成長利守が防大卒業後ダイダラ隊に所属した話 守美子のいなくなったあと、意義のある死に方を求め続けて成長してしまった利守
pixivより転載

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【ブレバン×結界】自衛隊に男児あり、24にして心已に朽ちたり

 トシモリ・スミムラ三尉。聞くものが聞けば、「あぁ、あの」と頷く。その表情に乗るものが真顔か苦笑かは人による。

 特殊機甲群ダイダラ中隊の隊員のひとり。イサミ・アオ三尉の防大時代からの同期。人付き合いの悪いイサミが2人で飲みに行くことのある相手。彼に比べれば人付き合いのある方だが、一線引いたところのある青年。体育会系の自衛隊の中で、どちらかというと文学青年と言う出で立ち。

 それと、TS操作技術の特異さ。

 イサミには1歩及ばないが、背中に目があるのではないかと言うほどの過敏さ。時に前を向いたまま背後に銃を撃つこともある。その狙いがあまりにも正確無比なので二口女の亜種とすら言われる。勿論、そんな動きをした場合サタケから詰められるのだが、「わかってしまうので」とその度にそう答える。「始末書にもそう書いてみろ」、イサミに次いでそう言われることの多い自衛官。――その異常なほどの空間認識能力が何に由来するものかは、トシモリは口にしたことがない。

 さて、そのトシモリに、自殺願望に限りなく近いものがあると知る者は少ない。気付いた者は、イサミと、その上官のサタケぐらいなものだった。

 

 

「あいつ、理由はわからないけど死にたがってるんですよ」

 いつかのダイダラ中隊の酒の席で、イサミはサタケにぽつりと漏らしたことがある。トシモリはと言えば他の面々に絡まれていた。サタケは麦酒ジョッキ片手に頷く。

「確かにそういうところはあるな」

「あいつ、確かに俺も演習で最善の行動取ってるつもりですけど、俺以上に、なんていうか……こう、結果として死ぬ形を優先して取ってるんですよ。防大時代からそうで……」

「……」

「不安なんですよ。あいつ、『人を守りたいから』自衛官になりたいって言ってました。でも」

 グラスを片手に、イサミは言う。

「結果として人を守る形で、あいつ、いつか死にそうで。それも、とびきり無残に――」

「そう思うなら、支えてやれ。アオ三尉」

 サタケはジョッキで一口麦酒を呷ったのち、見上げて来る部下に笑った。

「俺が上官のうちは、そんなお前らを支えてやるから。……ただ、命令違反は大概にしろよ」

「はい」

「返事だけは毎度いいんだよなぁ」

 サタケはそう言いながらイサミの頭を掻き回した。「やめてください」と抗議するイサミ、それを見て「たいちょー俺も俺も」「私も!」と集まって来た。

 その中で、トシモリは穏やかに微笑んで、集まろうとしなかった。

 

 そんなこともあったと、思い出したのはこんな緊急事態だからか。

 突如起きた謎の襲撃。

 イサミはヒビキを助けようと必死になりながら、ここにいないトシモリのことを思い出す。頭が混乱状態だった。

 サタケやヒビキからは早く逃げろ、と言われる。それでもイサミは動けない。――そして、彼はやって来た。

「……アオ三尉……」

 ヘルメットが割れ、手足から血が流れているのが見て取れるトシモリ。どうやら彼の烈華も大破したらしい。何とか歩いてきたらしい彼は、イサミの手を外す。

「アオ三尉、お前は逃げろ」

「何言って」

「こうしてけがを負っている僕より、お前の方が早く逃げられる。……リオウ三尉は僕に任せろ」

「――猶更置いていけない!」

「アオ三尉、いい子だから」

 子どもを窘めるような声。戦場にはあまりに似つかわしくない。

 そしてその場にいた一同は気付く。

 ここが、トシモリの死に場所なのだと。

 ――遠くから飛来物が来る。それが恐らくは彼らを襲撃してきた者たちの実弾なのだろうと理解したが、それでもイサミは動けず――

 

 そこに現れたのは、1体の機械生命体だった。

 

『待たせたな! イサミ!!』

「……は?」

 トシモリとイサミが呆然とするのも無理はなかった。

 

 そして、トシモリは「死に場所」を逸したのだった。

 

 

 

 生き残った残存兵力を集めた多国籍部隊、ATF。トシモリの烈華も何とか修繕され、トシモリ自身も多少の療養期間は必要だったものの現場復帰できる程度には治った。

 療養中に生き残った同じ中隊の面々から聞いたところによると、オペレーション:アップライジングなるものが実施されるらしい。要は先に日本から救いに行くとのことだ。それがあのブレイバーンと名乗った謎の機械生命体による発案を聞いて、トシモリは頭が痛かった。

「あの得体の知れない奴を信じるのか……?」

「ま、まぁ、あいつは私らを守ってくれたし。イサミがパイロットって言う前提があるけど」

「どうせなら僕を乗せてくれたらよかったのに」

 そう呟くトシモリの声音に本気の響きがあったことを、ヒビキは看取した。

 ただそれが何に由来する感情かは、測り得なかった。

 

(世界を救う最前線で戦う。それはなんと素晴らしい死に場所だろう。イサミは今すぐにでも替わってくれないだろうか。……ブレイバーンが搭乗者を選ぶらしいとは聞いている。それでも僕は、戦いたかった。

 世界を救って死ぬ――母の犠牲に報いることができる最大限の返しではないか)

 

 

 

 日本に向かう海上の空母。トシモリは休憩中、ふらりふらりと空母の中を漫ろ歩いていた。まだ怪我が全快とはいかないので、あまり過重な訓練は課されていない。だからせめて空母の内部をよく見分しておこうと、トシモリは考えていた。

 そんな矢先に、ブレイバーンのプライベートルームに迷い込んだ。

「ブレイバーン……?」

『――あぁ、スミムラ三尉。君か』

「名乗ったっけ」

 実のところATFが編成されたときに療養していたため、まだATFの面々には馴染めていない。精々イサミによく絡むスミスと話をしたぐらいで――

『噂には聞いているよ。TS操作技術においてイサミにはあと1歩及ばないが、背中に目がついているような挙動をするトリッキーなパイロットだとね』

「『1歩及ばない』が余計なひと言なんだよな。まぁ事実だけど……――それでさ、ブレイバーン」

『君のことは乗せないよ』

 先回りされた。トシモリは小さく舌打ちする。

『私はイサミしか乗せないことにしている。それに、スミムラ三尉』

 ブレイバーンは言った。

『戦って死ぬなら仕方ない。けれど、最初から私のコックピットを死に場所に選ばれたくはないよ、私は』

「――」

『……話を聞かせてごらん。ことは内密にしよう』

 トシモリは一瞬、迷う。どうしようか。

 ……それでも、この地球外生命体と思しきこれには、裏会や異能者の事情など話しても差し障りはないように思われた。

 だから、トシモリは口を開いた。

 

「――そして僕たち兄弟の母の犠牲を以て、烏森は封印されました。めでたしめでたし」

 できるだけ端折って、それでもトシモリの周辺の事情を話し終えるのに20分はかかった。そろそろ休憩時間も終わるだろう。それでも、トシモリは言わざるを得ない。

「何も、めでたくはなかったんだよ。――母は、きっと今でもあの地で封印されてる。完璧に閉じた封印の中で」

 トシモリは言う。

「僕は子どもだった。あまりにも子どもだった。僕は何もできない、待つことしかできない、ただの……」

 トシモリは、言う。

「母に正しく報いるためには、この命は有意義な死を迎えなければならない。そう、ずっと思って生きて来た。そして、今もだ」

『スミム、』

「聞いてくれて有難うね。……こんなこと、誰にも話せないからさ」

 そう言って、トシモリは立ち去る。

 彼の背中が完全に見えなくなったのち、ブレイバーンは考え込む仕草を見せた。

 

 

 

 スミスが死んだ。クーヌスとの相討ちだった。

 それから目に見えて、イサミは落ち込んでいた。

 トシモリが最後に聞いたのは、「もう誰も死なせない」、そのひと言。

 それがとても不吉に想われた。

 「もう誰も死なせない」、それはこちらの台詞だ。

 

 数日後、ハワイに再集結していた敵勢力を叩くことになった。

 

 そのときに、イサミとブレイバーンの間になされた会話を、トシモリは知ることはない。

 

 

『ブレイバーン、トシモリの奴……いつも死にたがってるんだ。理由は知らない、聞いても答えない。だから相当人に言えないことなんだと思う。……親友だと思ってる俺にすら言えないことなんだと。でも、あいつは確かに俺の大切な友人なんだ。だから――』

『……我々にできることは、彼の“死に場所”……つまりデスドライヴズを潰すこと。それだけだ』

 

 

 知ることはなかった。けれど、太陽に向かって去って行く彼らを見て、トシモリは全てを察した。

 手すりを叩く。

「畜生」

 隣にはサタケがいた。他の面々が思い思いにブレイバーンとイサミに叫ぶ中、彼のそれは異質だった。

 いつものドライさをかなぐり捨て、トシモリは叫ぶ。

「畜生……畜生、イサミの馬鹿野郎……!」

 トシモリにもわかっていたのだ。自分が死に場所を求めていることを、親友と言っていいぐらいの相手に悟られていたことを。それをどうにかしてやりたいと思われていたことも。

 けれど――これはあまりにも。

 掠れるような小さな声で、トシモリは呟いた。

「これじゃ、僕は死ねないじゃないか」

 手すりに縋り付くトシモリの肩を、サタケが叩いた。

 

 

 

 

 

「え、お前防大行くの?!」

 烏森学園高等部の進路調査にて。利守の進路希望を知った小学校来の友人たちは驚きを隠せない様子だった。

「お前、文系の大学に行って学校の先生になるとか、大学の教授になるとか、そういうタイプかと思ってた」

「あぁ――その進路もあったかもね」

 トシモリは曖昧に微笑む。

 そう、その未来もあり得た。母が永久に帰ってこないとわかったその日までは。

 

 トシモリは、有事には命を賭ける仕事に就かなければならない。

 それは警察官でも消防士でも海保でも。

 少なくとも彼はそう考えていた。

 

 死にぞこないの自分ができるのは、適切な死に場所を求めることだった。

『せめて、人として役に立ちたかった』

 それが最期の言葉だったと、父に聞かされた時から、トシモリはずっとそう考えていたのだ。

 

 

 

 

 

End.


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