私は春が嫌いだ。春って言うのは出会いの季節だったり、別れの季節だったり。とにかく目の前で全てが変わっていく。服装も、人の流れも、なにもかも。三角初華としての私の全ても変わっていく。変わるから、変わらなければならないから春が嫌いだ。
sumimiとしての三角初華は年柄年中ずっと変わることがない。変わることが嫌いな私だけど、こっちの私は変わって欲しかったりする。
学校がない休日、嫌いな私になって楽屋に入る。プロデューサーとメイクさんと、ちょっと苦手なマナちゃんに挨拶。ここまでもいつもと変わらない。
メイクしてもらって、二人で今日のスケジュールを確認することにした。今からインタビューを受けて、休憩を挟んで雑誌の撮影。あとはお昼休憩を挟んでレッスン。目に留まった雑誌の編集者さんが苦手なのを二人で笑い合った。本当に笑えているのかは知らないけど。
インタビューも高校生と芸能人の二足の草鞋がとか、お互いのこととか、耳にたこができるほど聞いたものばかり。ちょっと違うなって思ったのは春と言えばなんですかって質問。私は桜って答えて、マナちゃんは桜餅って即答してた。すぐ食べ物のことを口にするあたりマナちゃんらしいというかなんというか、後になって私にも同意を求めてくる。私はそう言うマナちゃんが苦手。
適当に相槌を打ってその場しのぎ。今度は雑誌の撮影に来た。まずはsumimiの衣装のままで何枚か撮影。次は編集者さんチョイスの服を着る。春物のフリルスカートと袖付きのボウタイブラウス。もし私に彼氏が出来たらって想像しながら着替えてたから、今日はいつもよりほんの少し楽しかった。
終わって休憩。室内カフェの端、窓際に席を取った。昼食は珈琲と栄養ゼリー。栄養は足りるし、手早く食べれる。そして何より誰かと一緒に食べなくて済むから一人の時間が増える。
食べ終わって机に突っ伏した。午前中の疲れがどっと体にのしかかってくる。重い首を少し横にずらし、不意に目に入ったスマホを手に取る。頭の中ではめんどくさいと考えているはずなのに、いつの間にか彼女との個人チャットを開いていた。
「祥ちゃん、疲れちゃった」
豊川祥子。私の一番大切で大好きな人。画面越しだと言うのに、目線には彼女の姿が見えてくる。
『どうしたんですの初華。こんな時間に連絡してくるなんて珍しいじゃないですか』
「ごめんね。ちょっと疲れちゃって」
断りを入れてから話を始める。sumimiとしての活動を初めてから頻度こそ少ないけど、定期的にに連絡をとっていた。今回も彼女の方は変わりないようで、少し羨ましくなった。
「今日いっぱい着替えて……あ、ごめん。また私の話ばかりだよね」
気分が限りなくマイナス方面に向いている時、無意識に自分のことばかり話してしまう。彼女はそんな私が好きだと言ってくれるけど、私は彼女の話が聞きたいから合わない。でもまぁ、彼女が求める私になれるのなら、悪くない。
『どれもあなたらしくていいと思いますわよ』
「いつも通りの私でもいい、のかな」
なにも知らない彼女からのメッセージを横目に、溜息交えてぼやいてみる。
曇った硝子に映る私の顔はどこか笑っているように見えた。