食蜂操祈のニセモノ   作:大根ハツカ

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創約最新刊が最高だったので更新。
浜面仕上の根底にあるものは昔から変わらないなあ、と実感します。




行間一一 一方 Alternative_Technology.

 

 

「何? アンタが今回の依頼者? 本気で言ってんの?」

「……うっす」

 

 浜面仕上(はまづらしあげ)は目の前の女の怒りに気圧されて、冷房の効いたファミレス内にもかかわらずダラダラと汗を流す。

 

 どうして、こうなったのか。

 過去の記憶を思い返すように遠い目をする。

 

 あれは確か……服部半蔵(はっとりはんぞう)が提案した事だったか。

 元スキルアウトの浜面達と結標淡希(むすじめあわき)を筆頭とする高位能力者達で構成された『自警団(レベルアウト)』の目的は、何の罪もない無能力者(レベル0)を『無能力者狩り』の脅威から守る事である。

 しかし、学園都市の六割を占める無能力者(レベル0)に対し、『自警団(レベルアウト)』の人数は百とちょっと。自分達だけでは物理的に手が足りない。

 

 故に、外部から強力な戦力を雇う必要があった。

 結標淡希は『窓のないビル』の『案内人』としての経験もあり、その辺りの事情に詳しい。

 彼女の助言と知り合いのツテを使って声をかけた傭兵、それが目の前の少女達である。

 

 ごくり、と無意識に喉が鳴る。

 路上で軽犯罪を繰り返すスキルアウトのような三下のチンピラとは違う。

 殺人。それを仕事する本物の闇。しかも、目の前の少女の肩書きはそれ以上に大きい。

 

 

(第四位の超能力者(レベル5)っ、麦野沈利(むぎのしずり)……‼︎)

 

 

 紛れもない怪物。

 先日、スキルアウト達を返り討ちにしたあの第八位の同類。

 

「この『アイテム』がたかだかスキルアウトの依頼を請け負うとか……ふざけんてのか」

「超仕方ありませんよ。どうやら上の方でも超ゴタついているみたいですし」

「いいんじゃない? 結局、人生にはほのぼのとして依頼で心を休める時間も必要って訳よ」

 

 怪物は、麦野(ひとり)だけじゃない。

 大能力者(レベル4)絹旗最愛(きぬはたさいあい)

 爆弾魔、フレンダ=セイヴェルン。

 そして、会話に加わらない脱力系不思議少女の滝壺理后(たきつぼりこう)

 

 即ち、『アイテム』。

 学園都市の『暗部』に君臨する非公式部隊。

 

 本来、『アイテム』は浜面仕上のようなチンピラが依頼できるようなランクの組織ではない。

 しかし、現在の『暗部』は不況に喘いでいる状況。学園都市の上──統括理事や()()()()()で正体不明の混乱が起こっているせいか、『暗部』の仕事というのは極端に少なくなってる。

 『アイテム』に仕事を斡旋する『電話の女』とも連絡がつかない。暴れたいという欲求不満が募る毎日。

 

 だから、浜面仕上の提案は『アイテム』にとっても丁度良かったのだ。

 殺人禁止で無能力者(レベル0)の護衛をしろなんていう、舐めた内容であっても。

 それはそれとして、『アイテム』に依頼するレベルの内容ではなくて怒りは溜まる一方なのだが。

 

「こんな大した金にもならない依頼を受けるくらいなら、長期休暇だと思って休んでいた方がマシじゃない?」

 

 しかし、その言葉を聞いて焦りを覚えたのは浜面ではなく、フレンダ=セイヴェルンの方だった。

 

 『アイテム』の面々にも秘密にしている事だったが、フレンダ=セイヴェルンには小学生の妹がいる。

 その名もフレメア=セイヴェルン。浜面達『自警団(レベルアウト)』が守ろうとしている者達には、フレンダが愛する妹も含まれる。

 

 それに、あの妹はどういう訳かスキルアウト達のリーダーである駒場利徳(こまばりとく)に懐いていた。

 『暗部』に属するフレンダと言えど、彼や彼の仲間を見捨てて妹に悲しい顔をさせるのは余りに忍びない。

 

「浜面とか言ったっけ……アンタ、運転とか得意な訳?」

「え、あ……ああ。大体何でも運転はできるぜ……免許はねえけど」

「よし。じゃあ麦野、報酬とは別にこいつを専属の運転手として雇うのはどう?」

 

 専属の運転手。

 それは麦野にとっても、心惹かれる言葉だった。

 なにせ、運転手に扮した敵が入り込んでいたせいで、一度痛い目を見たのだから。

 

「結局、前回の敗北は下っ端に裏切り者が潜んでたせいなんだから、今度は裏切られない仲間を作っとくべきって訳」

「……そいつが裏切らないって保証はあるの? 身辺調査は滝壺の担当でしょ」

「大丈夫だよ、むぎの。はまづらは裏切らない」

「………………、」

 

 滝壺理后は『アイテム』におけるサーチ役であるが、その方法は能力だけに限らない。

 過去を洗う聞き取り調査から相手の考えを丸裸にするプロファイリングまで、相手の動きをサーチする事に関して少女は誰よりも長けている。

 その彼女が明言したのだ。浜面仕上は決して──少なくとも自分から『アイテム』を裏切る事はないと。

 

 無論、それは決して浜面仕上が善人である事を意味しない。

 浜面仕上はスキルアウトという底辺までズルズルと落ちてきて、他人に迷惑をかけて生きてきた。そんな自分を正当化して、能力者に責任転嫁さえしていた。

 けれど、その発端は何だったのか。浜面仕上という少年はなぜ、犯罪まがいの生活をするようになったのか。

 

 本当に簡単な話。

 浜面仕上は友人との縁を切れない。

 

 愛想が良くて気が利くのに『暗部』に転落するような人間は偶にいる。

 そのほとんどは、本人が悪人なのではない。悪人である友人と縁を切るタイミングを見失い、ズルズルと悪縁に引きずられるタイプだ。

 浜面仕上もそう。彼自身は悪人ではない。けれど、他者の悪を糾弾できるほど正義にも染まれない。

 

 そんな何処にでもいるような普通の人間。

 浜面仕上は友に引きずられる形で、善にも悪にも成りうる。

 だからこそ、彼は一度仲良くなった友人を裏切る事など絶対にできない。たとえ、それで自分自身が破滅するのだとしても。

 

「…………」

 

 麦野沈利は数秒考える。

 提示されたメリットとデメリットを天秤にかけ、この冴えない男の依頼を受けるか検討する。

 

 そして。

 

「──分かった。引き受けるか。取り敢えず、当分は下っ端としてよろしく」

 

 浜面仕上。

 何の力もない平凡な少年は、学園都市の闇に君臨する『アイテム』へと迎え入れられる。

 

 

 

 

 

「ねぇ、片付いたのならさっさと撤収しましょう」

「その前にDAアラウズが使っていたサイボーグ技術のデータを貰っていく。ここまでの手間賃には足りないだろうが仕方ねえ……」

 

 派手なドレスを着た一四歳くらいの金髪少女──獄彩海美(ごくさいかいび)の言葉に、学園都市第二位の超能力者(レベル5)垣根帝督(かきねていとく)は面倒くさそうに答える。

 

 暗部組織『スクール』はサイボーグ技術を専門とする木原の研究所にいた。

 目的は『未元物質(ダークマター)』の新たな可能性──人体細胞の創造に役立つインスピレーションを得ること。

 そのために、最先端の研究を行っているであろう木原を強襲したのだが、当の木原は既に去った後だった。

 

 残ったのは、木原の持ち駒として飼い慣らされていたDAアラウズという三下の『暗部』と、彼らに誘拐された杠林檎(ゆずりはりんご)という少女のみ。

 目障りなDAアラウズを軽く蹴散らした垣根達は、誘拐されていた杠林檎の記憶を辿り、学園都市各所に点在する木原の隠れ家からサイボーグ技術の情報をかき集めていた。

 ……なお、過去の実験の影響で杠林檎の記憶が曖昧なためか、隠れ家の捜索には時間を要した。共に過ごす中で杠林檎が垣根に懐いたのは、余談と言えるだろう。

 

「垣根さん、データ出ます」

 

 『スクール』の一人、誉望万化(よぼうばんか)が声を上げる。

 彼が研究所に置かれていた端末を叩いて出たのは、この学園都市で密かに進められているサイボーグ関連の計画(プロジェクト)

 

 工科標本(アナトミーメカトロニクス)、AIM拡散力場制御義体、恋査。

 他にも数多くの情報が画面に映るが、出てくるのは名前ばかりで詳細は語られない。

 恐らく、この端末は接続用であり、別のデータベースがあって初めて機能するのだろう。

 

「フン、やはり完全には程遠いか。…………あん?」

 

 しかし、一つだけ。

 端末に丸々残っていた情報があった。

 

 それは、この研究所の持ち主である木原が正に進めようとしていた計画。

 『暗闇の五月計画』の被験者でもあった杠林檎を、学園都市第一位・一方通行(アクセラレータ)代替品(ニセモノ)として完成させようとする論文。

 

 杠林檎の思考パターンから、その遺伝子情報まで。膨大な量の文章が少女の体を丸裸にする。

 だが、垣根の目についたのはたった一文。思わず、彼は声を出した。

 

 

()()()()()()()……?」

 

 

 その瞬間だった。

 トサ……と少女は倒れる。

 

「おいっ、どうした。林檎!」

 

 杠林檎は微動だにしない。

 まるで死にゆくように、息も細くなる。

 

「どういう事⁉︎ 実験の後遺症ッ?」

「違いますっ、特定条件下での臓器への機能停止命令⁉︎ 垣根さん! その子の臓器は今っ、何一つとして機能していません!」

「クソッ、機能停止命令の解除はできねえのか!」

「ここにある機材だけじゃどうにも……っ!」

 

 杠林檎よりもむしろ、垣根帝督の顔色の方が死人のように真っ青に染まる。

 歯を食いしばる。誰かを失う痛み、それを再び思い知る。垣根の脳裏にかつての記憶がフラッシュバックした。

 

(……また、救えねえのか。俺じゃあ、綺麗事を貫き通したあの無能力者(レベル0)みたいにはなれねぇってのか……っ!)

 

 ぎゅっ、と。

 力のない手が、垣根の服を掴む。

 焦点の合わない目で垣根を見据え、少女はか細い声で囁いた。

 

「垣根……おねがい。わたしを、おぼえててほしい」

「っ」

「みんな、知果(ともか)の……わたしの友達のなまえ、おぼえてなかった。ちゃんと、いたのに。もう、わたししかおぼえてない。だから……知果(ともか)をおぼえてるわたしを、おぼえててほしいの」

 

 死んだヤツの事なんか誰も覚えていない。

 だって、そうだろう?

 子供が消費され、潰され、死に絶える。

 そんなの、学園都市では当たり前だ。

 

 ありふれた悲劇、ありふれた犠牲者。

 知果(ともか)とやらも、目の前の杠林檎も。

 何一つとして特筆すべき事はない、この街の()()に過ぎないのだから。

 

 

「ふざけやがってッ。俺の『未元物質(ダークマター)』に常識は通用しねえ!」

 

 

 直後。

 垣根帝督の背から六枚の翼が羽ばたく。

 否。それは六枚よりももっと多く、もっと細く、()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()

 

「……どうするつもりっスか、垣根さん⁉︎」

「決まってんだろ。林檎を救う」

「無理ですっ! 臓器への機能停止はこの場の機材じゃどうにもッ──」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「────え?」

 

 垣根帝督はもはや、誉望万化の言葉を聞いちゃいなかった。

 ただ、自らの考えを反芻するように言葉を紡ぐ。

 

「情報はある。遺伝子情報から臓器のサイズまで、この研究所の持ち主は林檎の肉体を隅々まで把握している。俺はそれを参考に、『未元物質(ダークマター)』から人体細胞を創造する」

「そ、んなこと……できるんスか……?」

「できる。……できるに決まってるだろうが。俺を誰だと思ってやがる。俺の『未元物質(ダークマター)』に不可能はねえんだよ」

 

 垣根は画面に表示される膨大な量のテキストを、滝が流れるような速度でスクロールさせながら読破していく。

 全てを読むのに五二秒。目を閉じて反芻するのに四八秒。目を開いて自分の記憶と画面を照らし合わせるのに六五秒。

 

 準備は整った。

 目に見えないほど細くなった翼の先端は、杠林檎の体内にまで入り込む。

 

 『原作』において、とある超能力者(レベル5)は思い出を『破壊』する事で一人の少女を救った。

 しかし、これは逆だ。垣根は今、臓器を『創造』する事で杠林檎を救おうとしている。

 

 『破壊』と『創造』。

 相反する異能、真逆のアプローチ。

 けれど、二人が目的とするは同じ。

 

 少女を救いたい。

 ただそれだけの想いが、子供達の超能力(チカラ)を強くする。

 

「俺がお前を忘れる? 超能力者(レベル5)の頭脳をなめるんじゃねえよ。そしてお前も、俺を忘れていけると思ってんじゃねえ!」

 

 きらきら、と白く細い翼が照明の光を乱反射する。

 それは本当に綺麗で、天使みたいで、杠林檎は昔に見た映像を思い出す。

 

 杠林檎は第一位の思考パターンを植え付ける『暗闇の五月計画』の被験者だったが、かつて教材として白い翼を羽ばたかせる垣根帝督の姿を見た。

 その姿は、あまりにも綺麗で、植え付けられるのは垣根が良かった……なんて少女は思ったものだ。だから──

 

 

(かきねの、はねが……わたしのなかにあるなんて──しあわせだなあ)

 

 

 これは『暗部』に似つかわしくない奇跡。

 アレイスターがいなくなった今、優しい夢は現実へと変わる。

 

 

 






《原作キャラ紹介コーナー》

▽フレメア=セイヴェルン
初出:新約とある魔術の禁書目録1巻
金髪碧眼のフランス人形のような容姿の一〇歳くらいの小学生。フレンダ=セイヴェルンの妹。
無能力者(レベル0)。かつて『無能力者狩り』に襲われた時に駒場利徳に助けられ、彼に懐いた。
『原作』では、『庇護対象』として『ヒーロー』を誘導する価値を薬味久子から見出され、『人的資源(アジテートハレーション)』の中核に置かれた。


杠林檎(ゆずりはりんご)
初出:とある科学の未元物質1話
肩までかかる程度の黒髪で、キャミソールの上からパーカーを着た小柄の少女。
強度(レベル)は不明だが、『念動能力(サイコキネシス)』の能力者。『暗闇の五月計画』によって一方通行(アクセラレータ)の思考パターンを植え付けられたためか、能力が不安定。強い負荷(ストレス)を与えると出力が向上する性質を持つ。


流郷知果(りゅうごうともか)
初出:とある科学の未元物質3話
故人。ウェーブのかかった長い茶髪の少女。
無能力者(レベル0)。『暗闇の五月計画』によって一方通行(アクセラレータ)の思考パターンを植え付けられたが、能力を一度も発現できなかった。

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