地面に倒れるところだった。

 

「――!」

 

 そのまま動かない姿を見て慌てて駆け寄る。一瞬、倒されたフリの罠かもしれないという考えがよぎったが、そのときはそのとき!

 

「……大丈夫ですか!」

 

 思わず口をついて出てきたのは安否確認の言葉だが、相手にとっちゃ滅茶苦茶白々しいかもしれない。私がジバニウムを帯電させといてどの口で???

 

 倒れた相手の返事はない。若干焦げ臭いが、発火はしておらず、大きな外傷も……見当たらない……。服の袖で煤っぽい部分を少し拭うが、やっぱり怪我はなさそうだ。

 

 ……これまでの経験から……彼らの頑丈さを考えて恐らく大丈夫だろうとは、思えるが……。

 一応、これ以上の誘爆が怖いので、彼の手にある松明が床につかないよう一旦預かる。

 ジバニウムが電気を帯びるし燃えやすいというのは、よく覚えておこう……。

 

 怪我がないか全身を確認する過程で、彼の首元で光っている機械もよく見えた。いくつもの赤いライトが付いた、硬い金属の首輪だ。これまでに聞いた話を思い出しつつ、そうっと調べるが、仕組みや外し方は、わかりそうにない……。

 

 ……。この首輪によって、シリンジョンに従っているのだろうか……?

 物凄く悩みながら、一旦立ち上がる。すみませんと彼の持っていた縄を拝借し、手足を縛らせてもらうことにした……。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「何かあったのか?大きな音が聞こえたが、一体……」

 

 

 洞の入り口から聞こえた声に、私は顔を上げた。一瞬別の追っ手かと緊張が走ったが、顔を出したのは見知った相手だ。

 

「村長さん。ちょうどお呼びしようかと思っていたところでした」

 

「えっ……おぉ、もしかして、そっちで倒れているのが放火犯?キミ……キミ、まさか一人で倒したのか?」

「いえ、あの、ちょっとした事故で……いや、私のせいと言えば私のせいです。小爆発が起きて気絶しました」

「えぇ……?そう……」

「彼はシリンジョンの指示で、私や“ぼく”を捕まえに来たようです。貴方がたの村を襲うのが目的ではないと思われますが。……あの、村長さん」

「ん?」

 

「よろしければ、その……私は皆さんの村ではなく、こちらの使われなくなった村に残ろうと思うのですが」

「……ふむ。なぜだい」

「ええと。……その方が危なくない、かなと……」

 

 逡巡して言葉を探す私に、村長は苦笑した。

 

「――私たち村民にとって?……おいで、戻ろう」

 

「……、……」

「危ない状況に、キミが一人で居ることはない。あの青い彼も待っているよ」

「そう、ですね。……ありがとうございます」

 

「そっちの犯人は……さすがに運べないな。彼こそ檻に入れた方が良いと思うが、村までの道のりを運ぶのは、難しい。――代わりに、この村の周囲の吊り橋を落としておこう。我々の村までたどり着けないようにね」

 

 ……、……。

 

「あの、村長さんすみません……ひとつ……」

「ん?」

 

 

 先程の広場にあった桶をお借りし、洞の壁から少しだけジバニウムをいただいた。追っ手の彼の口元近くに置いて立ち去ることにする。これで、縛られて動けないのに喉は乾いたまま、という苦行は避けられるはず……。

 手足を縛った縄は……彼がすぐに目を覚ましたら、橋を落とす前に追いつかれる可能性があるので、解くわけにはいかなかった。申し訳ない……仲間の救援を待つか、時間をかけて頑張って自力で脱出してほしい……。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 帰り道。

 行きと同じく暗い道を戻る。

 

 松明を持った隣の村長を見上げて、私は口を開いた。

 

「“ぼく”は……青い彼は、これで檻から出られますか」

「もちろんだよ。不安がる村民は私が説得する。彼やキミには申し訳なかった」

「いいえ。疑わしい中で、村長さんは良くしてくださいました」

 

「……キミ、良い人間だね。知恵と勇気もある。青い彼……、彼とは会ってそれ程長くないようだけれど、なぜそこまでして助けようとするんだい?」

 

 私は、彼の顔をじっと見た。

 

「村長さんは……昔に、彼を知ったと言いましたね。それでここに追いやられたと。私も、小さいときの彼を知っています」

「へぇ。キミあれかな、研究施設の関係者だった?それにしては若いから、職員の親族とか?」

 

「いいえ。2、3日しかいない旅行者みたいなものでした」

「……、……」

 

「何かの悪戯か偶然で“ぼく”のところに転がり込んだ居候のような。本当は、自分で周りに説明して別れを言う予定だったのですが、トラブルがあって言えずじまいで」

「……、……」

 

 彼の歩みが止まる。

 

「一番年長っぽい仲間の方に、“いいね!”の気持ちと、”自分は人間だ”という簡単な事情を伝えておいたのですけれど」

 

 

 丸く黒い瞳が、私を映す。

 

 

「――――――……キミ……キミ。……“わたし”?」

 

 

 私は頷いた。

 

 

「はい。――お久しぶりです。元海賊王さま」

 

 

「…………そういうのはもっと早く言おうよ!」

「すみません、私も貴方がそうだと確証がなかなか持てず……」

 

 若干のけ反った村長に、恐縮しつつ一応弁明する。誰彼かまわず吹聴しても良い結果を生むとは思えなかったので、慎重になっていた。

 

「いやちょっと待って、若……若くないかキミ?何年前の話だと思って……混乱してきた。どういう時系列?」

「私にとっては、ほんの一日前くらいの出来事だったというか……。精神のみタイムスリップして“ぼく”の中に居候のような……?ええと、実はとても遠くに居るってお話を以前に」

「情報量が多い!」

「すみません」

 

 私の言葉に、村長は頭を振った。

 

「早く村に戻ろうか。話すことが増えたし、キミを見極める必要も全く無くなった!」

 

「――ああ、やはり」

 

 私は納得して頷いた。村に残された“ぼく”を思う。

 

 籠の中の鳥は守られている。

 ”ぼく”の存在を知る彼らにとって、素性も得体も知れない相手は、人間の私の方だ。

 

「真に警戒されていたのは私だったのですね。一緒に落ちてきたのがどんな人間か……青い彼にとって害にならないか、引き離して試していた。有力者さんたちへのお使いも?」

 

「ああそうだ。もうこの際だ言ってしまうが、キミが集めたのは釈放のための投票じゃない。彼らには、あらかじめ別のことを頼んだんだ!」

 

 私は笑った。

 

「貴方が最終試験でしたか海賊王さま!ちなみに合格?」

 

「いじめないでくれ、だますような真似をして本当に申し訳なかった……!」

 

 

 

 道すがら、村長は投票用紙の中身を見せてくれた。

 

『I like the new friend!』『The person is kind. ♡My lifesaver♡』『Not so bad. Entrust. 』

 

 なるほど、”ぼく”の釈放の可否ではない。これは私への評価だ。

 

「……ああいやだなぁ、年を食うと小狡くなっていけない。“ぼく”にとって安全か試そうとした相手がよりによって、かつて“ぼく”のことを『よい仲間になるから』と私に言ったキミだとか……」

「あの時の話を。覚えていてくださったんですよね。長く……とても、長く」

 

 私は手元から顔を上げた。あの頃と違って、私よりずっと背が高い相手を見上げた。

 

「あの場所から追いやられても、ずっと。ありがとうございます」

 

 村長は、何とも言い難い顔でしばらく口をつぐみ……しかしやがて、息を吐いて表情を和らげた。

 

 

「……いいえ、”わたし”。またキミに会えて、うれしいよ」

 

「はい、私もです」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「……あっ!“わたし”!戻ってきたんだね!」

 

 村に戻ると、”ぼく”の明るい声が響いた。

 ただいま、と私は檻の中の彼に返事をしつつ近づく。

 

 檻の前には、見覚えのない先客がいた。

 

 しゃがんで“ぼく”と話をしていたような村民の彼は、こちらに気が付くとひらりと片手をあげる。そうして村長を見て、にやと笑った。

 

「よぉ、お帰り。面白そうなことをやってたらしいな。――で、そっちの“わたし”には許してもらえたのか?狸じいさん」

 

 私は、その相手の片(・)腕(・)につけられている腕輪を見た。先程の投票の時には、村にいなかった村民だ……。

 有力者ではない……が、どういった立場の方……?

 呻いた村長が、返事をする。

 

「キミ……キミ、なんだってそのことを知ってるんだ……」

「そりゃあ全部“ぼく”に聞いたんだよ。帰ってきたら懐かしい顔が見えたから、話をしたんだ。まるっと教えてくれたぜ、一緒に居る人間は、”わたし”だって」

 

 久しぶりだな、と彼の手が私に軽く振られて元に戻る。

 彼と村長を見つめる私に、“ぼく”が言った。

 

「あっ、あのね、“わたし”!彼、ほら、ダイブが好きだったあの子なんだ!サボテンに着地した子!かくれんぼでぼくの部屋にいた!」

「……ああ、彼!」

 

 合点がいった私は頷いた。ついでに”ぼく”に伝えておく。

 

「ちなみに村長さんは、元海賊王のひとだった。もう教えてもらっていた?」

「……ええっ!そうだったの!?知らなかった!!」

 

 我々の目の前で、楽し気な片腕輪の彼と、苦い顔の村長は話を続けている。

 

「回りくどくやったな。ストレートな奴にはストレートに聞きゃあいいもんを」

「……いわないでくれ……そうじゃなきゃ上手く回らないことも多いんだよ……」

「へぇ。“わたし”にもそういったのか。食えない村の長が板についちまってまぁ」

「……恥じ入って頭を下げたんだよ、揶揄わないでくれ……!」

「いやぁもう少し。アンタを揶揄えることなんてそうそうない。大体、俺を抜きにしてやるなんて酷い話だよな?」

 

「――それは、朝からあちこち飛び降りたり登ったりして所在不明なキミの責任だ。今日はどこまで行ったんだキミ?」

「おっと、もう調子が戻りやがった。悪かった、ここまでにしようぜ村長」

 

 両手を上げた彼の目はまだ楽しそうだったが、村長は矛を収めたようだ。

 “ぼく”に向かって村長は頭を下げた。

 

「キミにも、申し訳なかった。やってきた人間が、キミにとって危険な存在でないか、確かめたかったんだ」

「う、ううん!彼から話を聞いたよ、ぼくも自分からちゃんと話したり聞いたりすればよかったんだ。村長さんが悪いわけじゃないよ!」

 

 “ぼく”が続ける。

 

「あ、でも、そしたらもう檻から出してくれると嬉しいかな。みんなと檻越しじゃなくお話したいしね」

 

 ああ、それなら、と村長は首を振った。

 

 

「最初から鍵はかかってないよ。いつでも出られる」

 

 

 ……、……。

 

 

 私と同じく言葉を失った“ぼく”が、恐る恐る、檻の扉を押した。

 

 

 

 ――きぃ、と軽い音を立てて、それはいとも容易く、開かれる。

 

 

 

 まじかよ、とダイブ好きの彼の軽快な笑い声が、村に明るく響いた。

 




P1:どうあがいても人間なので戦闘能力は高くない。今回、口だけではなんとかならなかった。
*細部に目をつぶれば恐らくそれなりに順調だ、やるべきことをやれ。進め。

青い声の主:言われた通りにする傾向は高い。そうあれかしとされた。今回は色々思った様子。

村長:頑張ってボロが出ない村長ロールをしていたのに、相手の正体が予想外だったので昔の素がでた。事情通でない村民らの不安解消のために、放火犯についても人間についても色々確かめようと動いていた。

ダイブ好きの村民:村に帰ったらデカいイベント事が始まっていた。当事者に率直に聞いて自分のことも話した。有力者の枠は辞退している。

松明を持つ回収部隊員:外科医に色々指示された。しばらくしたら目が覚めて、ギリギリ届く場所に置かれた桶の中身を、努力して舐めることになる。
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