花の跡   作:ろな


原作:BanG Dream!
タグ:BanG Dream! 瀬田薫
瀬田とスタッフさんのお話。
死ネタあり。

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花の跡

少し早めの桜の開花宣言がされた日、彼は死んだ。

ALSという、筋肉が衰えていき、最後には心臓が動かせなくなる病気だった。

私は、彼の最期を看取った。

美しく、儚く、安らかに眠っているようだった。

この時私は、世界の色が消えた。音も、上手く聞き取れない。

彼がいたことは、あんなに綺麗だったはずなのに。

窓辺には桜が一輪だけ咲いている。そして少しだけ、雨が降っていた。

 

葬儀には出なかった。

葬儀に出れば、彼がもういなくなって、戻ってくることがないことを思い知らされるからだ。

そして私は彼の死んだ日、涙が一粒も出なかった。彼の家族はずっと泣いていたのに、私は泣けなかった。

一丁前に悲しんで、部屋から一歩も出られないくせに、情けない。

それに、私は彼に何もしてあげられなかった。私ばかりが幸せをもらっていて、私は何も与えてあげられなかった。

「薫ー、ご飯できたけど、食べる?」

コンコン、と部屋をノックして母が入ってきた。心配そうな表情を見るのもつらい。

「……まだ、食欲が出ないんだ。悪いけれど、今日も食べられなさそうだ」

声を出すことは一日に一度、母がこうしてご飯を食べるか聞いてくる時だけだった。そのせいで、掠れて上手く声が出せなかった。

「そう……お水だけ持ってくるわね」

それだけ言って、ドアを閉めた。

最初の頃は母も励ましてくれていたが、そっとしておくのが一番私には良いと判断したようだった。

血の繋がった家族にすら気を遣わせるなんて、本当に……

「情けない……」

それでも涙は出なかった。

 

ある日、飲み物を飲もうと思って下の台所に行った。

コップ一杯分の水を入れ、一気に飲む。

コップを洗い棚に戻し、そのまま部屋に戻ろうとしたのだが、机の上に置いてあるものに目が釘付けになった。

 

『瀬田薫様』

 

どうやら私宛ての手紙らしい。

手に取り、よく見たところで気が付いた。

見知った字。大好きだった、あの字。

急いで封を切り、中身を見た。

 

『瀬田薫様。

この手紙を呼んでいる頃には、僕はもうこの世にはいない、ということだろうね。

君は優しいから、きっと落ち込んでしまってるんじゃないかな?

……ねぇ、薫。外を見てごらん。』

 

外……?

不思議に思いながらも、窓の近くに寄って、外を見た。

私は、目を見開いて驚いた。

「桜……」

桜が満開になっていて、花びらがはらはらと舞っていた。

青空も広がっている。こんなに綺麗だったんだ……そう思った。

驚きながらも、再び手紙に視線を移した。

 

『外はこんなにも綺麗だよ。

鳥たちも自由に風の向くまま、空を飛んでいる。

薫も、自由なんだよ。

空はどこまでも続いてる。

この先の人生は長いし、果てしないかもしれない。

でも、大丈夫、ひとりじゃない。僕がいる。

薫は不器用だけれど、その無邪気な笑顔を守れるのが幸せだった。

薫からは、たくさんの宝物をもらったんだ。

繋いだ手のぬくもりも、花びらの付いた髪も、一緒に感じた季節ごとの匂いも、薫のあたたかさも。

全部が大切な宝物だよ。』

 

手紙が涙でよく見えない。

ずっとなにもあげられてないと思ってた。

でも、あげられてたのか。宝物だと思ってくれていたのか。

ずっと流れなかった涙が、頬を伝って手紙に落ちていく。

ああ、君は本当にー

 

『薫、笑って。

泣いてる顔も綺麗だけど、笑ってる顔の方がもっと綺麗だよ。

僕のことを思い出す時は、微笑んで欲しい。そっちの方が僕は幸せだ。

僕はずっと薫のことを愛しているよ。

渡しそびれちゃったけど、受け取ってくれると嬉しいな。』

 

渡しそびれた……?

封筒の中身を覗き込むと、底の方でキラリと光るものがあった。

手のひらに出すと、黄緑色の小さな宝石の入った指輪が出てきた。

もしかして、と思って左手の薬指に嵌めてみた。

ーピッタリだ。

空に手をかざしてみる。キラキラと輝く指輪は、この世の何よりも美しいと感じた。

 

『ペリドットの指輪だよ。気に入ってくれたかな?

僕はずっとそばにいるから。

この先進むのが怖くなっても、一歩……いや、半歩でもいいから、踏み出してみよう。僕が勇気をあげるから。

ずっとそばにいるから。ひとりじゃない。

何度もしつこいかもしれないけれど、それくらい大切なんだよ。

だから、笑って。

僕の大好きな、その可愛い顔で。

愛してるよ。 スタッフより。』

 

涙でぐしゃぐしゃだった。今までの分の涙が、今になって全部出てきてしまったようだ。

その時、玄関のドアが開く音がした。

「ただいまー……って薫?どうしたの!?」

「ふふ、色々あってね、もう大丈夫だ。……それより、少しお腹が空いてしまったのだけれど……」

泣いたら少しお腹が空いてきた。そんな私を見て、母は笑って言った。

「じゃあ、今日は薫の好きなお雑煮作るわね」

「……ありがとう、母さん」

また少し涙が出てきてしまった。

 

1週間後、私は彼の眠っているところに足を運んだ。

そこでも桜が咲いていた。

ここに来るまでも、去年の春に一緒に行った桜を見に行っていたが、ここもなかなか綺麗だ。

……雨が降っていなければ、もっと綺麗だったのだろう。

残念なことに、雨が降ってきてしまったが、雨に濡れて煌めく桜もまた儚い。

雨粒と共に花びらがゆらゆらと揺れて舞っていく。この寂しい気持ちも一緒に沈んでくれているようだ。

「スタッフさん、指輪ありがとう。これからも瀬田薫は輝き続けてみせるよ。みんなを笑顔にしてみせる。だから、見ていておくれよ」

 

私は手を合わせた。

彼と過ごした場所も、時間も、全てが大切なあたたかい思い出だ。

もう不安になることはない、と言えば嘘になるが、そんな思いすらもこの雨が流し、溶かしてくれるだろう。

もう一度、頑張ろう。

君が好きだと言ってくれた笑顔を絶やさずに。

顔をあげて指輪に触れる。

さあ、瀬田薫という名の舞台、第二幕の開演だ。




初投稿でした。

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