仮想の鬼神、幻想の都に墜つ   作:じゅじゅじゅ

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 完全体すっくんと殴り合い出来てる時点でバケモノ定期




第二十三話 “幕間” デス・プルーフ

 

 

「ゴホッ!ゲホッ!…………あやや、とんでもない事になりましたねぇ……」

 

 

 ガラガラと瓦礫を羽根で押し退けながら、這う這うの体で――――かつて紅魔館の一角だった残骸から射命丸文が顔を出す。

 血色の良い端正な彼女の相貌には、まるで白化粧でも施したように粉塵が貼り付いており――すっかりと澱みきった、埃っぽい空気に眉を顰める。

 

 それでも、瓦礫に頭を突っ込みながら(色気のない)パンツ丸出しで気絶している椛の姿を確認して、文は大きく安堵のため息を吐いた。

 

 

「はぁ……椛も無事で良かったです。宿儺の部屋に幽香がやって来て…………2人が目の前で戦い始めた時なんて、正直『あ、私死んだわ』とか思いましたが……」

 

 

 椛の足を引っ張り、瓦礫の山から引き摺り出す。衣服や装飾品の汚れこそ目立つものの、本体の犬走椛にこれといった外傷は見られない。恐らく、彼女が気絶したのも単なる『ショック』が原因なのだろう。

 

 

「さて……逃げますか。戦闘音からして、すぐ近くという訳じゃないでしょうが……」

 

 天を仰ぎながら、親指と人差し指を揃えて眉間に強く押し当てる。

 指先が皮膚に食い込むほど力を込めて押していると、やがて頭蓋の奥を叩くような頭痛が徐々に薄れていく。

 

 やっとの思いで重大な一仕事を終えたと思えば、全てを台無しにするようなトラブルに巻き込まれたのだ。彼女の心的ストレスについては……推して知るべしだろう。

 

「健気に生きてる蟻たちの上で、2匹の象がタップダンス踊ってるこの状況…………意識のない椛ならともかく、私からすれば生きた心地しないですって…………あ、もちろん私たちが蟻サイドですよ?」

 

 

 誰に言い訳するでもなく、自嘲気味に独り言を捲し立てた文は――脱力して動かなくなった椛の身体を担ぎ上げる。

 そそくさと周囲を一瞥し、妖怪の山へと飛び立とうとしたその瞬間。何者かによって、ふと呼び止められた。

 

 

「へぇ……もう帰っちゃうの?これから面白くなりそうなのに」

 

 

 声の聞こえた方を振り向くと、日傘を差させた咲夜を傍に――余裕綽々といった表情で、腕を組んだままこちらを見つめるレミリア・スカーレットの姿があった。

 

 だが……彼女の美しい水色の頭髪は、鳥の巣のように乱れて(恐らくは戦闘音を聞いて飛び起きたのだろう)おり、その視線も残骸となった我が家の上を行ったり来たりしている。

 本来ならぐっすり寝ているはずの日中に、突然の爆発音で飛び起きて見てみれば――自宅の一部が崩落して、顔見知りの2匹の天狗が転がっていたのだ。むしろ動揺しない方がおかしいだろう。

 

 レミリアは必死に声の震えを抑えながら、咲夜へと問いかける。

 

 

「そ、それで……今はどういう状況なのかしら??私も起きたばかりだし……すぐ近くで宿儺の呪力が荒ぶってる事くらいしか分かんないんだけど???」

 

「お嬢様、動揺を必死にお隠しになる姿も……お可愛いです(スーパープリティー)!咲夜ちゃん…………きゅん♡宿儺様なら先程、美鈴が連れて来た“風見幽香”とマジバトルをしている最中ですよ」

 

「え……幽香が?……なんで我が家(ウチ)で?マジバトル……?勘弁してよ……」

 

 

 思わず弱音を溢し、小さく両肩を落とすレミリア・スカーレット。その後ろ姿は、幼女そのものでありながら――家庭内の問題に頭を抱えるおじさんのように草臥れていた。

 

 

「射命丸文。貴方は……いえ、その様子だと貴方もただ巻き込まれただけみたいね。私の予想だと“妖怪の山事変”の後始末について、宿儺と話し合いに来たら……いきなり幽香が乱入してきた、ってところかしら?」

 

 

 多少、推測の余地があったとはいえ……あまりにもドンピシャで状況を言い当てられたことで、文は思わず驚愕で目を見開く。

 だが、その驚愕は一瞬にして納得に変わり、そして最終的に警戒へと変化する。

 

(なるほど。これが『運命を操る程度の能力』ですか…………厄介ですね。未来だけでなく、過(・)去(・)も(・)あ(・)る(・)程(・)度(・)見通せるとは……これから紅魔館(ココ)へ取材に来る際、彼(・)女(・)の前でもボロが出るような言動は避けなくては。我々の“真の目的”について、悟られる訳にはいきませんからねぇ……)

 

 

 

「あやや!流石はレミリアさん!大当たりですよ!!真実を見抜くそ(・)の(・)優れた瞳……まさに紅魔館の主人を務めるのに、相応しいだけの素質をお持ちですね!」

 

 

 文は内心の警戒を隠しながら、とりあえずレミリアを褒める。

 しかし、その効果は覿面だったようで――自宅の損壊により陰っていた彼女の表情が、パッと明るくなる。また、相変わらず隣に立つ咲夜は無表情だったが――心なしかレミリアの機嫌に合わせて、纏っている雰囲気が軟化したように見えた。

 

 

「ふふん。貴方、良くわかってるじゃない♪まぁ、家が壊れちゃったのは仕方ないわ。後でパチュリーに直して貰えばいいし……うん!折角だから、宿儺と幽香の戦いを見に行くわよ!」

 

 

 元気になったレミリアに手を引かれ、そのまま戦地へと連れて行かれそうになった文は、慌ててレミリアに対して問いかける。

 

 

「え!み、見に行くって私もですか?!」

 

「??貴方、新聞記者なんでしょ?大きなスクープを見つけたら、その場に飛び込んでいくのが『記者』って生き物じゃなくって?…………それに、両面宿儺vs風見幽香のマジバトルなんて最ッ高に面白い瞬間…………間近で見なきゃ損ってもんよ!」

 

 

 絶妙に言い返しづらい正論をレミリアから喰らい、喉の奥で呻き声を上げながら――文は僅かに逡巡する。

 

(たしかに…………ここで帰るのは不自然ですね。かといって、また面倒ごとに巻き込まれるのは…………くぅぅぅ!)

 

 

 やがて…………レミリアに疑念を持たれるのは不味いという合理的判断と――どちらが勝つのか、実のところ文も気になっていたので――渋々といった表情を浮かべつつ、レミリアと共に戦地へ赴くことを決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ!やるじゃない!幽香の奴、こんなに強かったのね!下手するとウチのフランでさえ……体術だけで押し切られちゃうんじゃない?」

 

「お嬢様。流石にそれは無いかと…………何より我らが妹様は超絶カワイイので。あんな“お花畑おばさん”に負ける訳ないですよ。肌年齢が違います」

 

「うへぇ〜。宿儺様が本気で殴り合ってるの、初めて見ましたよ…………あんなパンチ、私らみたいな雑魚妖怪が食らったら一発でR-18コースのミンチですよ」

 

「あ、文さん?なんで私、目が覚めたら……宿儺様と風見幽香の戦いをこんな近くで見てるんですか?」

 

 

 いつの間にか合流してきた紅美鈴に加え、意識を取り戻した椛と共に――2匹の怪獣が織り成す圧巻の近接戦闘を鑑賞する。

 正直に言えば…………流れ弾がいつ飛んでくるのか気が気でないこの状況から、すぐにでも文は逃げ出したかった。が、ここまで来て引き返す訳にもいかないので、早鐘を打つ心臓に活を入れながら必死に耐える。

 

 チラリと横目で、紅魔館一同(戦闘狂イカレ一味)に恨み節を向けながら。

 

 

 

「で、この勝負……どっちが勝つと思う?」

 

 

 そう切り出したのは、怪しげな微笑みを浮かべたレミリア・スカーレットだった。

 恐らくはこの中で一番、2人の戦闘風景を純粋に楽しんでいた彼女は(もはや自宅の崩落など忘れたかのように)すっかりと切り替えて元気になっている。

 

 

「そうですね。私はあくまで宿儺様“単推し”なので…………すっくんの勝利に小悪魔の夕飯を賭けます」

 

「あら?咲夜もそうなのね?私も勿論、宿儺が勝つ方に賭けるわ。大切な友人であり、同盟者だからというのもあるけど…………あの“八雲紫”があれだけ警戒するんですもの。風見幽香が相手なら彼が勝つでしょうね」

 

 

 咲夜とレミリアの2人は、さも当然といった様子で宿儺の勝利を確信する。

 そんな彼女らの言い分に対し、椛と美鈴の2人が「ちょっと待ってほしい」と言わんばかりに、すぐさま異論を唱える。

 

 

「私は…………宿儺様には申し訳ありませんが、幽香さんに勝って欲しいと思います。幽香さんって、正直めちゃくちゃ怖いんですけど…………同じ妖怪として、また武を極めし先達として尊敬する部分もあるので」

 

「あ、私も風見幽香に勝って欲しいです。宿儺……様にはつい先日、仲間もろとも半殺しにされたので。少しくらい痛い目を見て貰わないと」

 

 

 レミリア・咲夜と美鈴・椛の間で、意見が真っ二つに割れる。

 となると、必然的に――――未だにどちらが勝つのか予想していない『文の意見』に注目が集まっていく。

 

 

「貴方はどっちが勝つと思うの?射命丸文」

 

 

 レミリアからの質問に、腹を括った文は――そこまで気乗りしないものの――注意深く2人の戦闘を観察する。

 純粋な殴り合いでは宿儺に分があるように見えるが……幽香は短距離の瞬間移動を繰り返し、先回りと回避のヒット&ウェイで翻弄していた。加えて、常に死角から放たれる数本のレーザーが、宿儺の身体に少なくない数の小さな傷跡を残している。

 

 一見すると、勝利の天秤は僅かに幽香の方へ傾いているように見えた。

 しかし、宿儺の表情に焦りは見られず、その一挙手一投足からも余裕が滲み出ている。

 

 

 

(……判断が難しいですね。はっきり言えば、あの2人のレベルが高過ぎて、私ごときでは測りきれませんし…………線の動きならまだしも、点の動きなら“スピード”でさえ私より格上ですし……これが絶対不可触(アンタッチャブル)の実力ですか)

 

 

 今の自分には答えの出しようがない難問。ゆえに、文は半(・)分(・)だ(・)け(・)正直に答える。

 

 

「あやや…………私にはどちらが勝つか分かりませんねぇ。公正・中立な新聞記者として、どちらか一方に寄る訳にもいきませんし……案外、引き分けに終わるんじゃないですか?」

 

「はぁ?何よそれ……つまんないの。こういうのはハッキリ決めた方が面白いのよ!…………でもまぁ、これで予想は綺麗に割れたわね」

 

 

 文の返答に少し不服そうにしたものの……すぐに気を取り直して、愉快そうに嗤うレミリア。

 その深紅の瞳を細めながら、紅魔館一同と天狗たちに視線を送り――さも意味ありげな表情で語り始める。

 

 

 

「どちらもありうる。それだけよ」

 

「……お嬢様。おバカなんですから、無理して難しいこと言おうとしないでください。見透かされますよ」

 

 

 余計な一言を口にした咲夜に、勢いよく飛び掛かっていく“永遠に幼き月”の後ろ姿を眺めつつ――――文は1人でひっそりと思考の海に落ちる。彼女が隠した『もう半分の本心』に思考を飛ばしながら。

 

 

(我々、天狗勢力にとって最も望(・)ま(・)れ(・)る(・)結(・)末(・)……それは『宿儺と幽香の相討ち』です。邪魔だった絶対不可触(アンタッチャブル)が2人とも消えれば、地上における妖怪の山“一強状態”が取り戻される。そうなれば、私の任務もお役御免・はたてを使った地底での裏工作も必要なくなります)

 

 

(存外、ここに残って一部始終を見届ける選択をしたのは……“正解”だったのかもしれませんね。この闘いの結末は、飯綱丸様への良い手土産(情報)になります。宿儺が死んでも、幽香が死んでも……我々にはメリットしかない。相討ちまで行かずとも、2人とも弱ればまさに最高(ベスト)!)

 

 

 ふと、彼女の肩が小さく震える。その瞳に浮かんだ感情は、歓喜・興奮・侮蔑・高慢……。

 文は自らの口元を袖で覆うようにして、込み上げてくる“嗤い”を必死になって押し殺す。まだだ……喜ぶのは“まだ早い”。

 

 

「ぬふふっ……私が昇進する日は、自分が思っていたより近いのかもしれませんねぇ……」

 

 

 幻想郷最速の新聞記者にして、最悪の傍(・)観(・)者(・)。彼女は自身の元に運が回り込んできた、と信じて疑わない。

 

 だが、誤算があったのは彼女だけではない。未だこ(・)の(・)場(・)に(・)居(・)る(・)者(・)の(・)多(・)く(・)が、両面宿儺と風見幽香の間に存在する『力の差』に気付いていない。

 その真相へ辿り着くのは、きっと――――

 

 

 

 






 短めなので、ちょい早めに更新。


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