今年はまだポケットティッシュが多めに欲しくなる。ちょっと暖かくて、青空に飛行機雲がよく目立つ今日、高校二年生になった。
去年の今頃は月ノ森に入学してMorfonicaでライブしてって何もかもが新しいことだけだった。けど今年は後輩もできて、先輩って言われるようになった。変わることが多くて大変なんだけど、変わらないことも一つ。そう、お兄ちゃんだ。
「お兄ちゃん、おはよう」
「ん、おはようましろ」
学校に行く前、決まってある人と挨拶を交わす。私より少し年上で、近くの大学に通うお兄ちゃん。本当のお兄ちゃんじゃなくて、家が近くて昔からずっと一緒に遊んでたお兄ちゃん。どちらかと言えば幼馴染みっていえばいいのかな。とにかく、お兄ちゃんはお兄ちゃん。変わらないっていうのは私の扱いのこと。こう見えても私は見た目も結構自信あるし、昔からお兄ちゃんのことは好きだし。なのにお兄ちゃんは私のことを妹としか見てくれない。
「今日も天気いいみたいだな。折りたたみ傘もいらない、かな」
今日だってそうだ。せっかく桜の香りのするシャンプーに変えて、後ろ髪は毛先の方を少しアイロンで跳ねさせて、とにかくいつもとは少しでも違った雰囲気にしてみた。
もちろんお兄ちゃんは気づかない。漫画でたまに見る鈍感系、天然系の主人公とはまた違って、私をいつまでも妹としか見てくれないから気づかない。本当にたちが悪いし、こんなお兄ちゃんを好きになっちゃった自分もどうかしてると思う。
「そうだね。ところでお兄ちゃん」
「なにかあった」
「今日の私はちょっと違うところがあります。そこはどこでしょうか」
だから私から聞いてみた。いくら私を妹としか見てないお兄ちゃんといえど、なにか変わっていると言われれば見つけてくれるはず。ていうか、見つけてくれないと少し落ち込んじゃう。
「……」
「分からないならヒントです。今日は髪が少し違うと思いませんか」
数分経っても考え込むからヒントを出してあげた。ヒントって言うか、もうほぼ答え。これで分からないなんてことはない、はず。お願い気づいてお兄ちゃん。
「ん~……あ、わかった」
その言葉に一喜一憂した私。だけどその期待は一瞬で裏切られた。
お兄ちゃんはおもむろにポーチから折りたたみの櫛を取り出して、私の頭の後ろの辺り、ちょうど跳ねさせた辺りを梳かしてくれた。
「お兄ちゃん……?」
「寝癖、直し忘れちゃったんでしょ。櫛はいつでも持ってるからよかったよ」
「……お兄ちゃんのバカ」
やっぱり分かってくれない。鈍感天然通り越して無関心だよ。私だって華の女子高校生なんだし……ピーマンは食べられないけど。
「答えはシャンプーを変えたこと、櫛で直してくれたところをヘアアイロンで跳ねさせたことでした」
「まじ……?」
「本当だよ。まったく」
溜息しか出てこない。いったいお兄ちゃんは私をなんだと思っているのか。妹と言えば確かに妹なんだろうけど、小学生、いや幼稚園生ぐらいとでも思っているのだろうか。お兄ちゃんも悪いけど、寝癖と間違うぐらい下手だった私も悪い。いややっぱりお兄ちゃんが悪いよ。
「ごめんごめん。ましろはなにもしなくても可愛いからさ。特に制服着てるとなおさらね」
「ふーん、そうなんだ」
「今度一緒に出かけるとき、ましろが気にいったカフェ連れていくから許して」
そんなことしなくても私は怒ってないよお兄ちゃん。可愛いって言ってくれるのはうれしいし、ちゃんと私が気に入ったお店のことを覚えてくれてるのもうれしい。
でもね、乙女心っていうのはもっと複雑なモノなんだよ。恋愛、特に高校生は難しい時期なんだから。月ノ森は女子校だったからいいけど、普通校だったらライバルも多くなっちゃうかもよ。
心の中で呟いてもお兄ちゃんには届かない。だからお兄ちゃんが気づいてくれるまで何度でも挑戦するからね。夏でも秋でも冬でも、次の春でもずっとしつづけるから、めんどくさい妹の我儘にちゃんと気づいてください。
気づかないオリ主お兄ちゃんもたち悪いけど、気づいて欲しいアピールがあまりにも細かすぎてめんどくさい倉田。あざといんじゃなくて厚かましいし、ただただめんどくさい