新生-ヤマト隊 【その涙、度し難し。それでも仲間であるが故】 作:カヴァス2001世
03
アイスブルーを基調とする見慣れた艦内通路を幾人かとすれ違いながら進む。シンは妙な居心地の悪さを感じていた。パイロット、整備士用の区画とは明らかに異なる雰囲気を持った空間である様にも感じられたし、心なしかすれ違う者達から訝しげに見られているようにも感じられる、その上級士官用の区画に艦長室はあった。ミネルバの遺伝子を継いで建造された最新鋭戦闘艦ミレニアムの艦長、アレクセイ・コノエ。飄々として見え、しかしその裏には深い洞察を併せ持つ。シンの様な若造とも言える士官のことなどは全て見透していて、しかしそれをひけらかして見せる様なこともない。格上の大人を感じさせるアレクセイが、シンは苦手だった。
――ガキだガキだってアグネスにも、ここ最近はルナマリアにも言われてたっけ
アグネスの処遇について交渉し、できるだけ便宜を引き出す。アレクセイを相手に立ち回るのであれば、彼に子供の理屈だと一蹴されてしまうような幼稚さは見せられない。心を入れ替え挑むしかない。そう、例えば――レイ・ザ・バレル。レイはいつも整然とした態度で自らの主張を展開していた。自分が無茶を主張するときにはいつも隣にレイがいてシンの不足を補っていたし、シンはいつもそれに助けられていた。シンには自身がレイと同じようにできるとはとても思えなかった、がそうも言ってはいられない。虚勢でも、例え虚勢であると一目で見抜いてくる傑物が相手だったとしても。
覚悟を胸に進む通路の先に、品を損なわない程度に装飾が施された部屋が見え、
――ここだ
端末を操作し呼び出しボタンに指を掛ける。無機質な呼び出し音の後に、スピーカーから男が応えた。
「誰か」
「ヤマト隊、アスカ大尉であります。自分とホーク中尉が捕縛した捕虜の扱いについて――」
そこで一度切る。アレクセイであれば、恐らくこれだけでシンの要件の全容を大凡掴んでしまうだろう。はっきり言って面倒事に違いなかった。戦闘配置が終了して既に数時間程経過しているが、本来このタイミングで艦長の手が空いているということはないのが通例だ。だからもしここでにべなく追い返されるようなら一度出直すのもやむなしと、シンは考えていた。
――いいさ、無礼は承知で突っ込んできたんだ。こっちが本気だって相手に教えてやる。この一回で駄目でも、また突っ込めばいい
しかし、シンの予想とは裏腹にスピーカーからは入室を許可する旨が返り、エアを放出する音と共に扉が開いた。
「え?」
「どうした、入り給え大尉」
思わずこぼれた驚きの声と間抜な顔を、部屋の中から三人視線が見据える。一人はシンの予想通り、アレクセイのものであり、残り二人は、
「ラミアス艦長と、お、フラガ大佐?」
「おい、今おっさんって言おうとしたろお前」
「い、いえ」
常とは違い畏まった態度で否定して見せたシンに、ムウ――ムウ・ラ・フラガが訝しげなに眉を上げた。その様子を尻目に、マリュー――マリュー・ラミアスが疲れを感じさせながら、
「アスカ大尉? どうしたのかしら?」
しまった、と思った。自身がこの場の空気に飲まれ掛かっているのをシンは感じる。常であれば意識しない、大人の領域。艦長二人に歴戦の大佐が揃って何かを話していた場面に出くわした。そこは部屋の扉を叩く前に覚悟していたそれより、遥かに重たい空気を纏うフィールド。
――出直すべきか?
いや、そんなことはできない。日和っていると思われれば、そこまでだ。後はもう何を言っても聞いてもらえないことは目に見えている。シンは染み付いた所作に則って入室した。三人はそれが見えているにも関わらずシンを除いて会話を始めた。
「よかったのですか? ラミアス艦長。こちらの件について、少なくとも方針位は定めなくてはと思いますが」
「そうは言っても、こちらとしても上のスタンスが定まらないと如何ともし難いでしょう? 二人はもうオーブに向かっていると言うし」
二人?オーブ?何の話だ?
「あいつらの事はともかく、アスハ代表は続けるつもりなんだろう?」
「でもプラントとのパイプは途切れてしまうわ」
「プラントのクライン派は力を蓄える一方だった。多少波が立ったとて、議会で早々と手を引くという結論が出ることはないでしょうな。クーデーターの件もあります、暫くは」
「評議会の議論が紛糾すれば、それだけ時間も掛かってしまうでしょうね 補給だけでもプラント側に都合をつけてもらって、私達も一旦はオーブへ向かうのが妥当でしょうか」
「それはどうですかな? どちらにしても議会の動きは目に見えています。本艦はプラントの船でありますし、クルーも大半はザフトからの出向だ」
「補給に寄ったら最後、足止めを食らって動けなくなる、か」
「仮に補給をせずに地球へ向かったとして、船の方は保つのですか?」
「航行に支障はありません。些か無理をさせることにはなりましょうが」
それはシンには入る余地のない、コンパスの行動戦略についての会話であった。割って入るのはむしろ、愚策と言える。シンは握る拳に力込めて、ぐっと堪える他なかった。
それにしても、何故この内容を自分に聞かせるのか、シンには検討がつかなかった。キラ相手であればともかく、シンは所詮一介のパイロットに過ぎない。
「では、強行軍となりますがこのまま地球、オーブへ?」
「それがよいでしょう」
「良いのかよ。俺たちとは違ってこの船とクルーについて状況が違うぜ?」
「経緯はともかく、本艦がコンパスに未だ所属している事は変わりますまい? で、あれば。一政府の思惑で残された戦力の大半を明け渡す様な真似は出来かねますな」
アレクセイの言葉にムウとマリューの表情が幾分和らいだ事で、三人がこの話について一旦の認識を一致させたことが分かった。地球、オーブへ。シンはアグネスの事で一杯一杯で気づかなかった、今この船は政治的に微妙な立場に置かれている。そこで、つい数時間前に格納庫でヴィーノが口にした言葉が蘇った。フリーダム、キラとラクスはこの船には戻らなかった――
「総裁は――」
この一言が口を突いて出たことに、シン自身驚いていた。それに、ムウから応えがあったことに更に驚く。ムウはアレクセイとマリューに一度視線を寄越すと、こちらを向いて言う。
「ああ。まだ全体には知らせていないが、総裁とキラはこの船には戻らない。当分な」
シンにとって、これはチャンスに思えた。いつまでも壁の飾りをやっている訳にはいかない。
「何故です? フリーダムだって被弾していた。戻って整備に掛けなきゃ」
「戻れないでしょうが。アコードだって、全世界に暴露されちまったんだぜ?
総裁は」
「アコードだって言ったって、総裁は総裁でしょう。別に、今まであの人がやってきたことが否定される訳じゃない」
そこまで言うと、ムウは笑みを浮かべながら肩をすくめ、
「世界中の人々がお前みたいに考える訳じゃないのさ。皮肉なことに、ナチュラルも、コーディネーターも、皆な。人の思考を読んで、場合によっては洗脳さえ可能にする。俺たちはその脅威をよく理解している筈だぜ?」
その通りであった。確かにキラはアコードの洗脳を受け、そして。
「な? 世間様は今ナチュラルとコーディネーター、そこに新たに加わったアコードっていう第三者の存在にてんやわんやなのさ。人種間対立が激化した果に何が起きるのか、説明する必要はないだろ?」
「じゃ、総裁は」
「情勢がどうなるか次第だ。ただ、暫くは身を隠すとよ」
そこまで言ってムウはシンの方へと向かって来る。そのままおもむろにシンの首に腕を回すとアレクセイとマリューに背を向け二人に聞こえないように小声で話し始めた。
「お前、ぶっちゃけアグネスの件、どうしたいんだよ」
ムウが目を細めながら、シンをじっと見やる。シンを試す様な瞳のその意図は読み取れない。だが、この男を前に駆け引きをする必要はないとシンは感じた。
――コイツに、どう思われたって構いやしない。例え愚かだと思われたしても。この男には
「減刑、を。色々微妙だとは分かっていますが、逆に今なら有耶無耶にできる余地だって」
「なんでだよ? あいつはキラとルナマリアを討とうしたんだぜ?」
「ルナは許そうとしています。隊長は、わかりませんけど。でも、そんなことにはもうなりません。そのときは、俺が」
「そうじゃなくて、お前は許せるのかよ。自分の女を殺そうとした奴を、大事なんだろうが、あの娘が。お前にとって――」
最後に、少し考えて。
「――許します」
ムウに、大戦の初期から生き抜いてきた歴戦の兵士に向かい合う。一瞬、その顔に仮面を付けた連邦軍人が重なる。そして、澱むような様なその幻視を振り払った。
「馬鹿なんですよあいつは。自分勝手でどうしようもないけど、でも、極刑とか、懲役十年とかって償わなければならない程、邪悪な奴じゃない」
そうか、と言ってムウはほんの数瞬瞳を閉じる。そして再びシンを見ると、
「なら、今は下がれシン」
「え?」
「これはヤマト隊の事だ、お前さんの意思を尊重するぜ、俺はな。でもやり方が良くない。ルナマリアの嬢ちゃんを少しは見習えよ、お前は。いきなり本丸に突撃なんて死兵だぜ? そりゃ」
シンはその物言いに多少の引っ掛かりを覚えた。ヤマト隊の事だ、とはどのような意味なのか。しかし、その疑問を意図して頭から追い出す。今は。
「ルナ?」
「そうだ。ルナマリアの奴はまず俺のところに来たぜ? 目ざといよなぁ。階級的には上位だし、アークエンジェル組は隊規を破ってきた側だからな。言い方は悪いが、賊軍だった時期がチラホラある。俺を攻略したら、次はマリューって算段だったんだろうな、ありゃ」
ルナマリアは既にシンのいない所で動き始めていた。しかもシンが早々諦めた根回しから始める周到さで。そのやりようにルナマリアの本気を悟る。
「いいか、シン。本気でどうにかするつもりなら、周りを巻き込め。正直今回の件ではアグネスに同情する余地がない。心情的にはとっととプラントへ送り返してそっちで裁判にかけてどうぞ、だ。んで、プラントにだって面子はある。多国籍軍みたいになってるコンパスでやらかした奴に、温い対応なんてできやしない」
「じゃ、どうしろってんです?」
「通すしかねーよな、道理を」
「道理?」
「あとはルナマリアに聞きな。そっから先はお前さん達次第だ。今この場で下手にこの話題触れてみろ? コノエ艦長も、マリューだって。なるようにしかならないって言って終わりだぜ。その意味、わかるよな?」
それはつまり、折を見てのプラント後送。今のコンパスは厄介事をいつまでも艦内で抱え込める状態ではない。この船がオーブに着いたら、アグネスは返す刀でシャトルに乗せられるだろう。そうしてプラントに戻る。受け取り拒否、苦情文付だ。
「わかったか?」
「はい」
シンは退くしかなかった。むしろ、ここで考えなしに何かを言う方がまずいと理解する。背後から、ムウ?とマリューが呼びかけた。ここまでだった。
「悪い、ちょっと話し込んじまった」
「いいけど、わざわざこの部屋の中で堂々と密談というのはいただけないわよ?」
「よせよ」
ちら、とムウが視線を寄越す。シンはその意味を理解すると、
「コノエ艦長、ラミアス艦長も、今はお二人とも手が空かないご様子ですので自分は一旦下がります」
アレクセイが口を開いた。
「おや、いいのかい? 短く済む話であれば構わないよ」
短く済ませてしまうのだろう。さっぱりと。それは本位ではなかった。
「いえ、出直します」
「そうか。では――」
アレクセイは微笑み浮かべると、
「地球に降りる前までには来たまえ。待っているよ」
その笑みに短く敬礼を返し、シンは退出した。後ろで扉が閉まるのを確認すると、どっと気が抜ける。
シンに対してお前達次第だとムウは言った。つまり、基本的には傍観の姿勢なのだろうと思える。マリューについても同じことが言えるかもしれない。プラントが寄越してきた軍人が粗相を働いた。コンパスとしては迷惑している。ごたついているから、面倒はそっちで処理してくれという話。政治的後ろ盾がぐらついている今のコンパスで、プラント籍の人間を裁くのは余計なリスクを生むだけ。
そういう話であればマリューやムウを筆頭にするオーブ籍の人間はこの件については不干渉がベースであることは想像に難くない。コンパスの中でもプラント側に位置する者たちで解決してくれた方がアヤを残さずに済む。つまり、シンにとって結果的にではあるが最初の目論見通りであったということになる。アレクセイ・コノエさえ、納得させればいい。
シンは新たに気を取り直すと壁面の端末からルナマリアのIDを照会した。味方は多ければ多いほどいい。それにしても。
――死兵か。これは、ルナにバカって言われるのかなぁ
言われるだろうなと、シンは思った。
04
艦長室を出て途中でパイロットスーツから隊服に着替えたシンは、ルナマリアの元へ向かった。食堂で見つけたルナマリアにちょっといいか、と声を掛ければ彼女はそれがアグネスに関する話であると察した様で、手早く食事を片付ける。そのままルナマリアを連れて自室へと向かう。そこでアグネスと別れた後のことを簡潔に説明した。
「あんたバカ?」
「コノエ艦長さえ説得できればって、そればっかり考えてた」
「あの人がそう簡単に隊規を曲げる訳無いでしょう」
「はい」
シンは自身が勇み足を踏んだことを認めざるを得なかった。まだどこかで当たって行けばなんとかなるだろうという甘えがあったのだと自覚し、考えを改めてる。
突然、ルナマリアに両の頬を包まれたかと想うと、ぐい、と顔を引き寄せられた。ベッドの上で並んで座り、息が掛かる距離で見つめ合う。視線の先には、訝しげにシンを観察するルナマリアの表情が映った。
「な、なに?」
「あんた、アグネスに絆されたの?」
「え?」
「あの部屋に入ってきたときは凄い剣幕だったじゃない。それが、話終わったらいきなりアグネスの減刑だ!って。おかしくない?」
そこまで聞いて、シンは漸くルナマリアの意図を察した。彼女から向けられる視線は既にはっきりと疑いに変わっている。
「ち、違うって! そんなんじゃない!」
「私、暫く部屋の外で待ってたのよ? でも一時間してもシンは出てこなかった」
「色々話してたりとか、途中、待ってやったりとかもしたしさ」
「待つって?」
「アグネスが落ち着くのをだよ」
「なにそれ。よくわかんない」
「どうしたんだよ、ルナ?」
「あの娘が泣いてたから同情したんでしょ?」
それは、と言ってシンはかぶりを振った。
「同情したっていうか呆れたっていうか。それでも、同じ隊の仲間だったんだから」
不安気なルナマリアの顔が近づき、唇が一度優しく触れた。間も無く、今度は貪る様な口付けとなって、シンは性急に求められる。いつの間にか背に回されていた手が、掻き抱くように身体を滑った。
シンは湧き上がる熱に任せて細い身体を抱き寄せ応えた。唾液を交換しながら女の身をベッドに横たえ、もどかしくまごつく指で必死に月の聖母の衣を剥ぐ。上着を暴けばその下からは戦いの後の生の色香が溢れ出て、目眩で視界が揺れれば、切なく求める視線と交わる。乞う様に口付けを下腹に落とすと、女も腰を浮かせてそれに応えた。
ルナマリアの身体に止まりようもなく狂う最中に、その表情に安堵と喜悦が見えたから。シンは掻き抱いて、激しい熱を与えた続けた。
だるい身体を何とか押して、シンは浴室で行為の跡を流した。鏡に映る首元の紅い痕に温かい喜びを覚えると、手早く身体を拭いて浴室を出る。先に汗を流していたルナマリアはベッドに横たわってシン見ていた。
「シン」
シンの名を呼んで伸ばしてきた手を取り、シンも彼女の隣に寝転んで向かいあった。熱が行き場を求めてルナマリアの頬に触れる。
「不安にさせちゃったなら、ごめん」
「いいのよ。私が考えすぎていただけ」
「それでも、ごめん」
ルナマリアは目を細めて、頬を撫でるシンの手に自らのそれを重ねた。滑り込む様に指を絡める。
「私、アカデミーでね。当時付き合ってた人に浮気されたのよ。相手は、アグネスだった」
「え?」
初めて聞く話だった。
「別に、もうその事を気にはしていないの。ザフトに入った後はミネルバで、ほら。それどころじゃなかったし。気づいたら忘れてた」
「そう、だったんだ……」
「シンはさ、そんなことしないって思ってるけど。なんか、頭ぐちゃぐちゃになっちゃって」
「本当、ごめん」
「いいって! シンがやってること、仲間思いでしょ?」
まあ、うん、と言って答えた。シンの中ではもうアグネスを許そうと決めている。仲間を討とうとしたことは忘れないが、これから変わってくれるならなんとかしてやりたいと思う。
「ルナは、どうしてアグネスのこと助けようとするんだ? あいつと直接戦ったわけだし、その、過去にも遺恨はあるんだろ?」
「それは――」
ルナマリアは見つめ合っていた視線を外し、伏し目がちに言った。
「それは、最初はちょっと、多分嫌な理由だった。女同士の、何ていうか」
ごめん、言いたくない、とルナマリアは言う。そっか、とシンも返した。
「今は……」
「うん」
「今はね、少し昔を思い出すの。アカデミー生だった頃のこと。私もアグネスと同じだった」
「言わなくたっていいよ」
「ううん、聞いて。私も人を立場とか外見とか、ステータスで見てた。その頃のことは思い出すと恥ずかしくて死にたくなるけど、でも、悪い思い出ばっかりだった訳じゃない。アグネスとは友達だった。楽しいこともあった」
「ルナが変われたっていうなら、アグネスも変われるさ、きっと」
「そうだね」
身体を擦り寄せてくるルナマリアを、優しく包んだ。穏やかな体温の交換に心が休まっていく。二人何かを話して決めるなら、今がいいとシンは思った。
「ルナ。おっさんがルナから色々聞けって。正面からコノエ艦長に向かっていっても駄目みたいだいし、正直後はどうすればいいのかって」
「そうね。色々言われたけど――そもそも一佐官の独断では今回の件を無かったことには出来ないだろうって」
「つまり?」
「フラガ大佐の進言一つでアグネスを放免することはできない。それはラミアス艦長でも、コノエ艦長でも同じ」
「そうなのか?」
「監査が入るもの。戦闘記録、通信記録、洗い出されればアグネスの造反は明らか。後からバレればアグネスも、もみ消した人にもより重い懲罰が課される」
「でも、一々軍事法廷で有罪無罪とかやらないだろ。艦長職の人間はある程度の独自裁量を持つ筈だ。コノエ艦長なら」
「普段であればね。でも今この船はすごく政治的に不安定なのよ。フラガ大佐も言っていたでしょう」
「ああ」
艦長室で聞き知った内容を思い返す。後ろ盾を失いつつあり、しかもアコードであるラクスが総裁を努めていたコンパスは、世界の注目の的だ。その戦力の強大さも、先の戦いで存分に世界に示した。示してしまった。
「たかがアグネス一人でも、独断の身内贔屓でルールを軽んじれば、コンパスという組織の隙になってしまう」
「じゃやっぱり、プラントに送り返すのか」
「コノエ艦長はそうしようとしているのよ」
「でも――」
そうなれば、待っているのは恥晒しのザフトレッドに対する激しい糾弾だ。
「だから、ルールに則って勝負するのよ。どこに出してもいい結果としてアグネスを処分する」
「それって……」
「――略式の、軍事裁判よ」
「裁判?」
「そう。私がアグネスを隊規違反で訴える」
その後にルナマリアが語った話はシンの想像を超えていた。だが確かに、この策なら可能性はあるとシンは確信する。そして、光明が見えた中ルナマリアからどうしても必要な条件と言われた最後の要素。
キラと話す為に、シンは艦内のアスランのもとへ向かった。