アーチ門を潜り、レヴェリアと輝夜は腕を組んで歩く。
行き交う人々が誰もが立ち止まって2人に見惚れるが、気に留めない。
その2人から少し離れ、クロエとルノアがトランクを両手に持って続く。
「楽しいな」
「……仕事だぞ」
微笑みを浮かべて呟いたレヴェリアに、輝夜はジト目で伝える。
しかしながら、輝夜自身も心が弾んでいるのは否定できない。
その気持ちを隠すかのように彼女は目的地に目を向けた。
黄金色の外観をしている一際目立つ建物――『エルドラド・リゾート』は目前だった。
レヴェリア達は開け放たれている玄関を通り、巨大ホールに入った。
その時、偶々入口付近にいた客の1人がレヴェリアを見て目を見張る。
まさかここで彼女と会うことになるとは思ってもみなかったが、これはチャンスだった。
周りはまだ誰も気がついていないと判断するや否や、彼は声を掛けた。
「おお、レヴェリア様! お久しぶりです!」
「久しいな。息災のようで何よりだ」
レヴェリアは立ち止まり、にこやかな笑みを浮かべて答えた。
その声を聞いた他の客達が一斉に視線を向け、次々とレヴェリアの名を呼び、親しげな様子で集まってきた。
それを見てホールの中にいた客達も次々と入口へ向かい、挨拶の為に長蛇の列が作られた。
数十年前、レヴェリアがフレイヤと別々に行動をしていた時。
彼女は傷病人だけではなく、リラクゼーション目的で各国の王族や貴族、商人といった有力者達にリラクゼーション目的で治癒魔法を掛けてきた。
その時に築いた人脈をレヴェリアはオラリオに本拠を移した後も維持し続けており、相手方が代替わりをしている今でも健在だ。
『エルドラド・リゾート』側にとって、こんな事態は初めてであり従業員達は右往左往。
しかしながら客達の行動を制することも難しい。
何分、富豪ばかりである為に機嫌を損ねたらよろしくない。
ましてや彼等彼女等が挨拶しているのはレヴェリアであり、世界で一番機嫌を損ねてはいけない相手であった。
なお、レヴェリアの隣にいることから輝夜にも話題が向けられるが、余裕をもって受け答えしていた。
レヴェリアの要望通り一人称に『妾』を使い、極東貴族らしい高貴な喋り方だ。
その為、アストレア・ファミリアの【大和竜胆】だとは神々を除けば気がついていなかった。
一方、クロエとルノアはそんな輝夜の猫被りっぷりに感心していた。
よくもまああんなに上手くできるものだ、と。
「ミャー達にはできねぇニャ」
「確かに。アレは無理ね」
小声で会話をしながら、やり取りを見ていた。
やがて列が途切れたところを見計らい、支配人がレヴェリア達の前にやってきた。
彼は深々と頭を下げ、歓迎の意を示しつつ告げる。
「オーナーのグラッドがただいま取り込んでおりまして……しばしの間、ホールにてお楽しみください」
「ああ、そうさせてもらおう。それと、
レヴェリアはそう言って持ってきた金額を伝えつつ、クロエとルノアに視線を送れば、彼女達はそれぞれ頷いてトランクを4つ支配人の前に置いた。
「畏まりました。1枚100万ヴァリスの
「ああ、そうしてくれ」
支配人はそう告げて、従業員達に早速指示を出した。
その時、レヴェリアは何気なく尋ねる。
「ところで、賭け金に上限はあるか?」
「いいえ、ございません。お好きな額を賭けていただいて構いません」
「分かった。ではそうさせてもらおう」
そして、レヴェリア達が向かった先はルーレットだ。
その最中、レヴェリアと輝夜はそれぞれホール内を観察するが、オラリオの有力者――ギルド長や幹部、あるいは大手派閥の主神、眷族――はいないようであった。
レヴェリア達の動きは客達の注目の的であり、彼女達がゲームテーブルに辿り着くとたちまち周囲を囲まれた。
そんな彼女にレヴェリアは微笑みかけ、躊躇うことなく卓上シートの『1』に全てのチップをどんと置いた。
ざわ……ざわ……
ざわ……ざわ……
周囲の見物人達がざわめいている中、レヴェリアは平然としていた。
一方、賭け金に上限はないと伝えた支配人は目を剥いた。
てっきり1ゲーム毎に100万か200万を賭けてプレイすると思っていたのだ。
普通ならばそうするが、あいにくとレヴェリアは普通ではなかった。
こんな金額を賭けるのならば
隣にいる輝夜はぎょっとしてレヴェリアの横顔を見つめている中、2人の背後にいるクロエとルノアは「あーぁ、可哀想に」という顔である。
サングラスのせいで見えないが。
レヴェリアの発展アビリティには【幸運】がある。
その存在をクロエとルノアは知っているわけではないが、レヴェリアがモンスターを倒すと雑魚だろうが階層主だろうが確実にドロップアイテムが出てくることはよく知っていた。
2人共――特にクロエ――ダンジョン篭もりの度に大儲けさせてもらっているからだ。
進行役の女性もこんな賭け方をしてくるとは思ってもみなかった為、支配人にチラリと視線を送れば頷いてみせた。
それを確認して、彼女は職務を遂行する。
他に賭ける者は誰もおらず一騎打ちだ。
そして、運命のルーレットが廻り出した。
当たれば配当は36倍。
負ければゼロ。
誰もが固唾を呑んで見守る中、ハイリスク・ハイリターンの賭けは――
「……嘘」
進行役の女性が呟いた声が大きく聞こえた。
ルーレットのボールは『1』のポケットに収まっていた。
「ふむ、勝ったな」
眉一つ動かさず、興奮すらもなくただ告げたレヴェリアに進行役も見物人達――神々も含む――も寒気を覚えた。
4億ヴァリスの36倍――144億ヴァリス。
莫大な金が手元に転がり込んだにも関わらず、まるで少額の
そこで輝夜がジト目で告げる。
「レヴェリア、少しは喜べ。144億だぞ」
「まだ始まったばかりさ。次は負けるかもしれん」
え、まだやる気なの?
レヴェリアの言葉を聞いた瞬間、誰もがそう思った。
輝夜は溜息を吐き、肩を竦めてみせるが――止めはしなかった。
「良いか?」
レヴェリアからの問いかけに、進行役は躊躇したが頷いてみせる。
このまま勝負を降りられたら店側にとって大損だ。
そして、レヴェリアは告げた。
「同じところに全額だ」
その言葉にどよめきが起きた。
ルーレットで連続して同じ数字が当たる確率は極めて低い。
それも1点賭けとなれば尚更だ。
「始めますっ……!」
これで負けた分は取り返せそうだ、と進行役が確信しつつ、ルーレットを回し――
「……おいおい、嘘だろ」
誰かの呟きが響いた。
ボールは再び『1』のポケットに収まっていた。
「さて、144億ヴァリスの36倍で5184億ヴァリスか。私は5000兆ヴァリス欲しいから、それまでは頑張らせてもらおう」
にこやかな笑みを浮かべて告げたレヴェリアに対して、進行役も見物人達も頬が引き攣った。
144億ヴァリスの払い戻しでもすぐには無理であることは客であっても分かる。
ましてや5184億ヴァリスなど払い戻し自体が不可能だ。
大国の国家予算とかそういうレベルである。
そんなバカみたいな金額であるのに、レヴェリアはまだ続けるつもりだ。
「次も同じところに全額を賭けよう。安心してくれ。3連続で当たるなど馬が針の穴を通るようなものだ」
実質的に不可能だと言っているレヴェリア。
進行役は周囲を見回して支配人の姿を探すと、彼は困惑しながらも頷いてみせた。
レヴェリアが言う通りルーレットで3連続同じ数字が出ることは天文学的確率だ。
さすがに次は外れるだろう、と支配人は考えた。
だが、不可能を可能にするのがレヴェリアである。
「そんな、バカな……」
それは支配人の口から出た言葉であったが、この場にいる全員の気持ちを代弁したものだった。
またもや的中。
5184億ヴァリスは36倍に膨れ上がった。
「これで18兆6624億ヴァリスか。次も同じところだ。4連続など当たるわけがない……そう思わないか?」
「そ、そうですね……」
問いかけられて、進行役は引き攣った笑みを浮かべつつ支配人に視線を向ける。
すると、彼は力なく頷いてみせる。
もう満足するまでやってもらい、払い戻しが不可能であることを伝えるしかないという諦めの境地であった。
そこで輝夜は先程から気になっていたことを尋ねる。
「ところでレヴェリア、どうして同じところに賭けるんだ?」
「大量のチップを動かすのが面倒くさいからな」
「……それだけ、か?」
「それ以外に理由が必要か?」
まさかの答えに思わず輝夜は更に問いかけたが、レヴェリアは首を傾げて問い返した。
輝夜は溜息を吐いて、しみじみと告げる。
「お前は本当にたわけだなぁ……」
人前であるにも関わらず、輝夜はレヴェリアの頬を摘んで引っ張ってみせる。
フレイヤのことをたわけたわけと呼んでいるレヴェリアだが、彼女本人も相当なたわけである。
まったくコイツは……私がしっかりしないと駄目だ。
輝夜は改めて心に決めた。
2人の様子を見て「てぇてぇ」「イイ……」と呟いたりした神々が拝みだしたが、そのような中でも再びルーレットは廻り出す。
それからもレヴェリアは同じところに全額を賭けて、的中させていく。
1ゲーム毎に36倍ずつ増えていき――あっという間に目標としていた5000兆ヴァリスを突破して、87京712兆9344億ヴァリスとなったところでレヴェリアはおもむろに告げた。
「さて、支配人。払い戻しを頼む。合計87京712兆9344億ヴァリスだが、5000兆ヴァリスでいいぞ」
レヴェリアの言葉を聞いて、神々が騒ぎ出す。
「スゴイ安く思える」
「コレが数字のマジック」
「87京ヴァリスを放棄して、5000兆ヴァリスでいいなんて……謙虚だなー、憧れちゃうなー」
「5000兆ヴァリス欲しいを実現するヤツがいるなんて……」
「これはさすレヴェ……?」
「とりあえずさすレヴェだろ」
「俺も5000兆ヴァリス欲しい!」
神々が好き放題言っている中、支配人はレヴェリアに向かって深々と頭を下げた。
現時点で払い戻せる最高金額で納得してもらうしかないが、幸いにもそれによって店の評判が落ちることもない。
ここまで金額の桁が大きくなってしまえば、払い戻しが不可能であることは誰の目にも明らかであった。
「申し訳ありません、レヴェリア様。払い戻しは不可能です。現時点で当店において払い戻せる金額でご納得していただけないでしょうか?」
「ふむ……まあ、それならば仕方がない。そうしてくれ」
「では金額を確認してきますので、少々お待ちください」
「ああ、ちょっと待ってくれ」
「何か……?」
離れようとする支配人を引き止めて、レヴェリアは告げた。
「今日この場にいる全ての客と従業員達、そして警備の者達の飲食代は私が払おう。払い戻し金から差っ引いておいてくれ」
場末の酒場で客と従業員に奢るのとはわけが違う。
だが、これはレヴェリアの配慮であった。
飲食代という名目で店側の裁量で払い戻しの金額を抑制することが可能となる為だ。
支配人はレヴェリアの考えを察し、深々と頭を下げて感謝を述べてその場を離れた。
そこで輝夜が問いかける。
「おい、レヴェリア。今の発言は本当か?」
「本当だとも。皆、今日は存分に飲み食いしてくれ。私の奢りだ」
再び宣言をしたことで、周囲の見物人達――特に神々は歓声を上げた。
富豪達ですらレヴェリアの気風の良さを称賛しつつ、遠慮なく高価な酒を注文していく。
そこから5分もしないうちに支配人は戻ってきて、払い戻しの金額を伝えた。
レヴェリア達だけでなく見物人達もいくらになるのか、注目する中で伝えられた金額は――120億ヴァリス。
これでも今晩分の飲食代プラスアルファを差っ引いた額である。
もっと抑えることも可能ではあったが、あまりにも低い金額であると客にそっぽを向かれる可能性があった。
故に『エルドラド・リゾート』はケチだという印象がつくのを回避するべく、ようやく手の空いたグラッドに伺いを立てて最大限の金額を出していた。
複数のトランクに詰められて大型台車で運ばれてきた払い戻し金を受け取った後、レヴェリアは進行役である兎人の女性に微笑んだ。
「まず、相手をしてくれた君にお礼がしたい。最高だった」
そう伝えてレヴェリアが袋はあるかどうか尋ねれば、女性はゲームテーブルの下から出して渡した。
カジノで進行役に感謝のしるしとしてチップを渡すことは珍しいものではない。
その為、ゲームテーブルの下には専用の袋が常備してあった。
トランクを開けて袋に金貨を詰めていくレヴェリアを見て、進行役の女性は目を見張った。
「よ、よろしいのですか? その、チップとしてもらうには多すぎる金額ですが……」
「勿論さ。こうしてこの場で出会ったのも何かの縁だからな」
そう答えてウィンクしてみたレヴェリアに、進行役の女性は感謝しつつ受け取った。
レヴェリアが渡した金額は1000万ヴァリス。
こんなにも多くのチップを受け取ったのは当然ながら初めてであった。
そのやり取りを見た輝夜は軽く溜息を吐いて、レヴェリアの脇腹を摘んで抓った。
「妾がいる前で、他の女に鼻の下を伸ばすとは……」
「伸ばしてないが?」
「どうだか分かりませぬ。そなたは色多き方ゆえ」
そんな話をしていた時、声を掛けられた。
「レヴェリアさーん。あんまりお店をイジメちゃ駄目ですよー」
レヴェリアと輝夜が振り返れば、そこには燕尾服姿のヘルンと――にっこにこの笑顔でイブニングドレスを纏ったシルがいた。
レヴェリアは動じることなく、何食わぬ顔で尋ねる。
「2人共、どうしてここに?」
「レヴェリアさんが、まーーーーったくカジノに誘ってくれなかったので、ヘルンさんに頼んで連れてきてもらいました」
にこにこ、にこにこ。
シルは笑顔を崩していないが、しかしその圧力は半端ではない。
「シルちゃんこっわ……」
「アレはシルちゃんじゃない。シル『様』だ」
「良質町娘じゃない……今の彼女は魔女系街娘だ……」
神々は恐れ慄くが、レヴェリアからすればこういうシルもまた可愛いものである。
ぎゅっと抱きしめて、頭を撫でくりまわしたくなるが流石に自重する。
「で、レヴェリアさん。私を差し置いて、極東貴族妾系大和撫子とどうしてここに?」
「諸事情があってな」
「諸事情って何ですかー?」
「諸事情は諸事情だ」
「むー」
レヴェリアの言葉にシルはぷっくりと頬を膨らませてみせた。
輝夜は我関せずという顔をしつつも、レヴェリアと腕を組む力を強めてみせる。
その仕草には
やだこの子、可愛いじゃない――
そんな事を思いつつ、シルは更にアレコレ言うが、対するレヴェリアは平然とした態度でそれに答えていく。
グラッドに買われたアンナを助ける為――とはおくびにも出さない。
一方、ヘルンは至福の一時であった。
シル=フレイヤであることを知っている彼女は真面目な表情で――溢れ出る思いにより、若干崩れそうになっているものの――2人のやり取りを見ていた。
特に目を向けているのはレヴェリアだ。ガン見と言っても過言ではない。
燕尾服姿の彼女はいつもとは違う色香を纏っている。
今のレヴェリアにやってもらいたいことを、ヘルンは既に100個程思いついていた。
そのどれもが不敬過ぎて絶対に言えないことであったが。
それはさておき、傍目からはシルが怒っているようにしか見えないが、実のところ違った。
レヴェリアが誘ってくれなかったことで拗ねているのは確かだが、その目的が遊ぶことではないのも知っている。
人助けを邪魔するつもりは欠片もなく、その場面をフレイヤは見たいと思ったが、それはそれとして悪戯心が湧き出たのだ。
シルとバッタリ出会ったレヴェリアがあたふたするのを見たい!
ババーンと効果音がつきそうな勢いでフレイヤからヘルンは言われたものの、その企みは潰えた。
シルが何を言おうともレヴェリアはあたふたせず、平然としていた為に。
やがて会話が途切れたところで、ウズウズしていたクロエが遂に我慢できずに切り出した。
「レヴェリア様、そろそろ遊んできていいニャ?」
「もう少しだけ待て」
「えー、早く遊びたいニャー」
「全て終わった後、カジノの軍資金とは別で小遣いを渡そうかな、と思っていたんだが……」
「何でも仰ってくださいませ、レヴェリア様」
レヴェリアの言葉を聞いて、すかさず姿勢を正して立派な従者として振る舞い始めたクロエ。
その姿を見てシルはくすりと笑い、ヘルンとルノアが呆れた顔となったところで声が響く。
「おお! レヴェリア様!」
その声にレヴェリア達が視線を向ければ、ドワーフが満面の笑みを浮かべて歩いてきた。
太い手足と低い背、蓄えられた髭――典型的なドワーフだ。
「お会いできて光栄です! 私はオーナーのグラッド・ザルヴォーネと申します! 今宵はお越し頂き、誠にありがとうございます!」
「こちらこそ。改めて、レヴェリア・スヴァルタ・アールヴだ」
名乗り返したレヴェリアに対して、グラッドは申し訳なさそうな顔をして告げる。
「すぐにご挨拶に赴けず、誠に申し訳ない……」
「いや、構わないとも。どうか頭を上げてほしい」
深く頭を下げた彼に対して、レヴェリアはそう答えれば彼は頭を上げて笑みを浮かべてみせる。
「レヴェリア様、
そう言って苦笑してみせるグラッド。
対するレヴェリアは尋ねる。
「連れも一緒に良いか?」
「勿論でございます」
「それならば行くとしよう」
「ありがとうございます」
グラッドはそう答えて、頭を再び下げた。
さすがはレヴェリア様、あちらは任せても良さそうですね――
一連のやり取りを離れたところから見ていたリューはそう確信した。
そこへ作戦のことなど知らないベルがおずおずと声を掛ける。
「リューさん、また当たっちゃいました……」
「……ベル、あなたもレヴェリア様と同じですか……」
何とも言えぬ微妙な表情をリューは浮かべた。
どうにもベルはレヴェリアと同じく幸運に恵まれている。
ダンジョンに2人で潜った時にもやたらとドロップアイテムが出るな、と感じていたが、まさかカジノでも発揮されるとは思いもよらなかった。
しかし、リューは堅実なエルフである。
パーッと使ってもらったり、あるいはもっと大きく賭けてもっと儲けてもらおうとは思わなかった。
「今の儲けは?」
「3000万くらいです」
2人からすれば日帰りダンジョン探索で稼げる程度の額であるが、大金であることに間違いはない。
グラッドが貴賓室に誘ってもおかしくない額であったが、幸いにもレヴェリアと輝夜の方に完全に目が向いており、気づかれていなかった。
「もうやめておきましょう。貯金をオススメします」
「そうします」
彼女の提案にベルは素直に頷いてみせた。
だが、ここで誤魔化し下手エルフであるリュー・リオンにとって試練が訪れた。
「ところで、レヴェリアさん達は……?」
「問題ありません」
それは答えになってないんじゃないか、と周囲で偶然聞いてしまった客達は思ったが、リューはいけると踏んだ。
ベルは素直である為に。
「えっと、そうなんですか? 貴賓室は治外法権で、行くと食い物にされるってモルドさん達が……」
「何も問題ありません。何かあっても、レヴェリア様達ならば自力でどうにかしますので」
それもそうだ、とベルも納得して頷いた。
シルは非戦闘員であるが、彼女を守りながらでも深層を問題なく踏破して帰ってこれるような面子である。
そう考えた彼であったが、リューの方はもう一つ――治外法権の場であっても問題がないと考えていた。
中で何が起ころうが口を挟むどころか、知ることすらできない――
そのような場で
「……分かっていないのだろうな」
「リューさん?」
思わず言葉が漏れたリューに、ベルは首を傾げてみせる。
「何でもありません」
リューはベルにそう答えたのだった。
21日から古戦場なので更新遅れます。