個性終末論の傍で存在した、異質な個性持ちによって引き起こされる事件をまとめた物である



時系列なんてものはない
続かない

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プロローグ

1

 

 帰路に就く。

 

 見慣れた校門までの道には、桜の装飾や立て看板が施されている。

 

 道の脇には、涙を浮かべながら抱きしめ合う者らや、ヒーローコスチュームを着て未来に進まんと奮起する人々がいる。

 

 その青春の中を、着慣れたブレザーに手を突っ込みながらノソノソと歩く人間が唯一人、私。

 

 今日は雄英高校の卒業式、そして私は、不本意ながらも3年間を独りでこの高校で過ごしてきた卒業生である。

 

 

 

 そもそも私は、雄英高校に入学するつもりなど毛頭なかった。

 

 実際入学時に求められる学力からして中学三年生の時の私の身の程に合っておらず、また私の個性ではヒーロー科、サポート科のいずれに合格することも難しかったし、普通科に入学しても大した人生は送れなかったであろう。経営科に関してはその辺少し異なるが...そもそも目指してなかったと言う点では同じである。

 

 では何故入学試験を受けたのかと言うと、単なる思い出作りである。

 

 皆様にも似た経験があるかもしれないが、私の家は雄英高校からそう遠くなく、幼い頃から何度も体育祭や文化祭に参加してきたため、自分も将来は雄英高校に通うものなのだろうなぁと自然と考えていたのだ。

 

 さすがに中学生にもなればその非現実味が身に染みて理解できていたが、それでも惹かれるものがあって、記念に普通科の入学試験に申し込んでいた。

 

 結果は不合格。

 

 負け戦といえど思うところはあったが、しかし全国の学生の上澄みに負けたとあれば仕方ない。

 

 他に受けた高校は軒並み合格していたし、その中から適当に選んで入学すればそれなりの学生生活が送れるだろう。

 

 何せ私は幸運なのだから...

 

 その時は、そんな感じのことを考えていた。

 

 

 そして一週間後、諸事情による入学辞退者が発生したことにより繰り上げ入学が決定したのである。

 

_____

 

「卒業おめでとう、神戸 楽(ごうど らく)さん」

 

 雄英高校から10分ほど歩いたところにある住宅地の狭い路地に差し掛かったところで、後方から時差付きのお祝いの言葉が舞い降りてきた。

 

 振り返ると、視界一面に赤や白を基調とする薔薇、百合で構成された綺麗なお花畑が広がっている...ように見えたが、実際は目の前に花束が突きつけられているだけだった。

 

「おっと危ない。

驚かせようとは思ってたけど、危うく目に入るところだったね」

 

 わざとらしいセリフを吐きながらそう言ってくる男は、掴みどころがなくヘラヘラとしていて、背中には個性と思わしき赤茶色の羽で構成された翼が生えていた。

 音もなく現れたのは、あの翼が原因だろう。

 

「No.3の...ホークスさんですか?」

 

「そ、俺がNo.3のホークスさん」

 

 私のさん付けを真似返しつつ花束をこちらに掲げてくるので、それを受け取る。

 こんな綺麗な花束を送られたせいか、戸惑いながらもどこか照れ臭い感情が湧き上がってきた。

 

「ありがとうございます、あの、何かご用ですか?」

 

「んー、まぁそんなところかな」

 

「もしかしてナンパですか?」

 

「違うよ、でも他に人がいないところに行きたい」

 

「もっとダメな気がするんですけど」

 

 私がそう言って自分の身を抱く素振りを見せると、ホークスはヤハハと一笑いした後に頭をポリポリ掻きながら小声でこう言った。

 

「君の個性についての話なんだけどね」

 

 どうしてトップヒーローのホークスが私の個性のことを把握しているのかについては気になったが、心当たりがないわけではなかった。

 そして、人耳がない場所でその話をしようとする配慮についても、例え職務的理由であったとしても有り難かった。

 

「...私の家で構わなければ」

 

「決まりだね」

 

 ホークスが指を弾いてそう言ったのを見て、私は家の方向に歩み始めた。

 彼は私に足並みを揃えて、やれ雄英生活はどうだっただの、ランチラッシュの学食を外部の人間が食べることはできるのかだの、たわいのないことを話しかけてくる。

 かくして私は、雄英高校在学3年間で最初で最後の、雑談をしながら家に帰るという貴重な時間を過ごしたのであった。

 

2

 

 私、神戸楽の個性は『幸運』である。

 

 サイコロでどの目が出るのか当てることができる。

 同じ目を連続で出すことができる。

 狙った目を狙い通りの順番で出すことができる。

 じゃんけんですら決して負けることはない...負けるほうが都合が良ければ話は別だが。

 

 『幸運』の名前を冠してはいるが、簡単に分けて幸運、普通、不運の状態のどれかに一時的に固定することもできる。しかしあまり意味はなく、気づけば幸運に戻っているためデフォルトは幸運なのだろう。

 

 high、lowはあれど、on、offはない。

 

 その程度の個性で、それしかできない個性である。

 

「私の個性はそんな感じのもので...私を捕まえにきたんですか?」

 

 座布団に正座した私に対し、机を挟んで反対側にいるホークスは何も言わなかった。無言は肯定、ということでいいのだろか。

 

「どの件ですかね。

繰り上げ入学の件ですか?

ああ、スクラッチでお小遣いを稼いだこともありましたけど...あれは個性犯罪だったのかもしれませんね。

それとも...親を殺した件でしょうか」

 

 火立の蝋燭に火をつけ、3本まとめた線香に火を灯し、手で仰いでから香炉に挿すことを二度繰り返す。

 咎多き人間の息で線香の火を吹き消すということが失礼に当たると言うのなら、罪深き私の息もまた吹きかけるには失礼なのだろう。

 

 一人暮らしの部屋に仏壇なんて仰々しいものを置く気にはなれなかったが、しかし自分を産み落としてくれた両親に対し何もしないと言うのも気が引けて、勝手に準備して勝手に習慣としていることだった。

 

「生憎、親の件に関しては私の個性が関係しているのか覚えてないんです。

私の『幸運』は基本幸運ですが、幼い頃は不安定な精神状態で不運に振り切れてしまうこともあったので...。

お爺ちゃんお婆ちゃんはそんなことないって言ってくれるんですけど、でも私としてはそう考えざるを得ないことはわかってもらえますか?

難産の中、私は幸運にも母体を犠牲にし生還し、そして幼児の不安定な精神状態が作用し不運にも父親は心肺停止してしまったなんて...

 ああ、今一人暮らししてるのは私が雄英入学を期にそれを希望したからで、別に祖父祖母との関係が微妙になったことが原因であるというわけではないですよ?」

 

 自分の個性のせいでまた家族を殺してしまうのではないかということについて、考えが及ばなかったと言うわけではなかった。というか本心ではそれ故の一人暮らしだ。

 

 私が手を合わせて礼をすると、ホークスは私と同じように礼をした。見た目とは裏腹に律儀な人だと思った。

 

「スクラッチに関しては...ごめんなさい。

本来は個性実験も兼ねてのことだったんですけど、お小遣いについて考えた瞬間に個性が私の金欲に影響されてしまったようで」

 

「それに関してはいいよ。

ていうか知らなかったし、君の両親のことも」

 

 ホークスは両手ブンブン振りながらそう否定する。

 

 

 初対面の人相手にする話にしては暗すぎる話題だっただろうか、少しやり辛そうだ。

 あまり人と話さないせいか、本来は関係ない自分の悩みも吐露してしまうし、そこら辺の線引きは相変わらず苦手だ。

 

 私は再度線香を準備し、手を合わせた。

 

「あとは繰り上げ入学のこと、きっとホークスさんが私の個性を知ったのもこの件だと思います」

 

「そう、そのことについて聞きたかった」

 

 手を合わせながら、あの日考えていたことの続きを思い出す。

 

 

 何せ私は幸運なのだから。

 

 でも本当に幸運であるのなら、雄英高校の入学試験程度易々と突破できるんだろうな。

 

 もしかしたらこの後、何か特別なことが起きたりして...

 

 運良く入学辞退者でも発生して、私に席が回ってくるんじゃないかな。

 

 何せ私は『幸運』なのだから。

 

 

「諸事情により入学を辞退された方...彼が普通科の合格発表の直前に車に轢かれて亡くなった件について、ほぼ確実に私の個性が影響していると考えられます。

私は不合格通知が届いたその日、入学辞退者でも出ないかと考えたことを今でも覚えてます」

 

 ホークスは線香を挿すこともなく、ただ私の目を見つめていた。

 

「私の個性にhigh、lowはあってもon、offはありません。

その性質故か、私は身の回りで起きたことについて個性が関与しているかどうか、何となくわかるんです。

 

繰り上げ入学が決定したという連絡が来る直前、私は今にも何かが起きるということを確信してました。

そしてその出来事に関する全てが、何から何まで私の『幸運』によって引き起こされた出来事であるということも、そのきっかけが私のちょっとした考えであったということも」

 

 その時から、私は両親の死の原因を自分に見出す癖が抜けなくなってしまったのだ。

 

3

 

 ホークスはしばらく考え込んでから、こんな話を始めた。

 

「例えば炎の個性を使って暴れるヴィランがいたとするじゃん?

 その場合、そのヴィランの鎮圧には大抵炎に対し有効打を持つヒーローが派遣される...オールマイトとかみたいな例外は除いて考えてね?

 電気関連の個性を持つヴィランには電気対策を、巨大化の個性を持つヴィランには巨大化対策を、なるべく相性の良いヒーローが対応すると言うのが現在のヴィラン犯罪における定石なんだよね」

 

 確かにそうだろう。素人の私にも、その方が合理的であると言うことは何となく理解がつく。炎を操る個性のヴィランなんて、水を操る個性のヒーローがいればかなり楽に相手をすることができるだろう。

 

 

「もちろん、常に相性が良いヒーローが存在するわけじゃないけど、今はヒーロー飽和社会。

 個性で街を破壊して暴れたり、物を盗んでは逃げ回る程度のヴィランであれば、そこら辺のヒーローでも対処できるんだよ。

 そのはずだったんだけどね...最近、それらの枠に収まらないタイプのヴィラン犯罪が増えてきた」

 

 その言い回しに、私は先ほど話した自分自身のエピソードを思い出す。

 

「ああ、君の『幸運』によって引き起こされた事と似た、どこか異質な性質を持つ個性による犯罪だ。

 

噂を媒介に他人に害を及ぼす個性。

[自分]と言う情報の伝搬を防ぐ個性。

絵に書かかれた状況を何らかの形で実現させる個性。

 

それ以外にも、いずれもこれまでの個性と呼ばれる物達と明らかに一線を画す性質を持っていて、かつ相性の良い個性というものが滅多に存在しない個性たちでさ。

 

何人か捕まえることはできてるんだけど、情けないことに気付いたら簡易収容所から脱獄されてる例も少なくないんだよねぇ。

 

ヒーロー側でそういった異様な個性に対し現状対抗しうるのは、サー・ナイトアイの『予知』やイレイザーヘッドの『抹消』程度しかない」

 

 雄英で見かけた、不審者のような相貌が頭に浮かぶ。

 そういえば、去年は見かけることが少なかった気がした。

 

「今はサーが主導してそういったヴィランの拿捕に向かってるんだよね。

でも彼の個性のインターバルの特性上、今後増えていくであろうこの特殊個性ヴィラン達に対応し切れるとは思えない。

 

イレイザーも結局は本体を目視し続けなきゃ意味がない個性だし、彼の個性は常に入り用だからそれだけに感けてられない。

 

かといって、今から対応できる個性を持つヒーローを育成するにしても時間がかかりすぎる。

 

そこで、俺は日本中のヒーロー、ヒーロー科のなかからそれらに対抗しうる存在を探し回ったんだ。

そしてたまたま見つけたのが君ってわけ。

 

[『幸運』の個性を違法行使し、他人を蹴落として入学をもぎ取った普通科の生徒]

 

として校内で噂になっていた神戸楽さん」

 

「つまり、ホークスさんが今日訪ねてきたのは...」

 

「そ、勧誘だよ。

まだ正式名称は決まってないけど...特殊個性犯罪対策チームの実働部隊へのね。

といっても、君はヒーローじゃないけど...どうかな」

 

4

 

 突然の話に頭が混乱しつつも何とか話をまとめようと整理していると、ホークスは机に肘をつき顎を支えながら机を指で数回トントンと叩いて話を続けた。

 

「勧誘、という言い方は語弊を生むかもしれないな。

仮に協力が得られなかった場合、上はどうにかして君を殺人罪で立件するだろうね。

そして一生豚箱に閉じ込め続けるか、司法取引でもして正々堂々こき使うだろうさ」

 

「...それほどまでに『幸運』のような個性は貴重なんですか?」

 

「うん、無茶苦茶貴重だね。

君みたいな異質な個性っていうのは、大抵干渉能力が異常なほどに特定の領域に特化しているんだよ。

例えばさっき教えた『噂を媒介に他人に害を及ぼす個性』で起きた事件の中には、すでに存在している無関係な噂を利用して、その噂を知るものを記憶喪失にさせたという例もある。

君は不合格通知を受け取った日、そこまで繰り上げ入学について深く考えていたわけじゃないだろ?」

 

「はい」

 

その通りだ。

むしろ気分を紛らわせるための軽い冗談のつもりで、それがまさか現実に起こるなんてことは思いもしなかった。

 

「もしかしたら気分を悪くするかもしれないが、その程度の願望で自分より上の成績の人間一人を死に追いやるなんて個性はまさに、一線を画す個性だよ。

 

どうやって対象を判別した?

なぜ君の個性は彼を死なせようと判断した?

どうやって車に轢かせた?

確実に殺せたのは偶然?

君の個性がそこまで作用したという証拠は?」

 

「...何もありません」

 

 ホークスの口調からわずかに滲み出る気迫に押され、返答の声が小さくなる。

 

「ああ、ごめんね。

 

責めてるわけじゃなくて、客観的には何もわからないってことを言いたいんだ。

 

人を呪ったら死んだからと言って、そいつを犯罪者にすることは誰にもできない...不能犯って一度は聞いたことないかな?

 

しかし、君は確かに自分の個性が全てを引き起こしたと言っている。

 

そして、君と同じように呪いの如き個性を持つ人の中に、君とは違って明確な意思の元に犯罪を起こしているヴィランが確かにいる。

 

そんなやつらには、文字通り呪いの如き個性を駆使して対処すればいい」

 

 呪いは呪いで祓えばいい。

 

 そういうことを言いたいのだろう。

 

「ちなみに呪いって例えの言い出しっぺは僕ね?」

 

 そう言って鼻を高くする笑顔の彼を見て、私はひとつ気になることができた。

 

「聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」

 

「何かな?」

 

「あの、私の個性が特殊個性犯罪に有用かもしれないって件、イレイザーヘッドも把握してるんですよね。

なら卒業式の後にイレイザーヘッドが私を呼び止めて雄英で勧誘すれば済む話なのに、何故わざわざホークスさんが帰り道の途中の私に話しかけてきたんですか?」

 

 私はその原因に半ば確信を持ちながらも、過程が気になったので聞いてみた。

 

「ああ、それは簡単なことだよ。

本来は俺とイレイザー二人で勧誘する予定だったんだけど、イレイザーは幸せなことに担当クラスの生徒からお祝いパーティーに誘われちゃってね。

俺がイレイザーにそっちに参加するように言ったわけ。

校内じゃなくて帰り道で話しかけたのは、あんまり目立たないようにするのと、花を買いに行ってたからかな」

 

 そういえば、花に驚かされたのを思い出した。

 

 にしても、イレイザーは幸せなことだ。

 担当するクラスの生徒がパーティを主宰するだなんて、そこまで慕われるほどに良い教師だったのだろう。

 その思いやあり方だけは『幸運』によるものではないことを祈りながら、私は勧誘に対する答えを口にした。

 

「特殊個性犯罪対策チーム実働部隊への勧誘の件ですが...精一杯頑張るのでよろしくお願いします」

 

 最もそれは、こうして正式にホークス勧誘されてる時点で問題ないだろうと判断した、身勝手な幸運者の考えであるのだが、それを知る者も又、幸運にも私一人しかいないのだった。

 




ごうど らく=good luck

せめて事件ひとつ分くらいは書きたかったが、飽きたので放流します。

ホークス便利ですね。

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