短編ですが、もしかしたら連載にするかもしれません。
――今、幻想郷では弾幕ごっこに様々なアビリティカードが採用されている。
他者の力を凝縮したそのカードを使えば普段なら己じゃ使えない力や技が使えるとして、長きにわたって制定されてきた弾幕ごっこのいいアクセントになった。
それらを生み出したことがきっかけで起こった虹龍洞異変が巫女によって解決された後でも、アビリティカードの流通は収まることがなかった。
そして今、そのアビリティカードを生み出した者の一人でありその市場を司る神である天弓千亦は――
「――すみませんすみません、返済はもう少し待って頂けないでしょうか……はい! 申し訳ございません! 必ず、必ずお金は用意しますのでどうか!!」
すっかり落ちぶれていた。
アビリティカードの大流行で商売に大成功したのは確かだったのだが、なんと彼女はその稼いだ額を元にさらなるアビリティカードを大量に生産、発行したのである。
しかもそのカードは千亦自身の能力を濃縮したものであるのだが、あろう事かその能力が使えないのなんの……
大量に在庫を抱えてしまい、一転大赤字となってしまった。
「うぅ……なんで、何でよ!! こんなにイカした能力のカードなのにどうして売れないのぉ!?」
因みにその能力とは、入手した途端に自らの持つアビリティカードの所有権が失われてしまい無くなってしまうのである。
普通に考えてデメリットしかないのに売れるわけが無い。
「このままじゃ借金が返せない……地底労働はいやぁぁぁぁ!!」
彼女は幽々ファイナンスからカード生産の為に多額の借金を抱えてしまっていた。
このままでは借金返済の為に地底で死体集めのアルバイトをさせられてしまうのである。
因みに幽々ファイナンスとは、風見幽香が立ち上げた金融会社である。
幻想郷で幽々ファイナンスから借金を踏み倒した者は存在しない。
……色んな意味で。
「アレ、大丈夫かな……」
絶望で嘆いている千亦を影から見ている者が一人。
管狐の菅牧典だ。
「飯綱丸様の命でアイツを見張ってなさいとは言われたものの……一人で勝手に消えてしまいそうだ」
飯綱丸龍の腹心として普段は暗躍している彼女だったが、流石に今の千亦があまりにも惨めで同情しそうになっていた。
「……はぁ、仕方がない」
本当はずっと影から見張っているだけのつもりだったが、流石に耐えきれなかった。
「千亦様、どうかなさいましたか?」
「――ッ! 典! おねがぁい、典助けてぇぇ!!」
神の威厳もありゃしない。
「一体何があったんですか?」
分かっているが、一応聞いてみる。
「多額の借金を抱えちゃったのよぉぉぉ! このままじゃわたじ……地底送りにされちゃう……」
「で、借金は幾らぐらいですか?」
「……ざんおぐ」
「は?」
「ざんおぐえん」
「三、億……」
流石の典も真っ青な金額である。
「……そ、それじゃ千亦様、返済頑張ってくだ」
「まっでぇぇ! いがないでづがさぁぁぁ!!!」
「痛い痛い痛い! 尻尾、尻尾引っ張らないで! ちぎれるぅ!!」
結局、千亦の必死な懇願のせいで帰ろうにも帰れずに居た典だった。
「――それで典、この大量のカードどうにかして売れない?」
「うぅん…………」
虹龍洞異変の際にも色々と動いていた典はアビリティカードの取り扱いにも詳しく、商売の知識もかなりあった。
本来なら何かしらアビリティカードのメリットを活かしてアピールすれば、ある程度の人数が購入してくれてそこそこな利益を得ることができるのだが……
(なんだこのゴミカード……利点が何一つ無ぇ……)
典の知識を持ってしても、全く持って売れる想像が出来ないのである。
想像以上にこの神様、ポンコツなのかもしれない。
典は必死に考えた。
何かしらいい案を出さないと帰してくれそうになかったからである。
このままの状態ではまずこのゴミカードは売れない。そうなると何かしら細工が必要はになってくる。
入手した時点で手持ちのカードを失うこの能力をどうやって活かすか、そこに焦点が当てられる。
「……………………」
熟考。
どう考えてもデメリットにしかならないこの能力をメリットに変える方法。
まず、自分が持つのはダメだ。論外。
入手した状態で役立たせるのは不可能に近い。
逆にこのカード、相手が持っていたらどうだ?
勿論、相手はこのカードしか持てなくなるからメリットでしかない。
そうなってくると…………
「…………ッ!!」
閃いた。
我ながら天才的だと、典は自分自身を褒めてやりたい。
「千亦様、聞いてください。一攫千金のいい話があります」
「つ、典ぁ……!」
こうなったら即、行動に移すのみ。
幻想郷のとある虹の下。
幻想郷の市場は、基本そこで行われている。
千亦と典は早速、その一角で商売を始めていた。
「――寄ってらっしゃい見てらっしゃい! ここにありますは今流行りのアビリティカード弾幕ごっこの攻略法! 勝率をぐーんと上げる最強の道具がありますよ!!」
いかにも怪しい謳い文句だ。
「ほう、攻略法とは聞かせてもらおうか」
そこに食いついた人物が一人。
蒐集家の魔法使い、霧雨魔理沙である。
「いらっしゃい! お客様だけのいい話がございますよ」
典が魔理沙に囁くように説明する。
「この商品の名前は空白玉。なんとこの玉を弾幕ごっこで相手に投げつけるだけで、相手の持つアビリティカードが全て無くなってしまうのです」
「は? 空白って、もしかしてその中に入ってるのは空白のカードじゃないか? そんなの買ったら私のカードまで無くなってしまうじゃないか。話にならないな」
魔理沙は呆れて去ろうとする。
「お待ち下さいな」
だが、まだ典の話は終わっていない。
「お客様は察しがいい。確かに中身はそうかもしれませぬ、が……この道具はあくまで『空白玉』、空白のカードみたいな使えないゴミではありませんよ?」
「ねぇ典、聞こえてるんだけど」
「ほう……そういう事か」
魔理沙は理解したようだ。
「なら、試しに一つ貰おうか。これでもし私のカードが無くなったら容赦しないぜ」
「まいどあり♪」
そうして、空白玉を一つ魔理沙に手渡す。
「……確かにカードはあるみたいだな、よし! 誰かに試してみるとするか!」
「またのお越しを♪」
そうして魔理沙は飛び去ってしまった。
「やった! やったよ典、売れたよ!!」
「まだまだ、どんどん売りますよ」
そうしてどんどん通行人を声をかけた結果、初日なので怪しむ者も多く居たものの、中々の数を売り捌くことができた。
「やったよ典、かなり売れたよ! この調子ならいつか借金返せるかも!!」
「ま、私の知恵を持ってすれば楽勝です。この私を信じなさい」
「典様〜、一生ついていきます〜」
かなり現金な神様である。
後日、幻想郷ではこんな噂が広まっていた。
なんと幻想郷を管理している博麗の巫女、博麗霊夢が霧雨魔理沙にこれまでにない程弾幕ごっこでボコボコにされたという。
勝った彼女曰く、空白玉とかいうアイテムを使ったおかげらしい。
そんな噂が広まった以上、幻想郷の注目の的になるのは必然で……
「見てみて典! すっごい行列ができてるよ!」
「うわ……やば……」
本人ですら引くぐらいの大行列が出来ていた。
「押さないで、並んで並んで! 在庫ならいっぱいあるよ! 5個お買い上げですね、ありがとうございます!」
「千亦様、ちょっと私在庫取ってきます!」
「お願い典! あ、十個お買い上げですね、ありがとうございます!!」
その日から数日間、千亦と典は大忙しの日々を送っていた。
「――ウハハハハ、繁盛繁盛! ちまちゃんボロ儲け!」
それから空白玉はすっかり弾幕ごっこの定番アイテムの一つとなり、天狗達の新聞記事もあって幻想郷で知らない者はいない程の道具と化していた。
大量に抱えてあった在庫は尽く無くなり、今では更に空白のカードを増産してさえいる。あれだけあった借金ももう返済の目処がついていた。
「さ、典! 今日もじゃんじゃん売りましょう!」
「…………」
明らかに商売は好調。
だが、典はどうにも乗り気じゃない様だった。
「千亦様、空白玉はそろそろ販売停止にしましょう」
「え!? 何言ってるの!?」
突然の発言に千亦は信じられないようだった。
「あれだけ幻想郷で大流行しているのに止めるわけがないじゃない! 限界まで売りつくしてやるわ!!」
「……私は言いましたからね」
結局、それからも二人は空白玉を売り続けていた。
そして、その日は突然やってきた。
「貴方達ね、空白玉を売り出しているのは」
「あら、博麗の巫女じゃない」
博麗霊夢がやってきたのだ。
「いらっしゃい、何個お求めになりますか?」
「要らないわ、それよりこれを見て頂戴」
霊夢から1枚の紙を受け取った。
「えっと、なになに……空白玉発売禁止令、及び紛失アビリティカード賠償命令……え、何これ!?!?」
そこに記されてある内容に、千亦は衝撃を受けた。
「幻想郷の管理者として命ずるわ! 空白玉は今を持って販売停止、そして空白玉の被害によってアビリティカードを紛失した被害者に即刻賠償をしなさい!」
「えっ、でも、何で……そんな……」
「あー、やっぱりこうなっちゃいましたか」
突然のことで狼狽える千亦。
逆に典はかなり落ち着いている様子だった。この事を予想していたかのように。
「なに典! こうなっちゃったってどういう事なの!?」
「いやぁ千亦様、考えてもみて下さい。こんなアビリティカードが無理矢理無くなってしまう道具が流行ってしまえば、弾幕ごっこにアビリティカードを持っていく意味が無くなってしまいますよね?」
「ええ、そうね」
「つまり空白玉が流行っている限り誰もアビリティカードを買わなくなってしまい、いずれ市場の縮小や新たな弾幕ごっこルールの崩壊を意味してしまうのです」
「何よそれ! どうして言ってくれないの!?」
千亦は典の胸ぐらを掴んで大きく揺さぶっている。
「いやだって私、管狐ですし♪」
「…………っッッぅ!!!」
もっの凄い怒りのこもった目で典を睨んでいる。
「と・に・か・く!! 賠償金はきっちり払ってもらうからね! ビタ一文まけないわよ!!」
「そんな殺生なぁ、巫女さまぁ……」
こうして、千亦の一攫千金の夢は断たれ、彼女はまた多額の負債を抱えてしまうのでした。
後日。
再び飯綱丸の命により千亦の監視を命じられた典は、彼女の住処を訪れることに。
「おじゃましまーす、千亦様居ますか?」
「あら典、いらっしゃい」
彼女は意外と元気にしていた。
「おや千亦様、先日の賠償は済んだのですか?」
「それが聞いてよ典! なんとね、賠償が全部終わってまた借金を抱えてるんだけど、なんと借金が二億まで減ったの!!」
「へぇ……」
典もこれには意外だった。
負債より利益のほうが勝っていたようだ。
「それで地底行きもしばらく先延ばしになったから、また新しいビジネスを考えてるってわけ!」
「そうなんですね、それじゃ頑張ってくだ――」
「――待ちなさい、つ・か・さ」
「うげ……」
彼女に肩を掴まれてしまった。
「貴方も私のビジネスを手伝う義理があると思うのだけど……違わない?」
「……ええと、何のことでしょうか?」
「とぼけても無駄よ、逃さないわ」
「うへぇ……」
まだまだ二人の商売は終わらないようだ。