天才少女有栖ちゃん(憑依)   作:ロリロリローリコン

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八話

 

 今回の豪華客船での特別試験終了も残す所、明日を迎えれば終わる日時が過ぎた。

 

 イレギュラーが起きる事も無く二回目のグループディスカッションで定めた誓約により、全てのクラスが得をする形で試験を終了させるように定めたこの誓約を違反された事は今の所一度も無い。

 

 不安要素であるDクラスだが、警戒している以上に彼らDクラスはプライベートポイントが無条件で貰えるという事実が嬉しいそうだ。

 

 考えてみれば、一学年のクラスの中で一番PPが不足しているクラスでもある、無人島での試験の結果も踏まえれば、定めた誓約を違反する程の理由も無いのか。

 

 それは良いとして、安静にしていれば軽い微熱も数日経てば直ぐに冷めるもので。

 

 

「あんたが、オレを?」

 

 

 時刻は夜、船外のデッキにて満天の星空が視界一杯に広がっている中、この空間には私である坂柳有栖と、神室さんに頼んで呼び出してもらった綾小路清隆ただ二人だけがいる。

 

彼にそう問われて私は、さて何と言葉を返そうかと少し言葉に詰まる。

 

 暫く綾小路清隆と見つめ合う形を取って、その間彼はその無機質な目を私の目から離すことなく私もまたその視線を受けながら、発言する内容を定めた私は口を開いた。

 

「私の話をする前に、一つ聞いても良いですか?綾小路くん」

 

「オレに?内容にもよるが、聞かれても大した内容は答えられないぞ」

 

「そう警戒しないで下さい、少なくとも私と貴方の会話が誰かに聞こえる距離で監視している人は居ないのですから」

 

「いや、そう言われてもな。オレはあんたに何かした覚えもないし、知り合いでも無いだろ」

 

「ですね。でもそれは綾小路君の主観でのお話、私の主観でお話すると、八年程前に貴方を見かけた事が有りますよ」

 

「いやいや、それは冗談だろ」

 

「ふふっ……改めてお一つ質問させて貰うのですが、あなたは何をしにここ高度育成高等学校へ入学しましたか?」

 

 

 彼の表情は変わらない、無機質の目は私の視線を逸らすことなく、けれどもその質問に、綾小路清隆は二度、瞬きをした。

 

 この質問は予想外だったかな、けれども私が一番聞きたい、知りたいことは彼に今問いた事が全てだ。

 

 有栖は彼の事を偽物の天才と評して、自分が本物の天才であると証明したい欲求があると考えている。そしてそれは今もなお、私という魂を刺激する程にそう感じている。

 

 ただそれと同じように彼に対する敬愛とは違う、けれども近い感情が仄かにあるのも感じている。複雑な乙女心だ、きっと有栖にとって彼は唯一と言っていい他者に対する執着心、謂わゆる特別な人間なのだろう。

 

 そんな人間が何をしにここ高度育成高等学校に来たのか、私の興味はそこに向かった。

 

 今までの彼の行動を推察すればするほど全てがチグハグ、明確な目的意識がない。高円寺六助のような享楽で生きるような人間にも思えない。

 

 何を持ってここにいるのだろう?彼は何がしたくて、何を求めているのだろう?

 

 親近感がある。また私とは別の意味で彼も“異物”のように思えた。

 

 数ヶ月有栖として生きてきた私と、今まで生きてきた有栖との共通点として、一度気になった好奇心は並大抵の感情では止められないという事。

 

 だから知りたい。

 

 私はあなたに興味がある。

 

 

 

「……自由」

 

「自由、ですか?」

 

「あ、いやっ。違うな、今のは忘れてくれ、普通にこの学園のキャッチコピーに惹かれただけだ」

 

「……ふふっ、嘘が下手ですね。でも、そうですか、良い目的ですね?でもそれなら不思議です、私から見たあなたは自分から自由を手放しているように見えますが」

 

「いや、そんなことはないぞ。伸び伸びとやらせてもらってる」

 

「それは無人島試験以前のあなたでは無いですか?DクラスとCクラス間で起きた暴力事件の際に暗躍した時の状況と違い、無人島試験でのDクラスの結果は、あなたの人物像にブレが生じています」

 

「なんのことだ?暗躍なんて身に覚えが無いし、無人島試験での結果は堀北が起こしたことだ、オレは関係ないし知らない」

 

「それこそ堀北さんの人物像とDクラスが無人島試験をあの結果で終わらせたであろう作戦と大きくズレています。実際に同じ竜グループとして話して、それは確信しています。堀北さんは正攻法以外の作戦を選択をして成功出来る人では無いですよ」

 

「それは坂柳、おまえの主観での話だろ?オレの主観ではあの結果は堀北鈴音が起こした作戦だ」

 

「あら、お上手ですね。あなたがこの話を深掘りして欲しくないと言うのなら、これ以上は話しませんが……自由を獲得したいなら、もう少し自分の力を誇示しても構わないと思いますよ、目立つ事で得られる自由もあると思いますから」

 

「勘違いしているかもしれないが、何もオレは実は忍者の家系だとか、実は裏でクラスを支配している支配者だとか、そういうのじゃないからな?」

 

「そういうことにしましょう。人が本当に嫌がる事は、個人的にはしたく無いのが私の信条でもありますから」

 

「堀北に煎じて飲ませたいぐらいに良い言葉だな」

 

 今までの会話の中で一番言葉に感情が乗っていたな……やっぱり、自分の目的と、それに対する行動がズレているのだろう。

 

 少し気付いた事がある。彼は感情の起伏が極めて薄いが、決して機械ではないという事。

 

 人である以上感情に左右されない事は出来ない。それは天才である有栖もまた同じこと、抗えない気持ちの流動性は、意識的に抑えなければ止まる事は出来ない。

 

 綾小路くん(・・)はその無意識的にその流動性を己の奥底で止めている、いや。ホワイトルームという異質な施設で育った事も考えれば、その感情の放出の仕方を知らない?

 

 

「……そろそろいいか?話して分かっただろ、オレは大したことのない人間だって」

 

「いえ、自身のクラスの人間を除いて、貴方との会話は非常に楽しくまた有意義ですよ?不必要に卑下する行為は、あなたの実力を正しく認めている私から見ると……そうですね、少しかなしい気持ちになってしまいます」

 

「あー、なんかごめん。でも誤解だからな?」

 

「誤解じゃない、それは”私“が正しく理解している……綾小路くん、連絡先を交換しませんか?きっと力になれると思いますよ」

 

「いいのか?オレとしては、嬉しいんだが」

 

 この言葉にも感情の機微が働いたな……また一つ分かってきた。こんなに他人を情報として見ているような目付きをするのに、お友達は欲しいのか、面白いな。

 

 私の持つ彼の情報の「ホワイトルーム」について、私は綾小路くんに告げるのはここではないと判断した。

 

 多分、彼はあの施設から何らかの手段で抜け出しこの学校に自由を求めて逃げてきたのだと推察する。

 

 狭い白い空間の中でその自我が芽生えた事に驚きを隠せないが、こう考えるのが一番自然だ。

 

 過去を忘れたい彼に、過去を思い出させるような決定的な言葉を投げかけるのは今ではないように思える。

 

 私自身の混じり気の無い感情は、けれどもこの感情に有栖の感情は反発しなかった。だからこの選択はそこまで悪い選択だと思わない。

 

 もう少し仲良くなってから、改めてあの場所であなたを知ったと報告するのが良いと判断した。

 

「お互い、良い関係を築きましょうね、綾小路くん」

 

「……そうだな」

 

 綾小路くんと連絡先を交換して、何となくお互い何気無しに、ほんの少しの時間の中、満天に輝く星空を眺めた。

 

 

 

⭐︎

 

 Aクラス1174ポイント、Bクラス803ポイント、Cクラス492ポイント、Dクラス292ポイント。

 

 整理すると、今回の試験で各クラスのポイントは大きな変動は特になく、しかしDクラスとCクラスとの距離は飛躍的に縮まった。

 

 こうして見た時、Aクラスのポイントが少しばかり抜きん出ているようにも見えるが、Bクラスが同盟を組んでAクラスと対抗する程のポイントの差ではないと見える。

 

 大方想定通りにポイントは動いている。今後はこのポイントを維持するか、或いは先を見据えた上で多少減らしても良いと考えている。

 

 

 勝ち続ける事だけが何も最後にAクラスとして、有栖が天才であるという証明を残す方法ではない。

 

 

「無事、結果1で試験を終わらせる事が出来ました。これも一之瀬さん、龍園くん、堀北さんの協力のお陰です、ありがとうございました」

 

 豪華客船での試験終了後から、高度育成高等学校に戻った次の日。

 

 お互いのクラスの代表格一堂を図書館に呼び出し集めて改めて、今回の試験に協力してくれた事に対してのお礼の言葉を発言した。

 

「ハッ、白々しいな坂柳。次また同じ様に行くと思うなよ?今回は俺にとっても利が在ったから乗っただけだ、勘違いすんじゃねぇ」

 

「分かっていますよ、今回の試験で得た莫大なPPをどう扱おうとそれは、各々のクラスの自由です。少なくともこれで一学年の全クラスが”対等な資金力”を確保することに成功させる事が出来ましたから」

 

「_____っ!、ねぇ坂柳さんっ、もしかしてそれが目的だったりしたのかなっ……?」

 

 

 そう言葉にした一之瀬さんに曖昧な笑みで消極的に肯定した。

 

 一番最初に私の目的の真意について察したような反応をするのは、一之瀬さんではなく龍園だと思っていたが、やはり優秀なのだな。

 

 Aクラスとは違うが正攻法で最も団結力のあるBクラスのリーダーだからこそ気付けたのだろうか、ややあって龍園もまた不機嫌だった表情を一転して、何か納得したかのように愉しげな表情に切り替わった。

 

 

「……まさか、だとしたら……ッ!やられた、坂柳さん貴女、対等な資金源を理由に、今後の他クラスとの交渉及び要求にポイントを用いたやり取りを行おうと、そういう事ね」

 

「資金源に優劣がある状況はお互いにとって要求したいモノを押し通せません。個人であれ組織的にであれ明確なポイントという指標がある以上、それを増やし今後に活かすのは私だけが得のする事でも無いのでは?一方的に非難されるのは少し心外ですね」

 

「うにゃにゃ……そう、だね。私はどちらかと言うと、坂柳さんの肩を持っちゃうな、多分この先、これだけのPPをこの時に保有できたから、助けられたって場面が、起きるかもしれないし……」

 

「くくっ!はっきり言えよ一之瀬、Dクラスがいつまでもリーダーのいねぇ纏まってねぇ状況が悪ィだろってよ」

 

「それは、貴方に言われる筋合いは無いわ」

 

 獲得したプライベートポイントを上手く運用出来ないクラスはDクラスだけだろうな、これを機にクラスの為に使うポイントの貯蓄を提案出来て、納得させる話術を持つ人がいるのか?

 

 ……綾小路くんは出来ると思うけど、そういうの。自分でやらないんだろうな、それとなく他人に任せるのかな?聞いてみたら答えてくれたりするのだろうか。

 

 

「____さて、集まってくれてありがとうございました。せっかくの機会ですし、一学年全体の方針などの提案がありましたらこの場で決めてしまうのも一つの手だとは思いますが、どうでしょう?」

 

「くだらねぇな、足並み揃えて何の意味がある?やりたきゃ勝手にやれや」

 

「ふふっ、それもそうですね。仮定の話になりますが、上級生及び学年が上のクラスと一学年の特定のクラスが揉め事になってもその対応はクラス毎で行う、という事でよろしいでしょうか?」

 

「待って坂柳さん、それはケースバイケースじゃないかにゃ?起きて欲しく無いけれど、もしそんなことが起きた時はお互いの意見を聞いて、学校を交えた話し合いもすべきだと思うなっ」

 

「……そうね、私も一之瀬さんと同じ意見よ。そもそもとしてクラス間で競い合っている私達が、全体の方針を決めたとして、確実に守らないクラスがいる以上、決める必要は無いと思うのだけれど?」

 

「そうですか、わかりました」

 

 一学年全体の方針は作らない、クラスの事はクラスで考える。

 

 言質は取った(・・・・・・)、これで上級生との交渉がやり易くなる。流石有栖の頭脳は正しく欲しい結果を現実のものとしてくれるな。

 

 今後の展開がどう動くかの予想は想像の域を出ないが、使える手段は多ければ多い程良い。

 

 堀北生徒会長かそれとも副会長か。気の長い話だが二学年に繰り上がった時に生まれる後輩の中に有望な人材がいた時、全体の取り決めを一度Aクラスが提案した、という事実があればそれでいい。

 

 “坂柳有栖が一番に発言した”事実は発言権においてアドバンテージを取れる。

 

 目的は達した、もうこれ以上ここで話す必要も無いだろう。

 

 豪華客船が終わっても夏休みはまだ続く、この間に何をするべきかな?

 

 一緒に考えてみよう、有栖。

 

 

 

⭐︎

 

 

 

「私は生徒会には入りませんよ?」

 

 試験が終わり本格的に始まった夏休みからまだ一週間と経たない中、偶然かそれとも機会を見計らったのか、目の前に立つ一つ上の学年の上級生からの誘い文句に改めてお断りする。

 

「俺や堀北会長にも引けを取らない頭脳、一学期で既にクラス内部を纏め上げてAクラスのトップに立っている。そんな優秀な一年誰だって誘いたくもなるだろ?」

 

「それはありがとうございます、ですが優秀な生徒なら他にも沢山いますよ?葛城くんや一之瀬さんなどに声を掛けてみては?」

 

「前者は俺の趣味に合わん、後者に関しては堀北会長に止められてな。酷い人だよ、俺の手が掛かる可能性があるからってそもそも生徒会に入れないのは、当の本人に失礼じゃないか?」

 

「ふふ、それを機に普段の行いを改めてみるのもまた一つの手段では?」

 

「そりゃ無理な話だ、俺からじゃなく向こうから寄ってくる好意に律儀に返しているだけだぜ?」

 

 脇に女子生徒を侍らせて、金髪に染めた髪に軽薄そうな表情を浮かべる南雲雅副会長。

 

 私の手元に届いている情報によれば、二年生の全クラスを纏め上げているらしく、何かと堀北生徒会長を意識しているような言動や行動が見受けられる。

 

 実際に会って話している所感としては南雲雅は極めて優秀な“詐欺師”のようだと有栖の頭脳は結論を付けた。

 

 平均的な能力が高いのは当然として、こと対人関係に置いて他者との距離感やコミュニュケーション、人心掌握という項目において並外れて高い能力を持っていると推察する。

 

 というより、二年全体を支配しているという話が事実なら大きく分けて三通りの方法を用いなければ全体の支配は出来ない。

 

 誰からも求められる求心力、裏切りを考えさせない恐怖による圧政、起こる問題に対して円滑に解決する処理能力。

 

 私、というより有栖の思考ではこの三つの項目を一定の水準以上に一度も挫折させる事なく出来る人物ではないと成り立たない。どれか一つが出来ても、三つ全てを意識的に出来る人物は中々居ない。

 

 

「まっ、今は生徒会の事は良いんだ。それより聞かせてくれよ坂柳、どうやって一つの試験で一学年全てのクラスが2000万PPに近い額を取る事に成功したんだ?並大抵の事じゃない、最初に知った時は空いた口が塞がらなかったぜ?」

 

「特別なことはしていませんよ?各クラスの協力の元です。それに南雲副会長にとって2000万PP程度、端金だと思いますが」

 

「俺にとってはな、だがお前ら一年は違うだろ?2000万っていうポイントは一つの大きな転換だ、まず個人が持てる額じゃない。ハハッ!……坂柳、おまえがPPを集めて何をするのか、今からが楽しみだよ」

 

 そう締め括った後に南雲副会長は「次会う時は腰を据えて話そうぜ」と言い残して、侍らせた女子生徒と共にこの場から去っていった。

 

 

「……はぁ、黙ってるってのもしんどいんだけど」

 

「ふふっ、ごめんなさい真澄さん。外出して早々に南雲副会長から声が掛かるとは思っていませんでした」

 

「良いけどさ……あんたも変なやつばっかに目を付けられるね。どうするの?また接近してくるでしょ、あの感じ」

 

「取引相手としては有望だと思います、それはお互いにとってもでしょうが、とは言え今は上級生の手を借りる時では無いですね」

 

 息抜きも込みで外出して早々息抜きのできない出来事が起きたことは少し不満が溜まるが、ここで南雲副会長と顔見知り程度の関係になれたのは手段の一つとしては僥倖ではあるか。

 

 堀北生徒会長と南雲副会長の間に確執があるのは既に情報として手に入れている、私としてはどちらに着く気もないしそれ程興味はない。

 

 学校も伝統や催しなどを重視する思考も良いと思うし、改革として新しい風を吹かせるのも良いと思っている。

 

 一之瀬さんの言葉を借りるならケースバイケースだ、対抗意見があって初めて擦り合わせが行われ、良いものを残しつつ良いものを取り入れられると考えている。

 

 

「それより行きますよ真澄さん、そろそろ時間です。集合時間に遅れたら真澄さんのせいにしますからね」

 

「なんでよ……!」

 

 

⭐︎

 

 

 

 きっかけは葛城くんの一つの発言からだ。

 

 

「実家の妹が心配でな、何か贈り物を届けたいのだが……外部との接触が断たれているこの学校の仕様上、それが出来る環境では無い事は分かっている。生徒会には既に断られてしまった」

 

「ふむ?……では部活動を利用して贈り物を届けるのはどうでしょう、大会などで外に出る生徒に頼めばプレゼントの送付は可能だと判断しますよ」

 

「本当か!っいやしかし、Aクラスの中で部活動で大会に出る者がいただろうか?」

 

「居ませんね。神室さんが誰から見ても見惚れる程の絵を描くセンスの持ち主なら良かったのですが」

 

「何あんた、喧嘩売ってる?」

 

「あ〜〜それなら姫様、Dクラスに一人心当たりあるぜ?まぁ俺個人としてはあんまり関わりたくね〜ってのが本音だけど……ほらあの、五月に問題起こした被害者の生徒、あいつ確か大会出るとか聞いたぜ」

 

「なるほど、なら私と神室さんで対処しましょう」

 

「すまない……!恩にきる」

 

 

 と言ったやり取りが昨日あった。有栖の実の父である理事長に頼む事もできたがそれは有栖らしくないし少し気が引ける。

 

 未だに記憶の戻らない私だが、私にも妹と言った兄弟関係の家族がいたのだろうか?仮にいたとして、どういった人物なのだろうか、元気にしているのだろうか?

 

 有栖、もし君に兄弟がいたらどんな人なんだろうね。父や母に似て聡明なのかな?

 

 健全に生まれていたとしたら、もしかしたら優秀な遺伝子は強固な肉体を作り上げて、有栖とは違ってフィジカルの面で天才性を発揮していたのかもしれないね。

 

 ありもしない過程を想像するのは何の生産性もないが、一つの楽しみでもある。空想の中に新しい発見が隠されている時だってあるのだ。

 

 

「お待たせしてしまいましたか?綾小路くん」

 

「いや、待ってはないが……急に連絡が来たら驚いている、誘ってくれてありがとう……って、言うべきか?」

 

「ふふっ、そうですね。今日は楽しみましょう」

 

 今回のプレゼント作戦を解決するにあたって先ずはDクラスの生徒と接触しなければ何も始まらない、ということでつい最近連絡先を交換した綾小路くんに「遊びましょう」と言って呼び出した。

 

「……地味だけど確かに顔は悪くないか、でも良い趣味してるとは言えないんじゃない?人選なら別の奴でも良かったんじゃないの」

 

「ダメです、私は彼と仲良くしたいので」

 

 小声で問いかけてきた言葉に同じく小声でそう返すと何ともまあ、言葉に表すのが難しい表情で私の顔を覗いてくる神室さん。

 

 確かに見た目だけでは綾小路くんが実はホワイトルームという特別な教育機関で育てられてきた生徒には見えないだろう。

 

 感情の起伏は相変わらず極めて無機質だが、上手く周囲に存在感を出さずに溶け込んでいる。

 

「客船の時も思ってたけど相変わらずあんたの考えることはよく分かんない、お邪魔でしょーし私はもう帰るから」

 

「ごめんなさい、埋め合わせは後日にスイーツ巡りでもしましょうか」

 

「太るからやだ」

 

 そう言って神室さんは人混みに紛れるようにこの場から離れて、改めて私は綾小路君の側に近付く。

 

 こうして近くに立つと、やっぱり男の子は背が高いな。有栖の身長が低いというのも関係しているが、どうしても見上げる形になってしまうね。

 

 

「遊びに出かける前に、実はAクラスの生徒の一人が家族に贈り物を届けたいと相談を貰いまして。Dクラスには大会を理由に一時的に外と交流を持つ生徒が居ますよね?」

 

「あー、まぁそうだな……橋渡しして欲しいって事か?それは構わないが、難しいと思うぞ。他クラスの頼みを素直に聞く奴じゃない」

 

「Aクラスの坂柳有栖に一つ貸しを作った、これで綾小路君がその生徒に交渉して貰いたいのですが、ダメですか?」

 

「ダメ、って訳じゃないが……期待されたって断られる可能性もあるからな?」

 

 明確な拒否が出ない時点で私という有栖に貸しが出来る状況は彼にとっても有益か。

 

 綾小路くんから見た私がどのような評価なのかは分からないが、有栖は他者から見て一年生の中で選りすぐりの頭脳と統率力の持ち主だと他でもない“私”が判断する。

 

 多少の手間でも、私に貸しが出来る事の方が良いと判断してくれた。まずは良かった、念の為に断られていた時の事も考えていたが必要無かったかな。

 

「ふふっ、綾小路くん、端末を開いてくれませんか?」

 

「え?ああ……って、おいおい。別にオレはPPが欲しいから引き受けたって訳じゃないぞ」

 

「ただのお礼です。それに綾小路くん、一ついいことを教えてあげましょう。男女と遊びに出掛ける時は、男性側がお金を払うのが一般的ですよ」

 

 30万ポイントを綾小路くんに送金した。殆どの一年生がプライベートポイントをある程度持っているとは言え、それでも30万PPは言ってしまえばこの程度の事で送るのは過剰とも言える数字だ。

 

 私は綾小路くんとは仲良くなりたいと考えている、彼の生態や思想について探りたい。

 

 綾小路清隆という人間がどのような人間なのかその探究心を満たす為に、多少多くポイントを渡しても構わない。

 

「そうなのか?……まぁいいか、わかった。有り難く貰っておく」

 

「ふふっ、そうして下さい。では先ず何処から行きましょう、エスコートしてくれますか?」

 

「慣れてないから文句は受け付けないぞ」

 

「ふふっ、それも込みで楽しませていただきますね」

 

 

 当たり前だが記憶のない私にとって、そして天才故に他者との関係性を一定の所から進展してこなかった有栖にとって男女と一対一で遊ぶのは初めてだ。

 

 つまり初めてのデートという事になる。ほんの少しだけ緊張と照れが混じった感情が伝わるがなかなか悪くないかも、試験続きで私自身の疲れた思考を癒すには丁度良いかもしれない。

 

 

 楽しませて欲しいな、綾小路くん。




相違点14・クラスで見た時の資金力の格差の統一化
全クラスが2000万PPに近いポイントを持ってる状況に、これによりPPを使った交渉ごとが増えそうです。
相違点15・綾小路くんとの関係性
ホワイトルームという決定的一言を告げていない+なんか知らんけどデートし始めた、は?何だこいつら、勝手に動くな。
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