一般モンスターです、通してください。   作:おっぱいは正義

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お昼寝日和でほのぼのです。


十頁目

 

 

 ◇月ω日

 

 ヘスティア・ファミリア入団翌日。

 今日は早朝から仕事をした。主要な戦闘要員であるベル君、ヴェルフ、命ちゃんの3人に特訓を施したのである。

 

 

 現在のヘスティア・ファミリアは借金返済とファミリア存続のためにもお金を欲している。

 

 お金を稼ぐには迷宮探索が一番!そして、迷宮でよりたくさんお金を稼ぐためには戦力強化が急務なのだ。下へ行けば行くほどお金になる物が取得出来るし、高報酬の依頼もこなせるからね。

 

 ぶっちゃけ、私が下層や深層に行けばもっと効率的に稼げるんだけど、それはやらないし、基本的には迷宮探索にも着いていかない。

 

 理由はいくつかある。

 

 まず、私が稼ぐことに関しては普通に断られた。別に驚かなかったよ。彼らにもプライドというものがあるだけだ。同じファミリアとはいえ、厳密には雇われの立場にある私におんぶに抱っこは我慢ならなかったわけである。

 なんかヒモっぽくて嫌なんだって。ヘスティア様はとても苦い顔をしてた。

 それにほら、ファミリア皆で苦労を分かち合うのも冒険者の醍醐味だから。同じ苦難を味わう中で、絆も深まって連携もどんどんうまくなる。その貴重な機会を私が奪ってしまうのはもったいないからね。

 

 次に、迷宮探索に着いて行かない理由。

 まず、今の彼らに適した階層……つまりは中層なんだけど、そこでは私のやることがない。ベル君がレベル3になり、命ちゃんが加わった今なら中層でも余裕でやっていける。サポーターはリリちゃんだけで十分だしね。

 もちろん、実戦で指摘する点も出てくるだろうけど、毎回着いていく必要はない。

 

 ……あと、これはベル君から頼まれたんだけどね。私には出来るだけ拠点に留まっていてほしいんだって。

 私も後から知ったことなんだけど、ヘスティア・ファミリアの以前の拠点はアポロン・ファミリアの襲撃によって崩壊してしまったそうなのだ。これが戦争遊戯(ウォーゲーム)に至った要因のひとつらしい。

 で、当時のヘスティア・ファミリアはベル君しか戦力がおらず、知り合いの助けを借りて辛うじて逃げることは出来たものの、拠点を守ることは出来なかった。

 

 ベル君的には拠点も重要だけど、それ以上にヘスティア様に万が一が起きることが怖いらしい。これからベル君達がもっと腕を上げて、深い階層まで潜れるようになったとする。すると、当然ながら迷宮内にいる時間も長くなって、数日帰って来れないなんてことが当たり前になってくる。

 その間、ヘスティア様は地上に一人。協力してくれる知り合いも多いとはいえ、もしもの時を考えると誰か戦える人が拠点にいるのが望ましいとのこと。

 

 拠点防衛なら任せろー!

 怪しいやつは片っ端からぶっ飛ばすわよ!

 

 

 まぁ、私も用事があるから毎日館にいるわけにもいかないんだけどね。その辺はベル君とも相談して、とりあえず地上にさえいれば何か異変があってもすぐに駆け付けられるから、基本的に外出に制限はない。迷宮探索だって事前に申告しておけば特に問題なし。

 

 そういうわけで、今朝の特訓を終え、元気にダンジョンへ向かったベル君達とバイトへ向かったヘスティア様を見送った後。私は豊穣の女主人へ向けて歩き出した。

 ミアさんに謝罪し、ついでにリオンに就職したことを報告するためである。まず間違いなく怒られるだろうけど、私には秘策がある。

 

 土下座……言わずもがな、心からの謝罪の意を表す、日本人なら誰しもが知っている究極の謝罪方法である。心の広そうなミアさんならきっとこれで許してくれるはずだ!

 

 

 

 

 

 だめでした。

 

 なにがいけなかったんだろう。私の土下座は完璧だったはずなのに。

 

 炎のアクロバティックエクストリーム土下座……ジャンプからの空中4回転、花びらのように舞い散る火の粉、そして土下座からのスムーズな土下寝への移行。これが通用しないなんて、さすがは元フレイヤ・ファミリア団長というべきか。

 

 ミアさんに拳骨喰らったあげく、今後しばらくは豊穣の女主人で食事する際は割高で、尚且つ週に一回以上はご飯を食べに来ないといけない。

 笑顔でキレてるシルさんからの追加の指示で、可能な限りベル君達も連れて来なければならなくなった。す、すみませんでした……。

 

 

 リオンは超寂しそうにしてた。

 

 昨日は怒髪天を衝く勢いでブチキレてたらしいんだけど、今朝になったら一周回って悲しみが上回ってしまったらしい。「何がいけなかったのでしょうか……」とションボリしていた。そ、そんなに落ち込むと思わなかった。ごめんね。

 

 

 その後は18階層へ荷物を取りに行き、帰りはベル君達と合流して地上へ戻った。彼らの戦いぶりも見ることが出来たし、明日からは本格的な特訓が出来そうだ。

 

 

 

 

 

 ◇月★日(1ページ目)

 

 今日は大変な一日だった。

 ベル君達の特訓は問題なかったんだけど、その後がね……何もかも闇派閥(イヴィルス)が悪いよ闇派閥(イヴィルス)が。

 

 

 うん、まずは特訓の方から書いていこうか。

 

 昨日の迷宮探索ぶりを見たけど、中層なら今のままで問題ないと判断した。下層へ行くことになったら教えることもあるだろうけど、今はとりあえず様子見でヨシ!

 

 次、戦闘の特訓も順調。サポーターのリリちゃんも含め、全員優秀と言っていいだろう。

 

 特に、タケミカヅチ・ファミリアから移籍して来たというヤマト・命ちゃん。命ちゃんは『武神』タケミカヅチ様に鍛えられたことと、本人の才能も相まって技量だけなら格上にも通じる。ぶっちゃけ教えることがあんまりない。

 

 次に、鍛冶師のヴェルフ・クロッゾ。ヴェルフは戦える鍛冶師を目指しているだけあって、大剣の扱いは中々優れている。命ちゃんほどの才能はないけど、順調に成長すればレベル3には行けるだろう。

 あと、声と性格が凄く『兄貴』って感じ。間違って団長って呼んじゃったよ。

 

 リリちゃんはサポーターとしての立ち回りはかなり慣れている。ただ、本人的にはもうちょっと戦闘の支援を出来るようになりたいそうなので、いくつか使える小道具を渡して作り方や使用方法の指南をした。

 ちょっとした爆弾とかね。威力は抑えめだけど、うまく使えば下層のモンスターにも通じるだろう。器用なリリちゃんならきっと使いこなせるはずだ。

 

 

 で、最後にベル君。

 

 彼は成長スピード……ステイタスの伸びが異常に高くて、主人公属性を持っているのか、試練が次々舞い込むからランクアップも超早い。三か月未満でレベル3にランクアップとかかなりぶっ飛んでるからね。

 

 普通、冒険者がレベルを上げるには早くても数ヶ月から数年はかかる。おまけに才能がないとレベル3以上には行けない。実際、オラリオにいる冒険者の大半はレベル1~2だ。

 才能のある者だけがレベル3、レベル4へ。その中でもさらに才能があり、偉業を成し遂げる実力を持ち、幸運に恵まれた者がレベル5の第一級冒険者になれる。それ以上の連中は才能オバケだ。

 

 知識や経験、咄嗟の判断力と言ったものが不足しているのが気になるけど、これらは場数を踏むことでしか養えないから仕方ない。

 幸い、ベル君は素直で教えたことはすんなり吸収してくれるし、強くなることへの意欲はとても高い。鍛えれば鍛えた分だけガンガン伸びるから、経験不足な点はステイタスの暴力で補えばよいのだ!

 

 やはり暴力!暴力は全てを解決する!

 

 

 というわけで、今日は素手での格闘術を教えたよ。

 

「素手、ですか?僕は基本的にナイフしか使いませんけど」

 

 甘い!

 戦いの基本は格闘だ!武器や装備に頼ってはいけない。

 

 いつだって手元に武器があるわけじゃないからね。「武器がないから戦えません」ではお話にならない。素手でもモンスター相手に戦う術は必要なのだ。

 ……一流の冒険者たる者、お腹に穴が空こうと、腕が千切れようと、目を焼かれて失明しようと、最後の最後まで足掻いて足掻いて足掻きまくるのだ。生きるために。

 

「生きるために……」

 

 もちろん足掻いてもどうしようもない時はあるけどね。強敵に打ち勝つために、過酷な迷宮で生き残るために、仲間を守るため、自分の身を守るため……その可能性を僅かでも上げる努力を怠ってはならない。

 

 『備えあれば嬉しいな』……古事記にもそう書いてある。

 

「備えあれば嬉しいな、か……わかりました!よろしくお願いします!」

 

 いくぞベル君!目指せレベル99だ!

 

 

 

 

 

 ◇月★日(2ページ目)

 

 そんで次。次が問題だったんだよ。

 単刀直入に言うとね。今日は闇派閥(イヴィルス)のアジトにカチコミをしてきたわけです。

 

 

 どうしてそうなったのかというと、昨日の昼頃、18階層へ行く前にロキ・ファミリアへ挨拶に行ったのが全ての始まりだった。

 

 速攻でロキ様に捕まり、セクハラを回避しつつ、質問攻めに対してだんまりを決め込むことでスルーしていた私に、勇者(ブレイバー)から話があった。

 

 内容を簡潔に書くと、ロキ・ファミリアがダイダロス通りの地下水路で闇派閥(イヴィルス)のアジトっぽいところを見つけたので、そこにカチコミをしたい。戦力的に不安はないけど、万が一の保険が欲しいなぁ。お前暇だろ?来いよ、って話だった。

 

 即了承したよ。闇派閥(イヴィルス)は潰せる時に潰しておかないとね。たとえるなら、あいつらは人間に対して積極的に飛びついたり攻撃を仕掛けてくる、台所に出る漆黒のGみたいなものなのだ。見かけ次第ぶっ飛ばすべし。直感さんも、「そーだそーだ!闇派閥(イヴィルス)なんてぶっ潰せ!」と言ってます。今回の直感さんはなんかガラの悪い感じだったね。

 

 そんで、昨日と同じくベル君達やヘスティア様を送り出した私は、全身バッチリ変装して謎の美少女傭兵として彼らに加わったのだ。

 なお、変装のための服装は命ちゃんの服を参考にした。クノイチっていいよね。口元を隠すマスクは怪しげな露天商で買ったもので、表面には『闇・殺』の字が刻まれてある。

 

 

 ドーモ、イヴィルススレイヤーです。闇派閥(イヴィルス)殺すべし!

 得意なジツはカトン・ジツ。カラテの流派はアマゾネス・カラテです。

 

 

 ……ロキ・ファミリアの皆には声でバレたけどね。この変装はロキ・ファミリア以外にバレないためのものだから別にいいけど。

 

 

 そして、意気揚々とアジトに踏み込んだ私達だったけど、敵の罠にはまって各個分断される大ピンチに陥ってしまった。まさか落とし穴なんて古典的な罠にやられるとは……この紅の正花(スカーレット・ハーネル)の目をもってしても読めなかった!!

 

 私は部隊を率いていたガレスのおじ様、剣姫ちゃん、凸凹アマゾネス姉妹とは見事に違う場所に落とされた。落ちた先で眼鏡っ娘のヒーラーちゃんなどの数名の団員と合流出来たものの、彼らのほとんどはレベル3。

 そこら中の通路からやってくる闇派閥(イヴィルス)の構成員やモンスターを相手にするには戦力的に非常に頼りなかった。

 あのー、すぐ自爆するのやめてもらっていいですか?闇派閥(イヴィルス)は害悪プレイしか出来んのか!

 

 しかも、このアジトは異常なまでに頑丈だった。

 

 通路の材質は超硬金属(アダマンタイト)。物理的な破壊は出来なくもないけど、のんびり壊している時間がない。そして扉にいたっては最硬金属(オリハルコン)だ。最硬金属(オリハルコン)不壊属性(デュランダル)の武器にも使われる程クソ硬い。迷宮そのものをぶち壊しての近道は不可能となってしまった。

 

 その後しばらくの間は、全員が大なり小なり負傷しながらもどうにか出口を目指していたのだが……その途中で敵の幹部から不意打ちを受けてしまった。

 

 殺帝(アラクニア)……ヴァレッタ・グレーデという女で、闇派閥(イヴィルス)の幹部にしてレベル5の実力者だ。

 

 狙われたのはレベル2の眼鏡っ娘ちゃん。どうにか割って入ってカウンターの正拳突き!片腕粉砕してあばら骨を数本折って返り討ちにすることは出来たんだけど、結局逃げられちゃった。

 追いかけて仕留めたかったけど、皆を置いていくわけにはいかないし……私が受けたダメージも問題だった。

 

 殺帝(アラクニア)が使った短剣は呪いの込められた武器。いわゆる呪道具(カースウェポン)って奴だろう。傷が治らないので恐らく不治の呪いが込められている。割って入ったせいか、傷がかなり深い。私がレベル7相当のチート転生一般モンスターじゃなかったら死んでたよこれ。

 

 

 結局、今回のカチコミは実質失敗となってしまった。脱出は出来たものの、ロキ・ファミリアは重軽傷者多数で大損害を被ったし、団長の勇者(ブレイバー)も重傷。しばらくは満足に活動出来ないだろう。

 

 次はもっと準備を整えてから攻め入るそうなので、その時は是非また呼んで欲しいとお願いして私は帰還した。

 

 

 ……あ、私の傷は治ってないよ。

 

 さすがに傷を詳しく見られたらモンスターだってバレちゃうだろうし、ディアンケヒト・ファミリアにはちょっと行けないかなぁ。

 

 まぁでも、ちょうどいい機会かもしれない。

 

 呪詛への耐性が欲しいんだよね。チート転生者である私はステイタスが自動更新されるし、このまま呪いに耐え続けたら呪詛への耐性スキルが生えるんじゃないかなぁ、と思って頑張って耐えることにしたんだ。

 なあに、自己再生能力もあるから死にはしないし、万が一の時のために18階層から持って来た魔石を喰ってれば大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 だめでした。

 

 いや、私は大丈夫なんだけど、周りがね……。

 

 

 野暮用としか伝えてなかったから、まさか重傷を負って帰って来るとは思ってなかったらしい。大丈夫だって言ってるのに、ベル君達もヘスティア様もグイグイ来る。

 案の定、とっととディアンケヒト・ファミリアに行ってこいと言われたけど断った。無理無理無理!行けない!絶対バレるよ!

 

 大丈夫大丈夫。ちょーっと吐血したり、ふらついたり、食事が出来ない程度だから。しばらくすれば治るし、朝の特訓もちゃんとやるから、許してくださいお願いします!

 

 って伝えたけど断られたわ。

 

 傷が治るまでは特訓なし!ディアンケヒト・ファミリアに行かないなら館で安静にしてろや!ってヘスティア様に命令されちゃいました。

 しかも、「僕ちょっとリューさんに伝えて来ます!」とベル君が出て行こうとしたので全力で止めた。ちくしょう。リオンとはマブダチなのよ~、とか言ったのは失敗だったわ。

 

 もしもリオンに伝わったら……絶対に怒られる!

 

 なんで事前に報告しなかったんですか!とか、どうして私を呼ばなかったんですか!とか言われるって絶対!せっかく距離を置こうとしてるのに、心配したリオンに豊穣の女主人へ連れていかれて監禁されるかもしれない。今のリオンならそれくらいしてもおかしくないわ!

 

 だから私はベル君の足にしがみつき、血反吐を吐いてベル君のズボンを血まみれにしながら必死に引き留めた。汚しちゃってごめんね。

 

 

 しかし……思ったよりダメージは深刻かもしれない。戦闘は出来なくもないけど、本来の能力を発揮するのは難しいだろう。自己再生能力も呪いで出来た傷に集中しているので、これ以上ダメージを受けたら動けなくなるかもしれない。

 殺帝(アラクニア)め。次会ったらフルボッコにして爆発四散させてやるぅ。てかなんであいつ生きてんの?6年前に死んだはずなのに……死亡を偽装したのだろうか。あいつは昔から無駄に頭が回るから面倒くさいんだよなぁ。

 

 

 はぁ……早くスキル生えないかなぁ。

 

 

 

 

 




・アリー
本作主人公。一般モンスターにして謎のクノイチ。
叩けば叩くほど伸びるので、ベル君を鍛えるのがとても楽しい。でもちょっとやり過ぎて他の皆に怒られたりしてる。

現在負傷中。本人は平然としてるけど、唐突に血を吐いたりするので周りは気が気じゃない。

・殺帝
本名ヴァレッタ・グレーデ。35歳。
見知らぬクノイチに返り討ちにされたが辛うじて逃げ延びる。

「ドーモ、アラクニア=サン。イヴィルススレイヤーです」
「なんだァ?てめ「イヤーッ!」グワーッ!」

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