特に友人であるハリーに対しては口を出さずにいられない。
ハリーはそんなハーマイオニーのことを頼りにしつつ、ちょっと迷惑がってもいる。
そんな二人がある日、些細なことで大ゲンカをして、そしてお互いのことをより意識していくまで。
ハーマイオニーのキャラに自分の好みを詰め込みました。
なので、ちょっと原作とキャラが違うと思います。ご了承ください。
自分と同じくハーマイオニー好きな方に楽しんでいただければいいなと思っています。
何も考えずに書き始めたため
「そういえばホグワーツの朝食はビュッフェ形式じゃなかったな…」と気付いた時には後の祭りでした。
他にも原作と比べると設定的におかしな点がちょいちょいあるかと思いますが
無知で草 と笑い飛ばしてやってください。
ハリーは大あくびをしながら、朝食を食べるため大広間の入り口をくぐった。
昨夜は結局、自習室で夜中の1時まで闇の魔法術についての調べものをしてしまった。
自分でもずいぶんと頑張ったと思うが、それに見合った収穫を得られたとは言い難い。
調査に進展はなし。
ハリーが手にしたものといえば睡眠不足というおみやげだけであった。
朝は食欲がない。ビュッフェ台からクロワッサンをひとつと、ゆで卵ひとつ、あと牛乳を一杯。
それと眠気覚ましのためにブラック・コーヒーを一杯、トレーに載せて席についた。
ふと右ななめ前を見るとロンの背中が目に入った。隣には新しい彼女。
えーっと、名前は何ていったっけな…。
眠いからか、頭が全然働いてくれない。
ふたりは仲睦まじく肩を寄せ合って座り、お熱く朝食を楽しんでいる。
あまり見すぎると今の疲れているハリーでは胃もたれを起こしそうな気がしたので、そっと目を伏せることにした。
クロワッサンをひと口、頬張る。ペチュニアおばさんからさんざん三十回噛んで食べなさいと教育された習慣から、ゆっくりゆっくり味わっていると、隣に誰かが腰かけた。
「ハリー、あなたにお節介と思われるのには慣れっこだから遠慮なく言わせてもらうわ。まず、食べる量が少なすぎ! そんなんじゃ授業中にガス欠を起こすわよ! あと、ちゃんと野菜も摂りなさいっていつも言ってるじゃないの!」
ハーマイオニーはいつものように朝から元気ハツラツである。
わざわざハリーの隣にやって来て、自分が食べるよりも先にハリーの少食と偏食を心配し、ついでにお小言のプレゼントまでくれる。こんなにありがたい友人はいないだろう。
「おはよう、ハーマイオニー。君は今日も朝からとても元気そうだね」
「おはようハリー。そりゃあ元気よ。ちゃんと寝て、しっかり食べてるもの。これが健康の基本でしょう」
ちょっとしたイヤミのつもりで言ったのだが全く通じていない。
それどころか、ちゃんと眠らずしっかり食べないハリーには耳の痛いカウンターパンチまでくらってしまった。
ハーマイオニーは覗きこむようにしてハリーの顔をうかがった。その長い睫毛がハリーを見定めるようにしてしばたたかれる。
「目が真っ赤じゃない。まさか、あの後もずっと調べものを続けていたの?」
「うん、まあね」
ハリーはこともなげにそう答えて大あくびをした。
その様子を呆れた顔で見ていたハーマイオニーは、すっと席を立ったと思うと、ビュッフェ台の方へと向かっていった。
ハリーはゆで卵の殻をパリパリ、ちまちまと破る。
昔からこれが苦手で、どうも上手くいかない。
ふとロンの方を見ると、彼女さんがロンの口元へとソーセージのささったフォークを近づけていた。
ロンはそれをパクッと頬張り、そして彼女の鼻を人差し指でツンとつついた。
ハリーはふたたび、目を伏せることにした。
ようやく卵の殻をむき終わり、塩を付けてさあ食べよう、というところでハーマイオニーが戻ってきた。
その手にあるトレーに載せた皿には、たくさんの食べ物。
レーズン・トーストに両面焼きの目玉焼き、その付け合わせにハムとソーセージ。
ボウルに入ったヨーグルト、トッピングはカットバナナとオレンジ。その隣にはオートミール。
さらにはレタスとプチトマトのサラダ、よく見るとキュウリもいた。
そして、ハリーが大の苦手としている野菜たっぷりの青汁ジュースまで…。
「朝から食欲旺盛だね。すごいや。ははっ」
「なーに言ってるのよ。コレ、あなたが食べるのよ」
「……え?」
一瞬、何を言っているのかわからなかったが、ハーマイオニーの目を見た瞬間に理解した。
これは冗談を言ってる目ではない。彼女はいたって本気だ。
「そんな食事じゃ栄養失調を起こすわよ。あなたのことだから、どうせ今夜も遅くまで調べものをするんでしょう。だったら尚更、体力をつけなくちゃダメよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! ムリ! 無茶だよ、そんな量を食べるなんて!」
「無茶もへったくれもないわ。全部とは言わないから、せめて少しずつでも食べなさい。ちゃんと栄養バランスを考えて取ってきたんだから」
ハーマイオニーはソーセージをフォークにさしてハリーの口元まで運んだ。ハリーは口をへの字にして、せめてもの抵抗の意思を見せる。が、ハーマイオニーの力強い眼差しの前では、早くも心が折れてしまいそうだ。
「もし食べないっていうのなら、もう調べものの手伝いしないわよ」
しびれを切らしたハーマイオニーが、ハリーの一番痛いところを突いてきた。
「そ、それとこれとは話が別だろ、そんな卑怯な…」
「卑怯でけっこう。はい、口を開けて。あーーん」
もはやハリーに拒否権はない。仕方なしに口を開くと、そこにハーマイオニーはソーセージを突っ込んできた。ハリーの完敗である。
「はい、じゃあ次はトマト」
今度はプチトマトをフォークにさし、ハリーの口元へと持ってくる。ハリーはこれもしぶしぶ口に入れた。
「ふふっ、よくできました。じゃあ、次は…」
「もういいよ。自分で食べられるよ」
ハリーはフォークをひったくるようにして受け取った。
ハーマイオニーは満足したらしく、勝ち気な笑みを浮かべている。
「じゃあ、私もいただこうかしら」
ハーマイオニーはハリーと同じ皿からレタスを取り、パクリと口にした。
「え? ここから取るの?」
「別にいいでしょう? 私が取ってきたんだから」
そう言ってその細い指でレーズン・トーストをちぎり、口の中へポンと放りこんだ。そして、青汁ジュースで流しこむ。
(よかった…。あれは自分用だったんだな…)
大嫌いな青汁ジュースを飲めと言われたら、いくらハーマイオニー相手といえども本気で怒ってしまったかもしれない。ハリーはこっそりと安堵の息をもらした。
「あら?」
ハーマイオニーはロンに気付いたようだ。
その背中はさっきと変わらず彼女さんと肩を寄せ合いイチャイチャしている。
今度はロンが彼女の口元へフォークを差し出して、それを彼女が食べていた。
「…まったく、朝っぱらからみんなが見てる前であんなことをして…。恥ずかしくないのかしらね」
ハーマイオニーは呆れたように言い放った。
「まったくその通りだね」これにはハリーも同意した。
大広間の正面に鎮座する大きな鏡、それが朝の陽光を浴びてキラリと光る。その中央にはハリーとハーマイオニーが映っていたのだが、ふたりはそんなことを気にも留めていなかった。
「だから、ここはさっきの数式を当てはめるのよ」
「? どの数式さ?」
「コレよコレ。さっき説明したばかりじゃない。んもう、あなたまだ寝ぼけているんじゃないの?」
「ハーマイオニーの説明は一から十まで一気に飛ぶから分かりにくいんだよ。まったく不親切なんだから……」
「……あなたねえ、それが人にモノを教わる態度なの? 『親しき仲にも礼儀あり』って言葉を知らないのかしら」
「ははっ、『親しき仲にも礼儀あり』だって? 挨拶するより先に人の食事にケチをつけるようなヤツがよくそんなことを言えたもんだ」
「ケチですって!? 私はあなたのことを思って親切心で言ってあげたのよ。それをよりにもよってケチ呼ばわりするのね。へーーえ、そう。そうなのね!」
昨夜、調べものに大いに時間を食ったハリーは『数占い学』の宿題がまだ中途半端であった。
どこかの休み時間にでも仕上げようと思っていたが、それをポロッとハーマイオニーに漏らしたところ「私が見てあげるから、ここで済ませなさい」となった。
さすが優等生、彼女は朝食を終えたらすぐに自習室へと行くつもりだったらしく、勉強道具一式を大広間まで持ってきていたのだ。
これはありがたいと彼女のノートを借り、世話になることにした。
…その結果がコレである。
「だいたいねえ、あなたが普段どれだけ私に心配かけているのか分かってるの? ズボラでいい加減で、そのくせ無茶ばっかりする命知らずで! 私の心配ごとの半分はあなたなのよ!」
「そんなこと頼んでないだろ! このお節介! だいたい命知らずはお互いさまだ! 君こそ大事なときに一人で突っ走ってさんざん心配をかけてるじゃないか! 君のそばにいると心臓がいくつあっても足りやしないよ! 偉そうに人に言う前に自分のことを鑑みたらどうだ!」
「キーッ! 言ったわねえ!」
軽い口ゲンカが熱に熱を帯びて、いまや大広間全体に響き渡るほどのいがみ合いになってしまった。
当初はふたりのそんな様子を笑っていたスリザリン生たちでさえも、もはやどう収めるのやらといった表情で見ている。
「あなたって本っ当に不誠実の権化のような人ね! ええ、見損なったわ! これが伝説のハリー・ポッターさまだなんて魔法界の恥ね! とっとと看板を下ろすべきじゃないかしら!」
「…おい、やめろよ…。二人とも……おい」
「君こそ、物事をいつも自分中心に考えるのはやめろよ! いきすぎた親切はありがた迷惑だと知るべきだ! このじゃじゃ馬!」
「おい…やめろってば…頼むから…」
「い、言うにこと欠いてじゃじゃ馬ですってえ! もう許せない! この根暗メガネ!」
「ね、根暗メガネだと!」
「やめろおおーーーーー!!!」
誰かの悲鳴にも近い大声で、二人の時間はぴたりと止まった。
声の主は、二人の親友であるロン。彼の精一杯の叫びによって、このどうしようもないケンカは一段落をむかえることができた。
「ロ、ロン…」
ハリーとハーマイオニーはふたり仲良く同じタイミングで親友の名を口にして、同じタイミングで親友の方へ顔を向けた。
ロンはケンカを止めるためにすぐそばまでやって来ていたのだが、あまりに熱くなっていた二人はそんな彼の声さえも耳に入っていなかった。
「どうしたんだよ、二人とも。ここは公共の場だぜ。みんなが見てる前だ。みっともないことはしないでくれよ、頼むから」
ハリーとハーマイオニーはあたりを見渡し、そこで初めてみんなに見られていることに気付いた。大広間の端から端まで全員の視線が自分たちに注がれている。
そして入り口には、騒ぎを聞きつけたであろうマクゴナガル先生までもが何事かという顔をして立っていた。
頭が急速に冷えていくのを感じて、それと同時にとんでもない恥ずかしさが襲ってきた。
それはハーマイオニーも同じだったらしい。
みるみる、今さっき怒っていたときよりも顔が赤くなり、広げていた勉強道具を抱きかかえるようにして駆け足で大広間から去っていった。
よほど慌てていたのだろう、ハリーに貸したノートさえも忘れて。
「ポッター!」
鋭い声がハリーの背中をぎくりとさせる。振り返るとそこにはマクゴナガル先生が鷹のように目をつり上げて立っていた。
「口論の原因は知りませんが…大広間であのように大声を出し皆に迷惑を掛けたことは咎められるべきです! あなたとグレンジャーの二人分として、グリフィンドールに減点2を命じます!」
みんなのクスクスという笑い声が聞こえる。
ハリーはさながら鷹に狙われた小動物のように、肩を小さくすぼませて「はい…すみませんでした…」と弱々しい返事をすることしかできなかった。
その日はそれから、ハリーはハーマイオニーと口を利かなかった。
別にハーマイオニーに対しネチネチと怒り続けていたわけではない。スネイプじゃあるまいし。
一度吐き出せば思いのほかスッキリしたもので、ハリーの中で彼女への怒りの火はもう消えていた。
ただし、やっぱりちゃんと謝らないかぎりはギクシャクしてしまうので、ハリーは機を見て彼女に謝罪しようと思っていた。
そして彼女の性格からして、ハリーが素直に謝れば「いいのよ、ハリー。私も言い過ぎたわ。ごめんなさい」と返してくれるのではないか、なんて楽観的な期待もしていた。
だが、もうひとつ厄介な問題が発生してしまい、そのせいで少し面倒なことになっていた。
ハリーとハーマイオニーが大広間で大ゲンカをしたのはホグワーツ内でもっぱらの噂になっていた。
しかもその直前に、ロンとその彼女がやったのと同じ“恥ずかしいこと”を(意識せずにだが)二人でしているところも見られていたため、いわゆる痴話ゲンカをしたと噂され、さんざんはやしたてられてしまったのだ。
いくら「違う!」と言ってもからかわれるばかりで、ハリーはほとほと困り果てていた。
どうやらそれはハーマイオニーのほうも同じだったらしく、顔を真っ赤にして「私たちはそういう関係じゃないわ!」と、必死で否定をしていたと風の噂で聞いた。
このせいで、ハリーとハーマイオニーはどうにも気軽に話せるような雰囲気ではなくなってしまっていたのだ。
午後、『魔法史』の授業が終わり、机から目線を上げると、たまたまハーマイオニーと目が合った。ちょうど彼女が振り返ったのと同じタイミングだったらしい。
ハーマイオニーはぎょっと目を丸くして、一瞬ぶるっと震えるようにしてから固まった。
それはハリーも同じで、朝にロンが叫んだときと同じように、またしても二人の時間だけが止まった。
やがてハーマイオニーは見てはいけないものを見たかのようにハリーから視線を逸らし、慌ただしく教室を後にしていった。
ハリーは手元のノートに視線を落とし、ため息をついた。
それは朝から持ち歩いている、ハーマイオニーから借りたノートであった。
夜も更け、結局ハーマイオニーに謝る機会もないまま、ハリーは自習室にいた。調べものの続きである。
昨夜の寝不足もあり、今日は輪をかけて眠い。
三十秒おきにあくびを繰り返し目に涙をためながら、ハリーは机に積み上げた資料の本を漁っていった。
かなり遅い時間なので、自習室に残っているのはハリーを含めて四人。そしてもちろん、その中にハーマイオニーはいない。
ハリーの頭はすでに半分眠っているようなもので、意識を保つだけで精一杯である。
メモ帳の上のペンを持つ手は制御を失い、気が付くとミミズがワルツを踊ったような跡ばかりが残されていた。
まずいな、今にも寝ちゃいそうだ…。
ハリーは手の平を組み合わせ、それを額に当てて一瞬だけ目を瞑った。
……そう、一瞬のつもりだった。
はっと目を開くと、ハリーの他にいた三人の生徒はみな姿を消していた。慌てて時計を見ると、さっきから一時間も進んでいる。
はぁ…、と深くため息をつき、今日はもう諦めて戻ろうと席を立った。
するとその時、本棚の物陰から音がした。誰かの気配がする。
こんな時間にこんなところにいる奴は…ピーブズだろうか?
だとしたら、さっさと逃げてしまいたい。
普段の元気なハリーでさえ相手をするのがたまらなく面倒くさいのに、今の疲れ切った状態では本当に過労で倒れてしまう危険性すらある。
ハリーが資料とノートを手にしたところで、それは本棚の陰からそうっと顔を出した。
ハーマイオニーだった。
ハリーは驚き固まった。眠気も一気に吹っ飛んだ。
なんで? さっきまでいなかったはずなのに。もしかしてこれは夢か? そんな考えが頭の中を駆け巡る。
ハーマイオニーは少し眉根を寄せて、じっとハリーの顔を見ている。何も言わない。ハリーも何も言えない。
「ど、どうしたのさ? こんな時間に」
気まずい沈黙に耐えかねてこう言ったはいいが、すぐに失敗したなとハリーは後悔した。
どうもこうもしないだろう。ハーマイオニーはきっと僕にわざわざ会いに来てくれたんだ。
それに応えてこっちも素直に謝ればいいのに、こんなつまらないことを口走るなんて。
情けないにも程があるぞ、この間抜け。
「……もし、邪魔じゃなければ…」
ぽつりと呟くようにハーマイオニーは言った。
「……手伝おうかと思って」
それは本当に小さな声だった。だけど、たしかにハリーの耳に届いた。
ハリーは全身の力が抜けてしまいそうなくらいに、なんだかほっとした。
そして、乾いた地面に水がしみ込んでいくように、心の中でじんじんと嬉しさがにじみ広がっていった。
「邪魔だなんて、そんなことあるわけないじゃないか。いつもありがとう。君には助けられてばっかりだ。とても、とても感謝してる」
ハリーは微笑んだ。心の底からハーマイオニーへの感謝の気持ちが湧いて、それが自然に言葉になって出てくれた。
ハーマイオニーの大きな瞳は、張りつめた硬さがゆっくりと消えて、なんだか少し申し訳なさそうに柔らかな笑みをこぼした。
「こちらこそ。あなたには感謝しかないわ。こんなじゃじゃ馬の相手が務まるのなんて、きっとあなたしかいないもの。あなたがいてくれて本当によかった。ありがとう、いつも」
ちょっと照れくさかったけれど、二人きりになったことで初めてハーマイオニーに対して本心を伝えられた気がした。
そして、同じく初めて彼女から自分が特別な存在であることを言ってもらえた。
きっとハリーはこの瞬間を人生の宝物として大事に心にしまっておくだろう。
それと…願わくばハーマイオニーにとってもそうであって欲しいな、なんてひそかに考えていた。
時刻はすでに深夜1時を廻っていた。
今日はもう遅いから戻ろうか、と言うと、ハーマイオニーはやけに大きなあくびをした。
ふと気が付くと目が少し赤いようだ。
せわしなくまばたきをして、指で目元をこすって、軽く息を吐いた。
「そうね。とっても眠いもの」
そう言った彼女の瞳には、いつもの力強さが戻っていた。
「そういえば、ゴメン。朝のこと…」
「あら、何のこと?」
「その、色々と、ずいぶんヒドいこと言っちゃって…」
「あはっ、その分私も言い返したんだし、お互いさまじゃないの」
グリフィンドール塔へと向かう廊下をふたりで歩きながら、ハリーはやっと謝罪することができた。これで朝から抱えていた心のモヤモヤにようやくひと区切りをつけられそうだ。
「でも、あなたがそうやって謝ってくれるのなら、私もきちんと謝らないとね。ヒドいことを言ってごめんなさい、ハリー」
ハーマイオニーは静かな廊下に高い声を響かせながら、ハリーが期待していた通りの答えを返してくれた。
「あなたの言う通りよね。今後はもっと自分を鑑みるよう気をつけるわ」
「……朝はそう言ったけどさ」「? なあに?」
「やっぱり今のままの君でいいと思うな、僕は。僕自身がだらしないヤツだから、君みたいに厳しめに言ってくれる人がそばにいてくれるほうがありがたいかなって」
「……ぷっ、なーにそれ、おっかしな人ね」
ハーマイオニーは屈託なく笑った。つられてハリーも笑った。
「あと、このノート、返すよ。朝、忘れていったじゃないか」
ハリーがノートを差し出すと、ハーマイオニーはきょとんとした顔で受け取った。
「わざわざ持ち歩いてくれてたの?」
「うん。返そう返そうと思って、一日中ずっと」
「一日中ずっと!?」
ハーマイオニーは立ち止まり、ちょっと驚いた様子でノートをじっと見た。それからちらっとハリーの顔へと視線を移した。
そうして、ふっと静かに頬を緩ませて、ノートをハリーに差し出した。
「ね、ハリー。このノート、あなたにあげるわ」
「え?」ハリーは戸惑った。
「いや、でも……」「いいから、いいから」
ハーマイオニーは微笑むだけで、それ以上何も言わなかった。
そして不思議に思いながらもハリーがノートを受け取ると、今度はやけに上機嫌そうな足取りで、鼻唄まじりに歩き出した。
やっぱり、ハーマイオニーはよくわからないや。
ハリーはそう思い、彼女の背中を追いかけた。
ハリーは今朝も大あくびをしながら大広間の入り口をくぐった。
眠い。これは昨日よりも眠いかもしれない。
ビュッフェ台へと向かい、クロワッサンひとつ、ゆで卵ひとつ、牛乳とブラック・コーヒーを一杯ずつ。
今日はそれに加えてソーセージを二本、オレンジひと切れ、トマトとレタスを少々。青汁ジュースは……やめておこう。
席に着き、まずコーヒーを口にする。うーん、苦い! それでも最初にコーヒーを飲んでおかないと、食べている最中で寝てしまうかもしれない。
「あら? 今日はずいぶんとバランスのいい食事じゃない。感心感心」
ハリー専属の栄養士がやってきた。彼女は彩りの良いハリーの皿を見て満足げに頷いている。
「今日も文句を言われちゃかなわないからね」
「また文句なんて言う! 親切なアドバイスと言って欲しいわね」
「いいから、自分の分を取っておいでよ。そんなこと言ってるうちに食べ終わっちゃうよ?」
「あなたの食べるスピードを知っている身からすれば、その心配はないと断言できるわ」
ハーマイオニーは、いつものように勝ち気な笑みを見せてからビュッフェ台へと向かっていった。
「ところでハリー。今日はちゃんと宿題を済ませたんでしょうね?」
ハリーは何も答えない。が、ゆで卵をむく手が止まり、目が泳いだ。そして聡い彼女にはそれだけで十分すぎる返答だったようだ。
「やっぱり。食べ終わったらお勉強ね。今日こそはわかりやすーく教えてあげるわ」
ハーマイオニーはちょっと意地悪そうに、いたずらっぽく目を細めた。
「まったく。君は本当に他人の世話を焼くのが好きなんだな。面倒くさがりな僕には理解できないや」
「あら、誰にでもなワケないじゃない」
まばゆい朝陽が降り注ぎ、あたりを白く染めている。その光を浴びながら、ハーマイオニーは
はしゃぐようにして顔をほころばせた。
「あなただからよ、ハリー」
白く輝くその顔は、よく咲いた百合の花に似ていた。