魂を縛る魔法 作:首切り役人
天脈竜。
生涯を空で過ごすドラゴンの一種。そのあまりに巨大な背中には山や湖すら存在する、まるで一つの島のようだ。
その背に存在する生態系の頂点は暗黒竜。
進化する必要もなく、背中の植物や動物を食い、王として過ごしていた。昨日まで。
「暗黒竜の角! 地上じゃ目撃例も聞かなかったからもう手に入らないかと」
「禍々しいオーラが出てるんだけど」
生きたまま角を折られた暗黒竜。
暗黒竜という絶対の天敵から生き残るために進化した亜人型の魔物は自分達にとって少ない犠牲で逃げるという選択肢しかない暗黒竜を倒した異邦人達を警戒していたが、角の生えた個体が取り出した秤のようなもので自分達から何かを抜き取り、直ぐに逆らえなくなった。
「…………で、何なの此奴等?」
「魔族の近縁種だな。人を騙す必要がなく、独自の言語で知能を発達させたくせに人間を見た瞬間殺そうとまず考えるあたりやはり知能を得た魔物だ」
ただし、魔族とは人の言葉を用いる魔物の総称なので此奴等は厳密には魔族ではない。元が魔法を使うのではなく、武器を扱うタイプの魔物だったのもあるだろうが魔法を使う個体は少ない。
トーテがおいていった鉄などを使い、見事道具を使いこなし城まで築いてみせた。
「ただ、魔法を使う魔物から進化した奴等もいるらしいな」
魂に触れ記憶を読み取りながら楽しそうなトーテ。
個人主義の地上の魔族と異なり、天脈竜という狭い範囲で、暗黒竜という脅威に対抗するために群れた知恵と魔法を持つ魔物の進化。
「よし行くぞ」
人を騙す必要がないから人の形とはかけ離れた亜人型の魔物ばかりだ。クヴァールを含めた一部の魔物に見られる姿。
「………100年修行した奴すらいないのね」
「そりゃ、老いが加速してたからな」
動きを速くする魔法や思考速度を上げる魔法で時間を速くしたように見えるが、実際はチャッチャカ動いてとっとと寿命が来て世代交代を早めただけだ。
一世代、下手すれば1年も生きてなかった時期もあるかもしれない。つまり魔力を鍛えるなどまず不可能。
「時間に干渉するのは神の御業だ。そういう意味じゃ、未来を知って今から変えようとするシュラハトってすげえよな」
「シュラハトねえ…………でも彼奴、七崩賢を半壊させたようなものよ?」
確か、七崩賢総出で、腹心のシュラハトも含め南の勇者に挑み七崩賢3人とシュラハトを道連れに討てたのだったか。
「まあ私も覚えてないんだけど」
「ん?」
「グラオザームに記憶を消されたのよ」
七崩賢、奇跡のグラオザームだったか。
その魔法は精神干渉の魔法。解りやすく言うなら
トーテも魔力感知を含めた五感を支配する完全催眠の魔法を生み出そうとしてみたが、まだ成功してない魔法の一つだ。
「とはいえ、魂に干渉するなら或いは…………」
と、トーテはアウラの肩に触れた。
魂を読み取る魔法。
「悪いが、見せられない」
シュラハトはアウラに向かい、唐突に呟いた。
「いきなり何?」
「お前、ではない。未来でお前の記憶を見ている者に対してだ。少し黙っていてくれ。悪いが、この後記憶は封印させてもらう」
記憶を読まれる? 誰に?
魔族である自分の記憶を人間が読めるとは思えない。では魔族の誰かに? だとしたら何者で、何故シュラハトが忠告するのか。
「南の勇者は俺と同じ、未来を見る力を持つ。だからこそ俺と違い、お前に絶対に会わないように常に動いていた。俺とは違い、人間の南の勇者の魔法ならば、お前は完全習得出来てしまうからな」
本当に大した奴だと、呆れたように肩を竦めた。
「その結果お前は、魔族にとっても人類にとっても望ましくない事をする。簡単に言えば、
アウラはよく解らず首を傾げた。シュラハトが語り掛けている存在は何者で、そことは何処で、何をやった? 少なくとも魔族にとって望ましくない結果を生むことらしいが。
「ちなみにお前の師も魔王軍を放置した理由と同じで放任する。人類の師は、弟子を導くものではなかったのか?」
また呆れたように嘆息した。
「ここは封印した記憶だが、消した記憶は見れない。アウラは魂を自覚している。故に、アウラの精神は魂に強く結びついているからな。たとえお前が魂を探ろうと、魂からも消えた記憶は覗きえない」
「魂? そいつは魂に干渉するっていうの?」
人類ならば未だ魂の存在を証明できて居ない。ならば魔族? 魔族の中にだって、魂に関われる者など少なくともアウラは自分以外知らない。
「今回はアウラを使ったようだが、お前はそうならずとも必ず魂を認識したよ。何せ生まれが生まれだからな」
「この時間ではお前に出会えなくて残念だ。ああ、一応言っておくか。意味などないがな。お前は生まれ方次第で俺や魔王様とも友になる。俺が見た未来の総数を合わせればそれなりに過ごした仲だった」
「ではな、トーテ。これを見た後お前は、俺の死に場所に花を添えに来るが不要なことだ。とは言っても、お前は来るようだが」
「…………………」
「どうしたの?」
肩に触れたまま固まったトーテにアウラが問いかける。トーテは暫く固まった後、肩から手を離す。
「成程、シュラハト………会えなかったのが残念だ」
「どういうこと?」
「逢ってみたかった。話してみたかった。よし、死に場所に花を添えてくる」
「何のために?」
「俺が人であるが故に」
魔族であるアウラには決して理解し得ぬ感情だ。
「あ、ちなみに愛じゃないから安心しろよ」
北部高原最北端。
勇者ヒンメルの像は各地にあるが、ここには別の勇者の像が立っていた。
「これが人類最強と謳われた南の勇者か。良い髭だ」
トーテが髭に感心し、人間に化けさせられたアウラは見覚えがないが戦ったらしい南の勇者像を見つめる。
「この男が七崩賢をねえ…………」
「大したものだな。七崩賢全員相手どるとは………戦った場所はあっちだったな」
勇者ヒンメルが魔王を討つ数年前。
「これで終わりだシュラハト」
「…………ああ、俺達のやるべきことはやり終えた」
今にも死にそうな南の勇者と、魔力の粒子になって消えていくシュラハト。
「君と共に彼には散々迷惑をかけられた」
「それはこちらも同じ事だ。あれを最後の最後に手綱を握れるゼーリエは、大した器だ」
二人は幾千幾万の未来を見てきた。シュラハトは魔族の未来を、南の勇者は人類の未来をより良くする為に戦った。
これは双方にとっての落とし所とも言える。
そんな2人が決して無視出来ぬ未来を生むのは、異世界から来たトーテという無邪気なる怪物。悪意なく、好奇のまま世界を混沌に掻き廻す。
「だがまあ………奴との時間は、楽しかったよ」
「それは、羨ましいな。私は彼に会うわけには行かないからね」
「…………………」
花を添え、手を組むトーテ。魔族の魂が女神に導かれるかは知らないが、まあ形だけでもやっておきたい気分なのだ。
「待たせたなアウラ。行こうぜ」
「結局これ、何の意味があったの?」
「何の意味もねえよ。何せ、シュラハトはもう居ないからな」
魔族には墓参りなど理解不可能。だからついてこなくても良いと言ったのだが、まあトーテの事を知りたいのだろう。
「それは人間の愛を知るのに役立つのかしら………」
「う〜ん。さあ? まあ、俺が心変わりしないよう愛の利用法を見つけられると良いな」
そんな未来が来るかは、シュラハトか南の勇者なら知っているかもしれない。